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ファイブディーズ王国―――近隣国と比べると国土面積は狭く、人口も多いとはいえないが、
機械や文明に発達しており、内部戦争などもなく国民は平穏に暮らしていた。
……が、この平和ボケ同然の国にも危機が訪れようとしていた!
なんと近隣国のサティスファクション帝国が、このファイブディーズ王国を乗っ取ろうとしている――との情報が入ったのだ。
サティスファクション帝国というのは、魔王キリュウが統治していて、
国民という名の信者は毎日「満足」か「サティスファクション」をワンハンドレッド=百回唱えることを義務とされており、
国から支給された変なベストとマントを着用し「デュエッ!」とカードをドローする事が日課となっている意味不明でアホな国の事である。
しかし、満足まみれのくせに結束力は固く、何故か軍事力も強いので近年勢力を伸ばしている国でもあった。
そんな国が、平和ボケボケなファイブディーズ王国に進入されたら間違いなく言いなり(というかアホ)になってしまう!!
国の大ピンチを察知したファイブ(略)の現国王・ブルーノは、冒険者(という名の資格を持つ)四人を至急お城に集めたのだった――。
「さてさて、よく来てくれたね! チーム『噴水広場仲良し連合』!」
やって来た冒険者四人をニコニコと笑顔でD・ホイールを弄りながらブルーノはあたたかく迎えた。
呼び出された冒険者の一人、戦士ジャックは早速目の前の国王を殴り飛ばしたい気持ちをグッと堪え、拳を握り締めた。
どうでも良い情報だが、ブルーノ国王は無類のD・ホイール好きとして非常に有名である。
「その名前で呼ぶなと言っているだろう」
「しょうがないじゃない。チーム名を登録する時にそういう名前になってたんだから」
「クッ……元はといえばクロウ! 貴様が先に変に入力したのだから、こんな名前になったんだろう!」
「し、仕方ねぇだろ! 冗談だと思ってたんだから! 大体わざとじゃねーんだし」
盗賊ことクロウはぶっきらぼうに言い放つと、フンとジャックから顔を逸らす。
全く反省していない様子にジャックは怒り、胸倉を掴みにかかるが、慌ててシスター兼一応今回のヒロインである優香が二人の間に止めに入った。
「喧嘩は駄目だよ、ジャック!」
「ムッ、優香……」
「優香の言う通りだ、ジャック。俺達は言い争いをしている場合ではない……ページ数の関係で今回は時間がないんだぞ!」
序盤から内部事情をドンッ☆と後ろに効果音でもつきそうな勢いで言い切った召喚師こと遊星さん。
いくら何でもここでその台詞は無いだろうとジャックは「メタな事を言うな」と冷静に突っ込むが、
全員完璧なスルースキルを発動し、いよいよ話は本題に入ることになった。
「実は君達を呼んだ理由はね、冒険者である君達にサティスファクション帝国の魔王キリュウを倒してもらいたいんだよ」
「「「「はぁ?」」」」
いきなりの頼みに四人全員素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。
ちなみに呼び出しておいて自慢のD・ホイールを念入りに拭きながら頼むブルーノの態度については、こんなんでも国王だから四人は何も言わないことにしている。
サティスファクション帝国、という名に少し覚えのあるクロウは「ああ……」と面倒そうに話し始めた。
「確かなんかそんな国が今勢力伸ばしてるらしーな。まぁ、ああ見えてビンボーらしいからどうでもいいけど」
「へー、私はそんなダサい国聞いたこともないや。遊星は何か知ってるの?」
「さあ……、俺の知り合いの異国の奴が迷惑がっているのは知ってるが」
「いずれにせよ、俺達の耳に届いていなかったのだから、大した奴ではないという事だ」
次々とサティスファクション帝国や魔王キリュウに対して様々な酷評が飛ぶ中、
ブルーノは拭き終わった相棒・修正テー……じゃなかったデルタイーグルに優しく慎重にそっと触れながらため息を一つ吐いた。
「いやー、それがそうじゃないんだよね。今の魔王キリュウは信者を増やして、この国に着々と迫ってるらしいんだよ」
「で、国の危機って訳だから俺達にそいつらを倒せって事か? 国王さんよ」
「うん、話が早くて助かるね。まぁ、そういう事だからさっさと魔王なんたらを倒しに行って来てよ」
どっこらせと工具箱を持ち出してガチャガチャと部品を探しながらブルーノは四人に告げた。
念のために言っておくとこれは国王命令である、もちろん態度は国王だから問題ない。
といっても、もちろん素直に「はいはい行って来ます」と言う連中でもないので、すぐに四人からは「無理」という意味を込めた返事が返ってきた。
「断る」
「冒険なんか行ってる暇ねーよ。ガキ共の世話は誰がすんだよ」
「私もー、シスターとしての窓口相談の依頼が沢山あるの」
「俺は構わんが、こいつらが行かんなら行くつもりはない」
どれもこれも自分勝手な理由である……というか一番先に言った遊星は理由すら言っていない。
相手は一応国王ではないのか、遊星さん。
このそっけない返事(特に遊星)に、流石に「やさしさ」のパラメータが一億ある――かもしれないブルーノも、堪忍袋の緒がブチ切れた。
説明しよう!
ブルーノ国王はこの世界にはよくいる二重人格者の一人で、怒りの沸点が限界にまで高まるともう一人の人格が登場するのだ!
