男塾夢
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天動宮で事務員として働くようになり、早一ヶ月以上。
始めこそ屈強な男ばかりでコミュニケーションを取ることが大変であったが、
日数を重ねるごとに働きぶりが認められ、優香はすっかり天動宮になじみつつあった。
しかし、この日常に慣れたのは良いもの優香にはある悩みがあった。
「そろそろ新しい服が必要かなぁ」
天動宮にて与えられた自室のクローゼットを見ながら、うーんと考え込む優香。
自宅から生活用品や服は多く持ち込んではいたが、さすがに一ヶ月以上もたつと服のローテンションにも飽きてくる。
塾生たちのように制服もなく、また優香も女性であるため、さすがに新しい服は欲しい。
「下着とかもちょっと痛んでくるし。化粧品とか生理用品もそろそろ必要だし、久しぶりに街にも行きたいし……」
と優香が呟いたのには、男塾内で唯一の女性という事もあり安全上の観点からまだ外出許可が出ていないのだ。
最初は仕事で忙しく気にならなかったが、生活を送る以上、いい加減買い物をしないと限界である。
決意した優香は、外出許可の判断を決定する権限を持つ影慶に相談してみる事にした。
+++
「外出許可だと?」
「はい。買い物をしないと、いろいろ足りなくなってきまして……」
男塾死天王の定例会議の中で、優香は影慶に外出許可をうかがってみた。
さすがに服や化粧・生理用品などは口にはできなかったが。
「許可してやったらどうだ? もう優香も一度くらい外に出たいだろう、必要なものもあると思うしな」
同席していたセンクウが女性事情を察したのか、言葉を付け加える。
「それはそうだが……」
「こう見えても餓鬼じゃねぇんだし、多少の外出は問題ないだろ。なんなら俺が付いて行ってやろうか?」
「いや結構です、卍丸さん」
ニヤリと笑って優香を見やる卍丸に、即座に拒否をする優香。
それに冗談だとは思うが、卍丸がついてくる姿を想像すると明らか目立つのは間違いない。
「だが、誰か付いて行くというのは良いのではないか? 優香に万が一の事があっても安心だろう」
羅刹の発言には、影慶も少し考えて「確かに」と小さくうなづいてみせた。
ここまで外出だけで慎重になるのも、男塾に女性がいる事自体まったく前例がないので、どう扱っていいのか分からないところもあった。
しかし、優香とて女性。そろそろ外出くらい許可するべきだと影慶も頭では承知はしていた。
「優香、もし外出に塾生が同行となっても問題ないか?」
「えっ、そうですね。それは仕方ないかなぁと思います」
影慶に問いかけられた優香であったが、同行については渋々であったが承諾をした。
今回女性用品をいくつか購入するので恥ずかしい気持ちは大きいが、
死天王たちが自分の身を案じてくれていると考えると拒否はできなかった。
「……了解した。至急邪鬼様に確認をしてくる、優香はそこで待機していろ」
「はい。よろしくお願いします」
そう優香に告げた後、邪鬼の元へと足早に会議室を去った影慶。
邪鬼に確認するまでの大事に発展してしまい、申し訳ないと思う気持ちがあったが、
優香の心は久々に外出できるかもしれないという期待感にあふれていた。
仮に塾生が同行といっても、こんな雑用なら桃たち一号生だと思うので、そこまで気は遣わなくてもよい。
優香は邪鬼からの返答を待つ事になった。
影慶が邪鬼に取り合って数日後。
ついに優香は、男塾からの外出許可が出たのであった。
外出するにあたっては、条件が二つ。
一つ目は、男塾を出入りする姿を決して他人に知られないようにすること。
これは塾生の影に隠れるなどして、細心の注意を払い、やり過ごした。
二つ目は、やはり覚悟していた通り塾生が同行という条件であったが、その相手とは――
