とある誘拐犯との再会
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夢主はセリフなし。
「ハロー。起きて。ハロー?」
柔らかい声が頭の中に響く。その声はまどろみの中から現実の世界へと夢子を引っ張り上げた。
目の前に黒いスキーマスクで顔を隠した男がいて、黒い手袋をはめた手を振っている。
マット。以前、彼はそう名乗った。
椅子に座ったままの夢子は、唸るような声を上げた。口はテープで塞がれていて、手足は細いロープで縛られている。身体を動かそうとすると、ロープが手足に食い込み、椅子はガタついた。
マットは椅子を押さえて夢子の目を覗き込んだ。
マットは人差し指を自身の口元にかざし、その指を夢子の唇に押し当てた。
「しーっ。静かに。うるさくしたら駄目だ。周りに聞こえてしまう。他の部屋にいる私の仲間は、こんなに優しくはしてくれないよ」
マットは目を細めた。
「わかっているね?」
子供に話しかけるような口調でマットは夢子に話し続けた。
「静かに出来るなら、口のテープを剥がしてあげるよ。約束出来る?」
夢子は頷いた。
「いい子だ」
マットは夢子の口に貼られたテープを慎重に剥がしてゆく。テープの粘着面が剥がれる感触は、ピリピリとした刺激があった。
「痛くはない?もう少しだから……我慢してね」
やがてテープが全て剥がれると、マットは優しく笑った。
「悪いけど、今日はブレッドスープは品切れなんだ」
マットはそう言ってマスクをずらし、夢子の唇に軽くキスをした。
「ああ、ポペット。私の小さなスウィーティパイ。ずっと会いたかった」
マットは夢子の髪の毛に触れた。柔らかく美しい手触りは、以前と変わらない。マットはそう思った。
「君はまた誘拐された。これで二度目だね?」マットはくすくすと笑った。
「可愛いポペット。君の髪にブラシをかけたのも、君の唇にブレッドスープを運んだのも昨日の事のように思い出せるよ」
マットは夢子の左手の甲に手を添えた。
「君の可愛い小さな指先の事は申し訳なく思っている。だから、今度君に会えたらもう一度謝ろうと思ってたんだ」
あの日、マットは夢子の利き手を避けて左手の指を一本選んだ。
「本当にすまなかった」
欠けた指は二度と元通りにはならない。
だから、マットは左手の薬指を選んだ。左手の薬指は特別な指だからだ。
もし夢子が結婚をして、その指に指輪を輝かせたとしても、その指を見るたびに自分のことを思い出してくれると願って。
マットにとって、夢子は特別な相手だった。彼女を一目見た瞬間から運命を感じた。
初めて夢子と出会った時、彼女はロープで縛りつけられて、口にはテープを貼られていた。
そんな夢子に話しかけると、彼女はゆっくりと瞬きを返した。
命の危険にありながらも、彼女はマットの言葉を信じていた。
食事さえ自分の意思で摂る事が許されず、指を一本失ってもなお、夢子はマットの事を信頼し続けた。
一度は自由になったはずの彼女は、再び拘束され、この小さな部屋に監禁されている。
身代金が払われるまではこのままだが、その後、彼女がどうなるのかはマットにも分からなかった。
彼女が生きたまま解放されるのか、それとも口封じの為に殺されてしまうのかは、ボスの機嫌次第だった。
「また君を誘拐してしまうなんて……君だと知っていれば、私はボスを裏切って彼らに銃口を向けていたのに。ああ……私のポペット。このまま君を連れ去ってしまいたいよ」
マットは夢子の頭を撫でた。
「君は……どう思う?私と君とで、ここから逃げられると思う?」
夢子は不安そうにマットを見上げた。瞬きは二回。イエス。ノー。どちらだろう?
