ワールドブレイク
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「遊星達に紹介する」と言ったきり行き先も告げず、
私が逃げ出さないように腕を引っ張って連れて行く鬼柳。
てっきり校門前にいるかと思っていたのに、あっさりと校門を通り過ぎ、近くの沙手雷斗(サテライト)商店街へと無言で入って行った。
サテライト商店街には、私も休日に問題集など買う時に氷室書店に行っている為、よく出入りしている。
が、あくまでそれは休日の話。
平日、しかも家に一度も帰らず制服でサテライト商店街に来たことはない。
まず寄り道は校則違反だし教師に見つかれば、学級委員で優等生の北村さんのイメージは崩壊寸前にまで陥ってしまう!
焦った私は、すぐさま声を上げた。
「ちょ、ちょっと、待って! 寄り道は校則の21ページで禁止――」
「んな校則なんて気にしてると満足できねえぜ! いいから俺に黙ってついて来いって」
そう言うと水色の髪を少し揺らして振り返った鬼柳は、気持ちの悪いウインクを私に送った。
カッコイイ事を言い遂げたと思ってるのだろうか、満足気に鼻歌を歌っている。
相変わらず調子だけは良いヤツだと思う。
――もし、教師と出くわしたら泣いて叫んででも
鬼柳が無理矢理自分を此処へ連れて来た事にしよう。
実際、無理矢理連れて来られたは確かなのでこう言っておけば問題はないだろう。
我ながら完璧だ。流石毎回模試で全国10番以内の私。
……一方で鬼柳が毎回5番以内に入っている件については、
きっと採点ミスとか脅迫とか、何か裏があるのだと信じたい。
その鬼柳は、先程から足がヘトヘトの私を気遣ってなのか
あるいは走るのが面倒になったのか、今は早足気味で歩いていた。
ヤツが私を気遣うなんて絶対ありえないので、おそらく後者の方に決まっている。
「着いたぜ」
不意に鬼柳の足が止まり、慌てて自分も足を止めると、
足元に向けていた顔を上げ、店だろうか看板にやけに大きく書かれた文字が一番に目に入った。
『カードショップ青山』
青山、あおやま……?
どこかで聞いた事のあるような苗字だけど、問題は青山よりカードショップだ。
てっきり、どこぞかの空き地や無人倉庫等にたむろしているのかと思いきや、
至って平凡なカードショップに鬼柳は足を止めた。
カードショップなんて高校生にもなって通っているという事なんだろうか。もし本当だったら有り得ない。
そして本当に不動遊星達はここにいるのか、と疑念を抱いてしまう。
「ねえ、此処本当に……」
「ちわっーす!」
私の声は、まるで出前でも運んできた人のような鬼柳のでかい声にかき消された。
同時に、扉を開けて鬼柳はぐい、と私の腕を引っ張り私を店内へと押し込んだ。
(な、何なの!?)
そう叫びそうになったが、目の前に飛び込んできた光景に言葉を失った。
店内には、(おそらく)色々な種類のカードが壁一面に貼られている。
チラシも貼ってあって、「高価買取! 2500円から~」など文字とカードのイラストが書いてある。
こんなカード一枚で2500円? と私には到底理解できない内容ばかりだけど、店内の奥にはさらに理解できないものがあった。
奥のいくつかの机と椅子が置いてあるスペースに、
不動遊星、ジャック・アトラス、クロウの3人が座り、机一面にカードを広がせていたのだった。
周りは小学生くらいの男の子数人が座っているので、高校生の制服は明らかに浮いている。
というか、クロウ以外ルックスがあまりカードや店内の雰囲気と合っていなくて、余計浮いていた。
何でこの三人がカードショップに……?
