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貴方と私の変わらぬ関係 初出:2018年9月27日


 視界の隅でちかりと光が反射する。
「先生、伏せてください!」
 咄嗟に車に近づこうとしていた腕を引いた。胸に抱え込み、もろとも蹲る。
 キン、と金属が車のフレームに当たって跳ねる音。
 白昼堂々狙撃とは、ずいぶん大胆なやつだ。
 俺は素早く方向を確認すると、耳に装着したインカムを弾く。
「北西のビルだ。逃がすな!」
「うわぁぁあああ……っ!!」
 そこに男が一人、めちゃくちゃに声を上げながら飛び込んできた。
 狙撃の動揺が走っていた包囲網を抜けてくる。
 手にナイフが握られているのを見とめて、俺は素早く体を起こすと目の前に立ちはだかった。
 凶器を持つ手を捻り上げるようにして投げ飛ばし、地面に押さえつける。これで終わりかと思ったが、さらに走りこんでくる影があった。
「太宰! 死ねぇ!!」
 どうやらこの男も囮だ。
 新手の手にもやはりナイフがあった。
 周囲を素早く見回したが、部下たちは誰一人として事態についてきていない。
「ち……っ」
 俺は舌打ちをして胸のホルスターから銃を抜く。次の瞬間、足を打ち抜かれた男はもんどりうって倒れた。
「確保!」
「は、はい!」
 ようやく動き出した部下たちが男を取り押さえにかかった。
 狙撃で注意を引きつけ、一人目の特攻でさらにSPの目を向けさせ、二人目で仕留める。
 手の込んだ襲撃だったが、もう次手はなさそうだ。
「お怪我はありませんか、先生」
「うん。ご苦労様」
 俺は安堵の息をついて、警護対象を見やる。
 軽くスーツを払って立ち上がった彼は、足元に這いつくばらされている男を冷たい表情で見下ろした。
 どことなく満足そうに薄暗い笑みを浮かべるのに、俺はきつく奥歯を噛みしめる。

 太宰治。
 天才政治家との呼び声高い青年だ。
 見目麗しく女性に人気があるが、同じ理由で男にあまり好かれない。
 頭の回転が速く、素晴らしい政治手腕を持つが、手段を択ばないというのがもっぱらの評判だった。
 そのため敵も非常に多く、今朝のように命を狙われることもままある。
 彼が本当に黒なのか、俺には分からない。
 法と違法の細い隙間を、いつも綱渡りしているような印象だった。
 本人曰く、わざわざ悪いことをしなくても、人間は勝手に堕ちていくものらしいが。

「国木田。朝のあれはどうなった?」
「狙撃犯も確保しました。計画は綿密でしたが、有象無象の集まりだったようです。警察で順調に吐いていると連絡が……」
「そう」
 自宅マンションのエントランスに入った途端、太宰が口を開いた。
 俺は質問に答えながらも、ため息をつく。
「先生、また泳がせていましたね。自身を餌にするのはやめてくださいといつも……」
「ああいう輩は実行の瞬間に潰すのが効率的だよ。それに祭りは準備が一番楽しいと言うし。計画段階で潰してしまってはかわいそうだ」
 微塵も思っていなそうな顔で肩を竦めるのに、俺は眉間の皺を深くした。
「……本音は」
「尻尾を押さえるために東奔西走なんて、面倒くさいじゃあないか」
「それであなたが万が一死ぬなんてことがあったら……」
「お前はし果せるだろう?」
 事実を事実とただ告げる声に感情はない。
 別に死んだっていいとありありと告げている表情に、苛立ちが募った。
 この男はいつも試している。
 相手が、俺がどこまでやれるか。自分がいつまで生きられるか。
 それを突きつけられるたび、俺は固く決意するのだ。

