たとえば貴方の血肉となって 初出:2018年7月2日
ふ、と目を開けると、暗がりに天蓋が見えた。大きな寝台の半ばまでを覆っている。
傍らには長身を縮こまらせ、蹲る影。
「……くにきだくん」
名前を呼び、少し動かした手を彼の足に触れさせると、がばりと顔を上げた。
「だ、太宰っ。大丈夫か!?」
「……ん。少し怠いけど」
覆い被さるようにして顔を覗き込まれる。
闇夜に瞳が金に光っていた。
不安そうな顔だ。
「もしかして泣いてたかい?」
「……泣くものか。お前に唆されたとはいえ、俺がしたことだ」
「ふふ。そう」
私が笑うと、国木田君は怒ったように眉根を寄せる。
が、その瞳がみるみるうちに涙に沈むので驚いた。
「おや、ここで泣くの」
「うるさいっ! 俺はもうせんぞ! お前は三日も眠っていたのだからな……!」
ぎゅう、と強く抱きしめられる。
「本当に……殺してしまったのかと思った……」
「……うん」
気が気ではなかった、と零す声が震えていた。
肩が濡れるのを感じながら、私は力の入らない手でその背中を撫でる。
まだ血の足りない指先は冷えたままで、彼の体はひどく熱く感じた。
血を吸い尽くしてみないかい、と持ちかけた。
昔、首をかき切ったことはあったけれど、すぐに再生して人の一般的な致死量の血液すら流すことができなかった。ならば人為的にすべての血をなくしてしまえばどうだろう。
彼は吸血鬼。私は死にたがりの死神。おあつらえ向きだった。
きっと機器を用意することもできたけれど垂れ流してしまうのはもったいないような気がして。
彼にもらってもらえるならきっと幸せだろうと考えた。
初めは渋っていた国木田君だったけれど、基本的に素直で単純だから唆すのは簡単だ。
大丈夫。たぶん、きっと死んだりしないよ。なにしろ私は死神だからね。
君もたまには辛抱せずに、思いっきり血を吸ってみたいだろう?
うんぬんかんぬん。
そうしてめでたく私は彼の牙にかかり、気持ちよく意識を闇に落とすことに成功した。
──のが三日前らしい。
あぁ、やっぱりまた死ねなかったな。
小さく息をつく。
私に縋って泣いている国木田君には可哀そうなことをしたと思う気持ちもあるが、がっかりするのも止められない。
結局、私は謝ることもできないまま、彼の背を抱き返すしかできないのだ。
あぁ、なんてひどい化け物なのだろう。
了
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本当に死ねないから太宰さんの自殺遊戯はもっとガチなんだろうなー。つき合わされる国木田君は大変だなーと思った結果です。
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