短編夢
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※一部暴力表現を含みますので、苦手な方はご注意ください。
チームユニコーン――。
初めて彼らのライディングデュエルを見た時、私はそのデュエルに目を奪われた。
――彼らの計算された完璧な戦略や戦術、圧倒的な実力かつ熱くて真っ直ぐなデュエル。
いつしか彼らのデュエルの虜になり、同時にチームユニコーンの役に立ちたいと思うようになっていた。
そして厳しい試験を乗り越え、ようやくチームユニコーンのサポーターになる事ができた。
もちろんサポーターの仕事は大変だけど、この仕事に就けて幸せだし誇りも持っている。
憧れのユニコーンのメンバーの役に立てるのなら、どんなにつらい事があっても頑張ろうと思いながら―――。
「ブレオさん、昨日の記録用紙ですがまとめ終わったので見ていただけますか?」
ドリンクを飲みながら休憩しているブレオさんの前に、私は手に持っていた記録用紙を差し出した。
「おっ、さすが優香は仕事が早いな。どれどれ……」
記録用紙を手に取ったブレオさんは早速目を通し、しばらくの間考え込んだ。
ずっとブレオさんが黙ったままなので何か不備でもあったのかと不安になって声を掛けようとしたら、代わりに隣に居たジャンさんが口を開いた。
「どうだ? ブレオ。随分と考えているようだが」
「いや、やっぱ優香のまとめた記録用紙は分かり易いと思ってな。さっき測定した記録だってほら、もう集計されてるし」
「へえ、やるじゃん。優香」
ちょうどトレーニングが終わったばかりのアンドレさんは、上から記録用紙を覗き込んで感心したように言う。
あのユニコーンのメンバーから仕事を褒められた嬉しさで心がいっぱいになり、私はつい口元が緩む。
「ありがとうございます。皆さんのお役に立てるのなら、喜んでまた作りますよ」
「ああ、頼むぜ」
「次の測定の時も頼んだぞ」
ニッと眩しいほどの笑顔を浮かべるアンドレさんとブレオさん。
この二人の笑顔を見ていると、ハードな仕事の疲れも吹っ飛ぶ気さえした。
「それはそうと、優香……昨日は夜まで仕事をしていたようだが大丈夫なのか?」
突然ジャンさんが記録用紙から私に視線を向けて訊いてきた。
ジャンさんは滅多に笑わないけど、その分大人の男って感じがして、ジャンさんに見つめられると妙に緊張してしまう。
「あっ、はい、確かに昨日は夜まで仕事をしておりました。残業があったので」
「無茶をする……」
「これが私の仕事ですから。それに皆さんのためだったら、残業だろうが何だろうがへっちゃらです!」
ニッコリと笑って私は元気いっぱいに答えてみせた。
……実を言うと、この所は残業が多くてちょっと疲れていたりするんだけど、ユニコーンの皆さんには心配を掛ける訳もいかないので、調子が良い振りをしておいた。
まあ、チームユニコーンの為だったら残業くらい平気なのは事実だし、仲間のために頑張る彼らの姿を見ていれば元気だって湧いてくる。
「だからと言って夜遅くに女が一人で帰るのは感心しないな。もし夜道で襲われたらどうするんだ?」
「それは……え、えっと……」
「この町はセキュリティに守られてるからといって安心するな」
「はい……」
ジャンさんの言っていることは正しいので、返す言葉もなく私は素直に返事をした。
確かにセキリュティなんていざという時に限って当てにならない場合だってある。
(でも、今月中には仕上げなきゃいけない仕事も沢山残っているし、どうしても夜遅くまで残らないといけないから困ったな……)
私が弱っていると、突如ジャンさんが耳を疑うようなことを切り出したのだった。
「そこで、だ。お前が夜遅くに帰ることになった時は俺達が家まで送ることにする」
「え?」
まったく予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。
えっと、私の聞こえた通りでは、い、家まで送ってくださるとかなんとか……?
