母-後編-
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――845年某日。
幾度目かの壁外調査は相変わらず進行しない。ただ外に行って、多くの死人を出すだけだった。
怪我人多数。
幾日かを経て、壁内に帰還した時は生存者でさえ疲弊の色を隠しきれなかった。
そんな中で浴びせられる批難の目は、もはやいつものことと言っても良い。
キース団長が死んだ兵士の遺族に「何の成果も得られませんでした」と告げる姿は、私達調査兵団の無能さをひしひしと感じさせるものであった。
「早いとこ片付けて休みたい」
ウォール・ローゼにある調査兵団本部に帰還し片付けをしていると、仲間の一人がぽつり呟いた。
「そうね。精神的にも肉体的にも……壁外調査の後はきついしね」
「でも、声を大にしては言えないわ」
「どうして?」
「上官はもっと大変だからよ。この後、報告書を書いて提出。その他、死んでいった部下の遺品と家族への手紙をまとめる作業がある」
「うへぇ……私、上官になりたくないわ。一生部下でいたい」
「そもそも上官になるまで生きてるかどうか怪しいわ」
そんなことを話している仲間の言葉を私は聞いているだけだった。
そして、自分の無力さを感じた。
――いつもそうだ。
例え、皆を守る力があっても限界がある。
私の身は一つ。どこで誰がどんな目にあっているかなんてわからないし、ましてや自分の力を隠しながら生きていかなければならない。
集団行動下に置いて行動できることは決まっている。私はこの力を有している者、の前に一人の兵士なのだ。
目の前の仲間と同じ。
「何が、兵士にならないと言われたことが出来ない……よ」
兵士になっても皆を守る事すら出来ないじゃない。
口の中で呟いた言葉は周りの雑音に消された。
――……‥‥
「いいか、マーラ。エレンを守れ。人を守れ。その力で大切な人を守るのだ。それがお前の使命だ」
父が私に秘密の話をしたあの日のことをよく夢に見る。
今もそうだ。父と私を、第三者目線で見ているような光景だった。
そしてこれは夢だと分かった。
「……よく分からないよ。何で?」
「今は分からなくていい。そして何度も言うが絶対に人にここでのことを言ってはならないよ。秘密だ。知らないふりをするんだ。どんなことがあっても。……だが知っていてほしい、世界の真実を。そして守るのだ、皆を。仲間を。家族を」
「もし言っちゃったら、どうなるの?」
「もし言ってしまったら……お前は、まず怖い人たちに捕まってしまうだろう。そして、父さんや母さん……エレンまでも捕まってしまうかもしれない」
「えっ」
「この壁の中で、外の世界のことは喋ってはいけない。口にしてはいけないのはお前も知っているだろう。だから口にしてしまえば、何をされるか分からない。秘密にすることは、マーラや家族……大切な仲間を守る事になる。だから、今はまだ秘密だ」
「今は?」
「マーラがその秘密を明かす時は、壁の中の人類が世界の真実を知る時だ。それまでは決して口にしてはいけないし、隠し通すんだ。……父さんと二人だけの秘密だぞ」
今も思う。
“人類が世界の真実を知る時”が本当に来るのか分からない。けど、父はその時が来る事を何故だか知っている。そんな気がしている。根拠はないけど。
でも、その日が来るまで私はどれだけの人を守れるのだろうか。
壁外で守って来た命は僅か。多くの兵士が死んでいった。大切な友達でさえも。
「私の使命は……」
――ハッと目を開ければ、そこは見慣れた天井。
兵団の寝室だった。
「寝ちゃってた……」
壁外調査の疲れが押し寄せて寝てしまった。
窓の外を見れば、陽の加減から夕方だというのが分かった。
そして布団から出た瞬間であった。
部屋のドアが勢いよく開いた。
「わっ! 吃驚した!」
思わずそう声を上げた。
しかし、ドアを開けた同室の子はそのことには一切触れず慌てた様子で告げたのだ。
