5、気づく 初出:2018年8月4日
「おい、太宰。寝るなよ」
「んー?」
ほどよくお酒が入って気持ちよかった。
ここは国木田君の部屋で、国木田君がいるから、多少ぼんやりしたっていい。
ころ、と畳に転がった私に、台所で洗いものをしていた国木田君が近寄ってくる。
「寝るな。寝るなら自分の部屋に帰れ」
無視だ。
目を閉じて、ふわふわとした心地よさに身を委ねていると、やがて国木田君が傍らに膝をつく気配がした。
「……寝たのか?」
そっと囁くような声。
なおも無視していると、遠慮がちに触れた手に頭を撫でられた。
……ん?
それを認識するころにはその手はすでに離れ、国木田君も立ち上がっている。
ばさばさと布を捌くような音を背中で聞きながら、内心首を傾げた。
今のはなんだったんだろう。
頭を撫でられたのも初めてだし、国木田君のあんな優しい声は初めて聞いた。
「太宰、少し移動させるぞ」
ふ、とまた気配が近づく。
ころりと体が転がされたと思うと、軽々と抱き上げられた。
どく、と心臓が音を立てる。
え。
自分に驚いて、思わず目を開けてしまいそうになる。
それを誤魔化すように、むずがるふりで国木田君の肩に頭を寄せると、小さく笑ったような吐息が耳にかかった。
どうしたんだろう。心臓の音がずっとうるさい。
頬に感じる温かさ、背と膝裏にある腕の力強さを意識してしまう。
戸惑っているうちに、そうっと布団の上に下ろされた。
丁寧に上がけにくるまれ、また頭を撫でられる。
遠慮がちに何度か触れられたと思うと、さらと前髪がかき上げられた。
額に柔らかいものが触れる。
そこから国木田君の感情が流れ込んでくるような気がして、私は逃げるように寝返りをうった。
ぎゅっと目を瞑ってしまう。
「……おやすみ」
また柔らかく笑うような気配がして国木田君は台所に行ってしまった。
どうしよう、これは困る。本当に困る。
こんなものを知ってしまって、私はどうしたらいいんだろう。
酔いの心地よさはもはやどこにもない。
胸の早鐘は鳴りやむ気配がなく、もはや痛いほどだった。
了
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自分と相手の気持ちに気づいてしまった太宰さん。
国木田君はまだ太宰さんの眠りが浅い(眠れない)のを知りません。
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