短編夢
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サテライト××地区―――
各地区の中でも最も治安の悪い場所の一つだといわれており、柄の悪い連中やデュエルギャングたちの溜まり場ともなっていた。
例えば、道中が女が一人などいれば構わず身ぐるみ剥がされ凌辱された末、女は海に捨てられる……など、黒い噂は後を絶たない。
もっとも、そんな噂がたつほどの所に娼婦以外の女はまず寄りつかないのだが
今日に限って一人だけ××地区に来ていた女がいた。
××地区のデュエルギャング達をデュエルによって屈伏させ、
この××地区を制覇しようと目論むチーム「サティスファクション」の一人――優香だった。
「ぐわあああッ!」
デュエルギャングのデュエルディスクが敗北した事によって爆破され、その場へと崩れ落ちるように倒れていく。
勝者の優香はデュエルディスクに繋がれたロープを外し、倒れた男の顔を見て意識があるか確認する。
(……気絶してるみたい、危なかった)
優香は少し安堵して、男から身を離れる。
この地区では、女がいるだけで男が狼のように襲ってくるという噂があるらしい。
噂が噂だけに、今回の奇襲作戦は優香はチームから外されていたが、
優香が「役に立ちたい」と必死に懇願し俺達の傍から離れないという条件で特別に加えられたのだ。
しかし、数時間前からの多々のデュエルでクロウと一緒にいた優香だったが案の如く途中ではぐれてしまい、
デュエルギャングに遭遇してはデュエルに勝利し廃墟の中を彷徨い探していた。
遊星がデュエルディスクに付けてくれている通信機能も、妨害電波が出ているのか機能しなかった。
流石にそろそろチームの誰かと合流しないとまずい。
焦っていた優香だったが、前方に数人の柄の悪い男の姿が見えると、立ち止まり腕のデュエルディスクを構える。
だが、優香の存在に気付き歩み寄ってきた数人の男たちの腕にはデュエルディスクが装着されていない。
鼻にピアスをした一人の男が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら口を開く。
「お嬢ちゃん、一人? んなら俺らと遊ばねぇ? ……って、あり、それってデュエルする道具じゃね?」
デュエルの基本ともいえる装備品、デュエルディスクを指差し、軽く首を傾げて尋ねた。
他の男三人も、優香の身体を舐めまわすような視線を向けているだけで、デュエルには関心を一切示していない。
即座にデュエリストではないと判断した優香は、この場から逃げようと一歩退いたが、
不意に背後から巨漢の男に両腕を拘束されてしまった。
悲痛の色を浮かべ振り払おうと手や足をじたばたさせるが、ひ弱な優香の力では到底巨漢の力には敵わない。
「まあ、そういう事だ。デュエルしに来たのかは知らねえが、女一人で此処に来たのが間違いだったな。――クククッ、楽しませてもらおうじゃねえの」
「あ……い、いや……」
男たちが一歩ずつ優香へと一斉に卑猥な視線を浴びせ、歩み寄って行く。
私がドジさえ踏まなければ、クロウともはぐれずにすんだ。
今までクロウが一緒だったから女一人でもデュエルをやってこれた。
クロウがいつも私を守ってくれたから……
足がすくみ、瞼をギュッと閉じて迫る恐怖に耐えようとする。
男の手が優香に触れようとした瞬間―――ドアァアという音と共に、男の喘ぎ声が聞こえた。
「てめーら! 俺の女に手ぇ出すなんて良い度胸してんじゃねえか!!」
夢にまで見た声に優香はハッとして瞼を開ける。
目の前には怒りを露にするクロウの姿があった。
地面にはあの鼻にピアスを付けていた男が鼻から血を流して突っ伏していた。
クロウの存在に危機を感じた巨漢の男は、拘束している優香の首元へとナイフを突き付ける。
「お、おい! 動くんじゃねえぞ!! じゃないとこの女が―――ぐがばッ!」
「この女が……どうなるんだ?」
