国太ワンドロ・ワンライ、第二十回「桜」 初出:2019年4月7日
出し抜けに呼び鈴が鳴ったのは、就寝もほど近い時刻だった。
続けて扉がノックされる。
『国木田くーん、いーれーてー』
誰何するまでもなく外に立つ男が自供した。
よく知る声に俺はかすかな苛立ちを覚えつつ玄関に立つ。
「……太宰。なんの用だ、こんな時間に」
「うふふ。来ちゃったっ」
扉を開けた先にいた男は満面の笑みで、全身に薄桃色の小さな花弁を纏わりつかせて立っていた。
可愛い子ぶってにこっとわざとらしく笑うのに、さらに苛立ちが増す。
俺はのこのこと玄関先に入ってきた太宰の顔を片手で掴むと、力を入れて仰のかせた。
「なぁにが『来ちゃった』だ! わけを言えわけを!」
「ちょ、いたたた! いーいじゃないかぁ私と君の仲だろうぅぐえぇ苦しい……」
じたばた暴れるのは無視する。露わになった首筋に、俺は顔を顰めた。
顎の下から耳の下にかけて、うっすらと索状痕がある。
「……夜桜が綺麗だったからつい、ね」
俺が見ているものに気づいた太宰が唇を薄く笑みで歪めるのに、舌打ちをして手を離した。
「それで桜と心中未遂か。可哀想なことをする」
桜は少し触れただけでもその身を痛めるらしい。
太宰のはた迷惑な自殺趣味のせいで桜は傷つき寿命を縮め、当の本人はぴんぴんしてここに立っている。
いつものことだが莫迦莫迦しい。
「失礼な。私だってちゃんと死ぬつもりだったさ。でもいいところで縄が切れて……っと?」
声を整えるように小さく咳をして、御託を並べる太宰を外に押し出した。
きょとんとするのに俺は眉を吊り上げる。
「中に入りたいのならまずその全身についた花びらをなんとかしろ! 部屋が汚れるだろうが!」
一喝ののち、有無を言わさず扉を閉めた。
『えぇ~国木田君は神経質だなぁ。モテないよぉ?』
「うるさい!」
外廊下で太宰が文句を言いつつばさばさと長外套を払っているらしい音がする。
俺はそれを聞きながら、扉に額を預けて深く長くため息をついた。
固く目を閉じる。
心臓が痛いくらいに脈打っていた。
胸の内をぐるぐると渦巻くもので苦しい。
いつまでかかるのだろう。
あの男がすべての花弁を払い終わって再びこの扉を叩くまでにあとどれくらいだ。
早く。
早く平常心に戻らねば。
俺は唇を噛んでそれらを必死に抑えつけていく。
こんなものがあるなどと、決して知られてはいけないのだ。
でないと俺よりよほど神経質な男は、きっとここから逃げ出してしまうに違いないのだから。
了
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国木田君からはもう矢印出てます。太宰さんが自殺を試すたびに不安になるようになってしまったお話。
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