2、手を繋ぐ 初出:2018年5月5日
「国木田君、手が大きいねぇ」
同じ布団に寝転んで、すぐ傍らにあった国木田君の右手に触れる。
武芸者だからか、私のものよりもほんの少し大きい手はごつごつとして男らしかった。
カーテンを閉めて灯りを落とした室内は視界が不明瞭だ。私は両手で彼の手の形を追う。
「あ。ここ胼胝になってる」
「当たり前だ。俺の異能は書かんと始まらんし、仕事で手書きの書類を扱うこともある。むしろ同じように書類仕事をしているはずのお前の手が綺麗なことの方が不思議なんだが……」
中指の爪の斜め下あたりにある硬い感触を指先で撫でていると、呆れたような声が返った。
小言に発展しそうな話題は無視して、私は国木田君の手に熱心に触れ続ける。
女性のような柔らかさはないが、しなやかで力強い。爪の先まで几帳面に整えられた彼らしい手。なんだか安心する。
「太宰、眠れないのか?」
「うーん、まぁ」
そういう国木田君の声は少し眠そうだ。
だがそれ以上に、右手を弄ばれていることに居心地が悪そうだった。
「右手が空いていないのは不安かい?」
国木田君の異能力は手帳に書き込んだ文字を具現化する。ペンを持つ右手を握られているのは異能発動の生命線を握られているのに等しい。
けれど国木田君は首を横に振った。
「いや、俺はいざというときのために左手でも一とおりのことができるように訓練している。ただ、まだこういう接触は慣れなくて、な」
「へぇ? そうなの」
単に照れているだけらしい。
だったらいいかと気にしないことにする。
私は好奇心をそそられて国木田君の右手を解放すると、今度は左手へと手を伸ばした。
同じように触れると、なるほどこちらの指にも胼胝がある。
なにごとにも妥協しない国木田君のことだ、きっと左手で書く文字も右手で書いたものと遜色ないのだろう。
左手で黙々と文字の練習をしている姿を想像するとなんだか可愛かった。
「それに」
「ん?」
国木田君の右腕が私の肩口から首の下に潜り込んでくる。
頭を胸元に抱え込まれるようにして抱きしめられた。
握っていた彼の左手が私の右手と指を組むようにしてきて身動きが取れなくなる。
「あれ、ちょっと」
「異能が使えなくとも、お前くらいは守ってやれる……」
ぽんぽんと子供をあやすように背中が叩かれた。
なんだかふわふわした声で宣言した国木田君は、ふわと一つ欠伸をする。
「もう寝ろ。ただでさえ就寝予定時間を、一時間、二十五ふ、ん……」
「え、嘘、寝た? 早いよ」
国木田君は私の頭に顎を埋めるようにして寝息をたてはじめる。
あまりに鮮やかな入眠に呆れてしまった。
「言い逃げはずるいな……。ちゃんと自分も守ってくれないと嫌だよ私」
君がいないと意味がないんだよ、と呟く。
眠っていると分かっているからこそだ。
「おやすみ。国木田君」
私は繋がれたままの手をきゅっと握り返すと、彼の胸に頬を擦り寄せる。
このまま間近で規則正しい鼓動と穏やかな寝息を聞いていれば眠れそうな気がして、私はそっと目を閉じたのだった。
了
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も、もう太宰さんの眠りの浅さについて言及している……!(笑)
サビです。
というかなんだかすごく今の解釈の根幹に関わることもすでに言ってますね……自分も大事にして……。
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