巨漢の男に飛び蹴りを後頭部へとお見舞いした鬼柳は、倒れていく男の手から離れた優香を抱き止めるように自分の元へと引き寄せた。
残った三人はガタガタと身体を震わせながら「ヒィィ」と悲鳴を上げ、倒れた仲間を置き去りにして逃げ出そうとする。
しかし、その男三人も現れた遊星とジャックにハイキックされ、無様に地面へ崩れ落ちた。
「仲間も身捨て自分だけ逃げるとは、お前たちには絆を感じないな」
「フン、女……しかも、俺達のチームメイトに男五人で寄ってたかるとは……貴様ら! 覚悟は出来ているようだな!」
ジャックが威嚇するように情けなく地面にうっ伏している男たちを睨む。
恐怖の表情を浮かた男たち5人は全員起き上がり、凄まじいスピードで逃げるように走り去って行った。
男たちの気配が完全に消えたのを確認すると、
クロウ達は真っ先に何故か未だ鬼柳から解放されない優香の元へと駆け付けた。
「優香! 大丈夫か!?」
「クロウ、う、うん……私なら大丈夫」
「ああ、優香に怪我はねえ。これも俺の超サティスファクション☆キックのおかげだぜ! つか、マジで優香が無事で良かったあああ!!」
周囲(特にクロウ)の目など気にせず、鬼柳は号泣しながら優香をガバッと抱き締めた。
一人だけ例の黒いマントをしていた鬼柳の胸へと押し込まれ、優香の視界は真っ黒な色へと変わる。
「!? り、リーダー!?」
「だから、リーダーじゃなくて京介って呼べって言ってんだろ……にしても優香って良い匂いすんな……。なあ、早くクロウなんか止めて俺にしと……」
「いーからさっさと優香から離れろ! この変態満足野郎!!」
声を張り上げながらクロウは、どさくさにまぎれて口説こうとしている鬼柳から優香を引き剝がした。
そして優香を自分の後ろへと隠れさせ、鬼柳に冷たい目線をやる。
「何優香に抱き着いてんだ、てめえ。さっきの奴らみてえになりたいのか?」
「だってよ、クロウばっかズルいだろ! 一人だけ優香占領してよぉ。それに俺が優香助けたんだから良いだろ。ハグくらい」
「いくら助けたとはいえ、ハグは良いわけねえだろ! しかも俺の優香を口説こうなんて良い度胸だな……」
「ふ、あれは口説いたんじゃねえ。俺の気持ちが……俺の優香への愛が、溢れただけだ」
「おい、鬼柳」
場の空気を一向に読もうとしない鬼柳に、遊星は呆れた顔をして彼の片腕を掴む。
同時にジャックがもう片方の腕を掴み、鬼柳が身動きの取れないよう挟んだ。
まるでセキリュティにでも連行される罪人のような形である。
「あれ? 遊星、ジャック、何だこれ? リーダーと常時密着したいほど仲良くしたいってか?」
「優香、大丈夫だったか?」
持ち前のスルースキルで鬼柳の言葉には耳を向けず、
クロウの後ろにいる優香へと優しい口調で尋ねた。
優香は遊星とジャックの間に挟まれる鬼柳に困惑しながらも答える。
「う、うん、皆のおかげでなんとか。助けてくれてありがとう、みんな」
「そうだよな! 特に俺の活躍のおか」
「フン、礼を言われる覚えはない。俺は単に、ああいう輩が気に入らなかっただけだ」
ウインクを飛ばして自慢げに口を開く鬼柳だったが、ジャックが間髪を入れず口を重ね鬼柳の発言を揉み消した。
遊星とジャックは互いに視線を合わせると、鬼柳を引きずるように路地の方へと歩き始めた。
「俺達三人はこれから残党がいないか調べてくる。――優香への説明は任せたぞ、クロウ」
「は、はあ!? んな残党なんてもういねえだろうが」
「そうだそうだ! 何で俺まで一緒なんだよ!?」
「折角俺達が調べてやると言ったのだ! 貴様は大人しく優香とそこで待っていろ!」
「! ジャック……」
クロウはようやく気付いた。
遊星とジャックは自分達に気を遣ってくれているらしい。
それで自分たちの仲を何かと邪魔する鬼柳を強引に引きずって、連れて行こうとしているのだろう。
「離せえええ」と鬼柳の必死の叫びが次第に遠くなっていき、周囲にはポカンとして遊星達の姿を眺めるクロウと優香しかいなくなった。
やがて遊星達は視界から消え、鬼柳の叫びがほんの微かに聞こえるだけである。
