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2. trigger
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「ジョーイさん。なりたいんでしょ」
ジョーイさんといえば、ポケモンセンターに常駐しているあの ジョーイさんことポケモンおねえさんのことだ。ピンクの髪にナース姿の彼女たちは、同じくピンク系の甲斐甲斐しいポケモンたち(各地方で異なるらしい)を助手として雇い(給料が発生しているかは不明)、どうみてもナースな感じを醸しながら実はその名の通りバリバリの女医さん、すなわちポケモンドクターなのである。彼女たちは医療行為を許され、ポケモンセンターを一任されている、ポケモン界では意外性トップのキャリアウーマンだ。
そうなりたいと思うのには、何か大きなきっかけがあったはずなのに、いつの間にか失念してしまった(大したことじゃなかった?)。とにかく、トレーナーになってからポケモンセンターでジョーイさんを見るたびに、胸の疼きを感じていたのは確か。
もしトレーナーを辞めることになったら、傷ついたポケモンを助ける仕事に就きたい。
そう思うことがあった。
もちろん、就職を考えるなら、ポケモンセンターに限らず、専門の医療機関でも構わない。
しかし、どちらにしろ、そうなるためには並大抵の努力では足りない。ポケモンへの医療行為を行うには、解剖学、生化学、病理学など、トレーナーとはまた違う専門知識が必要となる。それも莫大に。
ジョーイさんたち一族に比べれば、今からトレーナーを辞めて勉強を始めても遅いくらいかもしれない。いや、もう完全に出遅れている。
そう思いながら、いつのまにか2つの地方でトレーナーの頂点に立ってしまった。これは、自分の力というより仲間たちのおかげだ。いざポケモントレーナーを辞めるとなったとき、その仲間たちになんて伝えればいいのかわからない。これまでのように旅をしたり、バトルすることもできなくなる。
だから、今の時点で、メグはポケモンドクターという夢を半ば諦めてしまっていた。
パチッ
沈黙をかき消すように、テレビがつけられた。
「え」
「ごめんごめん。昨日の今日でこんな話。めでたい日なのにねぇ。余計なこと言ったわ」
「いや、でも…」
「いいのいいの。ゆっくり決めればいいんだから。それより、ほら見て!なんかニュースやってる」
「………うん」
メグは母に促され、少し申し訳なく思いながら、テレビに目を向けた。
『次のニュースです。昨夜午後11時ごろ、203番道路付近で30代の男性が何者かに襲われました。男性はポケモンにより撃退しようとした所、モンスターボールが開かず、対処できなかったということです。男性は軽傷であり……』
「物騒ねぇ……。でもボールが開かないことなんてある?」
「うーん…焦っててうまく使えなかった、とか?」
『男性は、"いつも通り開閉ボタンを押したり、投げてもみたが出てこなかった"と話し、故障の可能性が示唆されましたが、後日行われた点検では異常が見られず、中のポケモンにも問題はないとのことです。今回使用されたボールの開発元はデボンコーポレーションであり、今後の捜査の結果によっては製品の見直しが指摘され……』
馴染み深い社名を聞き、2人とも、朝食を食べる手が止まる。
「え……ムクゲさん、大丈夫かしら……」
「……」
デボンコーポレーションとは、ホウエン地方きっての大手企業である。日用品や工業製品を始め、特に、トレーナー必需品のシェアの多くはこの会社が占めている、と言っても過言ではない。
そのトップの座に立つのが、ツワブキムクゲ社長、例の、クセの強い御曹司の父親である。
息子と同様、大の石好きで、希少な石の数々が社長室に飾ってあったのは覚えている。
彼は心優しい人で、ホウエンにいた頃はなにかと世話を焼いてくれた。この事件で社長や会社にどんな影響があるかを考えただけで、メグはひどく気が重くなった。それは、母も同じらしかった。
「……ムクゲさんね、私が若い頃にしてた薬品研究のことで、とても力になってくれたの。会社の研究室の人たちと一緒に薬の開発もしたし…本当によくしてもらって。ほら、メグも昔から可愛がってもらったでしょ」
「うん……」
「なにか、力になれたらいいんだけど……」
母はホウエン地方随一の温泉観光地であるフエンタウンの出身で、そこの漢方薬屋に生まれた。そのため、母は幼い頃から叩き込まれた薬学や薬草学の知識を活かし、かつては優秀な薬剤師兼研究員として、いくつも成果を上げたという。
今は主婦として家事をこなしてくれているが、いつのまにか、この地方のお店や研究所から引っ張りだことなり、商品開発や研究に携わっている。それで、家ではよく内職をしていたり、きのみを栽培している農園を訪ね回ることもある。そういった活動が実を結んでいるのか、それとも何かの貢物なのかは不明だが、大量に届いたギフトを楽しそうに物色している姿をよく見る。
そんな母は昔から、私の身体に良かれと思い、すり潰した薬草を離乳食に混ぜたり、怪しい粉を料理に入れたりと、ふんだんな努力をしてくれていた(あまりの苦さに、私は母に全く懐かなくなった時期があるらしい)。トレーナーズスクール時代は、毎日母が持たせてくれていた水筒に薬草茶が入っていた。試飲したクラスメイトにはどん引かれてしまったが、風邪ひとつ引かなかったので、効果は本物だと思う。
そんな母は、例の薬草茶が入ったマグを片手に、ぼんやりとテレビを眺めている。
メグも、社長のためになにか力にはなりたい、とは思うものの、なにも思い浮かばなかった。
(あれ、そういえば、師匠はこのことを知ってる……?)
