母-前編-
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兵士になれば衣食住があり、開拓地でひもじい思いをせずに済む。
というのは、ウォール・マリアが巨人に陥落された845年以降の話である。朝から晩まで強制労働させられ、飯も一日一食あるかないか。そんな状況より、兵士になった方が随分良い生活が出来る。
そんな理由で兵士志願者数は845年を境に増えた。
これは私、マーラ・イェーガーがまだ調査兵団に入る前の……845年より前の話である――。
シガンシナ区の空を鳥が飛んでいる。
私は壁の向こうを知らないのに、あの鳥達は壁の向こうを知っている。簡単に世界を見ることが出来る鳥達の目には何が映っているのだろうか。
それは幼い頃から疑問に思っていた。
しかし、自分が壁の外を見たいとは思っていなかったと記憶している。
「よぉ、マーラ。こんなところで空なんか眺めて何考えてるんだ?」
ポンッと両肩に手を置かれ、少し肩がビクついた。
振り返れば、そこには顔馴染の駐屯兵。顔が赤いのはまたお酒でも飲んでいたのだろう。
「仕事中にお酒なんか飲んでいいの?」
「んー? これは酒と言う名の薬だ。俺達の気分が良くなる」
「父さんに聞いてみようかな。ハンネスさんがどこか体悪いみたいだけど、お酒で本当に効果があるのかって」
私が意地悪くそういうと、ハンネスさんは「それは止めてくれ」と慌てた。
「イェーガー先生に知られたら叱られちまう」
「薬なんでしょ? じゃあ問題ないよね」
「そ、そうだなぁ……うーん……」
困った顔のハンネスさんはちょっと面白い。
でもからかうのはここまでにしよう。
「内緒にしてあげるから、くれぐれも体壊さないでね!」
「全く……お前には敵わねぇなぁ。恩に着るぜ」
これが兵士で良いのか、って思うがここら辺の駐屯兵団は皆こんな感じだ。
暇すぎていっつも飲んだり食べたり。時々、喧嘩の仲裁に入ったりするけど基本的にはのんびりで激しい喧嘩にならないと動かない。
というかむしろ喧嘩に野次を飛ばして楽しんでる。
「……ねぇ」
「ん?」
「ハンネスさんは、何で兵士になったの」
兵団のお金でただ酒が飲めるという理由で兵士になった人もいると聞く。
ハンネスさんも、もしかしたらそうなのかな。
ふとそう思った。でも本当は優しい人で人情がある。そんな理由であってほしくない気もした。
真剣に聞く私に、ハンネスさんも真面目な顔になった。顔は赤いけど。
「さぁ……何でだろうな」
でも、返って来た答えはキレのないものだった。
「複雑なの?」
「んー……あえていえば、俺の父親が兵士で何となく俺も兵士かなって理由だ」
「何それ」
「親父の背中ってやつだよ。ただそれだけだ」
「そっか」
とりあえず変な理由じゃないだけ良かった。
「駐屯兵団に入った理由は?」
「あ、そりゃ成績が悪かったからだな」
「へ?」
「成績上位十人しか憲兵になれねぇんだ。俺は上位に入れなかった。壁の外に出て死ぬなんて嫌だと思ったから、駐屯兵になった」
消去法だったというわけか。
壁の外に出る調査兵団なんて志願者数は少ない。
壁の外にはあの鳥達が見ている正解がある。けれど、同時に巨人という脅威が存在している。
私たち人間を捕食してしまう存在だ。
そいつらがうようよいる壁の外にわざわざ出る人は余程の変人だと言われているのだ。
死にに行くようなものだと。
「マーラ、お前兵士になりたいのか?」
また空を見上げていると、ハンネスさんが問いかけた。
というのは、ウォール・マリアが巨人に陥落された845年以降の話である。朝から晩まで強制労働させられ、飯も一日一食あるかないか。そんな状況より、兵士になった方が随分良い生活が出来る。
そんな理由で兵士志願者数は845年を境に増えた。
これは私、マーラ・イェーガーがまだ調査兵団に入る前の……845年より前の話である――。
シガンシナ区の空を鳥が飛んでいる。
私は壁の向こうを知らないのに、あの鳥達は壁の向こうを知っている。簡単に世界を見ることが出来る鳥達の目には何が映っているのだろうか。
それは幼い頃から疑問に思っていた。
しかし、自分が壁の外を見たいとは思っていなかったと記憶している。
「よぉ、マーラ。こんなところで空なんか眺めて何考えてるんだ?」
ポンッと両肩に手を置かれ、少し肩がビクついた。
振り返れば、そこには顔馴染の駐屯兵。顔が赤いのはまたお酒でも飲んでいたのだろう。
「仕事中にお酒なんか飲んでいいの?」
「んー? これは酒と言う名の薬だ。俺達の気分が良くなる」
「父さんに聞いてみようかな。ハンネスさんがどこか体悪いみたいだけど、お酒で本当に効果があるのかって」
私が意地悪くそういうと、ハンネスさんは「それは止めてくれ」と慌てた。
「イェーガー先生に知られたら叱られちまう」
「薬なんでしょ? じゃあ問題ないよね」
「そ、そうだなぁ……うーん……」
困った顔のハンネスさんはちょっと面白い。
でもからかうのはここまでにしよう。
「内緒にしてあげるから、くれぐれも体壊さないでね!」
「全く……お前には敵わねぇなぁ。恩に着るぜ」
これが兵士で良いのか、って思うがここら辺の駐屯兵団は皆こんな感じだ。
暇すぎていっつも飲んだり食べたり。時々、喧嘩の仲裁に入ったりするけど基本的にはのんびりで激しい喧嘩にならないと動かない。
というかむしろ喧嘩に野次を飛ばして楽しんでる。
「……ねぇ」
「ん?」
「ハンネスさんは、何で兵士になったの」
兵団のお金でただ酒が飲めるという理由で兵士になった人もいると聞く。
ハンネスさんも、もしかしたらそうなのかな。
ふとそう思った。でも本当は優しい人で人情がある。そんな理由であってほしくない気もした。
真剣に聞く私に、ハンネスさんも真面目な顔になった。顔は赤いけど。
「さぁ……何でだろうな」
でも、返って来た答えはキレのないものだった。
「複雑なの?」
「んー……あえていえば、俺の父親が兵士で何となく俺も兵士かなって理由だ」
「何それ」
「親父の背中ってやつだよ。ただそれだけだ」
「そっか」
とりあえず変な理由じゃないだけ良かった。
「駐屯兵団に入った理由は?」
「あ、そりゃ成績が悪かったからだな」
「へ?」
「成績上位十人しか憲兵になれねぇんだ。俺は上位に入れなかった。壁の外に出て死ぬなんて嫌だと思ったから、駐屯兵になった」
消去法だったというわけか。
壁の外に出る調査兵団なんて志願者数は少ない。
壁の外にはあの鳥達が見ている正解がある。けれど、同時に巨人という脅威が存在している。
私たち人間を捕食してしまう存在だ。
そいつらがうようよいる壁の外にわざわざ出る人は余程の変人だと言われているのだ。
死にに行くようなものだと。
「マーラ、お前兵士になりたいのか?」
また空を見上げていると、ハンネスさんが問いかけた。
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