「さんせーい。良い提案するなぁ、ジャン! アンドレも構わないだろ?」
「もちろんだ。俺もその方が良いと思う」
「そっ、そんな! 皆さんの手を煩わせることなんて出来ません! お気になさらず、私なら大丈夫です! あの、他の仕事が残ってますので私はこれで!」
これ以上いれば送って行く方に話が進みそうだったので、私は一礼して逃げるようにトレーニングルームを後にした。
(ま、まさかユニコーンの皆さんから心配されるどころか、家まで送るとまで言われるなんて……)
トレーニングルームからの帰り道、胸の鼓動はまだドキドキしていた。
もちろん本当に家まで送っていただく訳にはいかないけど、憧れの皆さんに優しい言葉を掛けてもらえただけで幸せだ。
また仕事を頑張らないと! と改めて気合を入れ直し、早く別練にあるサポータールームに帰ろうとした矢先だった。
「きゃっ!」
突然、誰かに足を引っ掛けられ、その場に派手に転んでしまった。
手に持っていた書類がバサバサと音を立てて周囲に散らばる。
慌てて拾おうと書類の一枚に手を伸ばした瞬間、私の足を引っ掛けたと思われる人影が目の前に姿を現わしたのだった。
「あらぁ、ごめんなさい。貴女があんまりにも浮かれた顔をしてるから、つい足が出ちゃったわ」
そう言ったが悪びれた様子もなく、地面にうつ伏せになっている私をニンマリとした顔で見下す人物――確かユニコーンの熱狂的ファンのリーダー格の女の人だ。
後ろには仲間であろう四、五人のファンの女の人達が私を睨みつけるように見下ろしている。
「ったく、こんな化粧もしてないようなダサい女があのユニコーンの皆様のサポーターなんて有り得ないわよ」
「ホント、ホントー。私らの方がもっとサポート出来るってのに」
「何であんたみたいなブスが、サポーターに選ばれたのかが信じらんないっていうか」
私にわざと聞こえるよう大きな声で話しケラケラと笑いながら、ファンの女の人達は地面に広がった書類を足で踏んでいく。
リーダー格の女の人は、満足そうにその様子を眺めていた。
……チームユニコーンのサポーターの中で唯一の女性である私は、女性ファンから陰湿なイジメを受けていた。
と言うのも、今私の目の前のファンの人達は元々ユニコーンの女性サポーターの採用試験に落ちた人ばかりで、一人合格した私を妬むようになったのが始まりだ。
それからというもの、頻繁に影で私を辞めさせようと精神的に追い込んできたという訳である。
書類をこれ以上汚させてはいけない、と上半身だけでも起き上がろうとすると、リーダー格の女の人が前にしゃがみ、そのままグッと私の前髪を痛いほどの力で掴み上げ、無理矢理顔を上げさせた。
「うっ……や、止めてくださいっ」
「あらあら、私達がこれだけやってもまだ分からないとでも?」
「私は、貴女達にどんな酷い事をされても、ユニコーンのサポーターを辞めるつもりはありませんっ……!」
「へえ、言うじゃない。その信念がどこまで続くか見物だわ……」
ニヤリと微笑むと、私の前髪を掴んだまま顔ごと地面に勢いよく叩きつけた。
そして「ユニコーンの皆様のトレーニングの時間が始まるわ!」と、急いでトレーニングルームの方へとファンの人たちは走り去っていった――。
一人、ボロボロに踏み潰された書類と共にその場に残された私は、地面にぶつけられ痛む額を手で抑えながら、ゆっくりと起きあがった。
片手で書類を拾い集めながら、さっきのファンの女の人が吐いた台詞をふと思い返す。
――ったく、こんな化粧もしてないようなダサい女があのユニコーンの皆様のサポーターなんて有り得ないわよ
確かに私は化粧もしていなければ、綺麗になる努力すらしていない。
髪だって切りにいく暇もないので普段からボサボサだし、服も一日中ジャージの時が多い。
一方のファンの人達は、皆綺麗になる努力をしているようで容姿端麗な人ばかりだ。
そんな俗で言うダサい部類に入る私がユニコーンの皆さんの近くにいる事は相応しくないと、ファンの人達からすれば思うのだろう。
イジメを受ける理由の大きな一つかもしれない。
でも、私はめげなかった。
これからどんなイジメを受けたってユニコーンのサポーターを辞めるつもりは一切ないし、
それにファンの人達が裏でこんな陰湿なことをしていると知ったら、ユニコーンの皆さんは悲しんでしまう。
私一人が我慢しておけば、いつかはファンの人達だって分かってくれる日が来るかもしれない。
だから、それまでユニコーンの皆さんにバレないようジッと耐え続けないと――。
そう改めて強く決意し、のろりと立ち上がるとサポータールームへと歩き出すのだった。
++
――数日後。
「はあ、また残業してたら遅くなったな~」
家までの帰り道、うす暗い歩道を一人で歩きながらポツリと呟いた。
あの一件からファンの女の人達からのイジメはなく、額の傷も幸い軽いものだったのですっかり癒えていた。
ユニコーンの皆さんには相変わらず送ってやると言われたけど、こんな夜遅くまで待たせる訳にもいかないし、サポーターが選手にサポートされるなんてもってのほかだ。
自分の事くらいは、きちんと自分で管理しないといけない。
今日はもう疲れたし、さっさと帰って寝よう――と歩く速度を早めた瞬間、いきなり何者かに後ろから抱きつかれた。
(い、嫌ッ――!? ち、痴漢!?)
背後にいるのは身体つきから男のようで、あまりの恐怖に咄嗟に大声を出すことも振り返ることも出来ずにいると、口をガムテープで塞がれ、さらに手首を縛られてしまった。
これでは声を出して助けを呼ぶことができない。
男は近くに止めてあった大型D・ホイールの荷台に私を強引に乗せ、その状態のまま走り出したのだった。
恐怖と不安で頭はパニック寸前で、最早逃げ出すことすら考えることが出来ず、私はジッと目を瞑り、これが夢であってほしいと願うしかなかった――。
数十分後、廃工場のような場所の前に男はD・ホイールを止めた。
身動きがとれない私を、男はまるで荷物でも肩に担ぐように乗せて、その廃工場の扉を開けた。
廃工場の中には何故か明かりがついていて、奥を確認しようとした途端、ゴミのように床に放り投げられた。
腰を打ったせいか鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめる。
「よう、女連れて来たぜ。こいつで合ってんだろ?」
ここに来て私を連れて来た男が、初めて口を開いた。
男の到着を待っていたかのように、奥から続々と人影が現れた。
「ええ、この女で間違いないわ。ご苦労様」
――この声、どこかで聞いた覚えが……?