というような訳で、突如ブルーノはまるで魔法少女がよく変身するシーンで流れるような「キュピーン」といった効果音を出しながら変身していく。
そして見る見る内に、いつもの愛機一筋の頼りない国王とは一変し全身ライダースーツのクール系グラサン男に覚醒したのだった。
ちなみにこの間の変身所要時間は、クリアマインドを習得しているブルーノにとっては約五秒で済んだ。
「果たしてそんな我侭がいつまでも私に通用するとでも思ったか?」
「……どういう事だ?」
余裕の笑みを口元で浮かべるブルーノに、遊星は問い返すが、ブルーノからは既にただならぬものを感じていた。
尚、この中で一番我侭を言ったのは遊星であるのは今は置いておこう。
「確かにこの国は冒険者には優しい。割引制などがあるのは私が決めた事だからな。――しかし、君達の最近の行動を見てみれば冒険者の資格は取ったものの、何もしていないとはどういう事だ」
「うっ」
的確に弱いところをブルーノに突かれ、四人は同時にギクリと肩を揺らした。
ブルーノの言う通り、優香達が冒険者の資格を取った理由は、資格を持つだけで割引制や国から補助金が出たりと非常に金銭的にお得であるからだ。
だが本来冒険者はパラメータを上げたり頻繁に冒険をしないといけないのだが、特に国からの注意がないのを良いことに四人は何一つしていなかった。
これには流石の四人も返す言葉がない。
「ここで君達が冒険者としていかない場合は、冒険者の資格を剥奪し今までタダで使った物の代金を支払ってもらう」
「はああッ!? そんなのアリかよ!?」
「ちょ……それっていくらくらいなの!? うちのパーティーにジャックがいる時点で値段を聞くのが恐ろしいんだけど!」
「き、貴様! 俺がそんなに使う訳なかろう!」
遊星以外の三人が焦りはじめている間に(特にジャック)、ブルーノは電卓を取り出し帳簿を見ながらパチポチと計算し始めた。
ライダースーツ姿の男が電卓で細かく計算しているという場面は傍目からすると実にシュールであるが、クリアマインドを習得しているブルーノは約三秒で作業を終わらせた。
もうクリアマインドとか関係無しにブルーノが超人レベルな気がするのは気のせいだろうか。
ギャーギャーと言い争ってるジャックと優香らの前に、ブルーノは金額が表示された電卓を見せ付けた。
「金額は……これくらいだな」
パッと見てみれば「0」が数え切れない程あり、一、十、百、千、万……と数えるだけで、『噴水広場仲良し連合』の家計の大黒柱でもあるクロウの顔は真っ青となっていた。
他の三人も同じような表情をしており、お互いに顔を見合わせたりしていた。
ようはこの四人が黙り込んでしまうような金額であったという事である。
その反応をしっかり見たブルーノは電卓を懐にしまえば、もはや半分脅しのような台詞を四人に静かに告げた。
「さあ、払うか魔王討伐かどちらを選ぶ?」
「「「「喜んで引き受けます」」」」
この時の四人の表情や台詞のシンクロっぷりは、ある意味クリアマインドに通ずる可能性を秘めていたとブルーノは後日語る――という話はまた別の機会にしておくとして。
ともかくついに冒険通告をされてしまった四人はお城を後にし、いつもの溜まり場である優香の教会へと集まることにした。
もちろんこの後ブルーノが元に戻り、何事も無かったかのようにデルタイーグルのメンテナンス作業を再開したのは言うまでもあるまい。
「ブルーノめ……俺達に装備品を買う金すらよこさないとは」
教会に着くと真っ先にジャックがドサッと音を立てて椅子に座り、先ほど味わった屈辱を噛みしめていた。
というか、屈辱も何もブルーノが掲示した金額の八割はジャック一人の所為というのは黙っておくべきなのだろうか。
クロウは労力の無駄になると考えたかその点はあえて突っ込むことはせず、腕を組みながらため息混じりに話を切り出す。
「俺たち、楽するために冒険者の資格取ったけど、モンスターとか倒してねえからレベル1のまんまだぜ?」
「それに武器や道具すらないしねー」
クロウに釣られるようにハアとため息をして優香は付け加えた。
優香らが冒険者の資格を取ってからかなり日は経つというのに、クロウの言う通り全員レベル1のままであった。
レベル1で装備無しのまま、いきなりボス戦に行くというのは普通に考えると、
サポートカードもないニトロシンクロンでF・G・Dに特攻するほど自殺行為である。
「そうだ、金はどうなっている? 奴からの補助金はまだあるだろう」
「すまない、今月はジャックの飲み代とクロウの子供達の養育費に使って、ほとんど残っていない。とてもじゃないが、装備品を買うのは無理だろう」
パーティーの会計を任されている遊星は帳簿を眺めながらそう答えた。
ジャックは「くっ……」と暫く黙るが、自分がほぼ原因というのに特に反省する様子はないようだった。
キング、じゃなかった剣士だからか。
何にしろ「節約しろ」と誰か突っ込むべきだが今は三人共そんな気分じゃないようで、まるでお通夜のような雰囲気が流れていた。
この普段では有り得ない空気に痺れを切らしたクロウが、机をバンと勢いよく叩いて叫んだ。
「こーなったら最終手段だ! 賽銭箱から金をチョロまかそうぜ!」
「ちょ、クロウ! さ、流石にそれはシスターとして許せないよ!」
「クロウ、いくら切羽詰まったからと言ってここで盗みは無いぞ」
遊星に続いてジャックもその意見に賛成するように頷く。
尚、ジャックが遊星のカードとD・ホイールを盗んだ過去がある設定については、今は空気を読んでスルーするべし。
「じゃー、どうするんだよ! 装備品もねえまま旅に出ろってか!? それこそ無ぇぞ!」
教会中に響いたクロウの言葉に、四人は再びシンと黙り込んでしまう。
強くなろうとレベルやパラメータを上げようにも装備品を買う金もなければ、
地道に修行してレベルを上げる時間さえもない。
しかもこれは国王命令であるため、命令に背けば一生働いても返せそうにもない借金地獄が待っている。
やはり借金地獄になるのか……と、クロウが諦めかけたその瞬間、優香がハッと何かに気付いたように口を開いたのであった。
「……装備品が無くても旅に出てもいいじゃない!」
「「「は?」」」
突然優香が何を思ったのか無謀な事を言い出し、三人は目を見開いて同時に優香の顔を見る。
しかし優香は三人の反応を全く気にせず、むしろこの話を詳しく熱弁し始めた。
「だって私たちよく考えたら装備品が無くてもレベル1でも充分強いじゃない! 肉弾戦とかリアルファイトとか!」
「ああ、そーいや俺達殴る蹴るは昔から得意だったな」
「俺は剣士ではあるが、確かに鎧など付けても動きにくいだけだな。剣も己の拳さえあれば充分だ、必要ない」
ジャック、それもう剣士やないリアルファイターや!
