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それを可愛いと思うのは重症ですか 初出:2018年11月14日


「太宰」
「はい?」
 ソファでごろごろしながら読書をしていたら頭上から声がかかった。
 視線を向けると、ソファの背に両肘をついた乱歩さんがこちらを見下ろしている。なにか緊急の用件か、と起き上がった。
「どうしたんで……」
「あーん」
「むぐ」
 と、なぜか突然口に菓子を突っ込まれた。
 細長い焼き菓子をチョコレートでコーティングしたあれだ。
 目を瞬かせる。
 珍しい、くれるのか。と判断してありがたく菓子に歯を立てようとした瞬間、
「まだ噛むなよ」
 鋭く咎められ、目を見開く。
 乱歩さんの顔が近づいてきたと思うと、ぽき、と私が銜えていた菓子の端を小さく齧った。
「ら、らんぽひゃ……!?」
「ほら、もう食っていいよ?」
 乱歩さんが、常に笑っているような目をさらに弓なりにする。
 ぱき、ぽきという音が、耳だけでなく、菓子を銜えた歯からも伝わって頭蓋を回った。距離が順調に近づいていく。
 これはあれだ、いわゆるあれだ。合コンや女の子のいるお店で戯れに催されるやつだ。
「なん、まっへ、らんぽひゃん、ひょっほまっへくらは……」
 それが分かっても理由が分からない。脈絡がない。
 なんで乱歩さんが。どうして私と。だってこの人には。
 私は菓子を銜えたまま、ぐるぐると回る思考を持て余す。
 すでに視界がぼやけるくらい近づいた乱歩さんにひたすら戸惑うしかない。
 こちらに向けられた瞳が思いのほか強い光を湛えていて動けなかった。
「ここでしたか、乱歩さん。社長が……」
「っ、にきだく……っ」
 そこに、ひょいと応接スペースを仕切るつい立てから顔を覗かせる長身がある。
 眼鏡の奥の目が見開かれるのに、私はびくっと肩を揺らした。
 彼の立つ位置から、自分たちはなにをしているように見えるだろう。
 咄嗟に自分に覆い被さる相手を押しのけようと手を動かしたが、それよりも前に菓子がぱきりと半ばで折り取られていた。乱歩さんが体を起こす。
「はあ、やっとお呼びかぁ。……んーやっぱり僕は独り占めの方がいいな」
 邪魔したな、とひらりと手を振って、乱歩さんはまるでなにもなかったように応接スペースを出ていく。私は遠ざかる背中を呆然と見送った。
「……なにをしてたんだ」
「な、なぁんにも? 乱歩さんが一方的にポッキーゲームをしかけてきたんだよ。びっくりしちゃった」
 低められた声についそわそわしてしまいながら、ソファにきちんと座り直す。
 疚しいことなどなにもないはずなのだが、乱歩さんに気圧されてろくな抵抗もできなかったのは事実だ。なんとなく後ろめたい。
 ありのままを口にした私に、国木田君は深いため息をついた。脱力したように私の隣に座ると、手を額に当てて項垂れる。
「……そういえばさっき、誰かに教えてもらったとか言ってたな……」
「なるほど……試したくなったとかかな?」
 実験台にされたか揶揄われたか。少なくとも最後の台詞を聞くだに、ポッキーゲームは乱歩さんのお気には召さなかったらしい。
 まんまと弄ばれてしまったと苦笑いをした。
「……太宰」
「なぁに? 国木田君たらやきもちぃ?」
 国木田君は頭を抱えたままの姿勢で、なにかを言いたげにずっとこちらを見ていた。
 睨むような視線に、にやにやしてしまうのを止められない。
 私は後ろめたい気持ちをうっちゃって、見せつけるように銜えたままだった菓子をぴこぴこ揺らす。
「お前は……」
 口を開きかけた国木田君は、結局なにも言わずにまたもやため息をついた。肺の中を空にするように深く深く。
 怒鳴られるか、呆れられるか。とにかく莫迦なことを、と一蹴される前に撤退した方がよさそうだ。
 ずいぶん短くなった菓子を食べてしまおうと口の中に引き込んだ瞬間、ぐいっと横から顎が掴まれた。
「む、んぐ!?」
 強引に唇が合わせられる。
 あわいを割った舌がするりと菓子を攫っていった。
「……あぁ、妬いた」
 不機嫌な声が鼓膜をくすぐる。奥歯で菓子を噛みしめるくぐもった音。
 至近距離から真っ直ぐに注がれる強い視線に射抜かれて動けない。
 照れ屋な国木田君の、こうした目に見える独占欲はずいぶん珍しかった。しかも職場でこんなことをするなんて。
 じわ、と頬が熱を持つ。
「国木田く……」
「そもそも」
「へ?」
 ふわふわした気持ちで口を開くと、がっしと襟首を掴まれた。
 目を瞬かせた先で、国木田君が眉を吊り上げる。
「昼休みもとっくに終わっているというのに、貴様がこんなところで無防備に油を売ってるから標的にされるんだ! 仕事をしろ! 真面目にしろ!! オラ立て!!」
「ちょ、いたっ!? いたたた!? うぐぇっ、ちょ締まって……締まってる……!!」
 引き倒されるようにしてソファから落とされる。
 首根っこを確保されたまま机に向かおうとする国木田君に、私は慌てて両手足をじたばたさせた。苦労して見上げると、耳が赤い。
「国木田君! 国木田君、ほんと、首、締まってるから……!!」
「やかましい! さっさと来い!!」
「あ──も──……」
 聞く耳を持ってもらえない。
 苦笑いとともにいろいろ諦めた私はおとなしく体の力を抜く。
 結局、私は彼の照れ隠しのために盛大に自席まで引きずられ、机に叩きつけられるはめになったのだった。



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ポッキーの日でした。乱歩さんは探偵社の天災(笑)。
タイトルはお互い相手のことを「そう」思ってるといいなーって感じです。
私はやきもちきだくん可愛いなぁって思いながら書きました。
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