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その日の夜。


スタークタワーには、お洒落に着飾った彼らがグラスを片手に、各々の時間を過ごしていた。


僕も、中央のソファに座り友人らと談笑していれば、グラス片手に横に滑り込んできた男が。


「スティーブ、彼女、来てるか？」


「彼女？」


「なんだよ、任務続きでもう忘れたのか？

言ってただろ、スティーブが最近観察してるっていう」


「あぁ、ドーランの事か？

まさかサム、あれ、本気だったのか？」


「あら、何が、本気だったのかしら？」


友人のファルコンことサムの期待に満ちた目に、僕が思わず声をあげれば、カウンターから様子を見ていたロマノフが興味深そうに、僕の正面に座った。


「それで？」


「それで？……って、なにがだ？」


「サムに言ってたでしょ、本気だったのかって」


「ロマノフに話したら、バートンにも伝わるだろ」


「あら、私の仕事を貶さないでくれるかしら。」


サムの一言に、ロマノフはクイッと眉を上げて言うものだから、僕は頬をかき仕方なく彼女に伝えた。


「なかなか、見る目はあるわね。見直したわ」


「なんか腹立つな、その言い方」


「でも、 ハナが貴方の事を気に入るかしら？」


「なんだよ、そんなに手強いのか？

スティーブの話を聞いてれば、普通だと思うんだがな」


「それはスティーブだからよ。彼女は、初対面の人には誰であろうと、近付かないでって言う子。

私たちと親しくなったのも、割と最近の話だから」


「ただし、ソーに対してだけはまだ親しくなりきれてない」


「ああ、そうね。そうだった。

けどいい？サム。 ハナを貴方のものにしたいのなら、それ相応の覚悟は必要よ。

あの子を口説き落とすために、何人ものエージェントが立ち向かったけど、どれも1週間寝込むほどダメージを受けるから」


嘘か本当か分からないロマノフの答えに、僕もつい苦笑いになると、サムはどこか考え込む顔になるも、ニヤリと口角を上げた。


「面白い。そういう駆け引き、俺は好きだ」


「……あら、私、余計なこと言ったかしら」


「まぁ……いいんじゃないのかな、多分」


気合いが入ってしまったらしいサムは、グイッと酒を飲み干すから、肩を竦めて同じようにグラスを傾けようとした時、会場が盛り上がるような声になる。


何だと視線を向ければ、スタークと話をするドーランがいて、そこに群がりだした他のエージェント。


ちらりと横に視線を向けると、サムは心底愛おしそうに彼女を見ていた。