ワールドブレイク
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―――デュエルモンスターズ
さまざまなモンスターや魔法・罠カードを駆使して敵のモンスターを打ち負かし、相手のライフをゼロにし勝利することがこのゲームの目的です。
使用するカードには、たくさんの種類が存在します。
まずは、その中からカードを選び、あなただけのデッキ(ゲームで使用するカードの束)を構成してみましょう。
「……いや、いきなり構成なんて無理でしょ」
思わずPCの画面に写る文章に突っ込んでしまった。
ジャック・アトラスとデュエルモンスターズで三日後に対戦することになってしまった私は、翌日の朝からネットでデュエルについて研究していた。
あの悪夢のような一日は夢だと信じたかったけど、あいにく私のプライドもかかっている為、大人しく現実を見ることにした。
たかがカードゲームで、負け犬呼ばわりなんてまっぴら御免だ。
プライドを懸けたからには絶対に負けられない。
幸いにも、私の通うネオ童実野学園は公立高校で土曜も休みであり、まずは今日一日でルールを把握しようと決めた。
初めは、「たかがゲーム。三日もあれば、なんとかなるでしょ」と高をくくっていたんだけど――――
それは私の大きな間違いだった。
「何このゲーム……なんでカードの色とか分かれてるの? チェーン? カウンター?」
実際にネットのHPなどで調べていくと、意味不明な単語や膨大なカードの種類、さらにややこしいルールの多さに驚いた。
さすがの私でも、このデュエルモンスターズというゲームを完璧に把握することは、悔しいが一日では到底出来そうにない。
とは言っても、ルールやカードの意味を理解しない限り、ジャックに勝つことなど不可能に近い。
仕方なく私は再びルールに目を通すが、訳の分からない単語を前にし、大きな溜息を吐いてしまった。
「てっきりシンプルなゲームだと思っていたのに、まさかこんな複雑なゲームだったなんて……あいつら、こんなゲームを平然とプレイしているワケ!?」
つい声を荒げてしまったが、冷静に考えてみると奴らが出来ることは(運動以外は)私にだって出来るはず。
ただ、この複雑なルールや膨大なカードの種類や効果をたった三日で把握できるかということが課題だ。
はたしてネットで調べるくらいで、ジャックに勝つことなんて出来るのだろうか。
最初はやる気だったが、複雑なルールを書かれた画面を見る度に不安や焦りが募っていく。
だけど、今日中にルールくらい覚えないと時間が…………
私が一所懸命に画面の前で悩んでいる矢先だった。
―――ピンポーン
ふいに玄関のチャイムが鳴る音が部屋に響き渡った。
まだ朝の八時にも満たないというのに、こんな時間に誰だろう。
ちなみに私は訳あって一人暮らしのため、チャイムに出られるのは私しかいない。
時間も時間で居留守を使おうとしたけど、とりあえずは相手の顔だけ見ようと、パソコンを閉じて立ち上がる。
それに何故か、無視する気にはなれなかった。
どうせ新聞の勧誘やセールスやロクな奴らでは無いはずなのに。
しかし、壁につけられたインターホンの液晶画面に映っていたのは、そんなロクな奴らどころでは無く―――
鬼柳京介。
私をこんな事態に巻き込んだ全ての元凶でもある男の姿だった。
「ぎゃぁぁああ!! な、な、なんで、アイツがいるのよ!?」
もう一度画面に写る男を確認してみたけど、鬼柳京介に間違いない。
あんなダサい紫色のバンダナを巻いている男など鬼柳以外、日本にいないだろう。
休日の朝から近所迷惑レベルな声を上げてしまったが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
私が中にいると分かってか鬼柳が玄関の戸をドンドンと叩き始めたので、私はひとつ溜息をして嫌々ながらも通話ボタンを押した。
「………ちょっと、近所迷惑なんだけど」
『お、優香。ようやくお目覚めか?』
インターホン越しの私の声に気付くと鬼柳は、のん気な声で答え同時に戸を叩く音も消えた。
やはり私をインターホンに出させる為にやったらしい。
「お目覚めって私は朝六時から起きて……じゃなくて、なんで私の家を知ってるワケ!? あんたに教えた覚えが無いんだけど!」
『そりゃ俺は優香のことなら何でも知ってるからな。勿論スリーサイズもバッチリとよ』
「ウソッ!?」
鬼柳の言葉にゾッと寒気が走り、咄嗟に自分の肩を抱いた。
家の場所もスリーサイズも知っているとか、か、完全にストーカーじゃない!
