短編夢
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私立ゴッズ学園高等学校に伝わる説話――
それは学園の敷地にある「伝説の桜の樹」と呼ばれる桜の巨木の下で告白して結ばれると、永遠に恋人同士でいられるという恋する生徒にとっては憧れの伝説がある。
ただのよくある胡散臭い話とか思うかもしれないが、実際に結ばれてゴールイン☆してるカップルが多数存在するので、どうやら伝説は本当らしい。
そんな憧れの憧れの伝説の巨木の下に今、私が立っている訳で。
浮かれている私の目の前には―――
「優香、俺は……お前が好きだ。一生離したくねえ!」
「く、クロウくん……え、えええ、えっと……!」
なんと私はずっと思い人であったクロウくんから、告白されているのだ。というか、告白されちゃった……だと……!?
この世がどう引っ繰り返っても有り得ない展開に、当然パニックになって言葉が出ない。
むしろ言葉を出そうにも思うように喋れない。こんなに口が動かないのは初めてで思考も追い付かない。どうしよう。
そうだっ、これは夢よね!? 夢に違いない!
だってクロウくんとはただのクラスメートな私が、クロウくんに告白されるなんて有り得ないもの!
でも……でもっ………!
これが夢なら、目の前のクロウくんに何をしても、何を言っても良いんだよね……?
普段何も喋ってない分、今度こそ……私の気持ちを―――!
「私もっ、ずっと前から好きでしたーーッッ!」
珍しく頬を赤らめて、でも真剣な瞳で私を見据える正面のクロウくんに抱き付く……するつもりが、スカッと空を切る音。
あれ、変だなと、もう一度腕を動かすけどやっぱり空振りで、代わりに視界に入ったのは見慣れた教室の風景。
……あっ、そっか、今は風馬先生の数学の授業で、私は眠くなってちょいと五分だけと居眠りして夢を―――って、夢!?
ようやく現実に戻ると、私は席から立っていて周りからはドッと笑い声が飛び交った。
う、うそっ、ホントに夢だったなんて!!!
クラスメート全員からの視線を浴びながら、私は顔を赤くして慌てて席に座った。
が、さらに追い討ちをかけるように、隣にたたずむ風馬先生から笑顔で一言。
「北村、恋をするのは良いがまず勉強をしっかりな。次寝たら俺の特別補習だぞ」
「は、はい……」
私が身を小さくして返事をすると、また教室中に笑い声が飛び交う。
他の人達が笑うのはこの際どうでも良い。でも、どうか……どうかあの人だけは見てませんように!!
と、祈るような気持ちで一番後ろの席をうかがうと、私と同じく寝てたはずのクロウくんも友達の鬼柳くんと一緒に笑っていた。
まあ、そりゃ笑いますよね。
クラスメートが授業中、唐突に立ち上がって、しかも告白台詞を叫んだら。
もしかして変な奴って思われたかも。いや、最悪な場合は軽蔑されたかもしれない。
あーあ、現実ってそう上手くはいかないもんだなぁ……。
時は過ぎて昼休み。
いつものように誰もいない屋上で、アキちゃんとお弁当を食べていた。
しかし、正直あまり食べ物が喉を通らないのが現実。
大好きな卵焼きもこんなに味が無いのは初めてかも……。
「災難だったわね、優香」
「うん……今日は疲れた……」
返事と同時に、がっくりと肩を落とす。
幸いあの数学の時間が一時間目だったから、もうクラスメートからは「好きな人いるの!?」「教えて教えてー!」とか執拗に聞かれることはほとんど無くなった。
もちろん「クロウくん♪」と素直に答えられる訳もなく、そこは寝ぼけてたとか曖昧に誤魔化しておいたけど。
「でもクロウに告白される夢だなんて、優香って可愛いわね」
「あ、アキちゃんたら! た、たとえ夢でも嬉しかったんだもん……」
元々私とクロウくんの関係はただのクラスメートだ。
会話なんて「くくくクロウくん、これ生物のプリントなんだけd「おっ、サンキューな!」くらいだった気がする。
というか名前どころか苗字さえも呼ばれた記憶がない。
我ながらなんて寂しい片思いだろう。
だけど、クロウくんのいつも明るく笑う姿や、下校中に見たバイトで毎日一生懸命働くクロウくんの学校とは違う姿に、ろくに話したこともないのに私はいつのまにか惹かれていた。
遠くからこっそり見てるだけで良かったのに人間の本能というのは残酷で、あんな乙女な夢見せて、おまけに最悪の失態までクロウくんに晒してしまった。
「あーあ、絶対変な奴って思われてるだろうなぁ」
「そうかしら? 逆にクロウと会話できるキッカケになるかもしれないわよ」
「キッカケ?」
「ええ、今日の事でこれから優香の事、少しは見てくれるんじゃないかしら」
にこっと微笑むアキちゃんの言葉に、ほんの少し希望が見えた気がした。
アキちゃんの言うとおり、もしかしてもしかしてクロウくんとだって、今回の事で良い方向に転ぶかもしれないし!
