短編夢
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「遊星、ジャック、みてみてー!」
とある昼間の空き地―――
遊星とジャックが、今まさにデュエルディスクを装着しデュエル開始の宣言をしようとした時に、二人の元へ遊星とは一つ上の姉である優香が駆け寄って来た。
真剣な空気が周囲に溢れ出ているのにも関わらず気付いていない様子の優香は、ニコニコと笑みを浮かべている。
ライバルとの真剣勝負の瞬間を邪魔されたジャックは、当然ながら眉をピクピクさせ優香へと向く。
「おい、優香! 今はデュエルの最中だ! 用事なら後に……」
「ねえ、これ見てほしいんだけど」
「俺の話を聞け!」
「待て、ジャック。まだデュエルは始まっていないだろう、姉さんの話が優先だ」
構えていた腕を下ろしながら遊星は、そのまま姉の優香の前にいく。
遊星までに言われデュエルお預けを余儀なくされたジャックは、イライラしつつも素直に遊星の後ろへとついていった。
「で、姉さん。話というのは……」
「ふっふっふ、我が弟よ。見て驚かないでよ……」
二人が集まると、優香はニヤリと口元を緩ませ、背中に隠してあったデュエルディスクを彼らの前に差し出した。
「じゃーん! 新しいデュエルディスクが遂に完成したの!」
自信満々な顔で優香は、二人にキラキラと視線を送る。
弟の遊星と同じくメカニックが得意とする優香は、デュエルディスクやD・ホイールなどを一から作るのが趣味であった。
もちろん遊星やジャックも、その才能は認めているのだが、頻繁に失敗するのが優香の弱点だった。
――たとえば、D・ホイールの加速の上限を間違えてしまい知らずに乗ったジャックを海に落とさせたり、デュエルディスクを弄った時も誤作動でディスクごと爆発しジャックにリアルすぎるダメージを与えたなど、失敗談は数え切れないほどにある。
ちなみに偶然と奇跡でも重なったのか、なぜか被害者は全てジャック一人だった。
今回のデュエルディスクも見る限りでは、どうもごく一般的なデュエルディスクである。
ジャックはともかく、さすがの遊星も中まで調べないと違いが分からなかった。
「モンスターの攻撃の演出も、よりリアルにしてダメージ時の衝撃の出力も上げてみたの。って事で、ジャックくんよ。早速これを装着して遊星とデュエルしたまえ」
「断る! 貴様が作った物を使うとろくな事がないのは事実だ、しかも何故か俺ばかり……! 遊星、さっさとデュエルを再開――」
「いや、姉さんのことだ。きっと成功しているはず……ジャック、今こそ姉さんとの絆を信じる時だ」
これでジャックに同じ台詞を投げるのはもう十八回目だというのに、気付いていないのか真剣に遊星は答える。
相変わらず何の根拠もなく姉を信じる遊星に、ジャックは最早呆れて言葉が出てこない。
ふいに背中をポンと叩かれ、ジャックが振り返ると優香がニッコリと微笑んで例のデュエルディスクを目の前に差し出した。
「遊星の言う通り大丈夫だって、今度こそ成功してるわ。きっと凄い快感がジャックを襲うはずよ! 私を信じて!」
「だから、俺はいらんと言っているだろう! 快感も必要なければ、その言葉を信じて俺が今までどんな目に遭ったか……」
ジャックがどういう目に遭ったのかは前述にも述べたが、計二十回は軽く超している。
二十回以上も不運に見舞われるジャックも凄いが、それを何もなかったようにする優香と遊星のスルースキルは鉄壁だった。
「ジャック、心配するな。姉さんの言うことに間違いはない。快感も満足も味わえるだろう」
「貴様はもっと姉をよく見ろ! あと快感から話を離せ、満足もいらん」
「遊星は私のこと一番に見てくれてるもーん。快感や満足だって最初は痛いだろうけど、慣れたら多分―――」
「ええい、そんなもの慣れたくもないわ! まず快感と満足を一緒にするな!」
しばらく、同じような口論が小一時間ほど途切れず続いたが、遊星と優香は退く様子は全くない。
このメカニック馬鹿姉弟を相手にしても時間と労力の無駄と感じてきたジャックは結局デュエルディスクを装着することに渋々承諾した。
また何か絶対に絶対に絶対に災難があると、覚悟を決めつつ。
無意識か知らないが強引に物事を進めようとするのは、姉も弟もソックリだと心の中で悪態をつきながら、ジャックは優香からデュエルディスクを奪い取り左腕へと装着した。
優香が見守る中、遊星とジャックのデュエルは再開された。