二人だけ残されなんとも気まずい雰囲気に、お互い口を開けずにいたのだが、その沈黙を破ったのは優香だった。
「クロウ、説明って何?」
「説明……あぁ、そうだった!」
思い出したようにクロウは優香へと振り返ると、自分の方に上目遣いで見つめる優香がいて少しドキッとしてしまう。
危うく説明の内容を忘れかけてしまいそうだったが、クロウ何事も無かったような素振りで話し始める。
「実はよ、優香を助ける前に此処のボスらしき野郎を倒したんだ! デュエルギャング共も全部屈伏させたし、もう××地区は俺達の支配下だぜ!」
「! 良かった、作戦上手くいったんだね!」
「ああ、それから優香を探し出すために遊星が電波を妨害している装置の電波を元に戻した後、優香の居場所を掴んで此処へ来たってわけだ。………まさか襲われかけそうな所だったとは思っていなかったが。怒りに任せてあいつら全員、瀕死寸前にするところだったぜ」
「ご、ごめんなさい。私が相手のデュエルの誘いになんか乗ったりしてクロウとはぐれたりしたから……」
「もう良いって。そもそも俺達はデュエルしに此処へ来たんだし、優香の判断は別に間違っちゃいねーよ。……優香の傍にいてやれなかった俺が悪い」
拳を強く握り締め、クロウは悔しそうに呟く。
――ずっと自分が傍で優香を守ると心に決めていた。
特に今日の××地区は女には酷な街と噂され初めから反対していたが、
優香の強い気持ちに押され、最後まで反対していたクロウも渋々ながら了承してしまったのだ。
だが、案の定優香とはぐれ恐れていた事態が起こってしまい、優香はなんとか無事だったとはいえ、恐ろしい経験をさせてしまったのには違いない。
先程の優香の襲われる瞬間が目に浮かび、クロウはギュッと歯を噛み締める。
「優香、恐かっただろ。ごめんな……」
声に悔しさが滲み出そうになるのを堪え、
華奢な優香の身体を、そっと両手で包み込むように優しく抱き締める。
腕の中にいる優香は、いつもより弱々しく感じられた。
ただ自己満足で優香を抱き締めていた鬼柳には分からない……恐らくクロウにしか分からないであろう微かな違いだった。
「私ならもう大丈夫。チームに入った時から覚悟は決めてるから。……それに、もうクロウの傍から絶対離れない。クロウもずっと私の傍にいてくれる……?」
不安と安心感が入り混じりだんだんと掠れていく声で問いた優香は、クロウの背中に回した手に力を込め、その胸に顔をうずめた。
優香に応えるようにクロウも一層強く抱き締める。
「当たり前だろ。もう今日みたいな思いは絶対させねえ。俺が優香の傍へずっと傍にいて守ってやる! あんな奴らが二度と優香へ寄ってこねえようにな」
「クロウ……ありがとう」
「だから優香もああいう輩に絡まれないよう俺からはぐれんなよ」
「……うん、もうはぐれないってば」
埋めていた顔を上げ優香は頬笑みを浮かべて答えると、クロウもつられるように顔をほころばせた。
自然と二人は顔を近付けていき、互いの唇が触れ合おうとした瞬間―――の事だった。
「この裏切り者ぉぉおおおお!!! 俺の優香に何してやがるーー!」
二人は目を見開き、鬼柳の声が聞こえた方へと顔を向けると、
そこには息を切らせ憤然とした表情でクロウを睨みつける鬼柳と、少し離れて遊星、ジャックの3人の姿があった。
思わず抱き締めていた優香の手を離し、キスを邪魔した鬼柳の方へとクロウは向き直った。
「なんでテメーが戻ってきてんだよ!」
「うるせー! さっきまで俺と優香が抱き着いてたら変態って言ってたくせに、クロウも抱き着いてんじゃねえか!! 俺も優香と満足したいんだよ! つか満足変態野郎でも良い、男はみんな変態だから!」
「認める訳ねえだろ、んなサティスファクションは! おい、遊星、ジャック、こりゃどういう事だよ!?」
暴走している鬼柳を尻目にクロウは遊星とジャックへと助け舟を求める。
しかし、当の遊星とジャックはいつのまにか優香の両隣へ移動していた。
「遊星、ジャック……?」
