目撃者
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3
夢子は恋人と別れた。
元から冷め始めていた関係だったし、電話口で怒鳴ってしまった事がきっかけだった。
フリーになった夢子の事を元気付けようと、友人達はこぞって遊びに誘った。
デートに誘われる事もあった。
夢子も誘われるままにあちこちへ出掛けた。
毎日を賑やかに過ごす事で、失恋や事件の恐怖から立ち直ろうとしていたのだ。
*
ある日、新聞に知った名前が載っていた。
ジェド・オルセン。
それはゴースト事件についての記事で、未だに何の手掛かりも無く、進展の無い捜査への批判などが書かれていた。
地元の新聞社らしい、市民に寄り添った記事だ。良い記事だと夢子は思った。
夢子は財布の中に入れたままにしていた名刺を取り出した。
「ジェド・オルセン。」
夢子は名刺に書かれた名前を読み上げた。
そして事件の夜に出会った、あの記者の姿を思い出した。優しげな顔をした誠実そうなあの記者の姿を。
名刺には彼の個人的な電話番号が手書きで書かれていた。
「いつでも連絡してね。」
そう、ジェド・オルセンは言った。
夢子は受話器を取って、ジェドの番号に電話をかけた。数コールで彼は電話に出た。
「ハロー?」
電話越しのジェドの声は事務的で冷たく、あの夜の雰囲気と違う印象だった。
「突然すみません……。私は、夢子と申します。ゴースト事件の目撃者の……。先日は、ホットチョコレートをありがとうございました。」
夢子がそう名乗ると、電話の奥の声は親しげな声色に変化した。
「あぁ。君だね?久しぶり。その後は大丈夫なの?」ジェドは嬉しそうな声で話した。
「えぇ。大丈夫です。」
「良かった。心配してたんだよ。」
ジェドは優しく笑った。
「私、貴方の取材を受けようと思うんです……。まだ、必要ですか?」
「そりゃあ勿論!俺は嬉しいけど……でも、怖くはない?大丈夫なの?」
夢子ははっきりとイエスと答えた。
「貴方の取材を受けたら、もうあの夜の事は忘れようと思うんです。だから……お願いします。」
後日、新聞社で。二人は取材の約束を交わした。
ジェドは張り切っていたし、夢子も乗り気だった。
しかし、電話を切った後で、夢子の心臓が忙しなく音を立て始めた。
緊張で口の中が乾いて、喉が張り付くように感じた。
これで良かったの?夢子は自分に問いかけた。
記事を読んだ犯人は、逆上しないかしら?
夢子は深呼吸をした。
勇気を出すべきだ。夢子はぐっと
前を向いた。
*
約束の日、新聞社へやって来た夢子を、ジェド・オルセンは出迎えた。
襟付きのシャツにスラックス。首には社員証とカメラが下がっている。
シンプルで清潔な服装と、穏やかな表情。人目を引くような華やかさは無いが、誰からも好感を持たれるタイプだろう。夢子はそう感じた。
「久しぶりだね。」
その声も彼の雰囲気通りに、落ち着いた滑らかな声だった。
「オルセンさん。今日はよろしくお願いします。」
「ジェドで良いよ。年齢も近そうだし。」
「では私の事も名前で呼んでください。」
「よろしく、夢子。」そう言って、ジェドは手を差し出して優しく微笑んだ。夢子もつられて微笑んだ。そしてジェドの手を取り、握手を交わした。
*
ジェドは夢子を新聞社の一室に招いた。
その場所でジェドは様々な質問をした。
あの夜の出来事。どこから事件を見ていたのか。窓から見えた物。聴こえた音。犯人の容貌。
ジェドは真剣な顔でメモを取り、時折、夢子の顔を見つめた。
夢子はあの夜の事を思い出しながら、質問に答えた。
夢子が見たものは確実なものでは無かったし、犯人の姿も遠目でしか見ていなかった。
ジェドは持っていたペンを唇に当てた。
「どうしてその場に留まったの?暗くて、怖かっただろう?」
「わかりません。ただ、あの時はそうしなければって思ったんです。事件の事が頭を過って……。」
「そうか……きっと君は勇気があって、正義感も強いんだね。普通だったら怖くて逃げ出してしまいそうだ。」