マットはくすくすと笑った。
「安心して。私は慎重に行動するつもりだから。今はチャンスを待つ事にするよ」
マットは夢子の唇に触れた。
「怪しまれないように、また君の口にテープを貼らなければならない。でも、私を信じて。私は君を助けたいんだ」
マットはテープを引き伸ばし、適当な長さに切り取った。
「しばらくはまた一人にしてしまうけど、怖がらないで。私は隣の部屋にいるし、君に悪い事が起こらないようにすると約束するよ」
夢子は今にも泣きたい気分だった。涙が込み上げ、マットを見上げる。
「泣かないで。口を塞ぐのに、泣いたら苦しくなる」
マットは夢子の目元を指先で拭った。
「私を信じて。友人には信頼が必要だ。君が私の事を信じてくれるなら……私の事を友人と思ってくれるなら、君は安全でいられる」
夢子は力なく項垂れた。手足はロープで固定され、再び口が塞がれてしまえば、声を出すことも出来ない。
夢子の命は誘拐犯の手に委ねられているのだ。
マットは夢子の背中に手のひらを当てて、優しくさすった。
「ゆっくり息を吸って、吐いて……いいね。もう一回。吸って、吐いて。心を落ち着かせて……」
マットに言われる通りに深呼吸を繰り返すと、夢子の気分は楽になっていった。
マットの声はとても落ち着いていて、心の深い場所にまで響くようだった。
「いい子だ」
マットはスキーマスク越しに夢子の額にキスをした。
マットは夢子の口をテープで塞いだ。
「おやすみ。ポペット」
夢子は瞬きを返した。おやすみ、マット。
*
一人部屋の中に残された夢子は、再びまどろみの世界へと旅立った。マットとの交流の余韻に浸りながら、暗闇の中で、目を閉じる。
別の部屋だろうか。時折、複数の足音が聞こえるが、夢子には関係なかった。
誘拐犯は複数人いるようだが、マット以外の犯人は夢子の前に姿を見せる事はなかった。
やがて遠くで銃声が聞こえた。夢子は身体をすくませ、不安そうに部屋中に視線を彷徨わせる。
こつ、こつという靴の音が響く。マットか、他の犯人なのか。誰かがこの部屋に近づいているのだ。
扉が開き、一人の男が部屋の中に滑り込んだ。黒いスキーマスクをかぶり、黒い服を着たマットは、手には小型の拳銃を持っている。
「ポペット」
夢子と視線が合うと、スキーマスクの奥で、マットは楽しそうに目を細めた。
「全て片付いたよ」
マットは夢子の口からテープを剥がした。そして彼女を縛りつけていたロープを解いてゆく。
「もう心配は無いよ。これからは、私とポペットは末永く幸せに過ごす事になる。ほら、もう君の足は自由になった」
マットは夢子の両手のロープにも手を伸ばし、その結び目を解いてゆく。
「私はマスクを外せるし、君は思う存分ブレッドスープを食べる事が出来る」
夢子の手かロープが外れて、マットはその手を握った。そして強張った手を揉みほぐすように、夢子の指の付け根に親指を押し込み、マッサージを始めた。
「痛くはない?大丈夫?もう君は自由になったんだ」
マットの指先の動きは優しく丁寧だった。
夢子が微笑むと、マットも嬉しそうに笑い声をあげた。
「ポペット」
マットは夢子を抱きしめて、耳元で囁いた。
「君は柔らかくて温かい」
彼の体温と、彼の匂いが夢子の心を満たしてゆく。ああ、マットは目の前にいる。
マットは誘拐犯で、夢子の指を切り落とした。
だけど、彼はいつも親切な言葉を投げかけてくれた。ブラシで髪を梳かしてくれた。彼が食べさせてくれるブレッドスープは特別な味がした。あの甘く優しい声でスウィーティパイと呼んでくれた。
マットに優しく扱われるうちに、夢子の心は甘い幸福感に満たされた。
だから夢子はマットの背中に腕を回した。
私は彼のポペットだから。ポペットは彼を裏切らない。彼を受け入れてハグバックする。
遠くでサイレンの音が鳴っていて、その音はこちらへ近付いている。それでも、二人は抱き合ったままでいた。
「このまま一緒に行こう。前にも教えたけど