という此方のツッコミはさて置き、三人はまるで目が覚めたかのように次々と頷き出した。
そう言われてみれば遊星たちのパラメータはレベル1でありながら、どれもレベル80クラスに匹敵するパラメータであった。
つまりどういう事かというと、魔王キリュウはレベル50くらいなので余裕でフルボッコに出来る強さという事である。
いわゆる主人公補正チートですね、分かります。
「薬とかアイテムも私が回復するからいらないし!」
「確かにそうだな、俺達に装備品はいらない。俺達は絆さえあれば問題はない!」
「でもよー、いいのかよ。装備品集めは冒険のセオリーだぜ?」
そう口を挟んだクロウであったが、彼の顔は装備品の事など考えてもいない、どうでもよさ気な様子であった。
クロウは優香に向かって言ったのだが、気分の乗ってきたジャックがふんと鼻を鳴らして勝手に先に答えた。
「そんなセオリー、俺達が粉々に粉砕してくれるわ!」
拳を前に出してグッと握り締めると、自信満々にジャックは声を上げた。
もうこの四人が暴れたらセオリーが粉砕するどころか、チートすぎる冒険☆セオリーが生まれそうで逆に恐ろしい。
それにしてもこのジャック、金を払わなくて済むとテンションが上がっているのが丸分かりである。
なんやかんやで、魔王キリュウにとっては恐怖でしかない話が一通りまとまった後、遊星、ジャック――そしてクロウの三人は、晴れやかな顔をして優香を見やった。
「優香はいつも俺達に進むべき道を示してくれるな」
「俺達が悩んだ時、困った時……いつもお前が助けてくれた。普段からお前には感謝している」
「だ、だって私シスターだし……」
遊星と滅多にないジャックの感謝の言葉に、優香は思わず少し照れてしまう。
とその瞬間、ふいに両肩を優しく掴まれ優香が視線を上げるとクロウが柔らかい笑みを浮かべて自分を見つめていた。
こんなにクロウに、しかも至近距離で見つめられてしまい、優香の顔は今さっき照れた時と比べ物にならない程、どんどん赤くなっていった。
「シスターの職業柄じゃねぇだろ? 元からお前はそういうヤツだった。俺が小せぇ頃からずっと……な。俺はお前のそういう所に惹かれたんだぜ」
「ク、クロウ……! そ、それって……」
もう告白したも同然のクロウの台詞に、優香は顔を真っ赤にして目をパチクリさせる。
小さい頃からずっと大好きだったクロウからの告白――優香は夢かと疑ったが、
その間にクロウにふわりと抱き締められ、彼の胸板から微かに響く鼓動が伝わり、夢ではないことを確信したのだった。
同時に優香は、自分の胸の鼓動が一段音が高くなっていくのを感じた。
「昔から好きだった。俺の気持ち……迷惑か?」
「そんな事ないよ。私もクロウが好き、一番好き。クロウに告白されて嬉しかった……」
クロウの胸板に頬を寄せながら、優香は嬉しそうに口元を緩めて小さく呟く。
優香からの位置では見えないがクロウの顔は耳まで赤く、止むことのない心臓の音が聞こえそうで少し焦ったが、
自分の腕の中にいる優香の愛しさには敵うはずも無く、このままにしておく事にした。
「優香、これからも俺が傍にいてやるからな」
耳元でそっと囁けば、優香を抱き締める腕に力を込めた。
この先どんな事があっても、優香は俺が守ってみせる―――そう決意を込めて。
「……って、何だ、これはぁッッ!!?? 告白タイムもいい加減にしろ!」
自分や遊星そっちのけで超展開ともいえる告白タイムに突入し、無数のハートを飛ばしながらラブラブエンディングを迎えそうだった二人に、
ジャックはついに痺れを切らし机をバーンと叩いて周囲のハートや二人だけの世界を一瞬で消した。
終始二人を観察しこっそり応援していた遊星は、ジャックの雰囲気ぶち壊しなKY発言にチッと軽く舌打ちをしたそうなしなかったそうな。
ジャックの全身全霊のツッコミに二人だけの世界からようやく目が覚めたクロウは、遊星たちの視線に気付きバッと優香を離した。
「な、なんだよ、ジャック。邪魔すんじゃねえよ!」
「………」
二人に見られていたという羞恥と先程の余韻で少し顔を赤くしてクロウは反論した。
一方の優香は、まだクロウの抱擁が忘れられないのか両頬に手を当てて思い返していた。
流石シスター、純粋な乙女である。
すると今まで黙って眺めていた遊星がジャックとクロウの間に入り、またジャックが余計なことを言い出す前に今回の話で重要なポイントを改めて告げた。
「クロウと優香には悪いんだが、冒険も出ずにこんな所でウダウダしていたらページ数が……」
「お前は何度メタなことを言えば気が済」
「ちょッ!? 俺と優香の恋愛ターンをこんな中途半端に終わらせて良いってのか!?」
遊星の言う通り、もう残りのページ数が少ないというか無い。
更にぶっちゃけるなら後書きぐらいしか残っていないのだ。
で、ジャックはスルーしクロウの抗議に遊星は目をキランとさせて、クロウと優香に向けてズバッと指を差した。
「ああ、今回のメインはクロウと優香の甘い話というのは百も承知だ。――しかし、それにギャグRPGという要素が入り込んで、そこらの恋愛小説のようにマトモに甘くなる訳がないだろう! 残念だったな、クロウ」
まるで「俺のデュエルディスクは手作りでね!」の時のどや顔で、遊星はクロウに現実を突きつけた。
え? この台詞を知らない……だと……?
