十六.父の苦悩
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それは、加子を送り出してすぐのことだった。加子の父は、世話になった旅館の主人に呼び止められた。
「なかなか献身的な娘さんですな」
感心したように笑顔を向ける主人に、父は苦笑する。
「いえ、そんな娘じゃないんですよ。事実、変な趣味のためなら何としてでも続けようとしとるんですわ」
「変な趣味ですか?」
「ええ、そのせいで以前決まっていた縁談も破談になったくらいです」
少し怒ったような声色。その様子に、主人は詳しく聞いてみることにした。
「それほどのことが?」
「そうです。加子は、昔から本を読むのが好きな子でした」
加子の父親は静かに話を始めた。
――加子は、昔から本を読むのが好きだった。それ自体は問題ない。父もよく本を買ってやっていた。
しかし、加子が十三か四になる頃。家に一通の文が届いた。それを最初に見たのが父であった。最初は読む気はなかったのだが、差出人が聞いたことのない男の名前。まさかよからぬ男と……と不安が過り、中を見てしまったのである。
が、中に書かれていたのは「今回の作品は残念ながら落選になりましたが、雪子さんには文学作家の才能があるから、これからも書き続けてまた作品を送ってほしい」という旨だった。
これを見た父はどういうことかと加子を問いただした。今回の作品は、ということは何かを送ったに違いない。
最初は身に覚えがないと口にしていた加子だったが、ついに折れ認めたのだ。
「自分で書いた小説を送った」と。
女が小説を出すなんて……という時代。父が激怒することは目に見えていた加子は、家族に内緒で葛飾岱斎が主催する小説の賞に送ったのだ。(文の差出人はこの葛飾岱斎。)
父は加子に言った。
「書くことは許しちゃる。じゃが、それを出すことは許さん!」
と。加子は、何か言いたそうだったが父は聞かなかった。
しかし、それからも加子は内緒で作品を送り続けていた。その頃になると、家に届いた郵便物を家族それぞれに渡すのは弟の役目になっていた。故に、父の目に触れることはなかったのである。
が、再び父の目に文が触れることになる。
その頃加子は、雪子という名でいくつか本を出していた。父が見た文は、加子の本が“また”出版されたという内容が書かれていたのだ。
慌てて本屋の友人の許へ走り、加子の筆名を告げ聞いてみると「かなり売れている謎の女流作家」と色々な本を見せられたのである。(素性が分からない作家ということで、謎の女流作家という認識が世間で流れている)
初めて、加子が作家としてやっていることを知った父は眩暈がした。
友人は、雪子が加子であることを聞き仰天したのである。(その後、地元である宮島の島内に雪子=加子ということが知れ渡った)
改めて加子を激しく叱った父だったが、しばらくして加子に詩集に載せる作品の依頼が来ていることを知った。
縁談も決まっていたので「辞退するように文を出せ」と強く言ったのである。
加子は泣く泣く辞退の文を認めることに了承した。
だが、それからしばらくして雪子の名で作品が載っていると本屋の友人に言われ目を疑った。いつぞや「今から辞退の文を出してくる」と家を出たのに、何故作品が出ているのか。
しかもその内容は、縁談が決まっている者として致命的なものだった。(※これが原田が京に持ち帰った作品である)
相手方の男は、それでも構わないと言ったが男の両親は猛反対し破談した。
「なかなか献身的な娘さんですな」
感心したように笑顔を向ける主人に、父は苦笑する。
「いえ、そんな娘じゃないんですよ。事実、変な趣味のためなら何としてでも続けようとしとるんですわ」
「変な趣味ですか?」
「ええ、そのせいで以前決まっていた縁談も破談になったくらいです」
少し怒ったような声色。その様子に、主人は詳しく聞いてみることにした。
「それほどのことが?」
「そうです。加子は、昔から本を読むのが好きな子でした」
加子の父親は静かに話を始めた。
――加子は、昔から本を読むのが好きだった。それ自体は問題ない。父もよく本を買ってやっていた。
しかし、加子が十三か四になる頃。家に一通の文が届いた。それを最初に見たのが父であった。最初は読む気はなかったのだが、差出人が聞いたことのない男の名前。まさかよからぬ男と……と不安が過り、中を見てしまったのである。
が、中に書かれていたのは「今回の作品は残念ながら落選になりましたが、雪子さんには文学作家の才能があるから、これからも書き続けてまた作品を送ってほしい」という旨だった。
これを見た父はどういうことかと加子を問いただした。今回の作品は、ということは何かを送ったに違いない。
最初は身に覚えがないと口にしていた加子だったが、ついに折れ認めたのだ。
「自分で書いた小説を送った」と。
女が小説を出すなんて……という時代。父が激怒することは目に見えていた加子は、家族に内緒で葛飾岱斎が主催する小説の賞に送ったのだ。(文の差出人はこの葛飾岱斎。)
父は加子に言った。
「書くことは許しちゃる。じゃが、それを出すことは許さん!」
と。加子は、何か言いたそうだったが父は聞かなかった。
しかし、それからも加子は内緒で作品を送り続けていた。その頃になると、家に届いた郵便物を家族それぞれに渡すのは弟の役目になっていた。故に、父の目に触れることはなかったのである。
が、再び父の目に文が触れることになる。
その頃加子は、雪子という名でいくつか本を出していた。父が見た文は、加子の本が“また”出版されたという内容が書かれていたのだ。
慌てて本屋の友人の許へ走り、加子の筆名を告げ聞いてみると「かなり売れている謎の女流作家」と色々な本を見せられたのである。(素性が分からない作家ということで、謎の女流作家という認識が世間で流れている)
初めて、加子が作家としてやっていることを知った父は眩暈がした。
友人は、雪子が加子であることを聞き仰天したのである。(その後、地元である宮島の島内に雪子=加子ということが知れ渡った)
改めて加子を激しく叱った父だったが、しばらくして加子に詩集に載せる作品の依頼が来ていることを知った。
縁談も決まっていたので「辞退するように文を出せ」と強く言ったのである。
加子は泣く泣く辞退の文を認めることに了承した。
だが、それからしばらくして雪子の名で作品が載っていると本屋の友人に言われ目を疑った。いつぞや「今から辞退の文を出してくる」と家を出たのに、何故作品が出ているのか。
しかもその内容は、縁談が決まっている者として致命的なものだった。(※これが原田が京に持ち帰った作品である)
相手方の男は、それでも構わないと言ったが男の両親は猛反対し破談した。