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『私から距離を置いてください、ほんとに、近付かないで』


「近付かないさ、だけど、アンタと話したいんだ、それはいいだろう？」


『いいですけど、とりあえず、そこに……そこ、そう』


彼女が抱える問題のせいなのか、親しい人以外と関わりを持つ時は、必ずといっていいほど距離を取りたがるし、丁寧になる。


最初、ハナが初めて来た時に居なかったクリントと会った時も、こんな感じだった。


「初めましてだよな、サムだ、サム・ウィルソン」


『どうも、ご丁寧に。』


「アンタは？なんて言うんだ」


『……ドーランです、ええ、ドーラン』


「名前が？」


『いえ、名前は別にありますけど、』


「じゃあ、そっちを教えてくれよ」


『それは、ちょっと。キャプテンだって、スタークだって、男性は皆さんドーランです。あなたも、それで呼んでいただけますか、ウィルソン』


「俺は、みんなが呼んでる呼び方で呼びたくはないんだよ。」


『私は、みんなが呼んでる呼び方で呼んで頂きたいんです。』


ソファに座り、2人が話し始めたのを、私とスティーブ、そしてマリアは苦笑いで眺めていた。（スティーブには、私は面白そうな顔をしてたって言われたけれど）


「なぁ、ハナ」


『……ドーランです』


「けど、ハナは合ってるだろ」


『……』


「俺、ビリヤードが得意なんだ。良ければ見ない？」


何を言うのかと思えば、ビリヤードのお誘いに私はお酒を吹く寸前。


すると、サムは睨みを効かせてくるから、肩を竦めておく。ハナはといえば、何故ビリヤード？とでも言いたげな顔をしてる。


「どう？一杯やって、俺の腕を見ていかないか？」


『……いい、ですよ』


あぁ、久しぶりに見た、彼女の愛想笑い。サムは、笑顔を向けられた事で喜んでいるけど、残念ながらそれは仕方ないから付き合ってやる、というもの。


初対面でもないのに、初対面にやるような行動に小さくため息を着くと、ちょっとビリヤードの場所とってくる、そう言って席を離れたサムを見送るなり、ハナが私とマリアの間に割り込んでくる。


『ねぇ、聞いた？ビリヤードのお誘いよ、どうしよう』


「落ち着きなさいよ、ハナ。とりあえず、髪が乱れてるわ、直してあげる」


『かっこいい！間近で見ると、彼のまつ毛とか胸筋が視線に入って直視できないの』


興奮して話す彼女に、スティーブは目を丸くして、何が起きてるんだって顔をするから、後で教えてあげましょうか。