ダークシグナー編を全部見直したら分かるんだってばよ!
ついでに捕捉しておくと遊星は優香達を応援してはいるが、この話の中では結構リアリストになっていただいている。
この後の優香との甘い恋愛ターンを期待していたクロウは、ガーンと殴られたような衝撃を受けたのであった。
「はああ、そんなのってアリかよおおおッッ!?」
「ク、クロウ。また今度だってあるよ、きっと! 落ち込まないで」
ガクンと膝を落とし意気消沈しそうになるクロウを、ようやく正気に戻った優香は必死に慰めようとする。
が、その瞬間、優香が視界に入り何かを思いついたのかクロウは、ギランと目を光らせると無防備の優香を姫抱きにし立ち上がった。
もちろん優香は何が起こったのか分からず、頬を再び紅潮させクロウの顔をただ呆然と見ることしか出来なかった。
「~~ッ、こーなったら、さっさと魔王キュウリなんたらを倒しにいくぞ! このまま主人公の俺が落ち込んだまま終わるなんて、まっぴら御免だからな!」
「えっ!? い、今から!?」
「その返事を待っていたぞ、クロウ! 魔王キリュウさえ倒せば、話が終わった後でも優香を好きにすればいいし、俺達の借金も帳消しになるからな!」
今日一番ノリノリな様子で遊星は椅子からガタっと勢いよく立ち上がった。
どう聞いても後者が本音な気もしないが、ちゃんと遊星は優香とクロウの幸せも考えて発言している事を一応お忘れなく。
というか、魔王キリュウさん早く逃げて超逃げて。
遊星さんの絆☆パワーにでもあてられたのか、ジャックも口元をあげてニヤリと笑い前に出た。
「フン、やはりエンディングはこうでなくてはな……貴様ら、さっさとサティスファクション帝国に乗り込むぞ! そして優香、クロウとイチャつきたいなら魔王キリュウを倒してからにしろ。それなら俺も目を瞑ってやる……勝手によそで好きにすればいい」
最後の方はちょっと顔を赤くして、優香から視線を外しボソリと呟くように言い、コホンと咳払いをした。
滅多にないジャックのデレが、ここまで来てようやく発動した。
某GXキャラのいう胸キュンポイントでいうなら一万点くらいの高得点はいくだろう。
普通の乙女ならジャックの台詞に少々ときめくかもしれないが、優香の場合はスルースキルが高いので「うん」の一言で終わった。
また幼馴染二人に「優香は好きにしろ」とまで言われ、この後クロウがドキドキしっぱなしだったのは無理もない。
「んじゃ、さっさと魔王討伐に行こうじゃねえか! ――優香、俺から絶対離れんなよ?」
「うん、クロウや皆が守ってくれるって信じてるから大丈夫! 回復とかも任せてね!」
「さあ、ラブラブタイムはこの辺りにしておいて、今からサティスファクション帝国へ行くぞ! 俺達の満足はこれからだ!」
最後のおいしいところは、真の主人公である遊星が持って行き、チーム『噴水広場仲良し連合』はサティスファクション帝国へと向かったのであった。
あと遊星さんの最後の台詞については、あえて突っ込むまい。
むしろ突っ込んだら負けだと思っている。
――こうしてサティスファクション帝国を(チートというチートな外道スキルや技で)たった一日ほどで壊滅させた遊星たちは、ファイブディーズ王国の危機を救った。
ブルーノ国王からの借金は当然チャラとなり逆に報酬まで貰い、チーム『噴水広場仲良し連合』は瞬く間にその名を国中に広げていった。
その報酬のお金で、クロウと優香は孤児院を建てて幸せに暮らしたそうな―――めでたし、めでたし。
なお、遊星達に倒された魔王キリュウはというと、この一週間後ダークシグナーとして蘇りクロウから優香をさらってリベンジを挑みにやって来る……というそんな面倒な展開はないよ!
fin.