そう思った矢先、けたたましく電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし……あらまぁ、ご丁寧にどうもすみません!え、メグですか?いますよ、ちょっと代わりますね〜」
「誰?」
「シロナさんよ」
「え」
メグは受話器を取り落としそうになりながら、慌てて電話に出た。
「もしもし……」
『あ、メグちゃん?おはよう。昨日はおつかれさま。よく眠れたかしら?』
「はい、おかげさまで、起きたらこの時間でした…」
『ふふっ、メグちゃんの方がタフみたいね。私の時は、次の日起きたらお昼過ぎてたもの』
そっか、シロナさんもチャンピオンになる前は普通のトレーナーだったんだ、と、当たり前のことなのに思ってしまった。
『メグちゃん、昨日、私が言ったこと覚えてる?ランチに行こうって話』
『あ、はい』
『明日とかどうかしら?』
『え…明日ですか?』
『そう。急で申し訳ないんだけど…あなたに話したいことがあるの。あ、難しかったら無理しなくていいわ』
どうしよう。
急すぎて思考が追いついていないが、よく考えれば明日は特に予定はなく、ひたすら暇である。
せっかくの機会だし、彼女にいろいろ聞いてみたいことがある。師匠のことも含めて。
『…大丈夫です!明日はどうせ暇なので…』
『ふふ、ありがとう!なら…明日の12時半にミオシティの図書館前でもいい?』
『…はい。あの図書館の前ですね』
『ええ。じゃあ、また明日。楽しみにしてるわ』
電話を切ったあとは、気分が高揚して胸がいっぱいになってしまい、朝食の残りをなんとかお腹に収めた。
母に話すと、明日は気合入れて行きなさいよ、と、まるで異性とデートに行くかのようなアドバイスをくれた。
明日は早く起きてめいっぱいオシャレして、シロナさんに手土産のプレゼントを買って、余裕を持って現地に行こう。
ただ、あとから思えばこの時から始まっていたのかもしれない。
……そう、これはきっと、“全ての始まり”だった。
ジョーイさんといえば、ポケモンセンターに常駐している
そうなりたいと思うのには、何か大きなきっかけがあったはずなのに、いつの間にか失念してしまった(大したことじゃなかった?)。とにかく、トレーナーになってからポケモンセンターでジョーイさんを見るたびに、胸の疼きを感じていたのは確か。
もしトレーナーを辞めることになったら、傷ついたポケモンを助ける仕事に就きたい。
そう思うことがあった。
もちろん、就職を考えるなら、ポケモンセンターに限らず、専門の医療機関でも構わない。
しかし、どちらにしろ、そうなるためには並大抵の努力では足りない。ポケモンへの医療行為を行うには、解剖学、生化学、病理学など、トレーナーとはまた違う専門知識が必要となる。それも莫大に。
ジョーイさんたち一族に比べれば、今からトレーナーを辞めて勉強を始めても遅いくらいかもしれない。いや、もう完全に出遅れている。
そう思いながら、いつのまにか2つの地方でトレーナーの頂点に立ってしまった。これは、自分の力というより仲間たちのおかげだ。いざポケモントレーナーを辞めるとなったとき、その仲間たちになんて伝えればいいのかわからない。これまでのように旅をしたり、バトルすることもできなくなる。
だから、今の時点で、メグはポケモンドクターという夢を半ば諦めてしまっていた。
パチッ
沈黙をかき消すように、テレビがつけられた。
「え」
「ごめんごめん。昨日の今日でこんな話。めでたい日なのにねぇ。余計なこと言ったわ」
「いや、でも…」
「いいのいいの。ゆっくり決めればいいんだから。それより、ほら見て!なんかニュースやってる」
「………うん」
メグは母に促され、少し申し訳なく思いながら、テレビに目を向けた。
『次のニュースです。昨夜午後11時ごろ、203番道路付近で30代の男性が何者かに襲われました。男性はポケモンにより撃退しようとした所、モンスターボールが開かず、対処できなかったということです。男性は軽傷であり……』
「物騒ねぇ……。でもボールが開かないことなんてある?」
「うーん…焦っててうまく使えなかった、とか?」
『男性は、"いつも通り開閉ボタンを押したり、投げてもみたが出てこなかった"と話し、故障の可能性が示唆されましたが、後日行われた点検では異常が見られず、中のポケモンにも問題はないとのことです。今回使用されたボールの開発元はデボンコーポレーションであり、今後の捜査の結果によっては製品の見直しが指摘され……』
