short

『思い出した寒がり』


「レイの手、冷たいね」

 ふと触れた指先の温度に、ヒメリはそう呟いた。
 冷たいね。そう言うとオレの手を包み込むよう両手で覆う。
 そんなヒメリの手は暖かかった。

 人の体温に触れるのが嫌だった。
 その暖かい温度に触れるのが嫌だった。
 思い出すのが嫌だった。

 その暖かさも、自分が寒がりなことも。

 冷たいオレの手にヒメリの手の暖かさはよく伝わってきた。
 忘れられていた寒がりがまた顔を出して、その暖かさに溺れそうになる。
 思い出さないようにしようとしているのに、こいつはこっちのことなんて構いもしない。

「……手、冷えるぞ」
「レイの手が冷たいのより、私の手のほうが暖かいもん」

 そう言って屈託のない笑顔を向ける。

「それに、こうしていたらレイの手も暖かくなるでしょ?」

 本当に、嫌になる。
 誰も望んでなんかいないのに、外側からも、内側からも、暖められていく。

 こいつのせいだ。

「……おまえ、子供体温だからな」
「そんなことないもん!」

 寒がりなことを思い出したのも、この手を離せないでいるのも。
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