、私はリッチだから、君には好きなだけ贅沢をさせてあげられる」
夢子はマットに頷いた。
「私のポペット。私のスウィーティパイ。私たちはこうなる運命だった。私達が離れるなんて考えられない」
マットは夢子の手を取って、扉を開けた。夢子は彼に着いていくだけで良かった。ポペットは彼の思うがままに行動する。それがポペットの幸福だから。
おわり
2023.4.23
「ハロー。起きて。ハロー?」
柔らかい声が頭の中に響く。その声はまどろみの中から現実の世界へと夢子を引っ張り上げた。
目の前に黒いスキーマスクで顔を隠した男がいて、黒い手袋をはめた手を振っている。
マット。以前、彼はそう名乗った。
椅子に座ったままの夢子は、唸るような声を上げた。口はテープで塞がれていて、手足は細いロープで縛られている。身体を動かそうとすると、ロープが手足に食い込み、椅子はガタついた。
マットは椅子を押さえて夢子の目を覗き込んだ。
マットは人差し指を自身の口元にかざし、その指を夢子の唇に押し当てた。
「しーっ。静かに。うるさくしたら駄目だ。周りに聞こえてしまう。他の部屋にいる私の仲間は、こんなに優しくはしてくれないよ」
マットは目を細めた。
「わかっているね?」
子供に話しかけるような口調でマットは夢子に話し続けた。
「静かに出来るなら、口のテープを剥がしてあげるよ。約束出来る?」
夢子は頷いた。
「いい子だ」
マットは夢子の口に貼られたテープを慎重に剥がしてゆく。テープの粘着面が剥がれる感触は、ピリピリとした刺激があった。
「痛くはない?もう少しだから……我慢してね」
やがてテープが全て剥がれると、マットは優しく笑った。
「悪いけど、今日はブレッドスープは品切れなんだ」
マットはそう言ってマスクをずらし、夢子の唇に軽くキスをした。
「ああ、ポペット。私の小さなスウィーティパイ。ずっと会いたかった」
マットは夢子の髪の毛に触れた。柔らかく美しい手触りは、以前と変わらない。マットはそう思った。
「君はまた誘拐された。これで二度目だね?」マットはくすくすと笑った。
「可愛いポペット。君の髪にブラシをかけたのも、君の唇にブレッドスープを運んだのも昨日の事のように思い出せるよ」
マットは夢子の左手の甲に手を添えた。
「君の可愛い小さな指先の事は申し訳なく思っている。だから、今度君に会えたらもう一度謝ろうと思ってたんだ」
あの日、マットは夢子の利き手を避けて左手の指を一本選んだ。
「本当にすまなかった」
欠けた指は二度と元通りにはならない。
だから、マットは左手の薬指を選んだ。左手の薬指は特別な指だからだ。
もし夢子が結婚をして、その指に指輪を輝かせたとしても、その指を見るたびに自分のことを思い出してくれると願って。
マットにとって、夢子は特別な相手だった。彼女を一目見た瞬間から運命を感じた。
初めて夢子と出会った時、彼女はロープで縛りつけられて、口にはテープを貼られていた。
そんな夢子に話しかけると、彼女はゆっくりと瞬きを返した。
命の危険にありながらも、彼女はマットの言葉を信じていた。
食事さえ自分の意思で摂る事が許されず、指を一本失ってもなお、夢子はマットの事を信頼し続けた。
一度は自由になったはずの彼女は、再び拘束され、この小さな部屋に監禁されている。
身代金が払われるまではこのままだが、その後、彼女がどうなるのかはマットにも分からなかった。
彼女が生きたまま解放されるのか、それとも口封じの為に殺されてしまうのかは、ボスの機嫌次第だった。
「また君を誘拐してしまうなんて……君だと知っていれば、私はボスを裏切って彼らに銃口を向けていたのに。ああ……私のポペット。このまま君を連れ去ってしまいたいよ」
マットは夢子の頭を撫でた。
「君は……どう思う?私と君とで、ここから逃げられると思う?」
夢子は不安そうにマットを見上げた。瞬きは二回。イエス。ノー。どちらだろう?