聞き覚えのある声に、顔を上げると目の前に立っていたのは――先日、私に嫌がらせをしたユニコーンのファンの女の人達だった。
後ろにはニヤリと不気味に口元を歪ませた男が四、五人ほど控えている。
嫌な予感に血の気が引き、体が震える。
そんな私を例のリーダー格の女性が嘲り笑った。
「その顔、もうこれから何が起こるか分かったようね? そう、貴女がどんな酷い事でも耐えてみせるって言うもんだから、今から試してやろうと思ったのよ」
「言っとくけど、あんたが悪いのよ? はーあ、私らがあんだけ優しく忠告してやったっていうのに、さっさと止めないから……」
「つーか、今更許し乞いしたって無駄だから。たっぷりと痛い目みてもらわないとねぇ?」
リーダー格の女性に続いて、ファンの女の人達がクスクスと笑い出す。
すると、後ろにいた男達がうつむせになって倒れている私の近くに群がり始めた。
まるで商品でも見極めるような眼で私の顔をジロジロと凝視されると、男の一人がくるっとファンの女の人達の方へ振り返る。
「なあ、この女犯したら金くれるってホントだよな?」
「ええ、その代わりこの女をズタズタにしなさいよ。さっさと始めてくれないかしら?」
「へいへい、んじゃヤりますか」
「んんっ、んんんー!」
口がテープで塞がれているため、大声で助けを呼ぶこともできない。
縛られている手首も解ける様子はなく、ビクリともしない。
絶対絶命の中、せめてなんとか起き上がろうとしたら、男の一人が私を仰向けにし、私の服をビリビリと引き裂いた。
破れた服の隙間からブラのカップをずらされ、胸を触られ始める。
必死に抵抗しようと、唯一自由な足を近くの男目掛けて懸命に動かした。
「ん、んんんっっ!!」
「チッ、おい、誰か足押さえとけ!」
「へーい、大人しそうに見えて元気な女だこった」
「まあ、元気ってことは俺ら全員相手に出来る体力はあるってことだろー」
「んな抵抗しなくていいぜ、すぐに俺らが気持ちよくさせてやるからよォ……クククッ」
足を二人がかりで押さえつけられ、男達の卑劣な笑い声が廃工場内に響く。
同時に、奥で見物しているファンの女の人達の甲高い笑い声も聞こえた。
男達の内の三人がジリジリと詰め寄り、男達の手で押さえ込まれ、あっという間に身動き一つすら取れなくなってしまった。
「なかなかでけえ胸だな、揉みごたえがあるじゃねぇか」
「コイツ処女だよなー。まぁ、優しくするつもりは一切ねえけどよ」
「処女喪失を俺らに祝ってもらえることを感謝するんだな、ギャハハハ!!」
「んっ、んんんん……」
男達は卑猥な言葉を口にしながら、動けない私の顔や首筋に舌を這わせたり、胸を揉んだり、太腿を撫でていった。
目に涙を浮かべて抵抗しようとするも、身体は男達に押さえつけられ、声も出せない。
男達の言う通り、私は今まで男性経験もないし、初めては好きな人と思っていた。
しかし今私を押さえつけ犯そうとする男達は悪夢でもなく現実で、ついに男達の手が下半身にまで伸びてきた。
――もうダメ、犯される……。助けて、お願い……誰か………
ギュッと目を瞑り、下半身に伸びた手がズボンを下ろそうとした瞬間だった。
ガッシャァァァァンン!!!
