short
『ビターチョコレート』
「苦い」
レイはぽつりと呟く。
「苦いのダメだった?」
「別に」
レイが口に運ぶチョコ、本当はシオちゃんに渡すつもりだった。
甘いものより苦いもののほうが好きなシオちゃんのために作ったチョコレート、少し大人の味なビターチョコレート。
結局あげられないまま、シオちゃんの代わりにレイに手渡した。
レイはおいしいともそうじゃないとも言ってくれないけど、全部食べてくれるから、それがちょっと嬉しい。
渡せなかったままぐずぐずしている気持ちも、チョコがなくなったらなくなってくれるような気がした。
「シオンにやるんじゃねぇのかよ」
え。と声が漏れそうになる。
レイは私をじっと見つめている。なんだか全部見透かされてるような気分になる。
「うん、そうだったけど、いいの。もらってもらえないかもしれないから」
シオちゃんには好きな人がいるから。
シオちゃんは大切な人からチョコをもらってるから、きっと私のチョコなんていらない、邪魔になっちゃうかもしれない。
私はただの幼馴染でシオちゃんの大切な人ではないから。
「おまえからなら、あいつはもらうだろ」
レイは呟く。その言葉は私に真っすぐ突き刺さる。
わかってた、本当は。
シオちゃんなら私のチョコももらってくれる。いつもみたいに優しく笑いかけてくれて、頭を撫でてくれて、「ありがとう」って言ってくれる。
わかってるのに、渡せなかった。
わかってるから、渡したくなかった。
なんで?
「もう、わかんないよ」
どうしたらいいのかわからない。どうしたいのかがわからない。
好きな人がいるからなんて言い訳で、邪魔に思われるかもなんて言い訳で、渡せるのに、もらってもらえるのに、渡したくなかった。
「なんで、チョコ……作っちゃったんだろ」
気持ちの整理がつかなくて、ただただ涙が零れた。
***
ここにいるのがオレじゃなかったら。
泣きじゃくるヒメリの横で、何もできないままそう思う。
ここにいるのがオレじゃなくシグレやローマだったら、こいつのことをうまく慰められてただろう。泣きやませて笑わせてやれて、もしかしたら泣かせること自体なかったかもしれない。
オレにはどうすればいいのかも、どうしたらよかったのかもわからない。
「チョコ余っちゃったんだけど、もらってくれる?」
そう言って笑いかけてくるヒメリはいつもより元気がなくて、その言葉は嘘だということはすぐわかった。こいつは嘘をつくのが下手だ。
何か言おうとしたけど、結局言わないまま、チョコを受け取った。
嘘だとはわかったけど、だからどうすればいいだなんてのはわからず、オレは渡されるままにチョコを口へと運んだ。
今更、食べない方がよかったのかもしれないと考え出す。
口の中にはまだそのチョコのほろ苦さが残っている。オレがこいつからもらったチョコとは味が違った。オレの食べたチョコとは違う、多分、他のやつらの食べたチョコとも違う。
シオンに渡すチョコだと気が付いた。あいつのためを思って作った、あいつへのチョコ。
「あいつに、喜んでもらいたかったんだろ」
ヒメリがシオンのことを特別に思っていることはオレでも知っている。
あいつといるときのヒメリは他の誰といるときよりもずっと笑顔だ。それが恋愛感情としての気持ちなのかまでは知らないが、特別に思ってることには変わりない。
このチョコもきっと、特別に思って作ったんだろうと思う。
そんなチョコを、オレなんかに食わせてよかったのかよ。
「苦い」
レイはぽつりと呟く。
「苦いのダメだった?」
「別に」
レイが口に運ぶチョコ、本当はシオちゃんに渡すつもりだった。
甘いものより苦いもののほうが好きなシオちゃんのために作ったチョコレート、少し大人の味なビターチョコレート。
結局あげられないまま、シオちゃんの代わりにレイに手渡した。
レイはおいしいともそうじゃないとも言ってくれないけど、全部食べてくれるから、それがちょっと嬉しい。
渡せなかったままぐずぐずしている気持ちも、チョコがなくなったらなくなってくれるような気がした。
「シオンにやるんじゃねぇのかよ」
え。と声が漏れそうになる。
レイは私をじっと見つめている。なんだか全部見透かされてるような気分になる。
「うん、そうだったけど、いいの。もらってもらえないかもしれないから」
シオちゃんには好きな人がいるから。
シオちゃんは大切な人からチョコをもらってるから、きっと私のチョコなんていらない、邪魔になっちゃうかもしれない。
私はただの幼馴染でシオちゃんの大切な人ではないから。
「おまえからなら、あいつはもらうだろ」
レイは呟く。その言葉は私に真っすぐ突き刺さる。
わかってた、本当は。
シオちゃんなら私のチョコももらってくれる。いつもみたいに優しく笑いかけてくれて、頭を撫でてくれて、「ありがとう」って言ってくれる。
わかってるのに、渡せなかった。
わかってるから、渡したくなかった。
なんで?
「もう、わかんないよ」
どうしたらいいのかわからない。どうしたいのかがわからない。
好きな人がいるからなんて言い訳で、邪魔に思われるかもなんて言い訳で、渡せるのに、もらってもらえるのに、渡したくなかった。
「なんで、チョコ……作っちゃったんだろ」
気持ちの整理がつかなくて、ただただ涙が零れた。
***
ここにいるのがオレじゃなかったら。
泣きじゃくるヒメリの横で、何もできないままそう思う。
ここにいるのがオレじゃなくシグレやローマだったら、こいつのことをうまく慰められてただろう。泣きやませて笑わせてやれて、もしかしたら泣かせること自体なかったかもしれない。
オレにはどうすればいいのかも、どうしたらよかったのかもわからない。
「チョコ余っちゃったんだけど、もらってくれる?」
そう言って笑いかけてくるヒメリはいつもより元気がなくて、その言葉は嘘だということはすぐわかった。こいつは嘘をつくのが下手だ。
何か言おうとしたけど、結局言わないまま、チョコを受け取った。
嘘だとはわかったけど、だからどうすればいいだなんてのはわからず、オレは渡されるままにチョコを口へと運んだ。
今更、食べない方がよかったのかもしれないと考え出す。
口の中にはまだそのチョコのほろ苦さが残っている。オレがこいつからもらったチョコとは味が違った。オレの食べたチョコとは違う、多分、他のやつらの食べたチョコとも違う。
シオンに渡すチョコだと気が付いた。あいつのためを思って作った、あいつへのチョコ。
「あいつに、喜んでもらいたかったんだろ」
ヒメリがシオンのことを特別に思っていることはオレでも知っている。
あいつといるときのヒメリは他の誰といるときよりもずっと笑顔だ。それが恋愛感情としての気持ちなのかまでは知らないが、特別に思ってることには変わりない。
このチョコもきっと、特別に思って作ったんだろうと思う。
そんなチョコを、オレなんかに食わせてよかったのかよ。