short

『大好きな色』


「シグレのここは温かいねぇ」

 夕日の差し込む一室、のんびりと間延びした声が聞える。
 ベッドをもたれながら座るシグレと、その伸ばされた足の間に向かい合うようにクロムが座り込み、そこからシグレの心臓の音を聞くかのようにその胸に頭を預けていた。
 いつからそうしていただろう。ぼんやりと微睡むような眠気を抱くほど凪いだ時間に、普段感じることのないような穏やかな空気を覚えるせいか目の前にいるのがどこにでもいるような普通の少女のようにさえ錯覚する。こうして大人しくしていればただの幼さの残る少女だ。
 シグレは少し気を緩める。

「掻っ捌いたらきれぇな赤が吹き出すんだろおねぇ」

 そう思ったのも束の間、恍惚した表情をしながらクロムはそんなことを言ってのけた。

「恐ろしいこと言うな」

 シグレは呆れたように息を吐く。クロムに対してではなく、自分自身に対して。長年付き合っておいて今更クロムに甘えた幻想を抱いてしまったことに酷く落胆する。

「血が全部吹き出したあとには内臓をひとつひとつ丁寧に取り出してあげるぅ」

 くすくすと愉しげに笑う少女が、自分より幾分も小さな少女が悪魔に見える。いやそんな可愛いものじゃない、こいつは大魔王だ。
 しかしそれも今に始まったことではなく、そんなとんでもない言動に多少慣れてしまっている自分がいることのほうが恐ろしく感じる。
 シグレはもう一度息を吐く。

「そおなりたくなかったら精々ボクを飽きさせないでねぇ」

 くすくすと笑みを浮かべながら、クロムはそのままシグレの胸の上で軽く目を閉じた。



(ああでも、)
(早くこいつが大好きな赤に塗れる姿を見てみたい)
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