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［着陸体制に入りました。シートベルトを締め、座席とテーブルを元の位置にお戻し下さい］


片耳から聞こえてきたアナウンスに、ゆっくり目を開けると、隣に座る男性とバッチリと目が合って少し気まずい。


愛想笑いだけ浮かべると、その男性はデートにでも来てたのか、女性と一緒にいそいそと立ち上がりどこかに消えていく。────まぁ、きっとトイレでイチャつくんでしょうね。ばかみたい。


「お客様、着陸体制に入りましたので、リクライニングをお戻し頂けますか？」


『えぇ、そうする。ありがとう』


結構な勢いで倒していたシートを戻せば、ブラインドを開けて、上空からの夜景に視線をやる。


日本から、10時間程で着くロサンゼルスは、私にとって未開の地。ハリウッドがあるくらいの知識がないけど、ディズニーは近いのかな。ぜひ行きたい。


翔陽で経験を積んでいた中、海外研修が復活し、前から消防に興味があったから、医師兼ってことで参加。


同期たちには、ちゃんと戻ってきてとか、2年で戻るんだよ、とかそんな事ばっかり。そりゃ、人手が足りてないのは分かるけど。


観光したくて、早めにロスに着いたけど、別行きの飛行機に飛び乗ったのがいけないのかな。私だって観光くらいしたかったのにどうしてこうなるの。


そんな気持ちで、ため息をついた時、強い衝撃と視界の端に映ったCAが上に飛ぶ姿に息を飲む。


突然のことで、咄嗟にシートベルトを掴めば、上から酸素マスクが落ちてくる。機内は、混乱と絶望、それに不安で満ち溢れていて、CAでさえも動揺が見える。


どんどんと降下していて、窓を見れば下が真っ暗だから、まさか海に落ちるんじゃ……なんて。私は、海は好きだけど泳げないから、死ぬんじゃないかって思う。


こんなことになるなら、ちゃんと1本前の飛行機に乗ればよかった。なんなら、海外研修に行くって言わなきゃ良かった。


まさか、私は未開の地で命尽きるのかしら。まぁ、新鮮だしある意味いいけど、でも後悔は残るかも。藍沢とピスタチオの殻乗せ競ってないし、白石と緋山と飲み比べしてない。冴島と藤川の愚痴の言い合いしてないし、藤川は……まぁ特にないや。


こうなるなら、墓参り行っとけばよかった。全然行けてないし、最後になるなら手ぐらい合わせとけばよかった。


どんどんと、暗い闇の中に近づいていくのを見ながら、頭の中でそう思うと、そこで私の意識は途切れた。