ワールドブレイク
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鬼柳京介――こいつの噂は嫌でも耳に入ってきていた。
「満足」というのが口癖で、あの「サティスファクション」とか訳の分からないチームを作った創設者でもある。
むかつく事にルックスだけは抜群で、いつも女を変えては弄んでいるとかなんとか。
あの四人の中で特にこいつとは、絶対に関わりたくないと思っていた。
……思っていたのに!
今、私はどうして鬼柳京介と二人っきりで体育館の倉庫の中にいるのだろうか。
「よお、来てくれねえかと思ってたぜ。優香チャン」
肝心の鬼柳は壁にもたれて私の事を待っていてくれたようだった。
呼び出した側なんだから当然だけど。
どうせ来なくても来させるようにするんでしょ
と突っ込みたかったが、面倒な事になるのは嫌いなので言わない事にした。
他の三人も一緒かと思ったが一人だったのが少し意外だった。
いつもクラスでは四人一緒にいるのに、こうやって一人だけ見るとなんだか新鮮に感じる。
私は、優香チャンなどと気安く呼んでくる鬼柳を無視し、こちらの用件をさっさと口に出した。
「こんなところに私を呼びだして何か用?」
「優香チャンってスカート長いよな……もしかして彼氏いねえの?」
私のスカートをじっと見てくる鬼柳に、思わず一歩後退する。
いきなりそんな話題か。
確かに私のスカートは膝下四センチと、まるで昭和の女子高生のスカートの丈の長さだ。
でも校則にはそう書かれてあるし仕方ない。
彼氏だっているわけない、というか彼氏がいる必要もない。
大体鬼柳がこんな事を言いに私を呼んだのではない事は分かっている。
私はイライラしつつも口を開く。
「余計なお世話。まず、あんたに関係ないでしょ。他に言う事ないようなら帰るけど」
「ちょっと待て、折角答え教えてあげたってのに礼も無しか?」
帰ろうとくるりと鬼柳を視界に入れないように顔を方向転換させると、肩をがしっと掴まれる。
久々に男に身体に触れられ、ぞっと背中から悪寒がした。
よりによって一番嫌な奴に。
「先程はありがとうございました。じゃ、私はこれで」
「いや、言葉じゃなくてな」
適当に頭を下げて謝罪の言葉を口にし、さっさと逃げようとする私を鬼柳の手が離さない。
悲しいことに何で女より男の方が力が強いのだろう。
こういうときだけ、人間を男と女に分けた神様ってのを憎んでしまう。
誰に憎んだって結局一緒なんだけど。
「あの、もうお礼は言ったんだけど」
「礼は俺達と友達になってくれたらいいんだ」
「はあ?」
まったく場違いな言葉に、私は思わず訊き返してしまった。
私が友達に?
誰と?
……鬼柳とその仲間たちと。
いやいや冗談じゃない!
誰があんな授業もマトモに聞けないチャラチャラした奴らとお友達なんかに!
顔はポカーンとしている私に、鬼柳はなぜか得意げに説明してきた。
「友達って分かるよな? つまり俺達と一緒に満足したりする事だ」
「ごめんなさい、分かりません。ってか、それだけは無理だから!」
鬼柳の手を無理矢理振り切って、私は猛ダッシュで逃げた。
猛ダッシュといっても、体育が大の苦手な私の50メートルのタイムは11秒。
誰が見ても分かるように足が遅い。
一方追いかけてくる鬼柳は、スポーツ万能でたまに運動部の助っ人にまで呼ばれてるという人。
当たり前だけど、すぐに奴は追いついて私の腕を掴んだ。
さっき肩を掴まれたときは、服の上からだったけど、腕からは鬼柳の手の体温が直接伝わる。
だが不思議とさっきの悪寒は走らなかった。
もう振り切る体力もない私は、ぜえぜえ息を切らせながら後ろの奴を見る。
鬼柳は、何ごともないように涼しい顔をしていた。
その顔、私が今までに見たどの顔よりムカつく。
「なんで逃げるんだよ。俺らと友達になるだけだろ」
「だ……だれが、あんたらと……ハアハア……と、友達に……」
「俺達、いや俺は優香と……友達になりたいんだよ」
急に真剣な眼差しで私を見据える鬼柳に、一瞬目が離せなかった。
なんでそんな必死なの?
私と其処まで友達になりたいわけ?
友達になってどうしたいの?
色々疑問が頭に浮かぶ。
でも呼吸するだけで必死な私にそんな余裕はなかった。
久々に全力疾走で走って息が切れているせいなのか、鬼柳の手を振り切れない。
本当だったら振り切って逃げてるのに。どうせ再び捕まると思うけど。
「……って、んな迷うか? じゃあ、一週間友達ってのはどうよ」
なかなか返事の返ってこない私に、迷っているとでも誤解した鬼柳はとんでもない事を提案してきた。
一週間……長い。長すぎる。
本当はあんな4人と関わるのも嫌だけど、一週間適当に付き合っておけば、
鬼柳への借りも返せるし、もう付き纏われなくなると考えるとマシかもしれない。
ようやく息が整ってきた私は、いやいやながらも口を開く。
「もうそれで良いよ。でもその代わり一週間経ったら、今後一切私に関わらないで」
「よっし! んじゃ、チームサティスファクション新メンバー誕生だな!」
勝手にメンバーにされ、ものすごく嫌な顔(のつもり)で喜ぶ鬼柳を見ていたが、
突然掴まれていた腕が引っ張られ、鬼柳が校門の方へと駆け出す。
鬼柳の走るスピードに付いて行くのがやっとの私は、足がもつれそうだった。
「ちょ、ちょっと何処行くの!?」
「決まってんだろ! 早速遊星達に紹介しねえと!」
「はあ!?」
「これからも満足しような、優香!」
「け、結構だから!」
私の有り得ない一週間は幕を開けた。