国太ワンドロ・ワンライ、第十五回「聖夜は二人で過ごす事。」 初出:2018年12月16日
「たーだいまっと」
ふわふわとした足取りで太宰が部屋に上がり込む。
勝手知ったる他人の家。慣れた動作で電灯をつけると、畳の上に座りこんだ。
動きに合わせてフードつきのポンチョの裾がふわりと揺れる。
「なんだ機嫌がいいな」
「うふふ、そりゃあタダ酒ほど最高なものはないよ~。みんなで騒ぐのも楽しかったし」
「足りない分は社長が出してくださったが、一応全員から徴収はしただろうが」
「そうだけどさ~」
皆で仮装をして真夜中まで騒ぐ。
探偵社での降誕祭招宴はお気に召したらしい。
ほろ酔いで笑う太宰はかけ値なしに楽しそうに見えて俺も嬉しくなった。
背負っていた袋を畳に下ろせば、すっかり質量をなくしたそれがかさりと音を立てる。
それで思い出した。
「太宰」
「なぁに?」
袋の底を探って目的のものを掴みだす。
お菓子の詰まった長靴を差し出してやれば、目をぱちくりさせた。
「お前にだ」
「……どうして」
太宰は長靴をそろりと受け取りながら呟く。
俺はそれがひとまず相手の手に渡ったことに満足した。
「まぁ情緒はないが、お前が寝ている間に枕元に置いておくなんて芸当はできそうもない……」
「そうじゃなくて」
こいつの場合、こちらが少し身じろぎしただけで目を覚ましかねない。
言い訳めいた言葉は、しかしもどかしげに遮られる。
「どうして君が私にくれるの」
「ほかの社員にも渡していただろうが。それに俺は『探偵社のお母さん』なんだろう? だったらお前に渡したっていいはずだ」
太宰の普段の行いについては正直どうかと思う場面も多いが、今回に関してはしっかりと招宴の準備を手伝っていた。
いい子には贈答品だし、与えるのは親の役目だ。
当然だろう。
太宰は無言のまま自分の手元にあるお菓子の長靴をじっと見下ろしている。
俺は平静を装いながらも、その様子を固唾を呑んで見守った。
本当なら招宴中に皆と同じように渡せばよかったのだが、なんとなくそうやってうやむやにしたくはなかった。
おそらくこういった経験が少ないであろう太宰に、少しでも並みの子供のような体験をさせてやりたいと思ったのだ。
もちろん俺のエゴでしかない。
お菓子の長靴なら見た目も「らしい」し、俺の勝手な気持ちが受け入れられなかった場合は食べて終わりにできる。
それに実際のところ、案外物欲の薄い太宰のほしいものなんて思いつかなかったのだ。
なんだかんだ理由をつけても、この長靴は俺の自信のなさの表れでもあった。
「……ふ。なんか変な感じだねぇ」
太宰の口元がむずむずと緩んで目が泳ぐ。
照れくさそうにしながら長靴を胸元に抱き寄せるのにほっとした刹那、上目遣いで見つめられた。
「ところでサンタさん、恋人としてはないの?」
「は?」
今度は俺が目をぱちくりする番だ。
太宰は畳から腰を上げると、つっ立ったままの俺の顔を覗き込んできた。
「降誕祭ってそういう日でもあるでしょ? 可愛い恋人に贈答品はなーいのーかなー?」
片手でお菓子の詰まった長靴を抱いたまま、もう一方の手でポンチョの裾を摘まんでひらひらさせる。
その下に覗いた隙間にあからさまに誘われているのに、つい笑ってしまった。
「……欲張りだな」
「駄目なの?」
「いや。お前はもっとほしがっていい」
俺は空いた脇に手を潜らせるようにして、その細い腰を抱き寄せる。
不満げに尖らされた唇に、軽く自身の唇を押しあてた。
もふ、と普段と違う感触がして、二人で見つめ合う。同時に吹き出した。
「うふふ、お髭がくすぐったいねぇサンタさん」
つけっぱなしだったつけ髭を、顎下まで引き下げられる。
ちゅ、と音を立てて改めて口づけられた。
「……じゃあ、もっと」
離れていく瞬間の、吐息のような声に誘われる。
俺はそれを追うようにして、深く口づけたのだった。
了
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マヨちゃんの降誕祭衣装可愛いですよね……。
太宰さんがほしいって言うのは国木田君に関してだけだといいよなぁって感じです。
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