それにネガティブで考え続けていてまたクロウくんの前で失敗でもしたら、それこそ最悪な結果だ。
おかげで、ちょっとだけ元気が出たかも。アキちゃん……ありがとう。
その日のお昼は、アキちゃんからの元気パワーでいつも以上に盛り上がった。
――放課後。
HRが終わり、誰よりも早く教室を出た私は急ぎ足で校門へと向かっていた。
私の告白騒動はというと、お昼休みを挟んだせいかすっかり皆の記憶から忘れられたようで、ホッと一人で安心していた。
あれ以来クロウくんとも、私が一方的に遠くから眺めるだけで特に変わった事もない。
が、朝から大恥をかいた事実は私の中から消える訳もなく、その日の授業は頭にも入らなかった。
とにかくいつ誰かが思い出して、また自分をからかってくるかもしれない。
捕まったら、また質問攻めにあうかもしれない……うう、考えただけでも恐ろしい。
一刻も早く今日は帰らなきゃ、と外靴に履き替えるため、下駄箱に手をかけた時だった。
「あれ、北村じゃねぇか」
ふいに私の大好きな男の子の声が聞こえた。
いや、聞こえたというか私があの人の声を間違うはずがない。
となると、ま、まさか……?
おそるおそる声がした方向を振り返ると、そこには―――まさに今、下校しようとするクロウくんの姿があった。
「く、くくくクロウくん!? え、えっと、偶然だね!」
まさかこんな所でクロウくんにばったり会うと夢にまで思わなかった私は、一気に緊張して声が裏返ってしまう。
クロウくんの方は特に気にする事無く「ほんと偶然だな」と口にして下駄箱から外靴を取り出す。
こんなに近くでクロウくんとまともに話すのは初めてで、バクバクと心臓の音は鳴りっぱなしで止まらない。
クロウくんにまで聞こえそうなくらいの勢いだ。
しかも今日は珍しくいつも一緒の鬼柳くんの姿も見当たらず、下駄箱周辺には私達以外に人もいない。
つまり現在、クロウくんと二人っきりという夢のようなシチュエーションの中にいるのだ。
滅多とない機会なんだから、ここは何か……何か喋らないと……!
が、もちろん場に合った言葉がポンと出てくるはずもなく、結局外靴を履くクロウくんの様子を固まって見つめるだけとなってしまった。
もう何も喋れずこれでお別れかぁ……、と落胆しかけた瞬間、「あっ」とクロウくんが思い出したように口を開いた。
「そういや今日のお前、面白かったぜ」
きょ、今日って……まさか一時間目の寝ぼけて言った告白のこと!?
なんて聞き返せる訳がなく、クロウくんと目を合わせずに視線を泳がせる。
同時に、朝クロウくんが私を見て笑っていた様子が頭に浮かんだ。
やっぱり変な奴って思われてたんだ……覚悟はしていたけど、僅かな希望を信じていた分、ショックは大きい。
でも、クロウくんと少しだけでも二人っきりになれただけで私はもう充分すぎる幸せ者かもしれない……。
せめてこれ以上ショックを受けないよう、ここは潔く別れを切り出そう―――
「あ、あの、私これから」
「なんかいつもどもってるし、顔赤くするから恥ずかしがりやって思ってたけど、告白する時は大胆なんだな」
「へっ?」
思いがけないクロウくんの言葉に、つい情けない声を出してしまった。
そして視線をあげると、信じられない事にクロウくんが笑ってくれている。
あ、あれ? 変な奴って思われてないの……?
