それは儀式にも似て 初出:2018年10月5日
「……ふぁ」
欠伸を噛み殺しつつ、洗顔を済ませてリビングに入ると珈琲の香りがした。
朝食を作ってくれたのだろう。
いつもいらないと言っているのに、彼が泊まった日は毎回律儀に準備がされる。
「起きたか。時間がないぞ。早く着替えてこい」
「んー」
こちらに気づいた国木田君が言うのに手をひらひらさせて答えた。
自分もまだパジャマでフライパンを握っているくせに、口うるさいったらない。
寝室に戻り、ほとんど引っかけていただけのパジャマを脱ぎ落とした。
のろのろとボトムを履き、シャツに腕を通す。
寝不足というわけでもないのになんとなく頭がはっきりしない。体が怠くて重い。
「太宰。太宰ちょっと待て」
ぼんやりしながら前を閉じていると、いつの間にかやってきていた国木田君に呼ばれた。
襟首を引かれて向き合わされ、せっかくとめたボタンを外されていく。
裸の胸を押した。
「や、もうしないよ……」
「するか! しゃんとしろ! これは俺のシャツだ!」
「……あ、ホントだ」
目を瞬かせて手を上げてみる。
袖がちょっと余っていた。
「まったく……じっとしていろ」
「はーい」
脱がされ、代わりにサイズの合ったシャツを着せかけられる。
ボタンをとめ、ネクタイを締められ、ベストも着せられて形を整えられた。
「……よし、先に食っていろ」
「りょーかーい」
最後にジャケットを渡されて寝室から追い出される。
私の席には珈琲とトーストが用意されていた。国木田君の席にはプラスでハムエッグ。
ジャケットを椅子にかけ、食卓に着く。
「……いただきます」
程よい温度の珈琲を啜ってトーストを齧った。
のんびり食べ進めていると、国木田君も身支度を整えてやってくる。こちらはもうジャケットを羽織っていた。
「いただきます」
私の正面の席に座ると、朝食を慌ただしくかき込みはじめる。
ちらりとその目が私を見た。
「おい、早く食え。遅れるぞ」
つい手を止めてしまっていたらしい。
眉間に皺を寄せての文句だったが、ついでに箸で一口分に切り分けられたハムエッグが口元に差し出されて笑ってしまった。
「そう言うなら寄越さないでよぉ」
ぱくりと食いつく。おいしい。
「朝、量が入らんと言うから大目に見てやっているだけだ。タンパク質も少しは取れ」
「はいはい」
続く小言は聞き流して、私は残り三分の一ほどだったトーストを珈琲で流し込む。
ほぼ同じタイミングで食べ終わった国木田君が食器を手に立ち上がった。
流しで軽く流してから、食洗機にセットする。
洗剤を放り込み、スイッチを入れるのを見ながら私はジャケットに腕を通した。
「ほら、行くぞ」
「あ、ちょっと待って」
国木田君がポケットから革手袋を取り出す。
私は距離を詰め、履こうとする手を上から押さえた。
「あ……?」
「ん」
伸び上がり、ちゅっと軽く唇を合わせる。
ぽかんとする彼に、私は「いってきます」と「いってらっしゃい」のキスだよと言って笑った。
「こういうことはソレつける前にしたいからね」
「……意見が合うな。俺も部屋の中でしたい」
国木田君が目尻を緩める。
裸の指が首筋に潜りこんできて、そっと仰のかされた。
了
-------------------------------------------------------
わーい事後だ!
朝、同伴出勤してたらいいよね、彼シャツ萌えるよね! というしょうもない欲望でした。
1/1ページ