しかし、私が肩を抱いた途端、画面越しの鬼柳は軽く吹き出した。
「な、何なの、急に」
『いや、流石にスリーサイズは嘘に決まってんだろ。まあ、触ったら分かるけどな』
「~~~ッ、サイテー! 誰が触らせるかっ!」
『ちなみに家の場所は、俺が独自に調べさせてもらった。リーダーがメンバーの家くらいは知っておくのは当然だろ?』
……と、ウザ爽やかに聞かれても、知っておく以前に私はまだ正式メンバーではない。
もちろん、サティスなんたらのメンバーになるつもりも一切無いんだけど。
でも、どうやって鬼柳が私の家まで突き止めたのかが謎だった。
私が一人暮らしをしている事実は学校でもごく一部の人間しか知らないはずなのに……。
とりあえず、この鬼柳京介という男を侮ってはいけない、とほんの少しだけ感じた。少しだけね!
「まあ、家のことは後にして……何しにここに来たのよ? 私としては一秒でも早く帰って欲しいんだけど」
『お前のために来たってのに、そう寂しい事言うなよ。優香が困ってるんだろうと思ってリーダー直々に助けに来てやったんだぜ』
「助けに?」
『ああ、俺が教えるって言っただろ? デュエルモンスターズを』
そういえば、昨日にカードショップで鬼柳が「俺が教える」とか言っていたっけ。
あの時は、どうせ場のノリで口にした嘘だと思っていたけど、まさか家まで突き止めて教えに来るなんて予想外だった。
誰かに教えてもらえる!と思わずパッと顔を明るくしたが、その相手が鬼柳だということを思い出し、ブンブンと頭を振った。
私の作り上げたプライドの為といっても、よりによって鬼柳に教えてもらうというのは―――……
「べ、別にあんたの教えなんか必要ないわ。私ひとりでもこんなゲームくらい、すぐに―――」
『へえ、俺の助けがいらないってか? どうせ優香のことだから、ネットでカードのことを調べてんだろ。カードの膨大さに対してたった四十枚のカードでデッキを作るなんて難しいとか思ってんじゃねぇか?』
「………うっ、そ、それは……」
悔しいが鬼柳の言ったことは全て図星で、私は言葉に詰まってしまった。
ネットで調べている事もデッキを作るのは難しいと感じていた事も確かだ。
この男、本当に私のことを何でも知っているんじゃないかと、ほんの一瞬だけ思ってしまう。
画面に映る鬼柳の視線が、モニター画面越しだというのに私にジッと向けられている気さえした。
『言葉が詰まるってことは、図星みてえだな』
「…………悔しいけど、あんなにカードの枚数が多いなんて思ってなかったわ。四千枚以上だなんて多すぎでしょ」
『それだけデュエルモンスターズっていうゲームは奥が深いってことだ。本当だったらそのデュエルモンスターズの楽しさをじっくり教えてやりたいんだが、猶予は三日しかねえんだよな』
そう言って、鬼柳は困ったように腕を組んだ。
いや元々三日と言いだした張本人はアンタだから、と突っ込もうとしたけど、「そこでだ!」と鬼柳が声を上げたのでビクリと肩を震わせてしまった。
「い、いきなり何!? ビックリしたじゃない!」
『なーんて、俺が何も準備なしに此処まで来ると思ったか? 優香にはデュエルに慣れてもらうために、特別に俺が作ったこの特製ストラクチャーデッキを使ってもらうぜ!』
「ストラクチャーデッキ? って、確か最初から構成されてるデッキよね? 公式HPでいくつか種類があるのを見たような」
『そうだ、満足したデッキを作るのは初心者には難しいし時間が掛かる。仮にすぐ作れたとしても、あのジャックの強力なデッキには勝てない。だが、俺が組んだこの特製デッキならジャックに勝てるんだよ』
私のような初心者でも、ジャックに勝てるデッキ!?
思わず、目を見開いて驚いた。
鬼柳がポケットから出したあのカードの束、じゃなかったデッキを使えば、私は負け犬呼ばわりされずに済むってこと……!?