「すまん、鬼柳がトイレに行きたいと言ったので行かせてやるとこうなった」
「だが、あいつの気持ちも分からんではない。俺達二人も表上は貴様等を応援してやってはいるが鬼柳と同じような気持ちであるのに変わりは無いからな」
「は?」
ジャックの言っている意味が分からず、クロウが頓狂な声で聞き返す。
すると突如、遊星が何故か優香の片手を両手で掴んで真剣な眼差しで口を開いた。
「優香、俺はクロウの為を想って自分の気持ちに今まで偽りをついていた……だが、それは誤りだという事に今日気付いた。俺と絆を深めて愛し合おう、優香」
「ふえっ!? ゆ、ゆ、遊星!?」
「遊星、貴様! 抜け掛けはこの俺が許さんぞ! 優香、この俺がキングになった暁には俺のクイーンに―――」
「いや、優香は俺のモンだ! 俺が満足させてやるぜ、優香!」
「え、えーっと………」
三人の男、しかも同じチームメイトの仲間に一方的に言い寄られ、優香は困った表情を浮かべていると、
傍観していたクロウが三人の男の間へ忍び入り、器用に優香を抜け出させ、
しっかりと抱き上げて所謂お姫様抱っこという形でそのままその場を駆け出した。
「わわっ……く、クロウ!?」
「誰がおめえ等に優香をやるかよ! 俺達は先にアジトへ戻ってるぜ! 優香、しっかり俺に捕まっとけよ!」
後ろから三人の声が聞こえたような気がしたが構わずクロウは先へと進んでいく。
××地区のもう一つの噂―――何もしなくても男が女性欲に段々と目覚める場所というのは真だったようだ。
だが、遊星とジャックも本気の目をしており、ただ性欲やノリで優香に告白したという訳ではないだろう。
恐らくこの場所は躊躇していた二人を押しただけで、単なるキッカケにすぎない。
鬼柳は前から何も変わっていないが、優香への想いは本気なのだとクロウにも分かる。同様に遊星やジャックも。
これからあの三人からも優香の身を守る―――と心に誓いながら、クロウは優香を抱える両腕に力を込めた。
fin.
(2009.11.29 作品)
各地区の中でも最も治安の悪い場所の一つだといわれており、柄の悪い連中やデュエルギャングたちの溜まり場ともなっていた。
例えば、道中が女が一人などいれば構わず身ぐるみ剥がされ凌辱された末、女は海に捨てられる……など、黒い噂は後を絶たない。
もっとも、そんな噂がたつほどの所に娼婦以外の女はまず寄りつかないのだが
今日に限って一人だけ××地区に来ていた女がいた。
××地区のデュエルギャング達をデュエルによって屈伏させ、
この××地区を制覇しようと目論むチーム「サティスファクション」の一人――優香だった。
「ぐわあああッ!」
デュエルギャングのデュエルディスクが敗北した事によって爆破され、その場へと崩れ落ちるように倒れていく。
勝者の優香はデュエルディスクに繋がれたロープを外し、倒れた男の顔を見て意識があるか確認する。
(……気絶してるみたい、危なかった)
優香は少し安堵して、男から身を離れる。
この地区では、女がいるだけで男が狼のように襲ってくるという噂があるらしい。
噂が噂だけに、今回の奇襲作戦は優香はチームから外されていたが、
優香が「役に立ちたい」と必死に懇願し俺達の傍から離れないという条件で特別に加えられたのだ。
しかし、数時間前からの多々のデュエルでクロウと一緒にいた優香だったが案の如く途中ではぐれてしまい、
デュエルギャングに遭遇してはデュエルに勝利し廃墟の中を彷徨い探していた。
遊星がデュエルディスクに付けてくれている通信機能も、妨害電波が出ているのか機能しなかった。
流石にそろそろチームの誰かと合流しないとまずい。
焦っていた優香だったが、前方に数人の柄の悪い男の姿が見えると、立ち止まり腕のデュエルディスクを構える。
だが、優香の存在に気付き歩み寄ってきた数人の男たちの腕にはデュエルディスクが装着されていない。
鼻にピアスをした一人の男が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら口を開く。
