short

『チョコレート味』


「おいしそうだね」

 クロムはカラフルな包み紙から取り出したチョコレートをそのまま口へと運ぶ。
 頬が緩んでいるのがわかる。甘いお菓子を食べてるときのクロムは本当に幸せそうだ。いつもより機嫌がいいし、ちょっぴり大人しくなるし、なんだかふつうに可愛い。

「ユウリにはあげな~い」

 もうひとつ、チョコレートを口に放り込みながらクロムは意地悪く笑う。

「べつに」

 チョコレートを眺めてたわけでもないし、欲しいのはチョコレートじゃないよ。
 ――なんて、そんなこと、言えないけど。
 クロムはオレの返答につまらなそうな顔をするけど、悪いことを思い付いたのかまたすぐに良くない笑みを浮かべる。
 嫌な予感がする、けどそれでも体はクロムのそばを離れたがらない。

「ユウリぃ」

 名前を呼ばれたかと思うと、突然唇に何か温かいものが触れた。
 ――何が起こっているのかわからない。
 何をされるのか身構えていたはずなのに反応できずにいた。ただクロムの顔がすごく近くにある、鼓動が早まる。

「……なっ、いま、なにし…っ」

 クロムの顔が離れてようやく頭が追い付く、キスされた。

「味だけあげるぅ」

 そうやってクロムはまた意地悪く笑う。
 わかってる、からかわれてるんだ。

「そんな、簡単に、好きでもない相手に、キス…するのは、」
「ボクはユウリのこと好きだよぉ」

 あっさりとそんなことを言ってのけられて、オレはまた少しどきりとする。
 だけどわかってる。

 クロムの好きとオレの好きでは意味が違う。
 クロムのキスとオレのキスでは重さも違う。

 そうはわかっていても、一度早まった鼓動はそう簡単には落ち着きそうにない。

「ねえねえ、おいしかったぁ?」

 熱がこもるオレの顔を見ながらクロムはクスクスと笑う。こっちの気も知らないで。



(味なんて、わかるわけがない)
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