国太季節のお題、十月上旬お題より「夜長」 初出:2018年10月14日
秋はいい季節だ。
揃って職場を出た。
寮への道行きをいつもどおり進もうとして、私は相手が隣に並んでいないことに気づく。
振り返ってみると、国木田君はまだ建物の前に立ち尽くしていた。
「どうしたの国木田君。帰らないの?」
「……その、少し遠回りをして帰らないか」
思いがけない提案に、ぱちりと目を瞬かせる。
昼間盗み見た手帳には、退社後は真っ直ぐ帰宅とあったはずだ。夕飯は昨日の残りの珈哩。……まぁそれはどうでもいいけど。
「めっずらしい。君、予定は?」
「いつも率先してぶち壊すやつに心配されるとは……。まぁたまには、な。いいだろうが」
意外だ、と隠さず顔と声に出すと、国木田君は少し困ったように視線を泳がせた。
なんだか言葉の歯切れも悪いし、答えになっていない。
しかも結局きちんと説明することなく、国木田君は「いくぞ」と踵を返した。
常にない様子に私は首を傾げるが、興味はあったのでおとなしくその背を追うことにする。
広い通りを離れ、駅をすぎて近くの公園に入った。階段を上って、左右を木々に囲まれた道を行く。
歩調はずいぶんゆっくりだ。
心地よい風が金木犀の香りをどこからか連れてきて、私はその甘い香りを吸い込んで口元を綻ばせる。
「このところ、すっかり日の入りが早くなったねぇ。すごしやすくなったし」
少し前、夏の盛りのころならまだ明るかったこの時間も、今ではすでに夜の様相だ。
すれちがう人影も、よく見なければ「人影」の枠を出ずに通りすぎていく。
「そろそろ鍋の季節かなぁ。まだちょっと早いかな。蟹缶をね……国木田君?」
思いつくまま喋っていたが、そういえば隣の彼から返事がない。
不思議に思って呼びかけたとき、するりと手をすくい取られて驚いた。
「す、少しくらい構わんだろう。この暗さでは見えないだろうしな」
あまりに驚きすぎて咄嗟に反応できずにいると、国木田君は早口で言い訳じみた言葉をまくしたてる。
「……だ、駄目か……?」
緊張してるのか、ぎゅうと力強く握られて少し痛いくらいだ。
離すつもりなどないくせに、そろりとこちらを伺ってくる声音に笑ってしまった。
「うふふ、六十点~」
「ハァ!?」
低い点数に意味も分からず語気を荒げる国木田君にまた笑って、私は手を無理やり指を組む形に握り替えてしまう。
ぎょっとしたように離れそうになるのを、今度はこちらからぎゅっと捕まえた。
「逢引ならこれくらいしてくれないと。ね?」
「そ、そうか」
誰も見ていないんでしょう? と、囁いて、私は了承の意も込めて彼との距離を半歩詰める。
国木田君は動揺を誤魔化すように咳払いをした。
どうやら珍しく「恋人」として外を歩きたかったらしい。
照れ屋で予定魔の国木田君が、それをおして私との時間を作ったのだと思うと悪い気はしなかった。
秋はいい季節だ。
死にそうなほど暑くはないし、日中の日差しは柔らかく、風は心地よい。
くっついたら温かいし、早く暗くなるおかげでこうして二人で外を歩ける。
ただその暗さのせいで、きっと赤くなっているだろう相手の顔が見られないのだけが少し残念だった。
了
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例の通りの近くにある、例のお山のあたりを想定しています。あそこデートにはいいよね……。
お題苦手なんですけど、今読み返すとこれはわりといい気がします……。
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