状況が読めず目をぱちくりとさせるが、とてもクロウくんがからかっているようにも見えない。
「良いと思うぜ、そういうトコ。本番でずっとモジモジしてるよりかは印象に残るし」
「クロウくん……」
「おっと、もうこんな時間か。悪ぃ、北村。バイトの時間だから行くわ。またな!」
私にそう告げたクロウくんは、急ぎ足で私に背を向けて去って行った。
クロウくんの背中が見えなくなっても、ポカンとしていて、その場から動く事が出来なかった。
く、クロウくんに名前を二回も呼ばれた……!
褒めてもらったし、またなって笑顔で言われちゃった!
普段の私からじゃ信じられない出来事に、また夢じゃないかと頬をつねってみるが、とっても痛い。うん、現実だ!
ほんの数分間の会話だったけど、まるで本当に夢のような出来事だった。
しかもクロウくん、私の事ちゃんと見ていてくれてたんだ……。
自分の事など名前すら知らないだろうなと思い込んでいただけに、この事実は嬉しい。
今日は最悪の日って思い込んでたけど、悪い事の次には良い事があるんだ!
その日はアキちゃんに声を掛けられるまで、しばらく私はその場で余韻に浸っていたという――。
それからというと、私とクロウくんは話すようになり、次第に仲良くなっていった。
アキちゃんの言った事は正しくて、ホントにあの出来事がキッカケになっちゃった。
夢の中だけどあの桜の樹の下で告白したからかな?
ふふっ、いつかあの夢が正夢になるといいな。
そう夢見て、頬をほころばせると窓の外から桜の樹を眺めるのだった―――。
fin.
<あとがき>
風馬先生の特別補習受けたい。
2011.02.20
それは学園の敷地にある「伝説の桜の樹」と呼ばれる桜の巨木の下で告白して結ばれると、永遠に恋人同士でいられるという恋する生徒にとっては憧れの伝説がある。
ただのよくある胡散臭い話とか思うかもしれないが、実際に結ばれてゴールイン☆してるカップルが多数存在するので、どうやら伝説は本当らしい。
そんな憧れの憧れの伝説の巨木の下に今、私が立っている訳で。
浮かれている私の目の前には―――
「優香、俺は……お前が好きだ。一生離したくねえ!」
「く、クロウくん……え、えええ、えっと……!」
なんと私はずっと思い人であったクロウくんから、告白されているのだ。というか、告白されちゃった……だと……!?
この世がどう引っ繰り返っても有り得ない展開に、当然パニックになって言葉が出ない。
むしろ言葉を出そうにも思うように喋れない。こんなに口が動かないのは初めてで思考も追い付かない。どうしよう。
そうだっ、これは夢よね!? 夢に違いない!
だってクロウくんとはただのクラスメートな私が、クロウくんに告白されるなんて有り得ないもの!
でも……でもっ………!
これが夢なら、目の前のクロウくんに何をしても、何を言っても良いんだよね……?
普段何も喋ってない分、今度こそ……私の気持ちを―――!
「私もっ、ずっと前から好きでしたーーッッ!」
珍しく頬を赤らめて、でも真剣な瞳で私を見据える正面のクロウくんに抱き付く……するつもりが、スカッと空を切る音。
あれ、変だなと、もう一度腕を動かすけどやっぱり空振りで、代わりに視界に入ったのは見慣れた教室の風景。
……あっ、そっか、今は風馬先生の数学の授業で、私は眠くなってちょいと五分だけと居眠りして夢を―――って、夢!?
ようやく現実に戻ると、私は席から立っていて周りからはドッと笑い声が飛び交った。
う、うそっ、ホントに夢だったなんて!!!