もちろんジャックのデュエルディスクは優香の作ったものを装着している。
先攻を取った遊星は、モンスターをセットしカードを一枚伏せてターンエンド。
いよいよ次はジャックのターンだ。一同に緊張が走る。
「俺のターン! ドロー! 『マッド・デーモン』を攻撃表示で召喚する」
デュエルディスクの台部分にぺチンという決闘者にしか出せない音を立てカードを乗せると、「マッド・デーモン」は捻り声と共にジャックの前に現れた。
しかも、ジャックのデュエルディスクで現れる時も更にリアリティが増している。
己のモンスターが普段より気高く、誇り高く召喚される姿にジャックは、つい魅入ってしまう。
傍で目をこらしていた遊星も感心して優香の方に視線を向ける。
「すごいな、流石は姉さんだ。ここまでのリアリティ……俺の技術では無理だ」
「ね、すごいでしょ! マーモンちゃんも更に凛々しい姿になってるし、これ海馬コーポレーションに後で売り込みにいこうかな~」
「人のモンスターに変なあだ名をつけるな! フン、リアリティなどどうでもいい。俺は己の力を信じて戦うのみだ!」
そう言い放つと、気を取り直したジャックは遊星の伏せたモンスターにへと攻撃宣言をした。
モンスターの動きもダイナミックで、さらにキレのあるような気がした。
伏せてあったモンスターは、「シールド・ウィング」。
この戦闘では破壊されないが、貫通効果がある「マッド・デーモン」の攻撃が通ると、900ポイントのダメージを遊星は受けてしまう。
当然ながら黙って攻撃を通す遊星でも無く、伏せていたリバースカードをオープンした。
「悪いが俺も姉さんの前で安々とダメージを受けるわけにはいかない―――トラップ発動、『ディメンション・ウォール』!」
「なっ!? いつのまにそんなカードなどデッキに……」
「あ、私が入れたの。ほら、グレファーちゃんって可愛いしかっこいいし遊星のお守りになるかなって思って」
淡々と遊星の代わりに答える優香に、ジャックは呆気にとられ物も言えずにいた。
「ディメンション・ウォール」のイラストに描かれた「戦士ダイ・グレファー」は、決闘者の間では変態とも騒がれているカードだ。
そんなグレファーを可愛いやカッコイイだのホメる優香のセンスがジャックには理解できなかった。
結果的にお守りにはなっているが―――と考えた矢先、「ディメンション・ウォール」の効果が「マッド・デーモン」の貫通ダメージから遊星を守る。
「ジャック、姉さんと俺の絆パワーの900ポイントのダメージを受けてもらう。ちなみに『シールド・ウィング』は自身の効果で破壊されず場に残る」
「くッ! 絆パワーだと……」
もう少しマシな名前は無いのか、とジャックが口にしようとした瞬間、「ディメンション・ウォール」の効果で、自分の方へと900ポイント分のダメージが跳ね返ってくる。
たかが900くらい知れているとジャックは真正面で受け止めたが、どうもダメージの衝撃が900どころではない。
まるでオーバーキルでもされたような―――あまりに強すぎる衝撃にジャックは立っていられず、吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまった。
これには、流石の遊星と優香もデュエルを中断しジャックの元へと急いで駆け寄った。
「じゃ、ジャック、大丈夫!? 随分エンターテイメントな吹き飛ばされ方だったけど……」
「う……だ、だからいらんと俺は初めから………」
「! ジャック!」
遊星が声を掛けると同時に、ジャックはガクリと気を失ってしまった。
頭は打っていないので暫くしたら目を覚ますと遊星は思ったが、優香が作ったデュエルディスクはジャックの腕から外した。
「姉さん、ジャックならきっと大丈夫だ。幸いにも頭は打っていない……それに、今まで姉さんの失敗を二十回以上も身で味わっているしな」
「私……また失敗しちゃったのか……ジャックはすぐ回復するけど……」
ため息をついて遊星の手にあるデュエルディスクを優香は見遣る。
今回は本当に自信作だったために、優香のショックは大きい。
優香が失敗に落ち込む姿を何度も見てきた遊星は、優香の作ったデュエルディスクをもう一度近くでよく観察してみた。
確かに外見は完璧だが、問題は中の機械にあるようで、さっきのデュエルの様子からすると、衝撃の出力に何らかのミスがあると遊星は感じた。
「姉さんは少しツメが甘かっただけさ。原因を突きつめて直せば今度こそ上手くいく」
「ホント……? たぶん衝撃の出力が間違ってたと思うんだけど……遊星はどう思う?」
