酒飲みたちの憂鬱 初出:2018年2月22日
「……最悪だ」
独り言ち、中也は下着姿のままベッドに腰をかけて煙草に火をつけた。
恐ろしく頭が痛い。胸がむかむかする。
深く吸い込み、ふぅと天井に向けて煙を吐いた。
味がしねぇ。
絶望とともにゆらゆらと散って消えていく煙を見送る。
羨ましい。できることならこんなふうに消えてしまいたい。今すぐに。
「……わたしにもちょうだい」
背後から掠れた声がする。
起きてしまった。
今、中也を最も悩ませている頭痛の種。なにもこの頭の痛みは二日酔いだけが理由じゃないのだ。
「ヤだね、もったいねぇ」
ちらりと視線を向けると、太宰が唸って寝返りを打つところだった。
普段は服と包帯に隠されている素肌がすっかり晒されている。本当に怪我をしているところにだけガーゼや絆創膏が当てられていた。
古傷の走る白い肌の上にはぽつぽつと赤い印が散っている。それだけでここでなにがあったか理解するには充分だった。
「ふっざけんなよ手前……。なんでしこたま飲んだ次の日、高確率でこうなってんだよ……」
「私だって知らないよ……。いいじゃない、君は楽しんですっきりしたでしょ」
その言葉にぎくりとして中也は体ごと振り返る。
「手前、覚えてんのか」
「覚えてないけど」
まだ眠いのか、薄い表情で答える太宰に心底ほっとした。
そう。覚えていないのだ。
お互い裸で、ベッドの上には封の開いた避妊具の袋がいくつも(いくつもだ)放置されている。
これだけ状況証拠が揃っているというのに、いつも二人ともまるで記憶がない。恐ろしかったし、安堵でもあった。
世界一嫌っていると豪語してはばからない男との情事の内容など、できれば知りたくない。
中原中也は酒が好きだ。
ワイン派で、大勢で呑むのも一人で呑むのもいい。
たいていは気をつけているのだが、それでもときには記憶が飛んでしまうほど酒をすぎてしまうことがあった。
お決まりの二日酔いとともに目が覚めると、そこは自分の部屋だったり、そうでなかったりする。
一人だったり、知らない女と一緒だったりとさまざまだが、どういうわけか五割くらいの確率で隣に寝ているのが相棒であるところの太宰治なのだ。
本当に理解できない。
「マジで最悪だ……」
呻いて煙草を吹かす。
こういう朝はいつも昨日の自分を百回殴ってやりたくなる。
「なにそれ。私の方が最悪でしょう? 決まって腰は痛いし気持ち悪いし……ぁ、垂れてきた」
「っ、さっさと風呂行け! 莫迦野郎!!」
完全に意識が覚醒してきたらしく、身じろいだ太宰がピーチク文句を吐き出し始める。
その台詞になんだかぞわっとして中也はベッドに拳を叩きつけた。
「……はぁ。本当に乱暴なんだからさ」
ぶつぶつと零した太宰が身を起こす。
ベッドから降りるついでに、中也の唇から煙草を奪っていった。
「あ、てめ……」
面倒くさがったのか、煙草を銜えた太宰が床からシャツだけを拾い上げて羽織る。
惜しげもなく晒される細く、白い足。
シャツの裾に絶妙に隠された奥、肌を伝う雫が見えたような気がして、中也は文句も言い忘れて見入ってしまった。
その視線に気づいた太宰がシャツの裾を指先でちょっと引き下げる。
「……ちゅうやのえっち」
言い捨てて部屋から出て行った。
「……………………はぁぁぁあああ!?」
衝撃がずいぶん遅れてやってきて、中也は背後のベッドに倒れ込む。頭を抱えて悶え苦しんだ。
そのなんだか甘ったるい声音が、投げてよこされた流し目がエロい、だなんて。
そんなの。
「……死ねよ、俺ぇ……」
一瞬でも思ってしまった自分は、百回殺しても足りなかった。
了
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一番初めに書き上げた(通し番号は女体化の方が若いのですが)中太、もうすでに好きと嫌いのマーブル仕様で私の嗜好がとても出ていますね……。二人には永遠にいがみ合っていてほしいし、それでも互いが唯一の特別であってほしい。中太は自信を持って運命です。
これアップ時から動機についてのアンケートが置いてあるのですが、当初は「中也の無意識」が多かったのに三年経った今は「どっちでも」が優勢で面白いな~と眺めています。
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