「お、お待たせしました、影慶さん」
「ウム」
なんとあの影慶が優香の同行者となったのだ。
優香も塾生が同行するだろうとは予想していたが、
てっきり一号生だと思っていたので三号生、しかも影慶自ら同行する事に驚いていた。
「まさか影慶さんが私に同行するとは思ってなかったです。聞いてビックリしましたよ」
目的地に向かいながら、優香は早々に口を開いた。
「俺もだ、だが邪鬼様直々のご命令であるからな」
優香の隣を歩く影慶は今回の経緯を話し始めた。
なぜ影慶が選ばれたのかというと、どうやら個性豊かな塾生の中でも比較的落ち着いた容姿をしているからであった。
確かにいつもの学ランではなく私服を着用していると、体格は常人より屈強かつ毒手のため、分厚い革手袋をしているが、髪型などは一般的だ。
そのため、わりと街中の風景としては溶け込んではいた。
「ふふっ、もし卍丸さんやセンクウさんと歩いていたら、ちょっと目立ちますもんね」
「そうだな、あいつらは髪型が派手すぎる」
優香の隣を歩いている彼らを想像したのか、影慶は口元を緩める。
影慶の姿を横目で見ていた優香は、その表情に思わず胸がキュンとする。
今の影慶は塾内と雰囲気が違い、私服を着用しているからか年相応の大人の男性だ。
実際街中ですれ違った女性たちも、何名か影慶の方を振り返り、熱い視線を送っていた。
「今の人、格好良くない? 俳優さんかな?」
「え、ほんとだ。隣にいるの彼女かな~」
時には女学生からこのような黄色い会話も聞こえてくるほどだ。
実際彼女ではないが、女性たちから羨望のまなざしを受けると、優香は少々緊張してしまう。
ちなみに当の本人は女学生に興味がないのか、うわさには気が付いていない様子だった。
「きょ、今日はよろしくお願いしますねっ。影慶さん」
そんな緊張を取り払うように影慶に声を掛けると、影慶は「あぁ」と軽くうなずく。
緊張してしまうのは影慶がいつもと雰囲気が違うため、二人きりでいるからだと優香は思い込むしかなかった。
+++
「お客様、こちらのワンピースですがお似合いだと思いますよ」
「ありがとうございます、でもピンクもかわいいなぁ」
目的地のショッピングモールに到着した優香は、久々のショッピングを楽しんでいた。
ちなみに影慶は、さすがに女性服の店内には入ろうとせず、店の前で腕を組んで待っている。
「うーん、水色と別のデザインのピンク……どっちにしよう」
「あちらのお連れ様にも聞いてみてはいかがでしょうか」
「えっ、連れって――」
店員がニコニコとして、店の前で待つ影慶に視線を向ける。
どうやら店員は、同行者の影慶のことを彼氏と勘違いしているようだった。
「あっ彼氏じゃないですよ」と否定しつつも、自分で決めると時間が掛かりそうなので、優香はダメ元で影慶に尋ねてみる。
「影慶さん、これどっちの色が似合うと思います……?」
ピンクの花柄のフレアワンピースを左手、水色のAラインワンピースを右手に持ち、おそるおそる影慶の返事を待つ。
影慶は二つのワンピースに視線こそ向けるが、無言のままだった。
「ご、ごめんなさい、変なこと聞いて。やっぱり自分で決めますね」
恋人どうしでもないのに何を聞いてるんだろう、と今更恥ずかしくなった優香は引き返そうとする。
「……右がいいんじゃないか」
「えっ?」
「右が似合うと思う。あくまで俺の好みだがな」
店内に戻ろうとした優香が振り返ると、影慶は背を向けていた。
影慶から見た右とは、優香が左手に持つピンクの花柄のフレアワンピースであった。
まさか返事をもらえると思ってなかった優香は驚くが、喜びに思わず笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、これにしますね」
