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『不完全以心伝心』


「たまに、ぼくの力が伝わるものじゃなく伝えるものならよかったのに、って思うよ」

 ぽつりと呟いたぼくの言葉に、隣に座るレイは珍しく視線をこっちに向けてくれた。

 別に、この一言では形容し難い力を疎ましく思うことはあっても、失くしたいと思ったことはない。知りたくないことが知れたり、見たくないものが見れたりもするけど、それでもわからないよりは断然いい。
 わからないものは怖くて、信じられない。
 ぼくにとってこの力は目や耳と同じ、周囲からの情報を得るための感覚だから、わからないことは見えないことや聴こえないことと同じなんだ。

 この力があれば口に出さなくても気持ちだって考えてることだってわかっちゃう。
 いつもそうだと疲れちゃうから、普段は表面の浅いところにだけ触れるように、だけどその気になれば隠しておきたい深い部分にだって。

 だけど、だから、伝わったところで伝えられるわけでもない。

 思ってるだけじゃ伝わらないけど、言葉にしたって伝わりきらない。
 口にした言葉は形を変えてしまい思いとは違った気持ちが届く、もしくは届くことなくそのまま宙に取り残されてしまう。自分には鮮明の届くのに、相手には上手く届けることができない。
 そんなことまでわかっちゃう分、それがとてももどかしく感じた。

 ぼくの力が伝わるものじゃなく伝えるものならよかったのに、そしたら、

「別に、そのままでいいだろ」

 ふと俯く頭の上からレイの声が降ってきた。かと思うとぼくの手の上にレイの手が重なる、ぼくの視線は自然とそっちへと向いた。
 レイの手はひんやりと冷たくて、細いけれど、ぼくの手を容易に包み込めるくらいには大きい。

「……そういうことは、口で言ってよ」
「……そのうちな」

 レイはぼくの力のことを知ってるのに、触れればそのまま伝わっちゃうことだってわかってるのに、ぼくがそばにいることを嫌がらない、ぼくに触れることを躊躇わない、それどころか意思疎通に自分から使っちゃうくらいで、ほんと変なやつ。

「大体、ただでさえうるさいのにこれ以上うるさくなられたら鬱陶しい」
「ちょっと!何その言い草!」
「ほらもううるせぇ」
「レイは口を開くとそういうことしか言わない!」

 レイは触れていた手を離すとそのまま肩肘を付いてそっぽを向いた。ぼくはそんなレイに腹を立て無防備に晒された後頭部をぽかぽかと殴る。
 そんなぼくらの照れ隠しは、傍から見ればとても幼稚なものかもしれない。

 レイの言いたいことは、触れなくてももう、わかってるつもりだよ。

 思い通りの形を届けられなくたって、届けることすら叶わなくたって、それでもやめるわけにはいかないよね、ぼくにはこれしかないから。
 ぼくの言いたいことは相変わらず上手く届かないけど、ぼくの言葉はきみの耳を傾かせることはできたね、そのままちゃんと聴いててね。

「言っとくけど、ぼくがこんなにおしゃべりなのはレイのせいなんだからね」

 そうなんだ、きみにはとくに、伝えたいことがいっぱいあるんだ。
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