「中を解体しないと分からないが、恐らく姉さんの考えで合っているだろう。……姉さん、今回は俺もディスクの中を見せてもらっていいか? 俺も姉さんの役に立ちたいんだ」
「遊星ってば……やっさしーい! さすが我が弟だわ!」
目の前で自分を気遣う遊星が可愛く思えてきて、優香は思わず衝動で抱き締めてしまった。
普段も姉弟とは思えない優香から過激なスキンシップを受けているため、遊星は大体は慣れているが、今日は仮にも外のため少し照れくさかった。
暫く優香からの頬ずりに堪えていると、遊星の視界に倒れたままのジャックが移り、優香から離れて彼の元へと一目散に駆け寄る。
「姉さん、すまない。今はジャックをガレージに運ぶのが先決だ」
「あ、そうだった! ごめん、遊星の言葉がつい嬉しくて……直ぐに私も手伝うわ」
地面に倒れこんでいるジャックに優香が手を伸ばそうとした瞬間、遊星が先にジャックの腕を自分の肩にかけてもたれさせた。
そして、明らかに自分よりも身体の大きいジャックを遊星は引きずるように歩き始める。
「ジャックは俺一人で運ぶ、心配はいらない」
「だめだめ、私も手伝うって。そんな無駄にでかい身体、遊星一人じゃ限界があるでしょ」
「いや、でも姉さんに手伝わす訳には……」
「無理して頑張らなくていいの。力仕事なら平気だって。昔、アホラスとカラスとかにリアルファイトで勝ってたし!」
アホラスというのはジャックで、カラスはクロウの事だ。
姉がつけていた昔の二人のあだ名を出され、そういえば頻繁に喧嘩していたなと、つい遊星は懐かしさに駆られた。
だが遊星が気付くころには、いつのまにか優香はジャックのもう片方の腕を自らの肩にかけ、頼もしい笑顔を遊星に向ける。
肩に掛けてしまったからには遊星は仕方ないといった表情で、そのまま一歩ずつゆっくりと歩き始めた。
「……姉さん、疲れたら俺に直ぐに言ってくれ。俺が一人で運ぶ」
「んなっ、言っておくけど体力はそんなヤワじゃないわよ? 遊星だって頭脳系タイプなんだから無理しちゃダメだからね!」
「………姉さんより俺の方が身体は丈夫だと思うがな」
口元をほころばせ、遊星は優香に聞こえない程度で呟くと、また一歩足を踏み出すのだった。
デュエルを行った空き地からガレージまでは遠かったため、ジャックを背負いながらだと到着に一時間は掛かってしまった。
やっとのことでガレージに戻ると、クロウは仕事で出払っているのか誰もいない。
とりあえず、部屋のベットへとジャックを運んで寝かせてやると、遊星と優香はそのままソファに腰を掛けた。
一時間ほど身長が190㎝はある男に肩を貸していると、流石のメカニック姉弟もひどく疲れきった状態であった。
「あ~、疲れたー! ジャックって無駄にでかいんだから余計重いのよね!」
「姉さん……結局一度も休まなかったな」
「だって、遊星にだけ運ばすなんて私には出来ないから……」
「俺も最初は姉さんには運ばせたくなかったんだがな………俺にとって姉さん、優香は―――」
そこまで遊星は言ったが、続きはピタリと止まってしまった。
言葉に詰まったのかと思い、優香は遊星の顔を覗こうとしたが、ふいにストンと肩に重みが掛かったのだ。やけに暖かい重みである。
びっくりした優香は身を引こうとすると、瞳を閉じた遊星が、優香の肩に寄りかかって穏やかな寝息をたてている事に気づく。
「ゆ、遊星? ……もしかして寝ちゃった?」
試しに声を掛けてみるが、遊星から反応はない。本当に寝てしまったようだ。
優香と話す時にまで寝てしまうほど、疲れてしまったのだろうか。
もしかしたらジャックの重みを出来るだけ姉には掛けまいと、その分頑張ってくれていたのかもしれない。
少なくとも優香には、そう感じられた。
「まったく、無理しないでって言ったのに……」
遊星の頭を軽く撫でていると、段々遊星の力が抜けていったのか頭が肩から外れ、優香の膝へと落ちた。俗に言う「膝枕」という形である。
偶然だろうとはいえ、優香はこれには少し驚いた。いつもなら抱き付くのはともかく膝枕は絶対に嫌がるというのに。
「……しょうがない子だなぁ、しばらく一緒にいてあげるよ。―――お疲れさま、遊星」
久々に自分の膝枕で眠る遊星を、微笑ましく眺めながら優香も静かに目を閉じるのだった。
―――数分後、元気に目を覚ましたジャックに二人とも怒鳴られる事になるとも知らずに……。
fin.
<あとがき>
2029年 冬のフリーリクエスト企画夢でした。
2009.12.31