その笑顔を間近で見ていたかっただけなんて言わないけれど 初出:2018年10月5日
一瞬のできごとだった。
パーティ会場の窓ガラスが、けたたましい音を立てて一斉に割れる。
踏み込んできた覆面の男たちが構える銃器に、壁際で待機していた俺たちは即座に反応した。
ホルスターから銃を抜き、めいめい自分が守るべき要人のもとへ。
「太宰先生!」
襲撃の規模が大きかったのか、これ自体が不測の事態なのか、今回はさすがに驚いた顔をしている。
銃器が斉射された。
悲鳴が上がる。
──間に合わない。
咄嗟に判断した俺は、太宰の前に身を踊らせた。
「っぐ、ぅ」
「国木田く……っ」
銃弾を胸に受け、息がつまる。跳ねた右腕が熱くなる。
取りこぼしそうになった拳銃を左手で掴み、狙いもつけずに数発撃った。
反撃を受けた敵が一瞬怯む。
その間隙を縫って、俺は手近なテーブルを蹴倒した。
「伏せてください!」
腕を取り、テーブルの影に太宰を引き込む。
間一髪、そのタイミングで再び銃声が轟いた。銃弾が分厚い天板に当たってバチバチ音を立てる。
「……お怪我はありませんか?」
「平気……。それより君、血が……」
息をつき、太宰の様子を確認する。
太宰は俺の右腕から流れる血に珍しく動揺しているようだった。
いつも外では身につけている「代議士先生の顔」がはがれている。
もっとも、現状では必要ないだろうが。
「大丈夫です。弾は貫通しています」
緊急事態ゆえかあまり痛みは感じない。
俺はハンカチを取り出すと、左手と口でもって傷口をきつく縛って止血をする。
まだ左腕は無事だし、無茶さえしなければなんとか動かせそうだった。
それよりまともに銃弾をくらった胸や腹の方が痛むが、こちらは防弾ベストが効力を発揮してくれたらしい。スーツが駄目になっただけで、外傷は見あたらなかった。
だいたいあの銃弾の雨に身を投じてこのくらいで済んだのだから、むしろ運がいいと言える。
「太宰先生」
俺は拳銃の弾倉を交換する。
眉を寄せたままの表情をひたりと見据えた。
「逃げてください。俺が退路を開きます。うちの連中が外で待機しているのでそこまで……」
「嫌だ」
「……は?」
きっぱりと拒絶されて、ついぽかんとしてしまう。
太宰は俺を睨みつけるようにした。
「君も一緒に来るんだ。私は君でなきゃ守られる努力をしないよ」
「……この自殺愛好家め……」
思わず喉の奥から唸るような声が出る。
おそらく彼の言葉どおりだ。
俺がどんなに苦労して脱出させたとしても、太宰は一人になった途端に敵の銃弾に自ら身を晒すような真似をするのだろう。
太宰の嗜癖は痛いほど分かっていた。
「…………分かった。だったら知恵を貸せ」
深々と息をつく。
もうこうなったら構うものかと取り繕った態度を捨てると、太宰は満足そうににこりと笑った。
「そうこなくっちゃ。まずは二人で脱出だね」
きょろきょろと周囲を確認しだす。
悔しいが、こういうことは昔から太宰の方が得意なのだ。
俺は体術や射撃の腕には自信があったが、頭の方は太宰に勝てたためしがない。
「なんだかこういうの懐かしいね。福沢先生から逃げてたときのこと思い出さない?」
「……こんなハードな状況になったことはないがな」
どこかうきうきしているようにも見える太宰に俺は顔を顰める。
まったく緊張感がないが、逆にそれが頼もしく見えてしまうのだから不思議だった。
幼いころ、毎日幼稚園で太宰が仕かける悪戯に巻き込まれ続けていたのを思い出す。
担任の先生は厳しい人で、どうにか捕まるまいと何故か俺まで逃げ回らされていたものだ。
思えばあのころから俺たちはなにも変わっていないのかもしれない。
「……ねぇ国木田君、死んじゃ駄目だよ」
ふと声を落とした太宰が、静かな表情でこちらを見る。
鼻で笑ってやった。
「お前もな。死なせんぞ」
「ふふ、まぁ今日のところは素直に生きてあげようじゃあないか」
太宰は大仰に肩を竦める。
それが妙におかしくて、二人で笑い合った。
「……さぁて、行こうか」
「あぁ」
策は決まったらしい。
ならばこんなところに長居は無用だった。
了
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続いて正装太宰さんが実装されてしまい、歯止めが利かなくなりました。
政治家とは? SPとは? むしろここはどこなのか。テンションしかない。
素直にパーティ探偵社でネタが降ってきてくれないあたり、私は本当に天邪鬼だなって……。
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