突如、窓が割れた音が廃工場内に響き渡った。
同時にD・ホイールのようなエンジンの音が聞こえたが、男達が邪魔で見ることができない。
流石の男達やファンの女の人達も驚いた様子で、私から窓が割れた方へと視線を変えた。
「何なの!? どうなってるのよ!?」
「知らねえ――って、あ、あ、あいつらはッ!?」
男の一人が怯えたように立ち上がり、後ずさる。
他の男達も怯えた表情で一斉に私から離れ、悲鳴を上げて逃げ出そうと駆け出したが、ドカッバキッと音を立て次々と倒れていった。
(い、一体、何が……)
半分虚ろな目で確認しようとしたが、残る男の影で見ることが出来ず、一人困惑していると最後に残った男もバターンと盛大に音を立てて倒れた。
その倒れた男の後ろから現れたのは―――チームユニコーンの皆さんだった。
(う、嘘……)
助けは求めたが、まさかユニコーンの皆さんが助けに来るなんて夢にまで思っておらず、目を見開いて驚いていると、ジャンさんが上着をかけてくれた。
そしてブレオさんがしゃがんで私を起こすと口を塞いでいたテープを剥がし、手首を縛っていた紐も切ってくれて、ようやく口と両手が自由になった。
「アンドレさん、ブレオさん、ジャンさん……」
「遅れてすまない。怖かっただろう……。俺達が来たからには安心しろ」
「は、はい……!」
アンドレさんの言葉に涙を流すのを堪えながら、ジャンさんにかけてもらった上着をギュッと握りしめる。
そんな私の様子に、ブレオさんは頭をポンと軽く撫でてくださり、スッと立ち上がるとファンの女の人達の方へと視線を向ける。
ファンの女の人達は、男達が倒されユニコーンの皆さんの登場で、先ほどのように威勢を張れなくなったのかビクッと肩を震わせた。
「お前ら、優香にこんな事してただで済むと思うなよッ!!」
「ち、違うんです……そ、そう、あの男達が勝手にやっただけで私達は脅されてっ!」
「そうよ、私達は止めようとして……」
ファンの女の人達は咄嗟に都合の良い嘘話を作り、ユニコーンの皆さんに涙目でしな垂れかかった。
しかし、そんな嘘がユニコーンの皆さんに通用する訳もなく、ジャンさんがファンの女の人達の前に一歩踏み出した。
「軽い女は好きじゃない。失せろ」
まるでうっとうしい虫でも払うかのように、そう一言告げた。
ジャンさんの目はいつも私を見る暖かい目でもなくて、本当に嫌そうな目だった。
ファンの女の人達は、アンドレさんやジャンさんに助けを求めるような目線を送ったが、二人ともジャンさんと同じような表情で睨み返す。
そんなユニコーンの皆さんの反応に絶望したように、ファンの女の人達は顔を歪め、泣きながら去って行ったのだった。
ファンの女の人達が廃工場を去ったのを確認すると、ユニコーンの皆さんが私の前にしゃがんで心配そうに見つめた。
「すまない……、ああいう過激なファンがいることは知っていたんだ」
「まさか此処まで乱暴なコトするとは思わなかったがな」
「しかし、これであのファンの連中も手を出せなくなるはずだ。……優香、大丈夫か?」
いつになく優しい調子のジャンさんの声に、堪えていた涙が溢れ出した。
「まさか……皆さんが助けに来てくれるなんて……。わ、私……もうダメかと思った……」
溢れ出す涙を手で拭いながら俯くと、突如目の前が一瞬陰り、その直後にブレオさんに力強く抱き締められた。
突然のことに驚き、慌てて顔を上げてブレオさんの方を見る。
「ブ、ブレオさん?」
「もうあんな目に遭わせない。大切なお前がもう傷つかないようにずっと守ってみせる。……だから泣くな」
ブレオさんはそう言って、私を安心させるように微笑んだ。
こんな至近距離からブレオさんの顔を見るのは初めてで、心臓がドキドキと速まってゆく。
「ブーレーオ! 何優香を一人占めしてんだよっ?」
隣にいたアンドレさんが、私をブレオさんから引き剥がし、今度はアンドレさんの腕の中にすっぽりと収まってしまった。
すっかり困惑している私に、アンドレさんはそっと耳元で低く呟いた。
「優香」
「ア、アンドレさん……?」
「心配したんだからな。お前が目の届く範囲にいないと、俺……安心できない」
苦しそうに発されるその声に、ぎゅっと胸が締め付けられるような気がした。
今まで聞いたことのないアンドレさんの声色に、ユニコーンの皆さんにどれだけ心配を掛けてしまったのかが分かる。
すると恥ずかしくなって俯いている私の顔を、横からジャンさんの両手が包み込んで、自分の方に向けさせた。
ジャンさんの手は温かく、既に赤くなっているはずの両頬がもっと熱くなりそうだった。
「前に言っただろう? 一人夜道を帰るのは危ないから、俺達が送ってやると。それを断るからこんな危ない目に遭うんだ」
私はその厳しいジャンさんの言葉にうなだれた。
確かにジャンさんの言う通りだ。
私が遠慮なんかせずに、皆さんのお言葉に甘えて送ってもらっていたら、こんな事にならずに済んだだろう……。
ジャンさんは、そんな私にきっと幻滅したに違いない。
何も返す言葉がなく黙っていると、ふいにジャンさんに額を軽くこづかれた。
「だから、今度からお前が嫌だと言っても無理矢理送り届けてやる。覚悟しておけ」
そう私に告げたジャンさんの表情は今まで見た中で一番穏やかで、デュエルの時のようにキラキラと輝いて見えた。
「は……はいっ……!」
折角止まっていた涙がまた溢れ出してきたけど、私は気にせず力強く答えた。
するとジャンさんは頬に伝っていた涙を指で拭ってくれて、ふっと口元を緩めた。
アンドレさんもさらにギュッと強く抱き締めてくれて、ブレオさんは優しく頭を撫でてくれた。
ユニコーンの皆さん三人にこんな優しくされて、顔から火が出るんじゃないかと思うほど熱くなった。
――同時にチームユニコーンのサポーターになって良かった、と改めて強く感じたのだった。
その後、ユニコーンの皆さんのどちらかのD・ホイールの後ろに乗って帰ることになったのだけど………私が誰を選んだのかは、秘密にしておこう。
fin.
<あとがき>
人生初☆ユニコーン夢でした。
逆ハーですがオチはありません。しいていうなら優香様の一番お好きなキャラかと!