クラスメート全員からの視線を浴びながら、私は顔を赤くして慌てて席に座った。
が、さらに追い討ちをかけるように、隣にたたずむ風馬先生から笑顔で一言。
「北村、恋をするのは良いがまず勉強をしっかりな。次寝たら俺の特別補習だぞ」
「は、はい……」
私が身を小さくして返事をすると、また教室中に笑い声が飛び交う。
他の人達が笑うのはこの際どうでも良い。でも、どうか……どうかあの人だけは見てませんように!!
と、祈るような気持ちで一番後ろの席をうかがうと、私と同じく寝てたはずのクロウくんも友達の鬼柳くんと一緒に笑っていた。
まあ、そりゃ笑いますよね。
クラスメートが授業中、唐突に立ち上がって、しかも告白台詞を叫んだら。
もしかして変な奴って思われたかも。いや、最悪な場合は軽蔑されたかもしれない。
あーあ、現実ってそう上手くはいかないもんだなぁ……。
時は過ぎて昼休み。
いつものように誰もいない屋上で、アキちゃんとお弁当を食べていた。
しかし、正直あまり食べ物が喉を通らないのが現実。
大好きな卵焼きもこんなに味が無いのは初めてかも……。
「災難だったわね、優香」
「うん……今日は疲れた……」
返事と同時に、がっくりと肩を落とす。
幸いあの数学の時間が一時間目だったから、もうクラスメートからは「好きな人いるの!?」「教えて教えてー!」とか執拗に聞かれることはほとんど無くなった。
もちろん「クロウくん♪」と素直に答えられる訳もなく、そこは寝ぼけてたとか曖昧に誤魔化しておいたけど。
「でもクロウに告白される夢だなんて、優香って可愛いわね」
「あ、アキちゃんたら! た、たとえ夢でも嬉しかったんだもん……」
元々私とクロウくんの関係はただのクラスメートだ。
会話なんて「くくくクロウくん、これ生物のプリントなんだけd「おっ、サンキューな!」くらいだった気がする。
というか名前どころか苗字さえも呼ばれた記憶がない。
我ながらなんて寂しい片思いだろう。
だけど、クロウくんのいつも明るく笑う姿や、下校中に見たバイトで毎日一生懸命働くクロウくんの学校とは違う姿に、ろくに話したこともないのに私はいつのまにか惹かれていた。
遠くからこっそり見てるだけで良かったのに人間の本能というのは残酷で、あんな乙女な夢見せて、おまけに最悪の失態までクロウくんに晒してしまった。
「あーあ、絶対変な奴って思われてるだろうなぁ」
「そうかしら? 逆にクロウと会話できるキッカケになるかもしれないわよ」
「キッカケ?」
「ええ、今日の事でこれから優香の事、少しは見てくれるんじゃないかしら」
にこっと微笑むアキちゃんの言葉に、ほんの少し希望が見えた気がした。
アキちゃんの言うとおり、もしかしてもしかしてクロウくんとだって、今回の事で良い方向に転ぶかもしれないし!
それにネガティブで考え続けていてまたクロウくんの前で失敗でもしたら、それこそ最悪な結果だ。
おかげで、ちょっとだけ元気が出たかも。アキちゃん……ありがとう。
その日のお昼は、アキちゃんからの元気パワーでいつも以上に盛り上がった。
――放課後。
HRが終わり、誰よりも早く教室を出た私は急ぎ足で校門へと向かっていた。
私の告白騒動はというと、お昼休みを挟んだせいかすっかり皆の記憶から忘れられたようで、ホッと一人で安心していた。
あれ以来クロウくんとも、私が一方的に遠くから眺めるだけで特に変わった事もない。
が、朝から大恥をかいた事実は私の中から消える訳もなく、その日の授業は頭にも入らなかった。
とにかくいつ誰かが思い出して、また自分をからかってくるかもしれない。
捕まったら、また質問攻めにあうかもしれない……うう、考えただけでも恐ろしい。
一刻も早く今日は帰らなきゃ、と外靴に履き替えるため、下駄箱に手をかけた時だった。
「あれ、北村じゃねぇか」
ふいに私の大好きな男の子の声が聞こえた。
いや、聞こえたというか私があの人の声を間違うはずがない。
となると、ま、まさか……?
