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2. trigger
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「メグ、大丈夫か!?」
「う、うん…!今の、なんだったの…!?」
「わかんねぇ…上で何か爆発したか、ポケモンの技か…そうか、モニター室なら…!メグ、外で待ってろ!」
「え、ちょっと、危ないって…!」
一応、ショウマはオオバグループの次期跡継ぎであり、店内の設備を熟知している。何か考えがあるのか、すぐさま階段の方へ走っていった。
メグも、人混みをかき分けショウマを追いかけようとするが、彼の瞬足には追いつけない。何より、周りの客達はぎゃあぎゃあと悲鳴を挙げながら、出口の方向=こちら側に向かって押し寄せてくる。親とはぐれてしまったのか、所々で子どもの泣き声が響く。
人に揉まれながら、メグは考えていた。正直、こういう状況で、仲間たちに力を借りたいとは思わない。しかし、そうは言っていられない。何とか人混みから逃れ、急いで肩にかけていたショルダーバッグを開ける。その時だった。
「開かないぞ!なんでっ…!!」
突然、後方から悲鳴が上がった。
客達が、自動で開閉するはずのドアをこじ開けようと手をかけたり、叩いたりしている。どうやら、開かなくなっているらしい。非常時だからか。だが、今の状況では致命的だ。
「クソッ、壊すぞ!」
「みんなどくんだ!行け、ゴーリキー!『空手チョップ』でドアを壊せ!」
『ガアアァ!』
先頭の男性がゴーリキーを繰り出し、自動ドアの破壊を指示した。
その瞬間、
キィィーーィーン
遠くで耳鳴りがした。その後、
シュウウッ…ポン!
という音があちこちで聞こえ始めた。
それらは一瞬の出来事だった。
店内の人間が連れていたポケモンたちが、一斉にモンスターボールに戻り始めたのだ。
ドアの破壊まで後一歩、という所で、男性のゴーリキーもボールに戻ってしまっていた。
「おい!ゴーリキー出てこい!!」
「なんで、どうしたの!?返事して!」
「あれ、ビーちゃん、ビーちゃん!?」
皆しきりにボールに呼びかけたり、ボールのボタンを押したり、投げたりしている。が、どのポケモンも出てくることは無い。異様にも、突然ポケモン達は消え、この場には人間しか残っていない。悲鳴や不穏な声が増し、混乱に混乱が重なっていく。
その様子を見ながら、メグも一瞬混乱した。こんなことは見たことがなかった。しかしすぐに、先日テレビで見た例の事件のニュースが頭をよぎった。
『男性はポケモンにより撃退しようとした所、モンスターボールが開かず、対処できなかったということです。男性は軽傷であり……』
慌ててショルダーバッグの中のボールを確認する。見た目に異常は無いが、何かがおかしい。そうだ。普段は、ボールの中のポケモンが眠っていようが起きていようが、中を透かして見ることができる。が、今は全く見えない。自分の顔が反射するだけだ。それに、触れてみても、いつもは感じる"温もり"はなく、むしろ冷たく感じる。
仲間たちが反応してくれない。
今までにない不安感に駆られながら、ふと気づいた。6つのボールのうちひとつだけ、"温もり"が感じられる。
「…チャモ?」
呼びかけると、ブルブルと呼応する。
なぜかはわからないが、この子だけは反応してくれている。
一気に安堵感が広がった。ボールのボタンに手をかけた時、ピンポンパンポーンと、店内放送が響いた。男の、丁寧ではあるが威圧的な声が聞こえてくる。
『……店内にお越しの皆様。お騒がせしました。これは実験でしたが、見事に終了いたしました。今すぐここから出てもらって構いません。出口も開けておきます』
ざわ、と客達がどよめく。
『ちなみに、人質を1人取らせてもらいました。あとの者は免じましょう。さっさとここから出るように。抵抗すれば容赦はしな『クソ!離せっつってんだろこのハゲ野郎!こんの…』
ブツ。と、最後まで言わせず、途中で放送が切れた。
「今の人質の声?やばくない!?」