影慶の背中に向かって礼を述べると、優香は左手に持つワンピースをカゴに入れた。
そんな優香の様子を、ひそかに影慶は横目で見ていたのであった。
「ふう、今日はこれくらいかな」
服や女性用品など、ひととおり購入した優香は、両手に紙袋を下げて、影慶の元へ向かっていた。
先ほどまで女性下着店に行っていたので、影慶とは少し離れた場所で待ち合わせをしている。
女性の買い物の付き添いなんて退屈だろうに、命令とは言え付き合ってくれる影慶には感謝しかなかった。
しばらくして影慶の姿が見えると、なんとその周辺に女子高生らしき女性、しかも二人が影慶を取り囲んでいた。
「お兄さん、格好良いですね! 彼女いるんですかぁ?」
「お礼に番号教えてください~!」
傍から見れば、若い女性に囲まれハーレム状態の影慶。
もし此処に虎丸や冨樫がいれば「影慶先輩が女子高生にモテモテじゃぁ~!」「ワシらも混ぜんかい~!」と突っ込むだろう。
だが、優香は勿論突っ込むこともできず、状況も飲み込めないまま呆然としていた。
優香の存在に気付いた影慶は、目にも止まらぬスピードで隣に立つと、優香の肩を抱いた。
「俺には連れがいる、他を当たってくれ」
「ふえっ!?」
ふいに急接近され、情けない声を上げた優香であったが、次の瞬間には先ほどの位置から移動し、出口へ向かっていた。
高校生たちは「彼女連れかよー」と文句を言っていたが、突然の状況に理解できない優香の耳には届いていなかった。
肩を抱かれているせいか落ち着かない様子の優香に、影慶はすぐさま肩から手を離す。
「すまん、あの女どもは財布を目の前で落としたから声を掛けただけなんだが……。どうやら変な勘違いをしたらしい」
「そうだったんですか」
ようやく状況を理解した優香。
だが、先ほどまで影慶の顔が近くにあったため、しばらく心臓の音は鳴りっぱなしであった。
いつもと違う環境だから? と自答しつつ、まともに影慶を見ることができない。
「それにしても、あのような年代の女子が俺に興味があるのが不思議だな」
「最近年上男子とか流行していますし、影慶さんかなり格好良いから……」
そこまで話して優香はハッと口をつぐむ。
今とんでもない事を口走ってしまったと後悔したが遅い。
口元に手を添えて、ドキドキしながら影慶を見てみると、特に気に止めることなく、「そうか、分からぬな」と呟くだけであった。
聞かれなくて良かった、と安堵した気持ちと、絡まれなかったという残念な気持ちが同時に優香を襲う。
「あと優香、必要なものはそろったか?」
「は、はい、必要なものは全部買えました」
影慶が待ってくれていたおかげで、優香の生活に必要な物品は大体そろった。
これでしばらくは買い物も行かなくて済むだろう。
影慶はその返答を聞くと、ショッピングモールを出て、男塾の方角へ歩いて行き、優香もその後を追いかけた。
ショッピングモールから帰路の途中、無言で二人は歩いていた。
その最中、影慶が優香の荷物を持ってくれたりと、少なからず会話はあったが。
もうほとんど人気のない道に入り、男塾まであと少し、といったところで、優香は足を止めた。
「あの、影慶さんっ。あらためて今日はありがとうございました、私の買い物に付き合っていただいて……」
「気にするな、普段男塾から出れぬ不自由な身だ。今日くらいは楽しめばいい」
横にいる影慶に深々とお辞儀する優香に、影慶も足を止めて一瞥する。
「ただ影慶さん、今日つまらなかったですよね。私と一緒のせいで変なトラブルにも巻き込まちゃったし」
変なトラブルとは、もちろん女子高生のナンパのことだ。
影慶を一人で待たせた時間も多く、邪鬼からの任務とはいえ、今日は自分のせいで無駄な時間を過ごさせてしまっただろうと感じていた。
「いや、それはない」
「そんな無理しなくても……」