ジェドは真面目な顔でそう言った。
「じゃあ、次の質問だけど……もし、俺がデートに誘ったら、受けてくれる?」
ジェドはそう言って夢子の目を覗き込んだ。
彼の目は悪戯っぽく輝いて、そして唇は微笑んでいた。
夢子は驚きで目を瞬かせた。デートに誘われるなんて、想像もしていなかった。
断る理由は無かった。恋人とは既に別れていたし、夢子は新しい出会いを求めていた。
「ええ。お受けします。」
夢子がはにかみながら微笑みを向けると、ジェドのほうもにっこりと微笑んだ。
「嬉しいな。でも、恋人がいるのに良かったの?」
「恋人とは、この前別れたんです。」
「ごめん。変なこと聞いちゃったね。」
「いえ……。そうなるだろうなって、自分でも分かっていましたから。」
その言葉は本心からだったので、何ともないと言うように夢子は小さく微笑んだ。
「これで取材は終わりだ。君の事は記事にしたいけど……大丈夫?」
夢子は頷いた。
「大丈夫です。」
もちろん恐怖はあったが、既に警察には全て話していたし、犯人が夢子に辿り着く可能性は低いだろう。
それに、少しでもおかしな事があれば夢子は直ぐに通報するつもりだった。
目撃者である夢子の通報なら、警察もすぐに駆けつけてくれる筈だ。
それにゴーストフェイスは、こんなに短期間で目立つ犯罪を重ねているのだ。いつまでも逃げ切れる可能性は低いだろう。
「貴方の記事だけど……私がどこまで犯人の姿を見ていたのか分からないように、少しぼかしたらどうかしら?犯人も少しは怯えると良いわ。」
夢子の強気な発言に、ジェドは微笑した。
「そりゃあ、良い考えだ。」
ゴーストフェイスもさぞ慌てふためくだろうよ。
ジェドは微笑みながら、心の中でそう呟いた。
夢子は恋人と別れた。
元から冷め始めていた関係だったし、電話口で怒鳴ってしまった事がきっかけだった。
フリーになった夢子の事を元気付けようと、友人達はこぞって遊びに誘った。
デートに誘われる事もあった。
夢子も誘われるままにあちこちへ出掛けた。
毎日を賑やかに過ごす事で、失恋や事件の恐怖から立ち直ろうとしていたのだ。
*
ある日、新聞に知った名前が載っていた。
ジェド・オルセン。
それはゴースト事件についての記事で、未だに何の手掛かりも無く、進展の無い捜査への批判などが書かれていた。
地元の新聞社らしい、市民に寄り添った記事だ。良い記事だと夢子は思った。
夢子は財布の中に入れたままにしていた名刺を取り出した。
「ジェド・オルセン。」
夢子は名刺に書かれた名前を読み上げた。
そして事件の夜に出会った、あの記者の姿を思い出した。優しげな顔をした誠実そうなあの記者の姿を。
名刺には彼の個人的な電話番号が手書きで書かれていた。
「いつでも連絡してね。」
そう、ジェド・オルセンは言った。
夢子は受話器を取って、ジェドの番号に電話をかけた。数コールで彼は電話に出た。
「ハロー?」
電話越しのジェドの声は事務的で冷たく、あの夜の雰囲気と違う印象だった。
「突然すみません……。私は、夢子と申します。ゴースト事件の目撃者の……。先日は、ホットチョコレートをありがとうございました。」
夢子がそう名乗ると、電話の奥の声は親しげな声色に変化した。
「あぁ。君だね?久しぶり。その後は大丈夫なの?」ジェドは嬉しそうな声で話した。
「えぇ。大丈夫です。」
「良かった。心配してたんだよ。」
ジェドは優しく笑った。
「私、貴方の取材を受けようと思うんです……。まだ、必要ですか?」
「そりゃあ勿論!俺は嬉しいけど……でも、怖くはない?大丈夫なの?」
夢子ははっきりとイエスと答えた。
「貴方の取材を受けたら、もうあの夜の事は忘れようと思うんです。だから……お願いします。」
後日、新聞社で。二人は取材の約束を交わした。
ジェドは張り切っていたし、夢子も乗り気だった。
しかし、電話を切った後で、夢子の心臓が忙しなく音を立て始めた。
緊張で口の中が乾いて、喉が張り付くように感じた。
これで良かったの?夢子は自分に問いかけた。
記事を読んだ犯人は、逆上しないかしら?
