Under worker
ああ、まただ、またこの夢だ。
湿った暗い森の奥、ぬかるむ地面、厚い雲に覆われ隠れた丸い月、視線の先、暗闇の中で対峙するひとつの影。
寸分も違わない、幾度となく繰り返し見る、あの日の再現の中だ。
対峙する影、目の前にいるのは見知った顔だった。だけどそこにある表情は初めて見るもので、まるで見知らぬ人間のもののようだった。
普段目にする冷静さも気丈な態度も見当たらず、我を忘れたように感情を露わにし怒声を上げ喚き立て、それでも尚抑えきれないらしい感情が両の目から絶えず涙となって零れ落ちる。
こんな感情的な表情、らしくない姿を見るのはあの日が初めてだった。
「――――!!」
静寂に包まれた暗闇の中に怒号だけが響く、俺はただ無言でその言葉を浴びる。
何を言っているのかは分かっている、言葉のひとつひとつはしっかりと聴こえている、ただ頭がその意味を理解せず、ただの音となってそのまま耳を抜けていく。
だけど問題ない、何を云いたいのかは解っている。
「――――」
気付けば俺の右手には何かが握られていた。
なんなんだろう?なんて、確認しなくてもわかる。俺の右手に握られているのは、すっかりと手に馴染んでいる真っ赤に染まったお仕事のお供。
今、俺が何をすべきなのかは解っている。
手に馴染むそれの感触を確かめるようにもう一度しっかりと握り締める、軽く息を吐く、いつものように微笑を浮かべる、その間も視線はそのまま逃さぬように君へ。
今回こそは――。
俺が何をすべきなのかは解っている、躊躇いはない、覚悟もできている。
――それなのに、
生温い風が頬を撫でた。
ああ、俺は今回もきっと、君を殺せない。
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