「結構元気そうだったな…」
「とにかく、今のうちに逃げろ!」
「やった!ドアが開くぞ!!」
客や従業員が、一斉に出口へ走り出した。なぜか自動ドアも開いたようで、歓喜の声が上がる。だが、出入口は1つしかないため、一点に人が集中し、飽和状態になっている。
「ちょっと、嘘でしょ……」
さっきのは間違いなくショウマの声だ。どうやら上の階で敵に捕まってしまったらしい。この店の跡取りと知ってのことだろうか。五月蝿い奴だが、このまま見捨てることはできない。
バッグから、チャモが入ったボールだけ取り出す。モニター室がどうとか言っていたが、場所がわからない。階段に向かうと、1人逆走していたのが目に留まったらしく、従業員たちに呼び止められた。
「お客様!どちらに行かれるんです!?危険ですから早く逃げてくだ「あの、モニター室は何階ですか!?」
「よ、4階ですが…あっ、お客様!!」
お礼を言い、止めようとする従業員たちを振り切って階段に向かう。すると、上の階から追いやられたのか、一斉に降りてきた客の群れに飲み込まれそうになった。
「どうしよ…あ!」
慌てて引き返すと、目の前には停止したエスカレーターがある。さっきの爆発の振動のためか、停止している。この非常時に使う者は少ないだろう。階段と変わらないそれを、メグは一気に駆け上がった。慣れないパンプスのため走りにくく、踵も擦れて痛いがしょうがない。
「はぁ、はぁ…ついた…」
目の前には、従業員用の入口がある。心臓の鼓動が早いのは息が上がっているせいだけではない。
扉の奥の方の音はよく聞こえない。慎重に距離を詰めた。扉を開け、ゆっくりと奥に進むと、殺伐とした事務机と、店内を映す数十個のモニターが設置された広めの部屋があった。
ふいに、右手に持っていたボールがブルブルと激しく振動する。チャモが危険を察知しているらしい。メグは、応えるようにボタンを押した。…はずだった。
カチッ。カチカチッ。
「……!」
繰り返し開閉ボタンを押すが、一向に出てこない。
チャモのボールからは、他の仲間からは感じられない温もりも反応もある。
なのに、ボールは開かない。
やはり、例のニュースと同様のことが、今の自分の身にも起きているのだろうか。
「こんな所まで来るとは勇敢なお嬢様ですね」
「!」
部屋の奥から、やや背の高い、丸刈りの男が近づいてきた。白いスーツを着ており、品高く見える一方で異様な雰囲気もある。恐怖感を抑えながら、メグは身構える。
「ほら、彼をお探しですか?」
男が顎で示す方を見るとショウマはモニターのすぐ近くに横たわっていた。何をされたのかわからないが、身動きはない。メグの中に恐怖感が走る。
「ショウマ…!?」
「悪いですが寝てもらいました。ハイパーボイス超えの五月蝿さだったもので」
それは否めない。
ふと、人影がメグの前に立ちはだかった。人影じゃない。緑と白の逞しい風貌。エルレイドだ。故郷ではサーナイトを見慣れていたせいか、この地方で初めてエルレイドを見たとき、違和感しかなかった。刃のような鋭い腕をこちらに向け、威嚇している。確か、あの腕は自由自在に伸び、危険な凶器となりうる。
「今、手持ちのポケモンは使えないでしょう?」
「…どうしてポケモンが出てこないの?あなたの仕業?」
「そうです。…あっさり認めたことに驚いてますね。これは広めたい事実ですから」
メグが口を開こうとした時、エルレイドがギッとこちらを睨みつけた。一定の時間、目が合ったかと思うと、突然、メグの意識は混濁した。猛烈な睡魔が襲い、ぐら、と視界が揺れた。下肢が脱力し、床に倒れていく中、体への衝撃を覚悟した。
しかし、衝撃はなく、後ろから誰かにガッと支えられる。覗き込んで来た相手の顔が、ぼんやりとしている。瞼が重たく、目が開かない。ただ、相手は黒い服を着ているのか、視界の中で、急に黒色が増えた。
視界が黒い闇に包まれていく。その闇に吸い込まれるように、メグの意識は遠のいて行った。
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