<あとがき>
相互記念の品として捧げさせていただいたクロウさん夢でした。
リクエストは「ギャグ甘夢で出来たらRPGパロを」との事だったんですが、書いてみるとRPG「風味」になってしまいました。
2010.09.05
機械や文明に発達しており、内部戦争などもなく国民は平穏に暮らしていた。
……が、この平和ボケ同然の国にも危機が訪れようとしていた!
なんと近隣国のサティスファクション帝国が、このファイブディーズ王国を乗っ取ろうとしている――との情報が入ったのだ。
サティスファクション帝国というのは、魔王キリュウが統治していて、
国民という名の信者は毎日「満足」か「サティスファクション」をワンハンドレッド=百回唱えることを義務とされており、
国から支給された変なベストとマントを着用し「デュエッ!」とカードをドローする事が日課となっている意味不明でアホな国の事である。
しかし、満足まみれのくせに結束力は固く、何故か軍事力も強いので近年勢力を伸ばしている国でもあった。
そんな国が、平和ボケボケなファイブディーズ王国に進入されたら間違いなく言いなり(というかアホ)になってしまう!!
国の大ピンチを察知したファイブ(略)の現国王・ブルーノは、冒険者(という名の資格を持つ)四人を至急お城に集めたのだった――。
「さてさて、よく来てくれたね! チーム『噴水広場仲良し連合』!」
やって来た冒険者四人をニコニコと笑顔でD・ホイールを弄りながらブルーノはあたたかく迎えた。
呼び出された冒険者の一人、戦士ジャックは早速目の前の国王を殴り飛ばしたい気持ちをグッと堪え、拳を握り締めた。
どうでも良い情報だが、ブルーノ国王は無類のD・ホイール好きとして非常に有名である。
「その名前で呼ぶなと言っているだろう」
「しょうがないじゃない。チーム名を登録する時にそういう名前になってたんだから」
「クッ……元はといえばクロウ! 貴様が先に変に入力したのだから、こんな名前になったんだろう!」
「し、仕方ねぇだろ! 冗談だと思ってたんだから! 大体わざとじゃねーんだし」
盗賊ことクロウはぶっきらぼうに言い放つと、フンとジャックから顔を逸らす。
全く反省していない様子にジャックは怒り、胸倉を掴みにかかるが、慌ててシスター兼一応今回のヒロインである優香が二人の間に止めに入った。
「喧嘩は駄目だよ、ジャック!」
「ムッ、優香……」
「優香の言う通りだ、ジャック。俺達は言い争いをしている場合ではない……ページ数の関係で今回は時間がないんだぞ!」
序盤から内部事情をドンッ☆と後ろに効果音でもつきそうな勢いで言い切った召喚師こと遊星さん。
いくら何でもここでその台詞は無いだろうとジャックは「メタな事を言うな」と冷静に突っ込むが、
全員完璧なスルースキルを発動し、いよいよ話は本題に入ることになった。
「実は君達を呼んだ理由はね、冒険者である君達にサティスファクション帝国の魔王キリュウを倒してもらいたいんだよ」
「「「「はぁ?」」」」
いきなりの頼みに四人全員素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。
ちなみに呼び出しておいて自慢のD・ホイールを念入りに拭きながら頼むブルーノの態度については、こんなんでも国王だから四人は何も言わないことにしている。
サティスファクション帝国、という名に少し覚えのあるクロウは「ああ……」と面倒そうに話し始めた。
「確かなんかそんな国が今勢力伸ばしてるらしーな。まぁ、ああ見えてビンボーらしいからどうでもいいけど」
「へー、私はそんなダサい国聞いたこともないや。遊星は何か知ってるの?」
「さあ……、俺の知り合いの異国の奴が迷惑がっているのは知ってるが」
「いずれにせよ、俺達の耳に届いていなかったのだから、大した奴ではないという事だ」
次々とサティスファクション帝国や魔王キリュウに対して様々な酷評が飛ぶ中、
ブルーノは拭き終わった相棒・修正テー……じゃなかったデルタイーグルに優しく慎重にそっと触れながらため息を一つ吐いた。
「いやー、それがそうじゃないんだよね。今の魔王キリュウは信者を増やして、この国に着々と迫ってるらしいんだよ」
「で、国の危機って訳だから俺達にそいつらを倒せって事か? 国王さんよ」
「うん、話が早くて助かるね。まぁ、そういう事だからさっさと魔王なんたらを倒しに行って来てよ」
どっこらせと工具箱を持ち出してガチャガチャと部品を探しながらブルーノは四人に告げた。
念のために言っておくとこれは国王命令である、もちろん態度は国王だから問題ない。
といっても、もちろん素直に「はいはい行って来ます」と言う連中でもないので、すぐに四人からは「無理」という意味を込めた返事が返ってきた。
「断る」
「冒険なんか行ってる暇ねーよ。ガキ共の世話は誰がすんだよ」
「私もー、シスターとしての窓口相談の依頼が沢山あるの」
「俺は構わんが、こいつらが行かんなら行くつもりはない」
どれもこれも自分勝手な理由である……というか一番先に言った遊星は理由すら言っていない。
相手は一応国王ではないのか、遊星さん。
このそっけない返事(特に遊星)に、流石に「やさしさ」のパラメータが一億ある――かもしれないブルーノも、堪忍袋の緒がブチ切れた。
説明しよう!
ブルーノ国王はこの世界にはよくいる二重人格者の一人で、怒りの沸点が限界にまで高まるともう一人の人格が登場するのだ!
