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1.メランコリー
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目が覚めた。少し気だるい。
ああ、そうか、昨日のせいだ。
いや、正確にいえば、「当分前にこの家を出てから昨日この家に帰ってくるまで」の疲労が一気に来たのかもしれない。
ふと、顔を横に向けると6つのボールが無造作に置かれている。
目を凝らしてボールの中を透かし見ると、皆疲れているのか、まだ眠っているようだ。
約1名(1体)、"最も古株の仲間"がたぬき寝入りをしているが、それはいつものことなので放っておく。
下の階から、母の楽しそうな声が聞こえてくる。
誰かと電話しているみたいだが、母の交友関係は広すぎて相手の想像がつかない。
少し気になったので、重い体を起こしてベッドから這い出る。
電話のやりとりが終わったのを確認し、階段を降りた。
「お母さん、おはよ……」
「おはようメグ。やっと起きたのね」
「今の電話誰だったの?」
「ダイゴくんよ。あ、ごめんごめん、話が盛り上がっちゃって、そういえばメグあての電話だったの忘れてたわ」
「……」
「とりあえず、早めにかけ直しときなさいね」
「……師匠、なんて言ってた?」
「"おめでとう"って。あんたのことべた褒めしてたわよ」
あの人からそんなに褒められるのはなんとなく気恥ずかしいが、久々に近況を話したい気持ちもある。
身支度を適当に済ませ、電話を手に取った。
『やぁ、メグちゃん。久しぶりだね』
「師匠、お久しぶりです。すみません、さっきまで寝てて……」
『だと思ったよ。相変わらず、君のお母さんの勢いが凄くて、君のことを尋ねる暇もなかったんだけどね』
電話越しに、抑え気味な失笑が聞こえてくる。
彼の名はツワブキダイゴ。
とある大会社の御曹司であり、ホウエンの元チャンピオンであり、度を越えた石マニアであり、そして、私の師匠でもある。
しかも、うちの両親とこの人は、例えるなら先輩と後輩の様な昔ながらの関係があり、こちらに引っ越してくる前、ホウエンにいた頃は何かと世話を焼いてくれた。
『ごめんごめん。気を取り直して……メグちゃん、殿堂入りおめでとう』
「……ありがとうございます」
『君の才能には感銘を受けたよ。君がホウエンのチャンピオンになったのが、まるで昨日の事のように思える』
「そんな……師匠のご指導の賜物です」
『はは、そう言ってもらえると、師匠としては嬉しい限りだよ。…とにかく、君は形上とはいえ、シンオウの頂点にも立ったわけだ。しかも、女性のトレーナーとしては"2人目"……1人目は現チャンピオンだ。……つまり』
「つまり?」
『……君は今後、現チャンピオンとの接触を余儀なくされるだろうね』
現チャンピオン、と聞き、昨日のことが鮮明に蘇る。
金色の長髪をなびかせ、黒のコートを羽織った眉目秀麗な女性。
彼女とは、互いの手持ちを駆使した壮絶なバトルを繰り広げ、最終的には互いに最後の1体となる所までに至った。
彼女はその後、激闘の末に疲弊した仲間や私を丁寧に労ってくれた。
そして、諸々の記録や手続きを済ませた後、さぁ帰ろうという時に、思いもよらないことがあった。
『待ってメグちゃん。これはね、チャンピオンとしてじゃなくて、すごく個人的なお願いなんだけど……』
『?』
『今度、一緒にランチしない?』
『え……わ、私とですか?』
突然の誘いに、メグはうろたえた。
『ええ。あなたとのバトルは本当に楽しかったわ。久々にあんなに興奮したし、初心にも帰ることができた。このまま終わってしまうのはもったいないくらい』
『そんな、まだまだ私なんて……』
『ふふ、謙虚なのね。でも、あなたが成したことは、今後のあなたに大きく関わってくると思うの。そういうことも含めて、ゆっくりお話ししたいんだけど……どうかしら』
『はい、こちらこそ、よろしくお願いします…!』
『ありがとう!また連絡するわね』
そう言って、彼女は微笑み、またチャンピオンの業務に戻っていった。
「……といった感じでした」
『なるほど。バトルの内容も気になるけど、それはまた今度聞かせてもらうとして。彼女のこと、どう思った?』
「すごく強くてクールな人だと思ってたら、とても優しくて、素敵な人でした。そんな人といきなりランチだなんて……」
『まぁ、彼女が君みたいなタイプを気に入るのは想像がつくけどね』
「え、それはどういう……」
『要はね、彼女も、昔は君のような人だったってこと。…ま、今もそうか』
「……?」
『いずれわかるさ。とりあえず、近々そちらには行かせてもらうよ。じゃ、シロナによろしく』
ツーッ、ツーッ。
最後の発言からも、彼はシロナさんを知っていたらしい。
だったら、リーグ戦前にもう少し情報をくれてもよかったのに、あえて知らぬふりをしていたのがあの人らしい。
地方は違えど、元チャンピオン・現チャンピオンという強豪同士。
それだけではなさげな2人の関係性がとても気になる。
とにかく、近いうちにシンオウに来るというのだから、その時に問い詰めればいい。
「どうだった?久々のお師匠様との会話は」
食卓に朝食を並べながら、母が尋ねてきた。
メグが起きるまで待ってくれていたらしく、2人分の食パンがお皿に焼きあがっている。
昨日の夕食も、お祝い用の豪華な食事を用意してくれたが、温かくて手の込んだお家のごはんは本当に久しぶりで、こみ上げるものがあった。
「んー、ちょっと懐かしかったかな。あ、そういえば」
「なに?」
「師匠って今、誰かと付き合ってる?それか、過去に恋人とか……」
「え、ダイゴくんが?聞いたことないけど……。昔から石が恋人みたいな人だったし?」
「………………たしかに」
そこに異論はない。
師匠はまあまあイケメンで、金持ちで強くて聡明なすごい人だ。が、それ以上に癖もすごい。
「あ、そうそう!あのね、メグ。昨日はさすがに疲れてただろうから聞かなかったんだけど……」
「なに?」
「あんた、これからどうするの?」
「……え」
「チャンピオンに勝つっていう目標は達成したでしょ。……で、トレーナーは続けるの?それとも……」
やっぱり、聞かれた。
このせいで、朝から気が重かったのだと思う。
そう。
これは、今から新たな仲間と冒険を始める、なんてキラキラとした主人公の物語ではなく。
エンディング後に新たに追加されたミッションやエリアの探索。
取りこぼした道具の散策。
異常に強化されたトレーナーとの再戦。
主人公が、こういったプログラムを見つけ出し、暇を持て余さないように過ごす。
そんな物語。
……の予定だった。が、しかし。
現実はそう甘くはなく。
『このご時世、トレーナー1本じゃ食べていけない』
なんて時代だったりして。
もう一つの道。もう一つの夢。
それも考えなければならない。
そうだった。
わたしはーー
「ジョーイさん。なりたいんでしょ?」