「お嬢ちゃん、一人? んなら俺らと遊ばねぇ? ……って、あり、それってデュエルする道具じゃね?」
デュエルの基本ともいえる装備品、デュエルディスクを指差し、軽く首を傾げて尋ねた。
他の男三人も、優香の身体を舐めまわすような視線を向けているだけで、デュエルには関心を一切示していない。
即座にデュエリストではないと判断した優香は、この場から逃げようと一歩退いたが、
不意に背後から巨漢の男に両腕を拘束されてしまった。
悲痛の色を浮かべ振り払おうと手や足をじたばたさせるが、ひ弱な優香の力では到底巨漢の力には敵わない。
「まあ、そういう事だ。デュエルしに来たのかは知らねえが、女一人で此処に来たのが間違いだったな。――クククッ、楽しませてもらおうじゃねえの」
「あ……い、いや……」
男たちが一歩ずつ優香へと一斉に卑猥な視線を浴びせ、歩み寄って行く。
私がドジさえ踏まなければ、クロウともはぐれずにすんだ。
今までクロウが一緒だったから女一人でもデュエルをやってこれた。
クロウがいつも私を守ってくれたから……
足がすくみ、瞼をギュッと閉じて迫る恐怖に耐えようとする。
男の手が優香に触れようとした瞬間―――ドアァアという音と共に、男の喘ぎ声が聞こえた。
「てめーら! 俺の女に手ぇ出すなんて良い度胸してんじゃねえか!!」
夢にまで見た声に優香はハッとして瞼を開ける。
目の前には怒りを露にするクロウの姿があった。
地面にはあの鼻にピアスを付けていた男が鼻から血を流して突っ伏していた。
クロウの存在に危機を感じた巨漢の男は、拘束している優香の首元へとナイフを突き付ける。
「お、おい! 動くんじゃねえぞ!! じゃないとこの女が―――ぐがばッ!」
「この女が……どうなるんだ?」
巨漢の男に飛び蹴りを後頭部へとお見舞いした鬼柳は、倒れていく男の手から離れた優香を抱き止めるように自分の元へと引き寄せた。
残った三人はガタガタと身体を震わせながら「ヒィィ」と悲鳴を上げ、倒れた仲間を置き去りにして逃げ出そうとする。
しかし、その男三人も現れた遊星とジャックにハイキックされ、無様に地面へ崩れ落ちた。
「仲間も身捨て自分だけ逃げるとは、お前たちには絆を感じないな」
「フン、女……しかも、俺達のチームメイトに男五人で寄ってたかるとは……貴様ら! 覚悟は出来ているようだな!」
ジャックが威嚇するように情けなく地面にうっ伏している男たちを睨む。
恐怖の表情を浮かた男たち5人は全員起き上がり、凄まじいスピードで逃げるように走り去って行った。
男たちの気配が完全に消えたのを確認すると、
クロウ達は真っ先に何故か未だ鬼柳から解放されない優香の元へと駆け付けた。
「優香! 大丈夫か!?」
「クロウ、う、うん……私なら大丈夫」
「ああ、優香に怪我はねえ。これも俺の超サティスファクション☆キックのおかげだぜ! つか、マジで優香が無事で良かったあああ!!」
周囲(特にクロウ)の目など気にせず、鬼柳は号泣しながら優香をガバッと抱き締めた。
一人だけ例の黒いマントをしていた鬼柳の胸へと押し込まれ、優香の視界は真っ黒な色へと変わる。
「!? り、リーダー!?」
「だから、リーダーじゃなくて京介って呼べって言ってんだろ……にしても優香って良い匂いすんな……。なあ、早くクロウなんか止めて俺にしと……」
「いーからさっさと優香から離れろ! この変態満足野郎!!」
声を張り上げながらクロウは、どさくさにまぎれて口説こうとしている鬼柳から優香を引き剝がした。
そして優香を自分の後ろへと隠れさせ、鬼柳に冷たい目線をやる。
「何優香に抱き着いてんだ、てめえ。さっきの奴らみてえになりたいのか?」
「だってよ、クロウばっかズルいだろ! 一人だけ優香占領してよぉ。それに俺が優香助けたんだから良いだろ。ハグくらい」
「いくら助けたとはいえ、ハグは良いわけねえだろ! しかも俺の優香を口説こうなんて良い度胸だな……」
「ふ、あれは口説いたんじゃねえ。俺の気持ちが……俺の優香への愛が、溢れただけだ」
