九.恋と破談
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加子が父親の待つ部屋に入ると、厳めしい顔をした父親と心配そうな母親の顔が並んでいた。
「座りなさい」
父親の言葉に、加子は二人の前に座った。そして、加子の顔を眺めたあと言葉が発せられた。
「なぜ、呼ばれたか分かっとるよの?」
「……」
「いくつか言いたいことがある」
そう言って出されたのは、あの『梅若集』だった。
「わしは辞退しろっと言ったよの?」
「……はい」
「じゃけど、此処にはお前の詩が載っとる。辞退の文を出したはずじゃけん、載っとるはずがないんじゃが」
睨むような視線が加子を刺す。静かな怒りが、部屋に立ち込めていた。
「わしは書くなとは言うとらん。ただ、こうして世間様に出すなと言うとるんじゃ。しかも、何なんだ! この内容は!?」
ここでついに怒鳴り声をあげた父親に、母親が軽く宥める。しかし、怒りは止まらない。
「こんな内容っ……」
「そ、そんなこと言われたって、もう遅いわよ!」
「何だと!?……お前、まさかっ意中の男でもおるんか!?」
その言葉に、加子は一瞬心臓が跳ね上がった。
詩の内容は「叶うことのない切ない恋」
この時代、高杉晋作や坂本竜馬など詩を好んで作る人は少なからずいる。もちろん、加子や父親はそんな偉い人の詩は知らないが、詩へ込める思いは本物。
つまり、自分の思いを込めるのが普通なのだ。
叶うことのない切ない恋を綴った加子は、女性。女性は気持ちを前にあまり出さないのが普通の今、異端者と見られる。筆名を使っているものの女性があのような詩を書くなど、世間の目は冷たい。
それでも人気があるのは、女性でありながら恋の気持ちを表に出すということで、世間からは刺激的・女性なのに素晴らしいというのだ。
つまり、文学・文化に精通する人は「女性もこれから文学界に進出すべき」とした考えを持っていたりする。そうでない人は、表では冷たい目を向けて「あーだこーだ」言っているが裏では熱烈な支持者だったりするわけだ。
「座りなさい」
父親の言葉に、加子は二人の前に座った。そして、加子の顔を眺めたあと言葉が発せられた。
「なぜ、呼ばれたか分かっとるよの?」
「……」
「いくつか言いたいことがある」
そう言って出されたのは、あの『梅若集』だった。
「わしは辞退しろっと言ったよの?」
「……はい」
「じゃけど、此処にはお前の詩が載っとる。辞退の文を出したはずじゃけん、載っとるはずがないんじゃが」
睨むような視線が加子を刺す。静かな怒りが、部屋に立ち込めていた。
「わしは書くなとは言うとらん。ただ、こうして世間様に出すなと言うとるんじゃ。しかも、何なんだ! この内容は!?」
ここでついに怒鳴り声をあげた父親に、母親が軽く宥める。しかし、怒りは止まらない。
「こんな内容っ……」
「そ、そんなこと言われたって、もう遅いわよ!」
「何だと!?……お前、まさかっ意中の男でもおるんか!?」
その言葉に、加子は一瞬心臓が跳ね上がった。
詩の内容は「叶うことのない切ない恋」
この時代、高杉晋作や坂本竜馬など詩を好んで作る人は少なからずいる。もちろん、加子や父親はそんな偉い人の詩は知らないが、詩へ込める思いは本物。
つまり、自分の思いを込めるのが普通なのだ。
叶うことのない切ない恋を綴った加子は、女性。女性は気持ちを前にあまり出さないのが普通の今、異端者と見られる。筆名を使っているものの女性があのような詩を書くなど、世間の目は冷たい。
それでも人気があるのは、女性でありながら恋の気持ちを表に出すということで、世間からは刺激的・女性なのに素晴らしいというのだ。
つまり、文学・文化に精通する人は「女性もこれから文学界に進出すべき」とした考えを持っていたりする。そうでない人は、表では冷たい目を向けて「あーだこーだ」言っているが裏では熱烈な支持者だったりするわけだ。