2010.04.05
チームユニコーン――。
初めて彼らのライディングデュエルを見た時、私はそのデュエルに目を奪われた。
――彼らの計算された完璧な戦略や戦術、圧倒的な実力かつ熱くて真っ直ぐなデュエル。
いつしか彼らのデュエルの虜になり、同時にチームユニコーンの役に立ちたいと思うようになっていた。
そして厳しい試験を乗り越え、ようやくチームユニコーンのサポーターになる事ができた。
もちろんサポーターの仕事は大変だけど、この仕事に就けて幸せだし誇りも持っている。
憧れのユニコーンのメンバーの役に立てるのなら、どんなにつらい事があっても頑張ろうと思いながら―――。
「ブレオさん、昨日の記録用紙ですがまとめ終わったので見ていただけますか?」
ドリンクを飲みながら休憩しているブレオさんの前に、私は手に持っていた記録用紙を差し出した。
「おっ、さすが優香は仕事が早いな。どれどれ……」
記録用紙を手に取ったブレオさんは早速目を通し、しばらくの間考え込んだ。
ずっとブレオさんが黙ったままなので何か不備でもあったのかと不安になって声を掛けようとしたら、代わりに隣に居たジャンさんが口を開いた。
「どうだ? ブレオ。随分と考えているようだが」
「いや、やっぱ優香のまとめた記録用紙は分かり易いと思ってな。さっき測定した記録だってほら、もう集計されてるし」
「へえ、やるじゃん。優香」
ちょうどトレーニングが終わったばかりのアンドレさんは、上から記録用紙を覗き込んで感心したように言う。
あのユニコーンのメンバーから仕事を褒められた嬉しさで心がいっぱいになり、私はつい口元が緩む。
「ありがとうございます。皆さんのお役に立てるのなら、喜んでまた作りますよ」
「ああ、頼むぜ」
「次の測定の時も頼んだぞ」
ニッと眩しいほどの笑顔を浮かべるアンドレさんとブレオさん。
この二人の笑顔を見ていると、ハードな仕事の疲れも吹っ飛ぶ気さえした。
「それはそうと、優香……昨日は夜まで仕事をしていたようだが大丈夫なのか?」
突然ジャンさんが記録用紙から私に視線を向けて訊いてきた。
ジャンさんは滅多に笑わないけど、その分大人の男って感じがして、ジャンさんに見つめられると妙に緊張してしまう。
「あっ、はい、確かに昨日は夜まで仕事をしておりました。残業があったので」
「無茶をする……」
「これが私の仕事ですから。それに皆さんのためだったら、残業だろうが何だろうがへっちゃらです!」
ニッコリと笑って私は元気いっぱいに答えてみせた。
……実を言うと、この所は残業が多くてちょっと疲れていたりするんだけど、ユニコーンの皆さんには心配を掛ける訳もいかないので、調子が良い振りをしておいた。
まあ、チームユニコーンの為だったら残業くらい平気なのは事実だし、仲間のために頑張る彼らの姿を見ていれば元気だって湧いてくる。
「だからと言って夜遅くに女が一人で帰るのは感心しないな。もし夜道で襲われたらどうするんだ?」
「それは……え、えっと……」
「この町はセキュリティに守られてるからといって安心するな」
「はい……」
ジャンさんの言っていることは正しいので、返す言葉もなく私は素直に返事をした。
確かにセキリュティなんていざという時に限って当てにならない場合だってある。
(でも、今月中には仕上げなきゃいけない仕事も沢山残っているし、どうしても夜遅くまで残らないといけないから困ったな……)
私が弱っていると、突如ジャンさんが耳を疑うようなことを切り出したのだった。
「そこで、だ。お前が夜遅くに帰ることになった時は俺達が家まで送ることにする」
「え?」
まったく予想外の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。
えっと、私の聞こえた通りでは、い、家まで送ってくださるとかなんとか……?