「おい、鬼柳」
場の空気を一向に読もうとしない鬼柳に、遊星は呆れた顔をして彼の片腕を掴む。
同時にジャックがもう片方の腕を掴み、鬼柳が身動きの取れないよう挟んだ。
まるでセキリュティにでも連行される罪人のような形である。
「あれ? 遊星、ジャック、何だこれ? リーダーと常時密着したいほど仲良くしたいってか?」
「優香、大丈夫だったか?」
持ち前のスルースキルで鬼柳の言葉には耳を向けず、
クロウの後ろにいる優香へと優しい口調で尋ねた。
優香は遊星とジャックの間に挟まれる鬼柳に困惑しながらも答える。
「う、うん、皆のおかげでなんとか。助けてくれてありがとう、みんな」
「そうだよな! 特に俺の活躍のおか」
「フン、礼を言われる覚えはない。俺は単に、ああいう輩が気に入らなかっただけだ」
ウインクを飛ばして自慢げに口を開く鬼柳だったが、ジャックが間髪を入れず口を重ね鬼柳の発言を揉み消した。
遊星とジャックは互いに視線を合わせると、鬼柳を引きずるように路地の方へと歩き始めた。
「俺達三人はこれから残党がいないか調べてくる。――優香への説明は任せたぞ、クロウ」
「は、はあ!? んな残党なんてもういねえだろうが」
「そうだそうだ! 何で俺まで一緒なんだよ!?」
「折角俺達が調べてやると言ったのだ! 貴様は大人しく優香とそこで待っていろ!」
「! ジャック……」
クロウはようやく気付いた。
遊星とジャックは自分達に気を遣ってくれているらしい。
それで自分たちの仲を何かと邪魔する鬼柳を強引に引きずって、連れて行こうとしているのだろう。
「離せえええ」と鬼柳の必死の叫びが次第に遠くなっていき、周囲にはポカンとして遊星達の姿を眺めるクロウと優香しかいなくなった。
やがて遊星達は視界から消え、鬼柳の叫びがほんの微かに聞こえるだけである。
二人だけ残されなんとも気まずい雰囲気に、お互い口を開けずにいたのだが、その沈黙を破ったのは優香だった。
「クロウ、説明って何?」
「説明……あぁ、そうだった!」
思い出したようにクロウは優香へと振り返ると、自分の方に上目遣いで見つめる優香がいて少しドキッとしてしまう。
危うく説明の内容を忘れかけてしまいそうだったが、クロウ何事も無かったような素振りで話し始める。
「実はよ、優香を助ける前に此処のボスらしき野郎を倒したんだ! デュエルギャング共も全部屈伏させたし、もう××地区は俺達の支配下だぜ!」
「! 良かった、作戦上手くいったんだね!」
「ああ、それから優香を探し出すために遊星が電波を妨害している装置の電波を元に戻した後、優香の居場所を掴んで此処へ来たってわけだ。………まさか襲われかけそうな所だったとは思っていなかったが。怒りに任せてあいつら全員、瀕死寸前にするところだったぜ」
「ご、ごめんなさい。私が相手のデュエルの誘いになんか乗ったりしてクロウとはぐれたりしたから……」
「もう良いって。そもそも俺達はデュエルしに此処へ来たんだし、優香の判断は別に間違っちゃいねーよ。……優香の傍にいてやれなかった俺が悪い」
拳を強く握り締め、クロウは悔しそうに呟く。
――ずっと自分が傍で優香を守ると心に決めていた。
特に今日の××地区は女には酷な街と噂され初めから反対していたが、
優香の強い気持ちに押され、最後まで反対していたクロウも渋々ながら了承してしまったのだ。
だが、案の定優香とはぐれ恐れていた事態が起こってしまい、優香はなんとか無事だったとはいえ、恐ろしい経験をさせてしまったのには違いない。
先程の優香の襲われる瞬間が目に浮かび、クロウはギュッと歯を噛み締める。
「優香、恐かっただろ。ごめんな……」
声に悔しさが滲み出そうになるのを堪え、
華奢な優香の身体を、そっと両手で包み込むように優しく抱き締める。
腕の中にいる優香は、いつもより弱々しく感じられた。
ただ自己満足で優香を抱き締めていた鬼柳には分からない……恐らくクロウにしか分からないであろう微かな違いだった。