というような訳で、突如ブルーノはまるで魔法少女がよく変身するシーンで流れるような「キュピーン」といった効果音を出しながら変身していく。
そして見る見る内に、いつもの愛機一筋の頼りない国王とは一変し全身ライダースーツのクール系グラサン男に覚醒したのだった。
ちなみにこの間の変身所要時間は、クリアマインドを習得しているブルーノにとっては約五秒で済んだ。
「果たしてそんな我侭がいつまでも私に通用するとでも思ったか?」
「……どういう事だ?」
余裕の笑みを口元で浮かべるブルーノに、遊星は問い返すが、ブルーノからは既にただならぬものを感じていた。
尚、この中で一番我侭を言ったのは遊星であるのは今は置いておこう。
「確かにこの国は冒険者には優しい。割引制などがあるのは私が決めた事だからな。――しかし、君達の最近の行動を見てみれば冒険者の資格は取ったものの、何もしていないとはどういう事だ」
「うっ」
的確に弱いところをブルーノに突かれ、四人は同時にギクリと肩を揺らした。
ブルーノの言う通り、優香達が冒険者の資格を取った理由は、資格を持つだけで割引制や国から補助金が出たりと非常に金銭的にお得であるからだ。
だが本来冒険者はパラメータを上げたり頻繁に冒険をしないといけないのだが、特に国からの注意がないのを良いことに四人は何一つしていなかった。
これには流石の四人も返す言葉がない。
「ここで君達が冒険者としていかない場合は、冒険者の資格を剥奪し今までタダで使った物の代金を支払ってもらう」
「はああッ!? そんなのアリかよ!?」
「ちょ……それっていくらくらいなの!? うちのパーティーにジャックがいる時点で値段を聞くのが恐ろしいんだけど!」
「き、貴様! 俺がそんなに使う訳なかろう!」
遊星以外の三人が焦りはじめている間に(特にジャック)、ブルーノは電卓を取り出し帳簿を見ながらパチポチと計算し始めた。
ライダースーツ姿の男が電卓で細かく計算しているという場面は傍目からすると実にシュールであるが、クリアマインドを習得しているブルーノは約三秒で作業を終わらせた。
もうクリアマインドとか関係無しにブルーノが超人レベルな気がするのは気のせいだろうか。
ギャーギャーと言い争ってるジャックと優香らの前に、ブルーノは金額が表示された電卓を見せ付けた。
「金額は……これくらいだな」
パッと見てみれば「0」が数え切れない程あり、一、十、百、千、万……と数えるだけで、『噴水広場仲良し連合』の家計の大黒柱でもあるクロウの顔は真っ青となっていた。
他の三人も同じような表情をしており、お互いに顔を見合わせたりしていた。
ようはこの四人が黙り込んでしまうような金額であったという事である。
その反応をしっかり見たブルーノは電卓を懐にしまえば、もはや半分脅しのような台詞を四人に静かに告げた。
「さあ、払うか魔王討伐かどちらを選ぶ?」
「「「「喜んで引き受けます」」」」
この時の四人の表情や台詞のシンクロっぷりは、ある意味クリアマインドに通ずる可能性を秘めていたとブルーノは後日語る――という話はまた別の機会にしておくとして。
ともかくついに冒険通告をされてしまった四人はお城を後にし、いつもの溜まり場である優香の教会へと集まることにした。
もちろんこの後ブルーノが元に戻り、何事も無かったかのようにデルタイーグルのメンテナンス作業を再開したのは言うまでもあるまい。
「ブルーノめ……俺達に装備品を買う金すらよこさないとは」
教会に着くと真っ先にジャックがドサッと音を立てて椅子に座り、先ほど味わった屈辱を噛みしめていた。
というか、屈辱も何もブルーノが掲示した金額の八割はジャック一人の所為というのは黙っておくべきなのだろうか。
クロウは労力の無駄になると考えたかその点はあえて突っ込むことはせず、腕を組みながらため息混じりに話を切り出す。
「俺たち、楽するために冒険者の資格取ったけど、モンスターとか倒してねえからレベル1のまんまだぜ?」
「それに武器や道具すらないしねー」
クロウに釣られるようにハアとため息をして優香は付け加えた。
優香らが冒険者の資格を取ってからかなり日は経つというのに、クロウの言う通り全員レベル1のままであった。
レベル1で装備無しのまま、いきなりボス戦に行くというのは普通に考えると、
サポートカードもないニトロシンクロンでF・G・Dに特攻するほど自殺行為である。
「そうだ、金はどうなっている? 奴からの補助金はまだあるだろう」
「すまない、今月はジャックの飲み代とクロウの子供達の養育費に使って、ほとんど残っていない。とてもじゃないが、装備品を買うのは無理だろう」
パーティーの会計を任されている遊星は帳簿を眺めながらそう答えた。
ジャックは「くっ……」と暫く黙るが、自分がほぼ原因というのに特に反省する様子はないようだった。
キング、じゃなかった剣士だからか。
何にしろ「節約しろ」と誰か突っ込むべきだが今は三人共そんな気分じゃないようで、まるでお通夜のような雰囲気が流れていた。
この普段では有り得ない空気に痺れを切らしたクロウが、机をバンと勢いよく叩いて叫んだ。
「こーなったら最終手段だ! 賽銭箱から金をチョロまかそうぜ!」
「ちょ、クロウ! さ、流石にそれはシスターとして許せないよ!」
「クロウ、いくら切羽詰まったからと言ってここで盗みは無いぞ」
遊星に続いてジャックもその意見に賛成するように頷く。
尚、ジャックが遊星のカードとD・ホイールを盗んだ過去がある設定については、今は空気を読んでスルーするべし。
「じゃー、どうするんだよ! 装備品もねえまま旅に出ろってか!? それこそ無ぇぞ!」
教会中に響いたクロウの言葉に、四人は再びシンと黙り込んでしまう。
強くなろうとレベルやパラメータを上げようにも装備品を買う金もなければ、
地道に修行してレベルを上げる時間さえもない。
しかもこれは国王命令であるため、命令に背けば一生働いても返せそうにもない借金地獄が待っている。
やはり借金地獄になるのか……と、クロウが諦めかけたその瞬間、優香がハッと何かに気付いたように口を開いたのであった。
「……装備品が無くても旅に出てもいいじゃない!」
「「「は?」」」
突然優香が何を思ったのか無謀な事を言い出し、三人は目を見開いて同時に優香の顔を見る。
しかし優香は三人の反応を全く気にせず、むしろこの話を詳しく熱弁し始めた。
「だって私たちよく考えたら装備品が無くてもレベル1でも充分強いじゃない! 肉弾戦とかリアルファイトとか!」
「ああ、そーいや俺達殴る蹴るは昔から得意だったな」
「俺は剣士ではあるが、確かに鎧など付けても動きにくいだけだな。剣も己の拳さえあれば充分だ、必要ない」
ジャック、それもう剣士やないリアルファイターや!