「さんせーい。良い提案するなぁ、ジャン! アンドレも構わないだろ?」
「もちろんだ。俺もその方が良いと思う」
「そっ、そんな! 皆さんの手を煩わせることなんて出来ません! お気になさらず、私なら大丈夫です! あの、他の仕事が残ってますので私はこれで!」
これ以上いれば送って行く方に話が進みそうだったので、私は一礼して逃げるようにトレーニングルームを後にした。
(ま、まさかユニコーンの皆さんから心配されるどころか、家まで送るとまで言われるなんて……)
トレーニングルームからの帰り道、胸の鼓動はまだドキドキしていた。
もちろん本当に家まで送っていただく訳にはいかないけど、憧れの皆さんに優しい言葉を掛けてもらえただけで幸せだ。
また仕事を頑張らないと! と改めて気合を入れ直し、早く別練にあるサポータールームに帰ろうとした矢先だった。
「きゃっ!」
突然、誰かに足を引っ掛けられ、その場に派手に転んでしまった。
手に持っていた書類がバサバサと音を立てて周囲に散らばる。
慌てて拾おうと書類の一枚に手を伸ばした瞬間、私の足を引っ掛けたと思われる人影が目の前に姿を現わしたのだった。
「あらぁ、ごめんなさい。貴女があんまりにも浮かれた顔をしてるから、つい足が出ちゃったわ」
そう言ったが悪びれた様子もなく、地面にうつ伏せになっている私をニンマリとした顔で見下す人物――確かユニコーンの熱狂的ファンのリーダー格の女の人だ。
後ろには仲間であろう四、五人のファンの女の人達が私を睨みつけるように見下ろしている。
「ったく、こんな化粧もしてないようなダサい女があのユニコーンの皆様のサポーターなんて有り得ないわよ」
「ホント、ホントー。私らの方がもっとサポート出来るってのに」
「何であんたみたいなブスが、サポーターに選ばれたのかが信じらんないっていうか」
私にわざと聞こえるよう大きな声で話しケラケラと笑いながら、ファンの女の人達は地面に広がった書類を足で踏んでいく。
リーダー格の女の人は、満足そうにその様子を眺めていた。
……チームユニコーンのサポーターの中で唯一の女性である私は、女性ファンから陰湿なイジメを受けていた。
と言うのも、今私の目の前のファンの人達は元々ユニコーンの女性サポーターの採用試験に落ちた人ばかりで、一人合格した私を妬むようになったのが始まりだ。
それからというもの、頻繁に影で私を辞めさせようと精神的に追い込んできたという訳である。
書類をこれ以上汚させてはいけない、と上半身だけでも起き上がろうとすると、リーダー格の女の人が前にしゃがみ、そのままグッと私の前髪を痛いほどの力で掴み上げ、無理矢理顔を上げさせた。
「うっ……や、止めてくださいっ」
「あらあら、私達がこれだけやってもまだ分からないとでも?」
「私は、貴女達にどんな酷い事をされても、ユニコーンのサポーターを辞めるつもりはありませんっ……!」
「へえ、言うじゃない。その信念がどこまで続くか見物だわ……」
ニヤリと微笑むと、私の前髪を掴んだまま顔ごと地面に勢いよく叩きつけた。
そして「ユニコーンの皆様のトレーニングの時間が始まるわ!」と、急いでトレーニングルームの方へとファンの人たちは走り去っていった――。
一人、ボロボロに踏み潰された書類と共にその場に残された私は、地面にぶつけられ痛む額を手で抑えながら、ゆっくりと起きあがった。
片手で書類を拾い集めながら、さっきのファンの女の人が吐いた台詞をふと思い返す。
――ったく、こんな化粧もしてないようなダサい女があのユニコーンの皆様のサポーターなんて有り得ないわよ
確かに私は化粧もしていなければ、綺麗になる努力すらしていない。
髪だって切りにいく暇もないので普段からボサボサだし、服も一日中ジャージの時が多い。
一方のファンの人達は、皆綺麗になる努力をしているようで容姿端麗な人ばかりだ。
そんな俗で言うダサい部類に入る私がユニコーンの皆さんの近くにいる事は相応しくないと、ファンの人達からすれば思うのだろう。
イジメを受ける理由の大きな一つかもしれない。
でも、私はめげなかった。
これからどんなイジメを受けたってユニコーンのサポーターを辞めるつもりは一切ないし、
それにファンの人達が裏でこんな陰湿なことをしていると知ったら、ユニコーンの皆さんは悲しんでしまう。
私一人が我慢しておけば、いつかはファンの人達だって分かってくれる日が来るかもしれない。
だから、それまでユニコーンの皆さんにバレないようジッと耐え続けないと――。
そう改めて強く決意し、のろりと立ち上がるとサポータールームへと歩き出すのだった。
++
――数日後。
「はあ、また残業してたら遅くなったな~」
家までの帰り道、うす暗い歩道を一人で歩きながらポツリと呟いた。
あの一件からファンの女の人達からのイジメはなく、額の傷も幸い軽いものだったのですっかり癒えていた。
ユニコーンの皆さんには相変わらず送ってやると言われたけど、こんな夜遅くまで待たせる訳にもいかないし、サポーターが選手にサポートされるなんてもってのほかだ。
自分の事くらいは、きちんと自分で管理しないといけない。
今日はもう疲れたし、さっさと帰って寝よう――と歩く速度を早めた瞬間、いきなり何者かに後ろから抱きつかれた。
(い、嫌ッ――!? ち、痴漢!?)
背後にいるのは身体つきから男のようで、あまりの恐怖に咄嗟に大声を出すことも振り返ることも出来ずにいると、口をガムテープで塞がれ、さらに手首を縛られてしまった。
これでは声を出して助けを呼ぶことができない。
男は近くに止めてあった大型D・ホイールの荷台に私を強引に乗せ、その状態のまま走り出したのだった。
恐怖と不安で頭はパニック寸前で、最早逃げ出すことすら考えることが出来ず、私はジッと目を瞑り、これが夢であってほしいと願うしかなかった――。
数十分後、廃工場のような場所の前に男はD・ホイールを止めた。
身動きがとれない私を、男はまるで荷物でも肩に担ぐように乗せて、その廃工場の扉を開けた。
廃工場の中には何故か明かりがついていて、奥を確認しようとした途端、ゴミのように床に放り投げられた。
腰を打ったせいか鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめる。
「よう、女連れて来たぜ。こいつで合ってんだろ?」
ここに来て私を連れて来た男が、初めて口を開いた。
男の到着を待っていたかのように、奥から続々と人影が現れた。
「ええ、この女で間違いないわ。ご苦労様」
――この声、どこかで聞いた覚えが……?