三人と鬼柳のカードショップとの接点がよく分からなかった。
それよりか、先ほどからの奥の三人の視線が痛い。確実に自分たちに気付いている。
思わず目線を逸らすと、気にせず鬼柳は私を三人の前へと強引に連れて行く。
抵抗はしなかった。
いや、抵抗したってどうせろくな事もない気がした。
なるがままに私は三人の目の前に立たされ、視線をさらに浴びせられる中、
鬼柳はニヤリとこの場に似つかわしくない笑みを浮かべた。
「よう、遊星、ジャック、クロウ。ちゃんと優香連れて来たぜ」
「本当に連れてくるとは……」
「いかにも連れて来られたって感じだけどよ、んでもまさか来るとはなぁ」
不動遊星とクロウがそれぞれ驚いた表情を見せた。
クロウの言う通り、無理矢理に連れて来られたからしょうがなく来たに決まっている。
少しでも憐れだと感じたなら、すぐにでも鬼柳から私を解放させてほしいと思う。
一方ジャック・アトラスは無言で腕を組み、ずっと私を目で捕えている。
正確にいうと、睨みつけられている気がしなくもない。
そんなジャック・アトラスの威嚇ともいえる行動に気付いていないのか、鬼柳は呑気に言葉を続ける。
「ちょっと予定は狂ったが、とりあえず一週間は、優香は俺達のチームの一員となる。もちろんチームの一員兼友達だからよ、優香とも仲良くするんだぞ」
「あの、別に私はチームの一員にまでなった覚えはないけど」
「いいじゃねえか、俺達もう友達じゃん!」
「一週間限定だけどね」
馴れ馴れしく私の肩を抱こうとする鬼柳の手を、スッと一歩退いてかわす。
行き場を失った鬼柳の手は、三秒ほど止まったままだったけど、仕方ないといった感じで遊星の肩へポンと手を置いた。
「遊星は優香のチーム入りは、一週間とは言わずに大歓迎だよな?」
「ああ、俺は別に構わない」
「何でそう言えるのよ」
「クロウはどうだ?」
「俺も別に構わねえんだけどよ、問題はジャックだな……」
クロウが眉をしかめ、隣に座るジャックを横目で見る。
未だにジャックは私に真っ直ぐ睨んできている。
もしかして、この四人の中でジャックだけが私のチーム入りに反対しているのだろうか?
一瞬、私に希望の光がうっすら見えたような気がした。
「そこの女」
今まで口を閉ざしていたジャックが遂に言葉を発した。
「そこの女」といえば、店内に女は私一人しかいないので、自然と私の事となるだろう。
というか、この人は私の名前を覚えていないのか。
高校生で「そこの女」など言う男も、今時そうそういない。
「貴様、俺達のチームに加わるという事は、デュエルも出来るとみて良いんだな」
「は? でゅえっ……え?」
デュエ……ル……? デュエルって?
聞きなれない単語に私は眉をひそめた。
一応英和辞典丸々一冊を完璧に覚えているけど、そんな単語は聞いたこともない。
チーム内での何かの暗号……?
意味が分からず黙っている私に、心配でもしたのか鬼柳が助け舟を出した。
「デュエルって、ほら、カードゲームの事だ。今クラスでハヤってんじゃん。デュエルモンスターズってんだけど、優香チャン……もしや知らねえフラグ?」
「何それ、初めて聞いたんだけど」
「ほら、見るがいい。デュエルは出来るどころか存在すら知らんとは。だから俺は初めからコイツをチームに入れるのに反対しているんだ」
上から目線でコイツと呼ばれ少し頭にカチンときたが、ここはクールになれ、優香!
ここでジャックが私のチーム入りに反対し続ければ、いずれ鬼柳やその他二人もデュエなんたらが全く出来ない私に興味も薄れ、
一週間お友達という馬鹿馬鹿しい約束も破棄になるのではないのか。
段々と希望が見え始め、ジャックの周りに光輝くオーラが漂っている気さえもした。
しかし、空気を読めない満足しか頭にない男はやっぱりトンデモナイ事を言いだした。
「じゃあ、俺がこれから優香にデュエルを教える。それで、三日後ジャックと優香のデュエルして、優香が勝てばチーム入りに賛成してもらうぜ、ジャック!」
「はあッ!? ってか、誰がこんなチームに……」
「フッ……フハハハハハ! ド素人の女が俺を倒すだと!? 面白い、その挑戦受けてやろう。まあ、どうせ俺のエンターテイメントな勝利で幕を閉じると思うがな!」
店内に響くほどウザ……否、高笑いしながら立ち上がり、カードショップを去るジャックに鬼柳並に空気が読めないと即座に判断した。
もう周りに先程の輝かしいオーラなど有りもしない。むしろドス黒いオーラと言った方が正しい。
なぜ、ここにいる連中は誰も私の気持ちを尊重しないの!
