このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

下駄の音、からころと 初出:2018年8月20日


 わたあめ、焼きそば、たこ焼き、林檎飴、かき氷。
 射的に型抜き、金魚すくい、ヨーヨー釣り。
 提灯に照らされた参道に、さまざまな屋台が並んでいた。
 そこに大勢の人が詰めかけ、思い思いに祭りを楽しんでいる。

 毎年決まって開催されている近所の祭りに、今年は探偵社の面子で出かけることになった。
 普段は通常どおり仕事をしているか家にいるかの日だったが、誘われれば否やはない。
 せっかくだから皆浴衣で、と言い出したのは誰だったか。
 業務を少し早めに切り上げて一度家に戻って着替える。
 待ち合わせ場所につくころには相応に気分も高揚していたし、先に来ていた後輩たちの待ちきれない様子を見てしまえばそれも増した。


「……あ、ちょっと待って国木田君、鼻緒が切れた」
 後ろから袂が引かれる。
 屋台をあらかた回り、そろそろ始まるであろう花火のために移動を、というタイミングだった。
 振り返れば、太宰が俺の浴衣を支えに屈みこんでいる。
「おい、こんなところで立ち止まるな」
「わ、とっと」
 周りの迷惑になる、と素早く腕を抱え上げて腰に手を回した。
「国木田ぁ、先に行ってるぞ!」
「はい! すみません」
 ほかの同行者に状況を伝えるよりも早く、乱歩さんから声がかかる。
 顔を向ければ、ひらりと頭上に振られた林檎飴が見えたきりですぐに群衆に紛れてしまった。
 これは合流は難しいかもしれない。
 苦笑いしながら、俺は太宰を抱え直す。
「少し移動するぞ」
「はーい」
 けんけんと片足で跳ねるのに合わせてゆっくり人波から離脱した。
 参道から逸れ、屋台の裏側に回ってしまえば極端に人が少なくなる。
 縁石に太宰を座らせ、正面にしゃがみ込んだ。
「ほら、見せてみろ」
「ん」
 ついていなかった方の足を上げさせ、下駄を抜く。
 遠ざかった灯りに少し苦労して透かし見て、眉をひそめた。
「なんだ別に壊れては……」
 手の中の下駄には特におかしなところはない。
 視線を上げれば、太宰は悪戯っぽい顔をしていた。
「……貴様、騙したな」
「うふふ。だってせっかくのお祭りだよ?」
 目を半眼にした俺に、太宰は悪びれもしない。
 ひらひらと裸足の足を振った。
 浴衣の裾がわずかに捲れ、包帯の巻かれた足首からふくらはぎがちらちらと見える。俺は意識して視線を外した。
「屋台で夕飯もしたし、みんなとたくさん遊んだし、あとは花火を見るだけでしょう? 君もそろそろ引率の先生は終わりにしていいんじゃないかなぁってね」
「引率……」
 そんな風に見えていたのか。
 あんまりな言い方に肩を落としてしまうが、あながち間違ってもいないような気がして強く否定できない。
 だいたいうちには目の前の男を筆頭に、マイペースな人間が多いのだ。
 気づけばあっちへふらふら、こっちへふらふら行ってしまいそうになるのを、声をかけ、引っ掴み、誘導し、となにかと気を張っていたような気がする。
「だからね、国木田君。ほかの人のことは一旦忘れて、私とも遊ぼうよ」
 太宰は穏やかな表情で、どこか言い含めるような口調で言う。
 そのくせむき出しの親指が俺の膝を悪戯につつくのだから、始末に負えない。
 太宰は引率と言ったが、俺はそれでも充分楽しかった。
 だがときおり祭りを楽しむ恋人たちが目に入ると、敦たちと笑っている太宰を意識してしまっていたのも事実だ。
 もしかしてこいつも同じように思っていたのだろうか。
「……そうだな」
「ひゃ」
 息をつき、意趣返しのつもりで無防備に差し出された足の爪を撫でる。
 太宰が驚いて引っ込めようとしたところを掴んで下駄を履かせてやった。
 立ち上がる。
「せっかくだから、二人で少し回るか」
「……うん」
 手を差し出してやると、太宰はなぜか口を尖らせながら指を重ねてきた。
 軽く引いて立たせた勢いで、胸に寄りかかってくる。
「国木田君のくせに、不意打ちなんて百年早いよ」
 頬が赤い、と認識する前に唇に唇が触れて、今度はこちらが赤面するはめになった。



-------------------------------------------------------

マヨちゃんに浴衣きだくんが実装されたころに書いたもの。世の中が浴衣と夏祭りで大変おいしかったので私もその波に乗りました。
結局このときは浴衣きだくん来てくれなかったんですよね……(次の年の復刻で来てくれました)。
お祭りだと私はヨーヨー釣りが好きです。あったら絶対やっちゃう。
1/1ページ