夢子は深呼吸をした。
勇気を出すべきだ。夢子はぐっと
前を向いた。
*
約束の日、新聞社へやって来た夢子を、ジェド・オルセンは出迎えた。
襟付きのシャツにスラックス。首には社員証とカメラが下がっている。
シンプルで清潔な服装と、穏やかな表情。人目を引くような華やかさは無いが、誰からも好感を持たれるタイプだろう。夢子はそう感じた。
「久しぶりだね。」
その声も彼の雰囲気通りに、落ち着いた滑らかな声だった。
「オルセンさん。今日はよろしくお願いします。」
「ジェドで良いよ。年齢も近そうだし。」
「では私の事も名前で呼んでください。」
「よろしく、夢子。」そう言って、ジェドは手を差し出して優しく微笑んだ。夢子もつられて微笑んだ。そしてジェドの手を取り、握手を交わした。
*
ジェドは夢子を新聞社の一室に招いた。
その場所でジェドは様々な質問をした。
あの夜の出来事。どこから事件を見ていたのか。窓から見えた物。聴こえた音。犯人の容貌。
ジェドは真剣な顔でメモを取り、時折、夢子の顔を見つめた。
夢子はあの夜の事を思い出しながら、質問に答えた。
夢子が見たものは確実なものでは無かったし、犯人の姿も遠目でしか見ていなかった。
ジェドは持っていたペンを唇に当てた。
「どうしてその場に留まったの?暗くて、怖かっただろう?」
「わかりません。ただ、あの時はそうしなければって思ったんです。事件の事が頭を過って……。」
「そうか……きっと君は勇気があって、正義感も強いんだね。普通だったら怖くて逃げ出してしまいそうだ。」
ジェドは真面目な顔でそう言った。
「じゃあ、次の質問だけど……もし、俺がデートに誘ったら、受けてくれる?」
ジェドはそう言って夢子の目を覗き込んだ。
彼の目は悪戯っぽく輝いて、そして唇は微笑んでいた。
夢子は驚きで目を瞬かせた。デートに誘われるなんて、想像もしていなかった。
断る理由は無かった。恋人とは既に別れていたし、夢子は新しい出会いを求めていた。
「ええ。お受けします。」
夢子がはにかみながら微笑みを向けると、ジェドのほうもにっこりと微笑んだ。
「嬉しいな。でも、恋人がいるのに良かったの?」
「恋人とは、この前別れたんです。」
「ごめん。変なこと聞いちゃったね。」
「いえ……。そうなるだろうなって、自分でも分かっていましたから。」
その言葉は本心からだったので、何ともないと言うように夢子は小さく微笑んだ。
「これで取材は終わりだ。君の事は記事にしたいけど……大丈夫?」
夢子は頷いた。
「大丈夫です。」
もちろん恐怖はあったが、既に警察には全て話していたし、犯人が夢子に辿り着く可能性は低いだろう。
それに、少しでもおかしな事があれば夢子は直ぐに通報するつもりだった。
目撃者である夢子の通報なら、警察もすぐに駆けつけてくれる筈だ。
それにゴーストフェイスは、こんなに短期間で目立つ犯罪を重ねているのだ。いつまでも逃げ切れる可能性は低いだろう。
「貴方の記事だけど……私がどこまで犯人の姿を見ていたのか分からないように、少しぼかしたらどうかしら?犯人も少しは怯えると良いわ。」
夢子の強気な発言に、ジェドは微笑した。
「そりゃあ、良い考えだ。」
ゴーストフェイスもさぞ慌てふためくだろうよ。
ジェドは微笑みながら、心の中でそう呟いた。