 ──絶対に死なせてやるものか。

「はい、到着だ。今日もご苦労様」
 エレベーターを降り、太宰は自室の玄関扉を開ける。
 俺は彼が部屋に入るのを見送り、閉じていこうとする扉に向かって頭を下げた。
「お疲れさまでした。失礼します」
 俺の仕事は太宰が自宅を出、また自宅に戻るまで警護すること。
 今日の仕事はこれで終了だ。
 俺は心の中で区切りをつけると、素早く体を起こして閉まりかけた扉を掴む。
 わずかな隙間の向こうで太宰が目を細めたのが見えた。
「……どうぞ、入って。国木田君」
 招きに従って扉を開く。
 室内に足を踏み入れ、施錠するかしないかのうちに感情が爆発していた。
「太宰お前、毎回毎回いい加減にしろよ!?」
「開口一番文句かい? はいはい、今日も私は君のおかげで五体満足だよぉ」
「当たり前だ! でなければなんのために専属SPをやっているか分からんだろうが!」
 怒鳴りつけると、太宰はうるさそうに顔を顰める。
 この野郎、反省していないな。
 廊下を進む背中を追って俺は靴を脱ぐ。
 リビングに入ると、太宰はスーツのジャケットをソファに放ってため息をついたところだった。
「なら君、あのときあんな約束しなければよかったんじゃない? おかげで好きな職業も選べないでさ」
「……そういうことを言っているのではない」
 少し沈んだ声。
 上着を脱いだせいでますます細く見える体を、俺は背中から抱きしめる。一部始終を知っているとはいえ、その温かさを実感してようやく安心することができた。

 おまえ、いつもいたそうだからぼくがケガしないようにずっとまもってやるぞ!

 幼い日、包帯姿の幼馴染に向けて言い放った言葉は今でも覚えている。太宰もだろう。
 確かに結果的に教師の道を諦めることにはなったが、それは大切な相手を守るのを誰かに任せたくないと思ったからだ。
「これは俺が決めた道だ。別に義務感だけでやっているわけではない」
「……うん」
 頬に触れ、仰のかせると太宰は素直に唇を受け入れる。
 抱き上げてソファに移動した。
 太宰はおとなしく膝の上に腰を落ち着け、首筋に抱きついてくる。
「いつも言っているだろう。もっと自分を大切にしろ」
「うーん……」
 太宰は俺に体重を預けながらも気のない返事だ。
 はぐらかしているのではない。本当に分からないのだ。
 だからこそ俺は、太宰が自分を大事にできない分も大事にしてやろうといつも考えている。
「太宰」
「……ん、いいよ」
 指先で背中を辿ると、太宰は吐息を震わせた。
 それを奪うように深く口づけをして、手探りでベストのボタンを外していく。
「っふ、う……ぁ」
 ネクタイを緩め、シャツも乱して包帯まみれの体をなぞった。
 太宰はひくりと肩を跳ねさせる。
「ぁ、う、それや……っ」
 体温を確かめるように何度も往復させていると、太宰がむずがるように身を捩った。
 頬に朱を上らせながらも眉を寄せるので気づく。
 そういえば脱いでいるのは太宰だけで、俺は手袋も外していなかった。
「だったら、お前が外してくれ」
 俺は一応怒っているのだ。
 素直に従う気分にはなれなくて、俺は革手袋に包まれた手を這い上らせる。
 黒い親指でゆるゆると濡れた唇をなぞると、太宰は恨めしげな目を向けてきた。
「……もう。私にこんなことさせるの、君くらいだよ」
 やがてかしりと指先に柔く歯が立てられる。
 細い手が、俺の手をなぞるようにして手袋に潜りこんできた。
「あぁ……そうあってほしい」
 ゆっくりゆっくりはがされていくのに、俺は熱の籠った息を吐く。
 太宰が蕩けはじめた瞳を楽しそうに細めた。露わになった掌に唇が触れる。
「……ほら、そっちもちょうだい?」
 ようやく奪われた手袋が床に落とされる。
 甘くねだられて、俺は残った手も差し出したのだった。



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マヨちゃんに国木田君の正装が実装されて狂って書いたもの。黒スーツ黒手袋がSPにしか見えませんでした。政治もSPについてもさっぱりなので薄目で見ていただきたい……。
園ストの延長線の世界線です。主従+幼馴染のダブルコンボおいしいね。
そしてその後、舞台にて正装ブロマイドが出るとはまだこのときは知る由もなかったのであった……正装ありがとう……。
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