「俺のこと、格好良いと思っているのだろう?」
「えっ、えっ~! さっきのやっぱり聞いてたんですか!?」
突如影慶から不意を突く発言が飛び出し、優香は思わず声を上げ、目を丸くして驚く。
「当たり前だ。他は俺に服をうれしそうに選ばせていたな、かわいらしかったぞ」
「か、かわいらし……」
普段はポーカーフェイスが多い影慶も、この時ばかりは優香に向かって、意地悪な笑みを浮かべる。
一方、優香は恥ずかしい言葉が続き、どんどん紅潮していった。
おとなしくなった優香の肩に、分厚い革手袋に覆われた影慶の手が優しく添えられ、耳元まで顔を寄せると、優香はビクッと反応する。
「――今度外出許可が出た時は、俺が選んだ服を着るんだな」
優香に対して低い声でそっとささやく。
そして影慶は添えた手を静かに離すと、何事もなかったように再び歩き始める。
優香はポカンとして、しばらく影慶の背中を見つめていた。
「え、影慶さんと二人きりで私服だったから今ドキドキしてる、だけだよね……!?」
胸に手を当てて、鳴り止まない心臓の音を確認しながら、優香は男塾に帰れば、元に戻ると信じるしかなかった。
――しかし、実際は男塾に戻っても、学ランを着ている影慶に対してもドキドキが止まらず、仕事がはかどらなかったという。
+おまけ+
「よう影慶、この前は優香とデートで楽しかったか?」
「……卍丸」
天動宮の廊下を影慶が進んでいると、窓際に佇んでいた卍丸に呼び止められた。
「あれは邪鬼様から仰せつかった重要な任務。野暮な詮索をするではない」
くだらんと言いたげな表情で、影慶は進む足を止めず卍丸の前を通りすぎようとする。
「へっ、よく言ったもんだぜ。デートの相手に一号の坊主どもを候補に外したのもお前だろう」
「何だと……?」
卍丸の一言に、影慶はピタリと足を止め、鋭いまなざしを向けて睨む。
「邪鬼様の扉の前にいた三号生から聞いたんだよ。邪鬼様が雑用だから一号生にさせろ、って話だったのに『初めての試みだから、まずは自分を同行者にさせてくれ』なんて無理やり懇願したんだろ?」
いつものマスクを外しているせいか、卍丸はいっそうニヤニヤした笑みのまま影慶に問い掛ける。
「……たしかに懇願したのは事実だが、俺は責任者として当然のことを」
「フッ、どうだかな。散々優香をからかって『かわいらしい』とか浮いたセリフを吐くのは、責任者のする事じゃねぇよ」
「なっ……貴様、見ていたのか!?」
優香と自分しか知らないはずの出来事を話す卍丸に、影慶は掴みかかりそうになるが、
予期していた卍丸はひらりと空中に身体を浮かせ、ご自慢の体術で影慶との距離を取る。
「あんな男塾の近くでイチャついてる方が悪い。センクウたちや一号どもに知られたくなったら、いい加減告ったらどうだ。モタモタしてたら一号の坊主どもに盗られるぞ」
「貴様……」
図星といった表情を見せる影慶に、卍丸は「世話のやける野郎だな」と小さくつぶやいて、廊下を後にした。
この挑発で影慶が告白したかどうかは、また別の話である――。
++あとがき++
初!男塾の夢小説です~!
六年ぶりに書いた夢小説がこれってどうですか(笑)
もう一五年前から好きなキャラ!というか初恋なんですが、影慶さまの夢をようやく書けて幸せですっ!
男塾のキャラとデートしてぇ!って事で、影慶さまとデートする夢。
JKに逆ナンさせてみました。影慶さまも一応高校生だけど(げふん)
いやでも影慶さまは、ジャケットとか着たら大人の色気プンプン出ると思う……!
うちの影慶さまデレすぎてません? 一応最後の卍丸さんでツンデレな面は出したんですけど(恥)
卍丸さんはこういったキューピット的な役割が似合うなぁって……外見は世紀末からの使者感半端ないですが(←おい)
このお話の続きは書きたいですね!
