short

『歩くような速さで』


「ユニちゃんさオレと一緒にいるときあまり笑わないね」

 ユニちゃんと付き合い初めて幾日。
 こうして2人きりで一緒にいる日も増えたけど、今みたいに伏し目がちにおどおどしている姿ばかり見ている気がする、と思ってることがついそのまま口に出ていた。

「えっと、あのっ、……ごめんなさい」

 オレの言葉に気付かされたような顔をするユニちゃんは申し訳なさそうに目を伏せた。
 ごめん、そんな顔させたかったわけじゃないんだ。
 そう思いつつユニちゃんのか細い指にそっと触れる、するとユニちゃんはそれだけでまたおどおどとしながら顔を真っ赤にさせた。キスどころか手を繋いだり抱きしめたりするだけでこの調子で、それ以上のことはまだまだ先の話になりそうだなとぼんやり思う。
 取り合えず、今はただ笑ってほしいんだけどな。

「ごめんなさい、私…っ」

 どうすればいいかなと考え出すオレの隣で思い切ったようにユニちゃんは口を開く。

「私、今でもまだ、ローマ君のそばにいれること、信じられなくて、でも、すごく嬉しくて、いっぱいいっぱいに、なっちゃって」

 ユニちゃんはたどたどしく言葉を口にする。視線は迷子のようにあっちこっち彷徨うけどオレの目と合うことはない。それでも一生懸命オレに自分の気持ちを伝えようとしてくれてることはわかった。
 ひとつひとつにユニちゃんの精一杯を詰め込んだその言葉にオレはただ黙って耳を傾ける。
 でも、まとまらない思考に少しずつ自信を無くしたように声が段々小さくなっていき、そして最後に、消え入りそうな声で呟く。

「だから、……嫌いにならないで」

 嫌いになんてなれるわけがない。
 そんな思いと一緒にオレはユニちゃんを引き寄せそのまま抱きしめた。オレの腕の中でユニちゃんは小さな悲鳴を上げながらびくりと体を強張らせ、さっきの倍以上に顔を赤く染める。

「オレもユニちゃんのそばにいれて嬉しいよ」

 どうやらオレもこのままでも十分幸せらしいから、今はもうそれでいいや。
 ゆっくりゆっくり歩み寄ろうと頑張ってくれてるユニちゃんのことを、オレも焦らずにゆっくり待つよ。
 一緒に笑いあえるのが当たり前になる日々を思いながら。
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