ワールドブレイク
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「まさか、光平くん……なの?」
「マジ、マジ! 大マジ!」
信じられない、と言った顔をして尋ねる私をよそに、チャラ男――じゃなかった光平くんは、二カッと笑って答えた。
どうやら目の前のチャラ男が光平くんだということは(非常に残念であるが)事実らしい。
――ってか、あの光平くんが、こんな笑い方もするなんて……。
私の記憶では、光平くんの笑顔はここまで爽やかでもなかった気がする。
しかも、オドオドしていた口調までもがチャラ男に変わっている。
中学を卒業してから一体彼の身に何があったんだろう、とか考えながら、ただ茫然と光平くんを見ていると、
光平くんは笑顔のまま、あの軽い口調で話し始めた。
「俺さ、ダッセー自分をなんとかしたくて高校デビューしちゃったんだよねー! チョー違うっしょ?」
腕や首につけた装飾品をジャラジャラ鳴らせながら、光平くんはその場でくるりと回ってみせた。
高校デビューどころか、もはや詐欺と言っていいほどの変貌っぷりに私は何か言おうとするが、パクパクと口を開けしめすることくらいしか出来なかった。
「ところで北村さん、相変わらずキレイだねー! どう、俺と付き合わない? なーんちゃって」
光平くんはまるでナンパのような、おどけた調子で言った瞬間、今まで黙っていた鬼柳が突然立ち上がって、座っていたパイプ椅子を光平くんに向かって投げた。
いきなりのことで、ビックリして椅子から崩れ落ちてしまい「危ない」と声をかけることも出来なかったが、間一髪光平くんは受け止めた。
間一髪――といっても、まるで予想していたかのような軽々しい受け止め方だった。
「ちょ、京介、怒んなって。冗談だろ?」
パイプ椅子を投げ付けられたというのに、光平くんは腹を立てる様子もなく、むしろニヤニヤと笑っている。
あの鬼柳をからかって楽しんでいるなんて――!?
流石にこんなコケにされたら鬼柳も怒るんじゃないのかと鬼柳の方にこっそりと視線をやる。
だが、怒っているのかと思えば、鬼柳も同じようにニヤニヤと笑っていた。
「光平、俺の目の前で手ぇ出すとは良い度胸してんじゃねえか」
「可愛い子には声掛けるってのは、俺の信条なワケよ」
そう言って、ようやく光平くんは鬼柳に投げつけられたパイプ椅子を床に下ろした。
――何なんだろう、この二人は。
私が可愛い子とかいうのは鬼柳の時のようにまた冗談だとして、私にはとてもじゃないがついて行けない。
サティスファクションの連中もそうだけど、この二人も私とは全くの別次元にいるような人間に思えた。
しかも、その内の一人が昔親しくしていた光平くんだというのが悲しい事実である。
とりあえず落ち着こうと私は椅子に座り直した。
向こうも静まったのか、光平くんが鬼柳が投げつけた椅子に背もたれの方を前にして座り、今度は私を不思議そうに見つめてきたのだった。
「それにしても……まさか北村さんが京介と付き合うとはねー。軽そうな男はキライだと思ってたんだけど」
「その勘違いを今すぐ直してもらえないかしら、光平くん」
「照れんなって! 優香!」
おそらく鬼柳にでも吹き込まれたのか、私の中では百パーセント有り得ないことを勘違いしている光平くんに、私はすぐさま訂正を求めた。
空気を読めないのか鬼柳はニヤニヤと笑って言ってくるので、これ以上変な誤解が生まれないように「さっさと自分の椅子取って来なさいよ」と、冷たく突き離しておいた。
鬼柳は「ちぇ」と拗ねたように口を膨らましたが、全く可愛くない。むしろキモい。
そんな私の冷めた目線を見て、光平くんは苦笑いを浮かべた。
「ごめん、ごめん、北村さん。ちゃんと分かってるよ」
「ホントに?」
ジトッと疑いの眼差しを向けると、光平くんはこくこくと縦にうなずいた。
――まったくホントに勘違いしてるかと思ったじゃない。
すると、私たちが通じ合っている様子を見ていた鬼柳は不満(不満足?)そうに口をはさんできた。
「っていうか、お前らの関係って一体何なんだよ?」
「私と光平くんは中学三年間クラスで一緒だったクラスメイトなの」
「へぇー」
鬼柳は興味深そうに目を見開く。
「今はこんな風にチャラチャラしてるけど、昔は瓶底眼鏡で髪も染めてなくて凄く真面目だったから、一緒に勉強してたりしてたの」
「ああ、そういえば二年前の光平は、今時ありえねぇぐらいダサかったな」
「ちょ、忘れろよ。京介」
そうそう、二年前の光平くんは鬼柳の言う通りダサいと言ってはなんだが、
今よりはずっと地味な格好をしていたはず。
――って、ちょっと待て。鬼柳の言う通り……?
「ちょっと待って。……あんた、前の光平くんの姿知ってるの?」
「知ってるも何も、この光平にしたのは俺だぜ☆」
「あんたのせいなのー!?」
衝撃の事実に、驚いて無意識にも張り上げた私の声が店内中に響いた。
……そこから何故か誇らしげに語り始めた鬼柳の話をまとめると、
最初に二人が出会ったのは昔に塾の帰りに不良に絡まれた光平くんを鬼柳が助けたのが事の始まりだったらしい。
ここだけ聞くと鬼柳がちょっとだけ良い奴だと見直したかもしれないが、
光平くんは何を血迷ったのか、以降鬼柳とよくつるむようになり、鬼柳に影響されたのがキッカケでこんな風にチャラ男に大変身を遂げたらしい。
話を聞いていて、昔の光平くんの真面目さを好んでいただけに、こんな風に光平くんを変えた鬼柳を真剣に恨んだ。
――鬼柳と出会いさえしなければ、今頃光平くんは平凡かつ善良な道を歩んでいただろうに……。
そんな私の鬼柳に対する怒りが伝わったのか、光平くんが静かに口を開いた。
「北村さんは、やっぱりこんなチャラチャラした俺キライ?」
「う……うん。前の方が好き」
「そ。でも俺、あの時の俺だーいキライ」
光平くんは舌をペロッと出し、けろっと言い放った。
そのまま光平くんの話は続く。
「今の俺の方が断然スキ。だってあの時の俺より、今の俺の方が何倍も輝いてるっしょ?」
キラキラと瞳を輝かせ、嬉しそうにニッと笑う光平くん。
――確かに昔の光平くんは、こんな風に明るく笑うことは無かった。
いつも大人しくて、おどおどしていて情けない姿も見せてたし。
こんな眩しい笑顔を見せられちゃ、とてもじゃないけど反対できなかった。
今の光平くんの姿を――認めようとこの時初めて思えた。
「ごめんなさい……光平くん」
「いいよー。お詫びに俺んトコのカード買ってくれたら許してあげんよ」
おどけたように言う光平くんに、いつのまにか私もつられて笑みをこぼしてしまった。
私と光平くんが笑い合う様子が気にいらないのか、さっきまで黙って見ていた鬼柳がムスッとして口をはさむ。
「なんか良い雰囲気ー。俺もまぜろー!」
「あんたはジャマ!」
「ひっでーよ、優香!」
「ハハハ、京介のヤツ、へこまされてやんの」
「うっせー!」
なんだかんだでその場は和やかな雰囲気になって、
たまにはこういうのも悪くないかもしれない……と私は思ったのだった。
2010.03.23 酒井