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東南

「弟が生まれてから、お母さんがお兄ちゃんとしか呼んでくれなくなったときはちょっと寂しかったなぁ」
二人で布団でごろごろしていると唐突に南がぼやいた。それは妹がいる東方にも経験があることだった。
「ああ、親父も同じ調子だし、クラスメイトも苗字で呼んでくるから、誰も名前で呼んでくれないんだよな」
「そうそう」
東方が頷くと南もどこか楽しげに笑いながら、頭の後ろで手を組んだ。
「一時期はマジで東方のお母さんくらいしか俺のこと、名前で呼んでなかったからな。まあ、もう慣れたんだけど」
「やっぱり、今も寂しい?」
「まあ、ちょっとはね」
東方の質問に首を傾げながら南が答える。
「じゃ、俺、これから南のこと、健太郎って呼ぼうかな」
そっと南の耳元で東方が囁く。どこか湿った低い声に思わず心臓が飛び出そうなほどドキドキした。顔が真っ赤になる。
「いきなりそういうの、やめろよ!」
「悪い悪い。代わりに南も俺のこと、雅美って呼んでいいよ」
「お前のことはもう一生、東方としか呼ばないからな」
悪質ないたずらにヘソを曲げた南はプイッと向こうへ寝返りを打ってしまう。まだまだ耳まで顔が赤いままだった。

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