いや、もしかしたら比較的常識人である、クロウと不動遊星なら自分の話も聞いてくれるかもしれない。
救いを求めるような眼で、私は遊星とクロウに見やった。
「あ、あの、私の話も……」
「大丈夫だ、優香。俺も手伝おう。絆があれば、不可能な事だって可能にもなる」
「そうだぜ! 優香! デュエルなんか簡単だって、ジャックの野郎を屈辱に満ちた顔にさせてやれ!」
二人の目は気合で溢れ、しかもどさくさに紛れて私を下の名前で呼んでいる。
駄目だ、もう誰も話を聞いてくれそうにない。
周りから見れば絶望した表情でいるだろう私に、背後から肩をぽん、と鬼柳の手が置かれた。
「やっぱりジャックはンな簡単には優香を認めねえかァ。一応ツンデレだから仕方ねえけど許してやってくれ」
「許すも何も、私はチームに入るつもりさえないし、大体四人とも友達になりたいなんて嘘じゃない」
そうだ、当初鬼柳は他の三人も含め自分と友達になりたいと言っていた。
なのに、いざ会ってみればジャックだけ自分を認めようともしない。
結局私と友人になりたい発言も、ただ面白がって言っただけなのかもしれない。
あの真剣な眼差しも全部ただの嘘……
そう考えた瞬間、何故か心がチクリと痛んだ。
「はあ、何言ってんだよ。だからジャックはツンデレって言っただろうが。俺達は優香と友達になりたいってのは嘘じゃない」
「……え?」
「そうだ、俺も優香の事は以前から興味を持っていた。いつも学級委員としてクラスメートをまとめ、インチキをする教師は恐れず立ち向かっていたりしているだろう。……きっとその精神はデュエルでも役に立つはずだ」
「お、俺は鬼柳や遊星が友人になりてえって言ってるから、なら一緒に……って思っただけだからな! ジャックも別にお前のこと嫌いじゃねえと思うぜ」
目をパチクリさせて私は驚いた。
鬼柳はともかくあの不動遊星が私になど興味を持っていたなんて。
不動遊星は女子には興味も何もないと噂されているだけに、自分を見ているとは思ってもいなかった。
どうでもいいけど、クロウの顔が少し赤い色に染まっているのは気のせいなんだろうか。
しかしその刹那、見計らったように鬼柳が私の肩へと腕を回してきた。
こうなかったからには、身をよじっても離れることができない。
私としては不覚だったが、鬼柳は満足そうな表情をしている。本気でコイツ……嫌いかもしれない。
先程の心の痛みもきっと、胸が偶然痛んだだけに違いないはず。
「だから、一緒にデュエルに勝ってよ、ジャックを素直にさせてやろうぜ。あんだけ言われてムカつかねえのか?」
「別に……ってか、その前に腕を離し……」
「ここでジャックに負けたら、クラス中、いや学校中にあの学級委員の北村さんがデュエルでボロ負けしたとか、んな噂が流れるぞ。まして勝負を放棄したら腰抜けや負け犬とか呼ばれ―――」
「ちょっと待って! 負け犬なんて絶対呼ばれたくないっての! わ、分かったわよ。デュエルしてあいつに勝てば良いんでしょ! その代わりこの三日間も一週間の内にカウントしてよね!」
なんだか上手いこと鬼柳に乗せられた気もしなくはないけど、そんな事はどうでもいい。
それよりこの私が負け犬? 敗北? ありえない。
小学生からずっと学年トップ(※今は二位とかだけど)で、小・中学は名門私立、高校は試験日に運悪くインフルエンザに掛かり、仕方無くこんな公立に入学したけど、一応エリートの道を歩んできた私が、
デュエルなどというカードのお遊び如きで変な汚名を付けられるなんて許されない。
もはや、腕に回された奴の手も気にしている場合ではなかった。
負け犬と呼ばれたくない一心で闘志に燃える私を見やり、鬼柳がニヤリと笑みを浮かべた。
まさに「計画通り」といった顔をしているだろうが、今の私には気にする余裕もない。
「いいぜ、優香。俺が、満足できる勝利を掴ませてやる。同時にデュエルの楽しさもな!」
後に、なぜこの時もっと冷静に対処すれば良かったと頭で何度も後悔したのは、言うまでもない。
2009.12.11