聞き覚えのある声に、顔を上げると目の前に立っていたのは――先日、私に嫌がらせをしたユニコーンのファンの女の人達だった。
後ろにはニヤリと不気味に口元を歪ませた男が四、五人ほど控えている。
嫌な予感に血の気が引き、体が震える。
そんな私を例のリーダー格の女性が嘲り笑った。
「その顔、もうこれから何が起こるか分かったようね? そう、貴女がどんな酷い事でも耐えてみせるって言うもんだから、今から試してやろうと思ったのよ」
「言っとくけど、あんたが悪いのよ? はーあ、私らがあんだけ優しく忠告してやったっていうのに、さっさと止めないから……」
「つーか、今更許し乞いしたって無駄だから。たっぷりと痛い目みてもらわないとねぇ?」
リーダー格の女性に続いて、ファンの女の人達がクスクスと笑い出す。
すると、後ろにいた男達がうつむせになって倒れている私の近くに群がり始めた。
まるで商品でも見極めるような眼で私の顔をジロジロと凝視されると、男の一人がくるっとファンの女の人達の方へ振り返る。
「なあ、この女犯したら金くれるってホントだよな?」
「ええ、その代わりこの女をズタズタにしなさいよ。さっさと始めてくれないかしら?」
「へいへい、んじゃヤりますか」
「んんっ、んんんー!」
口がテープで塞がれているため、大声で助けを呼ぶこともできない。
縛られている手首も解ける様子はなく、ビクリともしない。
絶対絶命の中、せめてなんとか起き上がろうとしたら、男の一人が私を仰向けにし、私の服をビリビリと引き裂いた。
破れた服の隙間からブラのカップをずらされ、胸を触られ始める。
必死に抵抗しようと、唯一自由な足を近くの男目掛けて懸命に動かした。
「ん、んんんっっ!!」
「チッ、おい、誰か足押さえとけ!」
「へーい、大人しそうに見えて元気な女だこった」
「まあ、元気ってことは俺ら全員相手に出来る体力はあるってことだろー」
「んな抵抗しなくていいぜ、すぐに俺らが気持ちよくさせてやるからよォ……クククッ」
足を二人がかりで押さえつけられ、男達の卑劣な笑い声が廃工場内に響く。
同時に、奥で見物しているファンの女の人達の甲高い笑い声も聞こえた。
男達の内の三人がジリジリと詰め寄り、男達の手で押さえ込まれ、あっという間に身動き一つすら取れなくなってしまった。
「なかなかでけえ胸だな、揉みごたえがあるじゃねぇか」
「コイツ処女だよなー。まぁ、優しくするつもりは一切ねえけどよ」
「処女喪失を俺らに祝ってもらえることを感謝するんだな、ギャハハハ!!」
「んっ、んんんん……」
男達は卑猥な言葉を口にしながら、動けない私の顔や首筋に舌を這わせたり、胸を揉んだり、太腿を撫でていった。
目に涙を浮かべて抵抗しようとするも、身体は男達に押さえつけられ、声も出せない。
男達の言う通り、私は今まで男性経験もないし、初めては好きな人と思っていた。
しかし今私を押さえつけ犯そうとする男達は悪夢でもなく現実で、ついに男達の手が下半身にまで伸びてきた。
――もうダメ、犯される……。助けて、お願い……誰か………
ギュッと目を瞑り、下半身に伸びた手がズボンを下ろそうとした瞬間だった。
ガッシャァァァァンン!!!