「大変なの! シガンシナ区に巨人が入って来たって!」
「……は?」
幾度目かの壁外調査は相変わらず進行しない。ただ外に行って、多くの死人を出すだけだった。
怪我人多数。
幾日かを経て、壁内に帰還した時は生存者でさえ疲弊の色を隠しきれなかった。
そんな中で浴びせられる批難の目は、もはやいつものことと言っても良い。
キース団長が死んだ兵士の遺族に「何の成果も得られませんでした」と告げる姿は、私達調査兵団の無能さをひしひしと感じさせるものであった。
「早いとこ片付けて休みたい」
ウォール・ローゼにある調査兵団本部に帰還し片付けをしていると、仲間の一人がぽつり呟いた。
「そうね。精神的にも肉体的にも……壁外調査の後はきついしね」
「でも、声を大にしては言えないわ」
「どうして?」
「上官はもっと大変だからよ。この後、報告書を書いて提出。その他、死んでいった部下の遺品と家族への手紙をまとめる作業がある」
「うへぇ……私、上官になりたくないわ。一生部下でいたい」
「そもそも上官になるまで生きてるかどうか怪しいわ」
そんなことを話している仲間の言葉を私は聞いているだけだった。
そして、自分の無力さを感じた。
――いつもそうだ。
例え、皆を守る力があっても限界がある。
私の身は一つ。どこで誰がどんな目にあっているかなんてわからないし、ましてや自分の力を隠しながら生きていかなければならない。
集団行動下に置いて行動できることは決まっている。私はこの力を有している者、の前に一人の兵士なのだ。
目の前の仲間と同じ。
「何が、兵士にならないと言われたことが出来ない……よ」
兵士になっても皆を守る事すら出来ないじゃない。
口の中で呟いた言葉は周りの雑音に消された。
――……‥‥
「いいか、マーラ。エレンを守れ。人を守れ。その力で大切な人を守るのだ。それがお前の使命だ」
父が私に秘密の話をしたあの日のことをよく夢に見る。
今もそうだ。父と私を、第三者目線で見ているような光景だった。
そしてこれは夢だと分かった。
「……よく分からないよ。何で?」
「今は分からなくていい。そして何度も言うが絶対に人にここでのことを言ってはならないよ。秘密だ。知らないふりをするんだ。どんなことがあっても。……だが知っていてほしい、世界の真実を。そして守るのだ、皆を。仲間を。家族を」
「もし言っちゃったら、どうなるの?」
「もし言ってしまったら……お前は、まず怖い人たちに捕まってしまうだろう。そして、父さんや母さん……エレンまでも捕まってしまうかもしれない」
「えっ」
「この壁の中で、外の世界のことは喋ってはいけない。口にしてはいけないのはお前も知っているだろう。だから口にしてしまえば、何をされるか分からない。秘密にすることは、マーラや家族……大切な仲間を守る事になる。だから、今はまだ秘密だ」
「今は?」
「マーラがその秘密を明かす時は、壁の中の人類が世界の真実を知る時だ。それまでは決して口にしてはいけないし、隠し通すんだ。……父さんと二人だけの秘密だぞ」
今も思う。
“人類が世界の真実を知る時”が本当に来るのか分からない。けど、父はその時が来る事を何故だか知っている。そんな気がしている。根拠はないけど。
でも、その日が来るまで私はどれだけの人を守れるのだろうか。
壁外で守って来た命は僅か。多くの兵士が死んでいった。大切な友達でさえも。
「私の使命は……」
――ハッと目を開ければ、そこは見慣れた天井。
兵団の寝室だった。
「寝ちゃってた……」
壁外調査の疲れが押し寄せて寝てしまった。
窓の外を見れば、陽の加減から夕方だというのが分かった。
そして布団から出た瞬間であった。
部屋のドアが勢いよく開いた。
「わっ! 吃驚した!」
思わずそう声を上げた。
しかし、ドアを開けた同室の子はそのことには一切触れず慌てた様子で告げたのだ。
「大変なの! シガンシナ区に巨人が入って来たって!」
「……は?」
1/3ページ