マットはくすくすと笑った。
「安心して。私は慎重に行動するつもりだから。今はチャンスを待つ事にするよ」
マットは夢子の唇に触れた。
「怪しまれないように、また君の口にテープを貼らなければならない。でも、私を信じて。私は君を助けたいんだ」
マットはテープを引き伸ばし、適当な長さに切り取った。
「しばらくはまた一人にしてしまうけど、怖がらないで。私は隣の部屋にいるし、君に悪い事が起こらないようにすると約束するよ」
夢子は今にも泣きたい気分だった。涙が込み上げ、マットを見上げる。
「泣かないで。口を塞ぐのに、泣いたら苦しくなる」
マットは夢子の目元を指先で拭った。
「私を信じて。友人には信頼が必要だ。君が私の事を信じてくれるなら……私の事を友人と思ってくれるなら、君は安全でいられる」
夢子は力なく項垂れた。手足はロープで固定され、再び口が塞がれてしまえば、声を出すことも出来ない。
夢子の命は誘拐犯の手に委ねられているのだ。
マットは夢子の背中に手のひらを当てて、優しくさすった。
「ゆっくり息を吸って、吐いて……いいね。もう一回。吸って、吐いて。心を落ち着かせて……」
マットに言われる通りに深呼吸を繰り返すと、夢子の気分は楽になっていった。
マットの声はとても落ち着いていて、心の深い場所にまで響くようだった。
「いい子だ」
マットはスキーマスク越しに夢子の額にキスをした。
マットは夢子の口をテープで塞いだ。
「おやすみ。ポペット」
夢子は瞬きを返した。おやすみ、マット。
*
一人部屋の中に残された夢子は、再びまどろみの世界へと旅立った。マットとの交流の余韻に浸りながら、暗闇の中で、目を閉じる。
別の部屋だろうか。時折、複数の足音が聞こえるが、夢子には関係なかった。
誘拐犯は複数人いるようだが、マット以外の犯人は夢子の前に姿を見せる事はなかった。
やがて遠くで銃声が聞こえた。夢子は身体をすくませ、不安そうに部屋中に視線を彷徨わせる。
こつ、こつという靴の音が響く。マットか、他の犯人なのか。誰かがこの部屋に近づいているのだ。
扉が開き、一人の男が部屋の中に滑り込んだ。黒いスキーマスクをかぶり、黒い服を着たマットは、手には小型の拳銃を持っている。
「ポペット」
夢子と視線が合うと、スキーマスクの奥で、マットは楽しそうに目を細めた。
「全て片付いたよ」
マットは夢子の口からテープを剥がした。そして彼女を縛りつけていたロープを解いてゆく。
「もう心配は無いよ。これからは、私とポペットは末永く幸せに過ごす事になる。ほら、もう君の足は自由になった」
マットは夢子の両手のロープにも手を伸ばし、その結び目を解いてゆく。
「私はマスクを外せるし、君は思う存分ブレッドスープを食べる事が出来る」
夢子の手かロープが外れて、マットはその手を握った。そして強張った手を揉みほぐすように、夢子の指の付け根に親指を押し込み、マッサージを始めた。
「痛くはない?大丈夫?もう君は自由になったんだ」
マットの指先の動きは優しく丁寧だった。
夢子が微笑むと、マットも嬉しそうに笑い声をあげた。
「ポペット」
マットは夢子を抱きしめて、耳元で囁いた。
「君は柔らかくて温かい」
彼の体温と、彼の匂いが夢子の心を満たしてゆく。ああ、マットは目の前にいる。
マットは誘拐犯で、夢子の指を切り落とした。
だけど、彼はいつも親切な言葉を投げかけてくれた。ブラシで髪を梳かしてくれた。彼が食べさせてくれるブレッドスープは特別な味がした。あの甘く優しい声でスウィーティパイと呼んでくれた。
マットに優しく扱われるうちに、夢子の心は甘い幸福感に満たされた。
だから夢子はマットの背中に腕を回した。
私は彼のポペットだから。ポペットは彼を裏切らない。彼を受け入れてハグバックする。
遠くでサイレンの音が鳴っていて、その音はこちらへ近付いている。それでも、二人は抱き合ったままでいた。
「このまま一緒に行こう。前にも教えたけど
、私はリッチだから、君には好きなだけ贅沢をさせてあげられる」
夢子はマットに頷いた。
「私のポペット。私のスウィーティパイ。私たちはこうなる運命だった。私達が離れるなんて考えられない」
マットは夢子の手を取って、扉を開けた。夢子は彼に着いていくだけで良かった。ポペットは彼の思うがままに行動する。それがポペットの幸福だから。
おわり
2023.4.23
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