という此方のツッコミはさて置き、三人はまるで目が覚めたかのように次々と頷き出した。
そう言われてみれば遊星たちのパラメータはレベル1でありながら、どれもレベル80クラスに匹敵するパラメータであった。
つまりどういう事かというと、魔王キリュウはレベル50くらいなので余裕でフルボッコに出来る強さという事である。
いわゆる主人公補正チートですね、分かります。
「薬とかアイテムも私が回復するからいらないし!」
「確かにそうだな、俺達に装備品はいらない。俺達は絆さえあれば問題はない!」
「でもよー、いいのかよ。装備品集めは冒険のセオリーだぜ?」
そう口を挟んだクロウであったが、彼の顔は装備品の事など考えてもいない、どうでもよさ気な様子であった。
クロウは優香に向かって言ったのだが、気分の乗ってきたジャックがふんと鼻を鳴らして勝手に先に答えた。
「そんなセオリー、俺達が粉々に粉砕してくれるわ!」
拳を前に出してグッと握り締めると、自信満々にジャックは声を上げた。
もうこの四人が暴れたらセオリーが粉砕するどころか、チートすぎる冒険☆セオリーが生まれそうで逆に恐ろしい。
それにしてもこのジャック、金を払わなくて済むとテンションが上がっているのが丸分かりである。
なんやかんやで、魔王キリュウにとっては恐怖でしかない話が一通りまとまった後、遊星、ジャック――そしてクロウの三人は、晴れやかな顔をして優香を見やった。
「優香はいつも俺達に進むべき道を示してくれるな」
「俺達が悩んだ時、困った時……いつもお前が助けてくれた。普段からお前には感謝している」
「だ、だって私シスターだし……」
遊星と滅多にないジャックの感謝の言葉に、優香は思わず少し照れてしまう。
とその瞬間、ふいに両肩を優しく掴まれ優香が視線を上げるとクロウが柔らかい笑みを浮かべて自分を見つめていた。
こんなにクロウに、しかも至近距離で見つめられてしまい、優香の顔は今さっき照れた時と比べ物にならない程、どんどん赤くなっていった。
「シスターの職業柄じゃねぇだろ? 元からお前はそういうヤツだった。俺が小せぇ頃からずっと……な。俺はお前のそういう所に惹かれたんだぜ」
「ク、クロウ……! そ、それって……」
もう告白したも同然のクロウの台詞に、優香は顔を真っ赤にして目をパチクリさせる。
小さい頃からずっと大好きだったクロウからの告白――優香は夢かと疑ったが、
その間にクロウにふわりと抱き締められ、彼の胸板から微かに響く鼓動が伝わり、夢ではないことを確信したのだった。
同時に優香は、自分の胸の鼓動が一段音が高くなっていくのを感じた。
「昔から好きだった。俺の気持ち……迷惑か?」
「そんな事ないよ。私もクロウが好き、一番好き。クロウに告白されて嬉しかった……」
クロウの胸板に頬を寄せながら、優香は嬉しそうに口元を緩めて小さく呟く。
優香からの位置では見えないがクロウの顔は耳まで赤く、止むことのない心臓の音が聞こえそうで少し焦ったが、
自分の腕の中にいる優香の愛しさには敵うはずも無く、このままにしておく事にした。
「優香、これからも俺が傍にいてやるからな」
耳元でそっと囁けば、優香を抱き締める腕に力を込めた。
この先どんな事があっても、優香は俺が守ってみせる―――そう決意を込めて。
「……って、何だ、これはぁッッ!!?? 告白タイムもいい加減にしろ!」
自分や遊星そっちのけで超展開ともいえる告白タイムに突入し、無数のハートを飛ばしながらラブラブエンディングを迎えそうだった二人に、
ジャックはついに痺れを切らし机をバーンと叩いて周囲のハートや二人だけの世界を一瞬で消した。
終始二人を観察しこっそり応援していた遊星は、ジャックの雰囲気ぶち壊しなKY発言にチッと軽く舌打ちをしたそうなしなかったそうな。
ジャックの全身全霊のツッコミに二人だけの世界からようやく目が覚めたクロウは、遊星たちの視線に気付きバッと優香を離した。
「な、なんだよ、ジャック。邪魔すんじゃねえよ!」
「………」
二人に見られていたという羞恥と先程の余韻で少し顔を赤くしてクロウは反論した。
一方の優香は、まだクロウの抱擁が忘れられないのか両頬に手を当てて思い返していた。
流石シスター、純粋な乙女である。
すると今まで黙って眺めていた遊星がジャックとクロウの間に入り、またジャックが余計なことを言い出す前に今回の話で重要なポイントを改めて告げた。
「クロウと優香には悪いんだが、冒険も出ずにこんな所でウダウダしていたらページ数が……」
「お前は何度メタなことを言えば気が済」
「ちょッ!? 俺と優香の恋愛ターンをこんな中途半端に終わらせて良いってのか!?」
遊星の言う通り、もう残りのページ数が少ないというか無い。
更にぶっちゃけるなら後書きぐらいしか残っていないのだ。
で、ジャックはスルーしクロウの抗議に遊星は目をキランとさせて、クロウと優香に向けてズバッと指を差した。
「ああ、今回のメインはクロウと優香の甘い話というのは百も承知だ。――しかし、それにギャグRPGという要素が入り込んで、そこらの恋愛小説のようにマトモに甘くなる訳がないだろう! 残念だったな、クロウ」
まるで「俺のデュエルディスクは手作りでね!」の時のどや顔で、遊星はクロウに現実を突きつけた。
え? この台詞を知らない……だと……?