馴染み深い社名を聞き、2人とも、朝食を食べる手が止まる。
「え……ムクゲさん、大丈夫かしら……」
「……」
デボンコーポレーションとは、ホウエン地方きっての大手企業である。日用品や工業製品を始め、特に、トレーナー必需品のシェアの多くはこの会社が占めている、と言っても過言ではない。
そのトップの座に立つのが、ツワブキムクゲ社長、例の、クセの強い御曹司の父親である。
息子と同様、大の石好きで、希少な石の数々が社長室に飾ってあったのは覚えている。
彼は心優しい人で、ホウエンにいた頃はなにかと世話を焼いてくれた。この事件で社長や会社にどんな影響があるかを考えただけで、メグはひどく気が重くなった。それは、母も同じらしかった。
「……ムクゲさんね、私が若い頃にしてた薬品研究のことで、とても力になってくれたの。会社の研究室の人たちと一緒に薬の開発もしたし…本当によくしてもらって。ほら、メグも昔から可愛がってもらったでしょ」
「うん……」
「なにか、力になれたらいいんだけど……」
母はホウエン地方随一の温泉観光地であるフエンタウンの出身で、そこの漢方薬屋に生まれた。そのため、母は幼い頃から叩き込まれた薬学や薬草学の知識を活かし、かつては優秀な薬剤師兼研究員として、いくつも成果を上げたという。
今は主婦として家事をこなしてくれているが、いつのまにか、この地方のお店や研究所から引っ張りだことなり、商品開発や研究に携わっている。それで、家ではよく内職をしていたり、きのみを栽培している農園を訪ね回ることもある。そういった活動が実を結んでいるのか、それとも何かの貢物なのかは不明だが、大量に届いたギフトを楽しそうに物色している姿をよく見る。
そんな母は昔から、私の身体に良かれと思い、すり潰した薬草を離乳食に混ぜたり、怪しい粉を料理に入れたりと、ふんだんな努力をしてくれていた(あまりの苦さに、私は母に全く懐かなくなった時期があるらしい)。トレーナーズスクール時代は、毎日母が持たせてくれていた水筒に薬草茶が入っていた。試飲したクラスメイトにはどん引かれてしまったが、風邪ひとつ引かなかったので、効果は本物だと思う。
そんな母は、例の薬草茶が入ったマグを片手に、ぼんやりとテレビを眺めている。
メグも、社長のためになにか力にはなりたい、とは思うものの、なにも思い浮かばなかった。
(あれ、そういえば、師匠はこのことを知ってる……?)
そう思った矢先、けたたましく電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし……あらまぁ、ご丁寧にどうもすみません!え、メグですか?いますよ、ちょっと代わりますね〜」
「誰?」
「シロナさんよ」
「え」
メグは受話器を取り落としそうになりながら、慌てて電話に出た。
「もしもし……」
『あ、メグちゃん?おはよう。昨日はおつかれさま。よく眠れたかしら?』
「はい、おかげさまで、起きたらこの時間でした…」
『ふふっ、メグちゃんの方がタフみたいね。私の時は、次の日起きたらお昼過ぎてたもの』
そっか、シロナさんもチャンピオンになる前は普通のトレーナーだったんだ、と、当たり前のことなのに思ってしまった。
『メグちゃん、昨日、私が言ったこと覚えてる?ランチに行こうって話』
『あ、はい』
『明日とかどうかしら?』
『え…明日ですか?』
『そう。急で申し訳ないんだけど…あなたに話したいことがあるの。あ、難しかったら無理しなくていいわ』
どうしよう。
急すぎて思考が追いついていないが、よく考えれば明日は特に予定はなく、ひたすら暇である。
せっかくの機会だし、彼女にいろいろ聞いてみたいことがある。師匠のことも含めて。
『…大丈夫です!明日はどうせ暇なので…』
『ふふ、ありがとう!なら…明日の12時半にミオシティの図書館前でもいい?』
『…はい。あの図書館の前ですね』
『ええ。じゃあ、また明日。楽しみにしてるわ』
電話を切ったあとは、気分が高揚して胸がいっぱいになってしまい、朝食の残りをなんとかお腹に収めた。
母に話すと、明日は気合入れて行きなさいよ、と、まるで異性とデートに行くかのようなアドバイスをくれた。
明日は早く起きてめいっぱいオシャレして、シロナさんに手土産のプレゼントを買って、余裕を持って現地に行こう。
ただ、あとから思えばこの時から始まっていたのかもしれない。
……そう、これはきっと、“全ての始まり”だった。