おそるおそる声がした方向を振り返ると、そこには―――まさに今、下校しようとするクロウくんの姿があった。
「く、くくくクロウくん!? え、えっと、偶然だね!」
まさかこんな所でクロウくんにばったり会うと夢にまで思わなかった私は、一気に緊張して声が裏返ってしまう。
クロウくんの方は特に気にする事無く「ほんと偶然だな」と口にして下駄箱から外靴を取り出す。
こんなに近くでクロウくんとまともに話すのは初めてで、バクバクと心臓の音は鳴りっぱなしで止まらない。
クロウくんにまで聞こえそうなくらいの勢いだ。
しかも今日は珍しくいつも一緒の鬼柳くんの姿も見当たらず、下駄箱周辺には私達以外に人もいない。
つまり現在、クロウくんと二人っきりという夢のようなシチュエーションの中にいるのだ。
滅多とない機会なんだから、ここは何か……何か喋らないと……!
が、もちろん場に合った言葉がポンと出てくるはずもなく、結局外靴を履くクロウくんの様子を固まって見つめるだけとなってしまった。
もう何も喋れずこれでお別れかぁ……、と落胆しかけた瞬間、「あっ」とクロウくんが思い出したように口を開いた。
「そういや今日のお前、面白かったぜ」
きょ、今日って……まさか一時間目の寝ぼけて言った告白のこと!?
なんて聞き返せる訳がなく、クロウくんと目を合わせずに視線を泳がせる。
同時に、朝クロウくんが私を見て笑っていた様子が頭に浮かんだ。
やっぱり変な奴って思われてたんだ……覚悟はしていたけど、僅かな希望を信じていた分、ショックは大きい。
でも、クロウくんと少しだけでも二人っきりになれただけで私はもう充分すぎる幸せ者かもしれない……。
せめてこれ以上ショックを受けないよう、ここは潔く別れを切り出そう―――
「あ、あの、私これから」
「なんかいつもどもってるし、顔赤くするから恥ずかしがりやって思ってたけど、告白する時は大胆なんだな」
「へっ?」
思いがけないクロウくんの言葉に、つい情けない声を出してしまった。
そして視線をあげると、信じられない事にクロウくんが笑ってくれている。
あ、あれ? 変な奴って思われてないの……?
状況が読めず目をぱちくりとさせるが、とてもクロウくんがからかっているようにも見えない。
「良いと思うぜ、そういうトコ。本番でずっとモジモジしてるよりかは印象に残るし」
「クロウくん……」
「おっと、もうこんな時間か。悪ぃ、北村。バイトの時間だから行くわ。またな!」
私にそう告げたクロウくんは、急ぎ足で私に背を向けて去って行った。
クロウくんの背中が見えなくなっても、ポカンとしていて、その場から動く事が出来なかった。
く、クロウくんに名前を二回も呼ばれた……!
褒めてもらったし、またなって笑顔で言われちゃった!
普段の私からじゃ信じられない出来事に、また夢じゃないかと頬をつねってみるが、とっても痛い。うん、現実だ!
ほんの数分間の会話だったけど、まるで本当に夢のような出来事だった。
しかもクロウくん、私の事ちゃんと見ていてくれてたんだ……。
自分の事など名前すら知らないだろうなと思い込んでいただけに、この事実は嬉しい。
今日は最悪の日って思い込んでたけど、悪い事の次には良い事があるんだ!
その日はアキちゃんに声を掛けられるまで、しばらく私はその場で余韻に浸っていたという――。
それからというと、私とクロウくんは話すようになり、次第に仲良くなっていった。
アキちゃんの言った事は正しくて、ホントにあの出来事がキッカケになっちゃった。
夢の中だけどあの桜の樹の下で告白したからかな?
ふふっ、いつかあの夢が正夢になるといいな。
そう夢見て、頬をほころばせると窓の外から桜の樹を眺めるのだった―――。
fin.
<あとがき>
風馬先生の特別補習受けたい。
2011.02.20