突如、窓が割れた音が廃工場内に響き渡った。
同時にD・ホイールのようなエンジンの音が聞こえたが、男達が邪魔で見ることができない。
流石の男達やファンの女の人達も驚いた様子で、私から窓が割れた方へと視線を変えた。
「何なの!? どうなってるのよ!?」
「知らねえ――って、あ、あ、あいつらはッ!?」
男の一人が怯えたように立ち上がり、後ずさる。
他の男達も怯えた表情で一斉に私から離れ、悲鳴を上げて逃げ出そうと駆け出したが、ドカッバキッと音を立て次々と倒れていった。
(い、一体、何が……)
半分虚ろな目で確認しようとしたが、残る男の影で見ることが出来ず、一人困惑していると最後に残った男もバターンと盛大に音を立てて倒れた。
その倒れた男の後ろから現れたのは―――チームユニコーンの皆さんだった。
(う、嘘……)
助けは求めたが、まさかユニコーンの皆さんが助けに来るなんて夢にまで思っておらず、目を見開いて驚いていると、ジャンさんが上着をかけてくれた。
そしてブレオさんがしゃがんで私を起こすと口を塞いでいたテープを剥がし、手首を縛っていた紐も切ってくれて、ようやく口と両手が自由になった。
「アンドレさん、ブレオさん、ジャンさん……」
「遅れてすまない。怖かっただろう……。俺達が来たからには安心しろ」
「は、はい……!」
アンドレさんの言葉に涙を流すのを堪えながら、ジャンさんにかけてもらった上着をギュッと握りしめる。
そんな私の様子に、ブレオさんは頭をポンと軽く撫でてくださり、スッと立ち上がるとファンの女の人達の方へと視線を向ける。
ファンの女の人達は、男達が倒されユニコーンの皆さんの登場で、先ほどのように威勢を張れなくなったのかビクッと肩を震わせた。
「お前ら、優香にこんな事してただで済むと思うなよッ!!」
「ち、違うんです……そ、そう、あの男達が勝手にやっただけで私達は脅されてっ!」
「そうよ、私達は止めようとして……」
ファンの女の人達は咄嗟に都合の良い嘘話を作り、ユニコーンの皆さんに涙目でしな垂れかかった。
しかし、そんな嘘がユニコーンの皆さんに通用する訳もなく、ジャンさんがファンの女の人達の前に一歩踏み出した。
「軽い女は好きじゃない。失せろ」
まるでうっとうしい虫でも払うかのように、そう一言告げた。
ジャンさんの目はいつも私を見る暖かい目でもなくて、本当に嫌そうな目だった。
ファンの女の人達は、アンドレさんやジャンさんに助けを求めるような目線を送ったが、二人ともジャンさんと同じような表情で睨み返す。
そんなユニコーンの皆さんの反応に絶望したように、ファンの女の人達は顔を歪め、泣きながら去って行ったのだった。
ファンの女の人達が廃工場を去ったのを確認すると、ユニコーンの皆さんが私の前にしゃがんで心配そうに見つめた。
「すまない……、ああいう過激なファンがいることは知っていたんだ」
「まさか此処まで乱暴なコトするとは思わなかったがな」
「しかし、これであのファンの連中も手を出せなくなるはずだ。……優香、大丈夫か?」
いつになく優しい調子のジャンさんの声に、堪えていた涙が溢れ出した。
「まさか……皆さんが助けに来てくれるなんて……。わ、私……もうダメかと思った……」
溢れ出す涙を手で拭いながら俯くと、突如目の前が一瞬陰り、その直後にブレオさんに力強く抱き締められた。
突然のことに驚き、慌てて顔を上げてブレオさんの方を見る。
「ブ、ブレオさん?」
「もうあんな目に遭わせない。大切なお前がもう傷つかないようにずっと守ってみせる。……だから泣くな」
ブレオさんはそう言って、私を安心させるように微笑んだ。
こんな至近距離からブレオさんの顔を見るのは初めてで、心臓がドキドキと速まってゆく。
「ブーレーオ! 何優香を一人占めしてんだよっ?」
隣にいたアンドレさんが、私をブレオさんから引き剥がし、今度はアンドレさんの腕の中にすっぽりと収まってしまった。
すっかり困惑している私に、アンドレさんはそっと耳元で低く呟いた。
「優香」
「ア、アンドレさん……?」
「心配したんだからな。お前が目の届く範囲にいないと、俺……安心できない」
苦しそうに発されるその声に、ぎゅっと胸が締め付けられるような気がした。
今まで聞いたことのないアンドレさんの声色に、ユニコーンの皆さんにどれだけ心配を掛けてしまったのかが分かる。
すると恥ずかしくなって俯いている私の顔を、横からジャンさんの両手が包み込んで、自分の方に向けさせた。
ジャンさんの手は温かく、既に赤くなっているはずの両頬がもっと熱くなりそうだった。
「前に言っただろう? 一人夜道を帰るのは危ないから、俺達が送ってやると。それを断るからこんな危ない目に遭うんだ」
私はその厳しいジャンさんの言葉にうなだれた。
確かにジャンさんの言う通りだ。
私が遠慮なんかせずに、皆さんのお言葉に甘えて送ってもらっていたら、こんな事にならずに済んだだろう……。
ジャンさんは、そんな私にきっと幻滅したに違いない。
何も返す言葉がなく黙っていると、ふいにジャンさんに額を軽くこづかれた。
「だから、今度からお前が嫌だと言っても無理矢理送り届けてやる。覚悟しておけ」
そう私に告げたジャンさんの表情は今まで見た中で一番穏やかで、デュエルの時のようにキラキラと輝いて見えた。
「は……はいっ……!」
折角止まっていた涙がまた溢れ出してきたけど、私は気にせず力強く答えた。
するとジャンさんは頬に伝っていた涙を指で拭ってくれて、ふっと口元を緩めた。
アンドレさんもさらにギュッと強く抱き締めてくれて、ブレオさんは優しく頭を撫でてくれた。
ユニコーンの皆さん三人にこんな優しくされて、顔から火が出るんじゃないかと思うほど熱くなった。
――同時にチームユニコーンのサポーターになって良かった、と改めて強く感じたのだった。
その後、ユニコーンの皆さんのどちらかのD・ホイールの後ろに乗って帰ることになったのだけど………私が誰を選んだのかは、秘密にしておこう。
fin.
<あとがき>
人生初☆ユニコーン夢でした。
逆ハーですがオチはありません。しいていうなら優香様の一番お好きなキャラかと!
2010.04.05