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『なんでここにいるの』


「ドクターが慌ててたから、気になったんだよ」


『気になったからここに来たわけ？』


「いや？アンタを探してたんだ。返そうと思った物があってな」


『そんなのロジャースとか、なんかその辺の男どもに渡しておけばいいじゃない』


「それじゃあダメだ、俺が良くない」


『またどうして。

私は、ウィルソンが来たおかげで、大好きなナットと過ごす時間を奪われてるのよ』


「なんだ、ロマノフもいたのか」


「ええ、いたわよ。」


「なら、少し出てくれないか？」


『やめてウィルソン』


「もちろん。私はお邪魔だろうから、喜んで」


『ねえやだ、ナットはここにいるの、居なきゃだめ、私が許さない』


「アンタは黙っててくれよ、俺はロマノフに用はない」


『はぁ？数時間前に初対面になったあなたにそんな事言われる権利はないんですがね』


ラボへとやってきた彼────サム・ウィルソンは、ハナが言うまで私の存在に一切気づいていなかった。まぁ、別にいいんだけど。


さっきまでのパーティーで着ていた服とはまた違った、普段通りの私服姿のサムに、ハナは心做しか頬を赤く染めて出来るだけ彼を見ないように視線を動かしてる。


口の端にジャムを付けているのに気付いていない彼女は、表情とは正反対の言葉を、サムにぶつけているから、私は必死に込み上げる笑いを抑えるのに忙しい。


『ていうか、用があるならここでさっさと済ませてくれますか、ウィルソン』


「あー………まぁ……おう」


きっと、連絡先を渡したけど連絡が来ない、なんて思ったんでしょうね。これっきりにしたくなくて、ハナと距離を詰めたいから、特に用もないのに押しかけてきた。だから、どんな理由を付けようか迷ってる顔してる。


ちらりと私を見てきたサムは、明らかに困ったって表情をしていたけど、この後どう出るか見るのも楽しみだから何もしないで置いてあげようかしら。


『……用がないの、あるの、どっち』


「そうだな……」


『………ナット、ヘレン博士に、いい加減早く来ないと逃げ出すわよって伝えてきてもらえる？』


「了解。ついでに、コーヒーでも買ってくるわ、あなたのために」


『ミルク多めでね、ありがとう』


あら、サム、貴方、ハナにまで気を使わせてるわよ。そんな意味を込めて、ちらりと彼を見ればバツが悪そうに目頭を抑えて、小さく息を吐いた。