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『たんぽぽの花と綿毛と』


「レイ、これあげる」

 アカネはそう言ってレイの手に何かを握らせた。
 何かと思い手を覗けば、そこには黄色い花と白い綿毛を咲かせているたんぽぽがひとつずつ。

「なんだこれ」
「お店の前に咲いてたの」

 にこーっと満足気に笑うアカネに、それでこれをどうしたらいいんだとレイはたんぽぽを見つめる。

「レイ変わったよね」
「は?」
「表情がやわらかくなった」

 アカネはそう言いながらレイの腕にべったりと引っ付き、嬉しそうに微笑む。
 レイはそれに鬱陶しそうにしながらも、ふとたんぽぽにもう一度目をやると、少し考えた後に口を開く。

「……お前は」
「え?」

 珍しく、レイが自分に対して何か言葉をくれるのかと、アカネは期待しながらレイを見つめた。
 少しの間の後、レイは言葉を続ける。

「年々ガキっぽくなってる」
「なっ!?」

 もうちょっと他になんかないの!?
 期待をしていた分アカネはがっかりする。大声で文句を口にした後、わざとらしくしゅんと肩を落とした。
 ……でも、それってさ、

「それでも、今のぼくも、前のぼくのことも、ちゃんと見ててくれたってことだよね」

 そう考えると、ちょっぴり嬉しくなる。

「こんなに鬱陶しくまとわりつかれたら嫌でも目に入る」
「なにそれ!ちょっとひどくないっ!?」
「いちいち耳元で叫ぶな」
「こうしないとレイ、ぼくの話聞かないでしょ!」

 アカネは髪を引っ張り耳元で喚き、レイはそんなアカネを遠ざけようと頭を押さえつけた。ガミガミと怒鳴る騒々しい声を、顔を逸らして拒絶する。
 なんでもない、いつものやり取りだ。

「……あのね、レイ」

 不意に反発していたアカネが力を抜いて大人しくなった。それに合わせてレイも押さえつけていた頭からそっと手を離し、アカネの方に視線を戻す。
 アカネはちらりとレイの片手に握られているたんぽぽを見ながら、言葉を続ける。

「たんぽぽはさ、黄色い花のときも、白い綿毛のときも、たんぽぽっていうんだよ」

 それがどうした。と怪訝そうにするレイにアカネは言葉を続ける。

「ぼくたちも、変わるところは変わってさ、でも大事なところは変わらないままでいようね」

 アカネはそう言って微笑んだ。

「なんだよ、急に」
「べつにー」

 少し照れ臭かったのか、アカネはレイと目が合うと、顔を隠すようにしながらまたべったりとレイの腕にしがみついた。

「ぼくはただ、今レイにものすごく甘えたいだけなんですー」
「なんだそれ」

 ほら、そんなところがガキっぽい。レイが呟く。
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