これからどんどん男塾夢、増やしていきたい~~(笑)
2018.03.20
2020.06.11 表現など若干修正
始めこそ屈強な男ばかりでコミュニケーションを取ることが大変であったが、
日数を重ねるごとに働きぶりが認められ、優香はすっかり天動宮になじみつつあった。
しかし、この日常に慣れたのは良いもの優香にはある悩みがあった。
「そろそろ新しい服が必要かなぁ」
天動宮にて与えられた自室のクローゼットを見ながら、うーんと考え込む優香。
自宅から生活用品や服は多く持ち込んではいたが、さすがに一ヶ月以上もたつと服のローテンションにも飽きてくる。
塾生たちのように制服もなく、また優香も女性であるため、さすがに新しい服は欲しい。
「下着とかもちょっと痛んでくるし。化粧品とか生理用品もそろそろ必要だし、久しぶりに街にも行きたいし……」
と優香が呟いたのには、男塾内で唯一の女性という事もあり安全上の観点からまだ外出許可が出ていないのだ。
最初は仕事で忙しく気にならなかったが、生活を送る以上、いい加減買い物をしないと限界である。
決意した優香は、外出許可の判断を決定する権限を持つ影慶に相談してみる事にした。
+++
「外出許可だと?」
「はい。買い物をしないと、いろいろ足りなくなってきまして……」
男塾死天王の定例会議の中で、優香は影慶に外出許可をうかがってみた。
さすがに服や化粧・生理用品などは口にはできなかったが。
「許可してやったらどうだ? もう優香も一度くらい外に出たいだろう、必要なものもあると思うしな」
同席していたセンクウが女性事情を察したのか、言葉を付け加える。
「それはそうだが……」
「こう見えても餓鬼じゃねぇんだし、多少の外出は問題ないだろ。なんなら俺が付いて行ってやろうか?」
「いや結構です、卍丸さん」
ニヤリと笑って優香を見やる卍丸に、即座に拒否をする優香。
それに冗談だとは思うが、卍丸がついてくる姿を想像すると明らか目立つのは間違いない。
「だが、誰か付いて行くというのは良いのではないか? 優香に万が一の事があっても安心だろう」
羅刹の発言には、影慶も少し考えて「確かに」と小さくうなづいてみせた。
ここまで外出だけで慎重になるのも、男塾に女性がいる事自体まったく前例がないので、どう扱っていいのか分からないところもあった。
しかし、優香とて女性。そろそろ外出くらい許可するべきだと影慶も頭では承知はしていた。
「優香、もし外出に塾生が同行となっても問題ないか?」
「えっ、そうですね。それは仕方ないかなぁと思います」
影慶に問いかけられた優香であったが、同行については渋々であったが承諾をした。
今回女性用品をいくつか購入するので恥ずかしい気持ちは大きいが、
死天王たちが自分の身を案じてくれていると考えると拒否はできなかった。
「……了解した。至急邪鬼様に確認をしてくる、優香はそこで待機していろ」
「はい。よろしくお願いします」
そう優香に告げた後、邪鬼の元へと足早に会議室を去った影慶。
邪鬼に確認するまでの大事に発展してしまい、申し訳ないと思う気持ちがあったが、
優香の心は久々に外出できるかもしれないという期待感にあふれていた。
仮に塾生が同行といっても、こんな雑用なら桃たち一号生だと思うので、そこまで気は遣わなくてもよい。
優香は邪鬼からの返答を待つ事になった。
影慶が邪鬼に取り合って数日後。
ついに優香は、男塾からの外出許可が出たのであった。
外出するにあたっては、条件が二つ。
一つ目は、男塾を出入りする姿を決して他人に知られないようにすること。
これは塾生の影に隠れるなどして、細心の注意を払い、やり過ごした。
二つ目は、やはり覚悟していた通り塾生が同行という条件であったが、その相手とは――
「お、お待たせしました、影慶さん」
