future

『5年越しの距離感』


 外は曇り空、雨は降りそうにはない。
 場所は修理屋。レイさんは仕事に外へ、アカネさんもマシロもどこかへ外出中。
 店の中には留守を任された僕と、ヒメリさん。

「……大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫」

 倒れる踏み台、そこから足を踏み外したヒメリさん、そしてそれを支える僕。

 もう少し詳しく状況を説明すると、あまりにも散らかった棚の整理をしようとヒメリさんは踏み台を持ち出してきた。普段から危なっかしいヒメリさんがふらふらと踏み台の上で作業する姿は本当に危なっかしいな、と思っていたら案の定足を踏み外して以下略。
 まだ少し驚いているのか呆けたままのヒメリさんは僕に体重を預けたまま。
 ……なんとなく、最近はヒメリさんと二人でいることに気まずさを感じているのに、この状態はさらに気まずい。どうしたものかと視線を宙へと彷徨わせる。

──それにしても、ヒメリさんってこんなに……

「クロちゃん、大きくなったね」

 小さかったっけ。

 そんな思いと重なったヒメリさんの言葉に、まるで心を見透かされたような気分になって少しドキリとする。
 そんな動揺をする僕のことなんて知るよしもないヒメリさんはいつものように笑いかける。

「はじめて会ったときは、私より小さかったのに」

 懐かしむように微笑むヒメリさんの手が、僕の頭上へと伸びる。

「もう私より大きい。追い越されちゃったね」

 昔から変わることなく僕に向けるその笑顔に、何故か少し、胸が痛んだ。
 身長は追い付いても、追い付けない。
 身長は追い越せても、追い越せない。
 開いたまま縮めることのできないどうしようもない距離感を感じた気がした。

「子供扱い、しないでくださいよ」

 いつまで経っても、ヒメリさんにとって僕は子供なんだろう。
 周りを見上げてた頃には意識していなかった距離感を、視線が横に並ぶようになった今になって感じている。
 こんなに近いのに、何故だか遠い。

──あと少し、もう少し、はやく……

(はやく、なんなんだよ)

 はやく生まれていれば。だなんてそんなどうしようもない思いを抱いてしまう。
 きょとんとした表情で、ヒメリさんは僕を見ている。いつの間にかヒメリさんの体重は僕から離れていた。

――ああ、きっと

 マシロでもなく、レイさんでもなく、誰よりも、僕はこの人に認めてもらいたいんだ。
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