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東南

練習後の寄り道といえば、大きな顔をしたおばちゃんが店番をしている肉屋のコロッケであるが、千石が一緒にいると粉物屋へ行く。今日も千石に誘われて、三人で商店街の粉物屋にいる。
「ねえねえ、南。豚玉作ってよ」
「えー、めんどくさい。おばちゃんのやつの方がいいよ」
「俺は南が作ったやつが食べたいの。お願いお願い〜」
鉄板を挟んで向かい側に千石と南が座っている。千石はまるで彼女のように南の二の腕に抱きつくとキモい、と言われ持って、おねだりをする。
「分かった分かった。作ればいいんだろ。おばちゃーん」
「南くん、作るの?」
色々察した店のおばちゃんが材料を持ってやって来る。
「ありがとうございます」
「南くん、おばちゃんよりうまいもんねぇ」
手際よく作り始めた南の手元を見ながら、おばちゃんも微笑む。南はこういうことが地味に上手い。多分、たこ焼きを作るのも上手いだろうと思う。
「南、俺のも作ってよ」
「ああ、いいぞ」
「俺には渋ったくせに。いいなぁ、東方は」
頬を膨らませながら、千石がぼやく。南の隣に座っておいて、なんなんだその言い草は。
「俺も豚玉がいいな」
「分かった」
うまいことお好み焼きをひっくり返し、しばらく熱するとコテで千石の方へ寄せた。
「うーん、いいにおい。南、ありがとー」
千石がソースをかけるとソースのにおいが周りに広がる。一気にお腹が空いてきた。
「おばちゃんが南くんのやつ、作ってあげるよ。何がいい?」
「え、やった。俺は牛すじがいいなぁ……」
「オッケー。ちょっと待っててね」
おばちゃんがお好み焼きを作りに奥へ下がると南も東方の分を作り始めた。千石は一足先にお好み焼きにありついている。
「俺、南が女の子だったら絶対付き合う。だって、お好み焼き焼くのうまいし」
「どんな理由だよ、それ」
南のお好み焼きを食べながら、千石が呟く。あまりの女好きに南はため息を吐いた。
「面倒見いいしな。お母さんみたいになってそう」
「どういうことだ、それは……」
東方までおかしなことを言うので、二人を睨む。
「あ、でも、俺、南が女の子だったら付き合えないや、やっぱり」
「なんで?」
「どうせ、南は東方と付き合うんでしょ。俺なんて絶対眼中にないじゃん。付き合っても、絶対東方と比べられるだろうし」
「はあー。お前ってホント下らないことしか言わないな。はい。東方、できたぞ」
「ありがとう」
南が東方の方へお好み焼きを寄せたのと同じくらいにおばちゃんも南の分を持ってやって来る。おばちゃんにお礼を言ってから、二人も食べ始める。
「結構、男同士でも危ないよね。お前らって」
「えー、んなわけねえだろ」
「普通の友だち同士だよ、俺たちは」
「普通にしたって仲良すぎなんだよ、お前ら」
最後にため息を吐いたのは千石だった。
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