「ウム」
なんとあの影慶が優香の同行者となったのだ。
優香も塾生が同行するだろうとは予想していたが、
てっきり一号生だと思っていたので三号生、しかも影慶自ら同行する事に驚いていた。
「まさか影慶さんが私に同行するとは思ってなかったです。聞いてビックリしましたよ」
目的地に向かいながら、優香は早々に口を開いた。
「俺もだ、だが邪鬼様直々のご命令であるからな」
優香の隣を歩く影慶は今回の経緯を話し始めた。
なぜ影慶が選ばれたのかというと、どうやら個性豊かな塾生の中でも比較的落ち着いた容姿をしているからであった。
確かにいつもの学ランではなく私服を着用していると、体格は常人より屈強かつ毒手のため、分厚い革手袋をしているが、髪型などは一般的だ。
そのため、わりと街中の風景としては溶け込んではいた。
「ふふっ、もし卍丸さんやセンクウさんと歩いていたら、ちょっと目立ちますもんね」
「そうだな、あいつらは髪型が派手すぎる」
優香の隣を歩いている彼らを想像したのか、影慶は口元を緩める。
影慶の姿を横目で見ていた優香は、その表情に思わず胸がキュンとする。
今の影慶は塾内と雰囲気が違い、私服を着用しているからか年相応の大人の男性だ。
実際街中ですれ違った女性たちも、何名か影慶の方を振り返り、熱い視線を送っていた。
「今の人、格好良くない? 俳優さんかな?」
「え、ほんとだ。隣にいるの彼女かな~」
時には女学生からこのような黄色い会話も聞こえてくるほどだ。
実際彼女ではないが、女性たちから羨望のまなざしを受けると、優香は少々緊張してしまう。
ちなみに当の本人は女学生に興味がないのか、うわさには気が付いていない様子だった。
「きょ、今日はよろしくお願いしますねっ。影慶さん」
そんな緊張を取り払うように影慶に声を掛けると、影慶は「あぁ」と軽くうなずく。
緊張してしまうのは影慶がいつもと雰囲気が違うため、二人きりでいるからだと優香は思い込むしかなかった。
+++
「お客様、こちらのワンピースですがお似合いだと思いますよ」
「ありがとうございます、でもピンクもかわいいなぁ」
目的地のショッピングモールに到着した優香は、久々のショッピングを楽しんでいた。
ちなみに影慶は、さすがに女性服の店内には入ろうとせず、店の前で腕を組んで待っている。
「うーん、水色と別のデザインのピンク……どっちにしよう」
「あちらのお連れ様にも聞いてみてはいかがでしょうか」
「えっ、連れって――」
店員がニコニコとして、店の前で待つ影慶に視線を向ける。
どうやら店員は、同行者の影慶のことを彼氏と勘違いしているようだった。
「あっ彼氏じゃないですよ」と否定しつつも、自分で決めると時間が掛かりそうなので、優香はダメ元で影慶に尋ねてみる。
「影慶さん、これどっちの色が似合うと思います……?」
ピンクの花柄のフレアワンピースを左手、水色のAラインワンピースを右手に持ち、おそるおそる影慶の返事を待つ。
影慶は二つのワンピースに視線こそ向けるが、無言のままだった。
「ご、ごめんなさい、変なこと聞いて。やっぱり自分で決めますね」
恋人どうしでもないのに何を聞いてるんだろう、と今更恥ずかしくなった優香は引き返そうとする。
「……右がいいんじゃないか」
「えっ?」
「右が似合うと思う。あくまで俺の好みだがな」
店内に戻ろうとした優香が振り返ると、影慶は背を向けていた。
影慶から見た右とは、優香が左手に持つピンクの花柄のフレアワンピースであった。
まさか返事をもらえると思ってなかった優香は驚くが、喜びに思わず笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、これにしますね」
影慶の背中に向かって礼を述べると、優香は左手に持つワンピースをカゴに入れた。