ダークシグナー編を全部見直したら分かるんだってばよ!
ついでに捕捉しておくと遊星は優香達を応援してはいるが、この話の中では結構リアリストになっていただいている。
この後の優香との甘い恋愛ターンを期待していたクロウは、ガーンと殴られたような衝撃を受けたのであった。
「はああ、そんなのってアリかよおおおッッ!?」
「ク、クロウ。また今度だってあるよ、きっと! 落ち込まないで」
ガクンと膝を落とし意気消沈しそうになるクロウを、ようやく正気に戻った優香は必死に慰めようとする。
が、その瞬間、優香が視界に入り何かを思いついたのかクロウは、ギランと目を光らせると無防備の優香を姫抱きにし立ち上がった。
もちろん優香は何が起こったのか分からず、頬を再び紅潮させクロウの顔をただ呆然と見ることしか出来なかった。
「~~ッ、こーなったら、さっさと魔王キュウリなんたらを倒しにいくぞ! このまま主人公の俺が落ち込んだまま終わるなんて、まっぴら御免だからな!」
「えっ!? い、今から!?」
「その返事を待っていたぞ、クロウ! 魔王キリュウさえ倒せば、話が終わった後でも優香を好きにすればいいし、俺達の借金も帳消しになるからな!」
今日一番ノリノリな様子で遊星は椅子からガタっと勢いよく立ち上がった。
どう聞いても後者が本音な気もしないが、ちゃんと遊星は優香とクロウの幸せも考えて発言している事を一応お忘れなく。
というか、魔王キリュウさん早く逃げて超逃げて。
遊星さんの絆☆パワーにでもあてられたのか、ジャックも口元をあげてニヤリと笑い前に出た。
「フン、やはりエンディングはこうでなくてはな……貴様ら、さっさとサティスファクション帝国に乗り込むぞ! そして優香、クロウとイチャつきたいなら魔王キリュウを倒してからにしろ。それなら俺も目を瞑ってやる……勝手によそで好きにすればいい」
最後の方はちょっと顔を赤くして、優香から視線を外しボソリと呟くように言い、コホンと咳払いをした。
滅多にないジャックのデレが、ここまで来てようやく発動した。
某GXキャラのいう胸キュンポイントでいうなら一万点くらいの高得点はいくだろう。
普通の乙女ならジャックの台詞に少々ときめくかもしれないが、優香の場合はスルースキルが高いので「うん」の一言で終わった。
また幼馴染二人に「優香は好きにしろ」とまで言われ、この後クロウがドキドキしっぱなしだったのは無理もない。
「んじゃ、さっさと魔王討伐に行こうじゃねえか! ――優香、俺から絶対離れんなよ?」
「うん、クロウや皆が守ってくれるって信じてるから大丈夫! 回復とかも任せてね!」
「さあ、ラブラブタイムはこの辺りにしておいて、今からサティスファクション帝国へ行くぞ! 俺達の満足はこれからだ!」
最後のおいしいところは、真の主人公である遊星が持って行き、チーム『噴水広場仲良し連合』はサティスファクション帝国へと向かったのであった。
あと遊星さんの最後の台詞については、あえて突っ込むまい。
むしろ突っ込んだら負けだと思っている。
――こうしてサティスファクション帝国を(チートというチートな外道スキルや技で)たった一日ほどで壊滅させた遊星たちは、ファイブディーズ王国の危機を救った。
ブルーノ国王からの借金は当然チャラとなり逆に報酬まで貰い、チーム『噴水広場仲良し連合』は瞬く間にその名を国中に広げていった。
その報酬のお金で、クロウと優香は孤児院を建てて幸せに暮らしたそうな―――めでたし、めでたし。
なお、遊星達に倒された魔王キリュウはというと、この一週間後ダークシグナーとして蘇りクロウから優香をさらってリベンジを挑みにやって来る……というそんな面倒な展開はないよ!
fin.
<あとがき>
相互記念の品として捧げさせていただいたクロウさん夢でした。
リクエストは「ギャグ甘夢で出来たらRPGパロを」との事だったんですが、書いてみるとRPG「風味」になってしまいました。
2010.09.05
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