「私ならもう大丈夫。チームに入った時から覚悟は決めてるから。……それに、もうクロウの傍から絶対離れない。クロウもずっと私の傍にいてくれる……?」
不安と安心感が入り混じりだんだんと掠れていく声で問いた優香は、クロウの背中に回した手に力を込め、その胸に顔をうずめた。
優香に応えるようにクロウも一層強く抱き締める。
「当たり前だろ。もう今日みたいな思いは絶対させねえ。俺が優香の傍へずっと傍にいて守ってやる! あんな奴らが二度と優香へ寄ってこねえようにな」
「クロウ……ありがとう」
「だから優香もああいう輩に絡まれないよう俺からはぐれんなよ」
「……うん、もうはぐれないってば」
埋めていた顔を上げ優香は頬笑みを浮かべて答えると、クロウもつられるように顔をほころばせた。
自然と二人は顔を近付けていき、互いの唇が触れ合おうとした瞬間―――の事だった。
「この裏切り者ぉぉおおおお!!! 俺の優香に何してやがるーー!」
二人は目を見開き、鬼柳の声が聞こえた方へと顔を向けると、
そこには息を切らせ憤然とした表情でクロウを睨みつける鬼柳と、少し離れて遊星、ジャックの3人の姿があった。
思わず抱き締めていた優香の手を離し、キスを邪魔した鬼柳の方へとクロウは向き直った。
「なんでテメーが戻ってきてんだよ!」
「うるせー! さっきまで俺と優香が抱き着いてたら変態って言ってたくせに、クロウも抱き着いてんじゃねえか!! 俺も優香と満足したいんだよ! つか満足変態野郎でも良い、男はみんな変態だから!」
「認める訳ねえだろ、んなサティスファクションは! おい、遊星、ジャック、こりゃどういう事だよ!?」
暴走している鬼柳を尻目にクロウは遊星とジャックへと助け舟を求める。
しかし、当の遊星とジャックはいつのまにか優香の両隣へ移動していた。
「遊星、ジャック……?」
「すまん、鬼柳がトイレに行きたいと言ったので行かせてやるとこうなった」
「だが、あいつの気持ちも分からんではない。俺達二人も表上は貴様等を応援してやってはいるが鬼柳と同じような気持ちであるのに変わりは無いからな」
「は?」
ジャックの言っている意味が分からず、クロウが頓狂な声で聞き返す。
すると突如、遊星が何故か優香の片手を両手で掴んで真剣な眼差しで口を開いた。
「優香、俺はクロウの為を想って自分の気持ちに今まで偽りをついていた……だが、それは誤りだという事に今日気付いた。俺と絆を深めて愛し合おう、優香」
「ふえっ!? ゆ、ゆ、遊星!?」
「遊星、貴様! 抜け掛けはこの俺が許さんぞ! 優香、この俺がキングになった暁には俺のクイーンに―――」
「いや、優香は俺のモンだ! 俺が満足させてやるぜ、優香!」
「え、えーっと………」
三人の男、しかも同じチームメイトの仲間に一方的に言い寄られ、優香は困った表情を浮かべていると、
傍観していたクロウが三人の男の間へ忍び入り、器用に優香を抜け出させ、
しっかりと抱き上げて所謂お姫様抱っこという形でそのままその場を駆け出した。
「わわっ……く、クロウ!?」
「誰がおめえ等に優香をやるかよ! 俺達は先にアジトへ戻ってるぜ! 優香、しっかり俺に捕まっとけよ!」
後ろから三人の声が聞こえたような気がしたが構わずクロウは先へと進んでいく。
××地区のもう一つの噂―――何もしなくても男が女性欲に段々と目覚める場所というのは真だったようだ。
だが、遊星とジャックも本気の目をしており、ただ性欲やノリで優香に告白したという訳ではないだろう。
恐らくこの場所は躊躇していた二人を押しただけで、単なるキッカケにすぎない。
鬼柳は前から何も変わっていないが、優香への想いは本気なのだとクロウにも分かる。同様に遊星やジャックも。
これからあの三人からも優香の身を守る―――と心に誓いながら、クロウは優香を抱える両腕に力を込めた。
fin.
(2009.11.29 作品)
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