そんな優香の様子を、ひそかに影慶は横目で見ていたのであった。
「ふう、今日はこれくらいかな」
服や女性用品など、ひととおり購入した優香は、両手に紙袋を下げて、影慶の元へ向かっていた。
先ほどまで女性下着店に行っていたので、影慶とは少し離れた場所で待ち合わせをしている。
女性の買い物の付き添いなんて退屈だろうに、命令とは言え付き合ってくれる影慶には感謝しかなかった。
しばらくして影慶の姿が見えると、なんとその周辺に女子高生らしき女性、しかも二人が影慶を取り囲んでいた。
「お兄さん、格好良いですね! 彼女いるんですかぁ?」
「お礼に番号教えてください~!」
傍から見れば、若い女性に囲まれハーレム状態の影慶。
もし此処に虎丸や冨樫がいれば「影慶先輩が女子高生にモテモテじゃぁ~!」「ワシらも混ぜんかい~!」と突っ込むだろう。
だが、優香は勿論突っ込むこともできず、状況も飲み込めないまま呆然としていた。
優香の存在に気付いた影慶は、目にも止まらぬスピードで隣に立つと、優香の肩を抱いた。
「俺には連れがいる、他を当たってくれ」
「ふえっ!?」
ふいに急接近され、情けない声を上げた優香であったが、次の瞬間には先ほどの位置から移動し、出口へ向かっていた。
高校生たちは「彼女連れかよー」と文句を言っていたが、突然の状況に理解できない優香の耳には届いていなかった。
肩を抱かれているせいか落ち着かない様子の優香に、影慶はすぐさま肩から手を離す。
「すまん、あの女どもは財布を目の前で落としたから声を掛けただけなんだが……。どうやら変な勘違いをしたらしい」
「そうだったんですか」
ようやく状況を理解した優香。
だが、先ほどまで影慶の顔が近くにあったため、しばらく心臓の音は鳴りっぱなしであった。
いつもと違う環境だから? と自答しつつ、まともに影慶を見ることができない。
「それにしても、あのような年代の女子が俺に興味があるのが不思議だな」
「最近年上男子とか流行していますし、影慶さんかなり格好良いから……」
そこまで話して優香はハッと口をつぐむ。
今とんでもない事を口走ってしまったと後悔したが遅い。
口元に手を添えて、ドキドキしながら影慶を見てみると、特に気に止めることなく、「そうか、分からぬな」と呟くだけであった。
聞かれなくて良かった、と安堵した気持ちと、絡まれなかったという残念な気持ちが同時に優香を襲う。
「あと優香、必要なものはそろったか?」
「は、はい、必要なものは全部買えました」
影慶が待ってくれていたおかげで、優香の生活に必要な物品は大体そろった。
これでしばらくは買い物も行かなくて済むだろう。
影慶はその返答を聞くと、ショッピングモールを出て、男塾の方角へ歩いて行き、優香もその後を追いかけた。
ショッピングモールから帰路の途中、無言で二人は歩いていた。
その最中、影慶が優香の荷物を持ってくれたりと、少なからず会話はあったが。
もうほとんど人気のない道に入り、男塾まであと少し、といったところで、優香は足を止めた。
「あの、影慶さんっ。あらためて今日はありがとうございました、私の買い物に付き合っていただいて……」
「気にするな、普段男塾から出れぬ不自由な身だ。今日くらいは楽しめばいい」
横にいる影慶に深々とお辞儀する優香に、影慶も足を止めて一瞥する。
「ただ影慶さん、今日つまらなかったですよね。私と一緒のせいで変なトラブルにも巻き込まちゃったし」
変なトラブルとは、もちろん女子高生のナンパのことだ。
影慶を一人で待たせた時間も多く、邪鬼からの任務とはいえ、今日は自分のせいで無駄な時間を過ごさせてしまっただろうと感じていた。
「いや、それはない」
「そんな無理しなくても……」
「俺のこと、格好良いと思っているのだろう?」
「えっ、えっ~! さっきのやっぱり聞いてたんですか!?」