鬼柳の手は絶対借りないと思っていたけど、その特製デッキを見た瞬間、気持ちが揺らいだ。
―――初心者の私ひとりで構成するより、素直に鬼柳の構成した特製デッキを使った方が恐らく勝つ可能性は高い……。
鬼柳の手を借りるのは不本意だけど、私がデッキを構成するよりはマシだろう。
特製デッキにごくりと喉を鳴らし、私は口を開く。
「本当に……勝てるの?」
『それには完璧にこのデッキを使いこなさなきゃならねえが……なに、優香なら三日もありゃ余裕だ』
「じゃあ、どうやったら使いこなせるの?」
『んじゃ、ここ開けてくれよ』
鬼柳が、ドンドンと玄関の戸を叩く。
余談だが、私は一度もこの家に男を上がらせたことはない。
ましてや女にすぐ手を付けるという噂がある鬼柳を入れるなんて、いくら私のプライドに懸かっているとはいえ―――正直それだけは遠慮したい……っ!
「い、嫌よっ。あんたを家に上がらせるなんて、ぜーったい嫌!」
『ま、そう言うとは思っていたぜ。じゃ、昨日いたカードショップでデュエル出来るスペースでどうだ? そこなら良いだろ?』
昨日いたカードショップのスペース――というと、確かジャック達が座っていたテーブルやイスがあった所だろう。
下手に家に入れて何かされるよりは絶対マシだし、ジャックに勝つ為にはどの道、鬼柳の力を借りなければならない。
簡単に鬼柳が引き下がったのが少し気になったが、私は渋々と承諾した。
そして通話ボタンとPCの電源を切ると、適当にカバンを手に取った。
一応鏡も見たけど、服装も特に可笑しくは無いだろう。
まあ折角だし、もうちょっと良い服を着た方がいいかな……
って、別にデートでも何でも無いんだから、このままで良いはずじゃない!
何故か胸がモヤモヤとする気持ちを抑え、ズカズカと玄関まで歩くとカギを開けて、慎重にドアを開けた。
すると目の前には、先ほどまでモニター越しで会話していた鬼柳の姿があった。
しかし、よく見れば頭のダサいバンダナ以外は結構センスの良いファッションをしていて、今風のお洒落な高校生といった感じが出ている。
てっきり、シャツインで茶色のジャケットとか着ているかと思っていたのに意外だった。
……あくまで頭のバンダナを除いての話だけどね。
勝手に私に脳内でファッションチェックをされている事に勿論気付いてない鬼柳は、「よ」と軽く手を上げて私に声を掛けた。
「ようやく開けてくれたな、ってか、私服だとスカート短いじゃねえか。優香って綺麗な脚してんのに勿体ねえ」
「なっ!?」
ま、また、この男は会うや否やスカートの話題を……!
制服のスカートよりは丈が短いのは確かなんだけど。
綺麗な脚とか言うのも、おそらく私を油断させるための嘘に決まっている。
鬼柳なら他の女にも、同じ事を平気で言ってそうだし。
うん、絶対に口にするはずだ。絶対に―――
「言っておくけど、私はジャックに勝てるっていうその特製デッキとかいう使い方をあんたに聞くだけだからね! じゃなかったら、誰があんたとなんか出掛け―――」
「あれ、もしかしてちょっと照れてる? ちなみに俺は女に綺麗な脚だなんて言うのは初めてなんだけどな」
「はあ!? そ、そんなワケないでしょ! それより早くカードショップに行くんでしょ!? 変な教え方したら承知しないんだからねッ!」
そうキツく言い放つと、私は玄関の鍵を閉めて、目の前の鬼柳を押してカードショップへとズンズンと足音を立てながら歩いて行った。
今、顔が熱く感じるのは、きっと外の暑さにやられたに違いない。
鬼柳なんかに照れてるなんて、まず有り得るはずもなかった。
大体、初めてだなんて、いつも他の女にだって言ってるんでしょ……っ!
何度も自分に言い聞かせてはみたが、顔の熱だけはしばらく下がる気配はなかった。
その私の後ろからはクックッと笑い声が聞こえたけど、
こんな顔を見られるワケにもいかないので聞こえないフリをし私は歩く速度を上げたのだった―――。
<あとがき>
冒頭のDMの紹介文は、一部公式ルールから拝借させていただきました。
2010.02.01