突如影慶から不意を突く発言が飛び出し、優香は思わず声を上げ、目を丸くして驚く。
「当たり前だ。他は俺に服をうれしそうに選ばせていたな、かわいらしかったぞ」
「か、かわいらし……」
普段はポーカーフェイスが多い影慶も、この時ばかりは優香に向かって、意地悪な笑みを浮かべる。
一方、優香は恥ずかしい言葉が続き、どんどん紅潮していった。
おとなしくなった優香の肩に、分厚い革手袋に覆われた影慶の手が優しく添えられ、耳元まで顔を寄せると、優香はビクッと反応する。
「――今度外出許可が出た時は、俺が選んだ服を着るんだな」
優香に対して低い声でそっとささやく。
そして影慶は添えた手を静かに離すと、何事もなかったように再び歩き始める。
優香はポカンとして、しばらく影慶の背中を見つめていた。
「え、影慶さんと二人きりで私服だったから今ドキドキしてる、だけだよね……!?」
胸に手を当てて、鳴り止まない心臓の音を確認しながら、優香は男塾に帰れば、元に戻ると信じるしかなかった。
――しかし、実際は男塾に戻っても、学ランを着ている影慶に対してもドキドキが止まらず、仕事がはかどらなかったという。
+おまけ+
「よう影慶、この前は優香とデートで楽しかったか?」
「……卍丸」
天動宮の廊下を影慶が進んでいると、窓際に佇んでいた卍丸に呼び止められた。
「あれは邪鬼様から仰せつかった重要な任務。野暮な詮索をするではない」
くだらんと言いたげな表情で、影慶は進む足を止めず卍丸の前を通りすぎようとする。
「へっ、よく言ったもんだぜ。デートの相手に一号の坊主どもを候補に外したのもお前だろう」
「何だと……?」
卍丸の一言に、影慶はピタリと足を止め、鋭いまなざしを向けて睨む。
「邪鬼様の扉の前にいた三号生から聞いたんだよ。邪鬼様が雑用だから一号生にさせろ、って話だったのに『初めての試みだから、まずは自分を同行者にさせてくれ』なんて無理やり懇願したんだろ?」
いつものマスクを外しているせいか、卍丸はいっそうニヤニヤした笑みのまま影慶に問い掛ける。
「……たしかに懇願したのは事実だが、俺は責任者として当然のことを」
「フッ、どうだかな。散々優香をからかって『かわいらしい』とか浮いたセリフを吐くのは、責任者のする事じゃねぇよ」
「なっ……貴様、見ていたのか!?」
優香と自分しか知らないはずの出来事を話す卍丸に、影慶は掴みかかりそうになるが、
予期していた卍丸はひらりと空中に身体を浮かせ、ご自慢の体術で影慶との距離を取る。
「あんな男塾の近くでイチャついてる方が悪い。センクウたちや一号どもに知られたくなったら、いい加減告ったらどうだ。モタモタしてたら一号の坊主どもに盗られるぞ」
「貴様……」
図星といった表情を見せる影慶に、卍丸は「世話のやける野郎だな」と小さくつぶやいて、廊下を後にした。
この挑発で影慶が告白したかどうかは、また別の話である――。
++あとがき++
初!男塾の夢小説です~!
六年ぶりに書いた夢小説がこれってどうですか(笑)
もう一五年前から好きなキャラ!というか初恋なんですが、影慶さまの夢をようやく書けて幸せですっ!
男塾のキャラとデートしてぇ!って事で、影慶さまとデートする夢。
JKに逆ナンさせてみました。影慶さまも一応高校生だけど(げふん)
いやでも影慶さまは、ジャケットとか着たら大人の色気プンプン出ると思う……!
うちの影慶さまデレすぎてません? 一応最後の卍丸さんでツンデレな面は出したんですけど(恥)
卍丸さんはこういったキューピット的な役割が似合うなぁって……外見は世紀末からの使者感半端ないですが(←おい)
このお話の続きは書きたいですね!
これからどんどん男塾夢、増やしていきたい~~(笑)
2018.03.20
2020.06.11 表現など若干修正