短編夢
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まだ幼い頃。
当時の私は男の子並に、もしくはそれ以上にやんちゃだった。
その所為か他の女の子よりも遊星やジャックやクロウとか男の子の方が仲が良くて、特にクロウとはいつも一緒だった。
とにかく何をするにも二人一緒で、二人でジャックに悪戯したり風呂もよく一緒に入っていたと思う。
もちろん同じ幼馴染の遊星やジャックと過ごす時間も楽しいが、
クロウと二人で過ごす時間は二人とは別で私にとって心から安心できる幸せな時間でもあった。
その関係は今でも変わらず、普通の仲の良い幼馴染として過ごしていた。
でも、最近の私は
その幼馴染という関係に満足できなくなっていた―――
「おはよう、優香」
「あ、おはよう! 遊星!」
朝、優香が朝食の準備をしていると遊星がまだ眠そうな声で挨拶を交わし早々に席へと着いた。
「遊星、また徹夜したの?」
「ああ、エンジンの調整で少しな」
「もうちゃんと寝なきゃ駄目じゃない」
「それはお前もだろう、優香」
遊星の鋭い言葉に優香は思わずコーヒーを入れていた手を止める。
確かに最近夜はバイトで深夜遅くまで働いている。
遊星達は止めろと言っているが、一緒に住んでいて自分だけ家事をするだけとは流石に悪いので(ジャックは置いといて)
少しでもエンジンの費用の足しになるなら、と働き始めたのだ。
それと、お金が貯まったら一番働いているクロウに何かプレゼントでも、と密かに考えていた。
「私は良いの、別に……。でも折角稼いでも誰かさんが使っちゃうんだから困ったものよ」
「その誰かさんというのは俺の事ではないだろうな」
この朝っぱらから偉そうな声は…と嫌々優香が振り返ると、そこにはジャックの姿があった。
もちろん稼いだお金の大半を使っているのはこの男で間違いはないのだが、一向に反省と改善の色が見えず遊星達三人は困っていた。
ジャックは、フンと足を組んで椅子へと座った。偉そうな態度も朝から健在のようである。
「もちろんジャックの事に決まってるじゃない。あんなに貯めてたお金使って……」
「俺はただ必要な物に使っただけだ。何か文句でもあるのか?」
そっぽを向いたジャックの言い方に優香は手に持った入れ終わったばかりのコーヒーを机に零れる勢いで置くと、遂に日頃から溜まっていた物が爆発した。
「必要な物って……あんなコーヒー1杯に毎日三千円も使う必要があるの!? この元キングのアホラス!」
「誰が元キングにアホラスだ! この馬鹿優香が! それにあんなコーヒーではない! ブルーアイズマウンテンだぞ!」
「全部本当の事じゃない! ブルーだかレッドだか知らないけど、節約しろって言ってるのよ!」
「なんだと!? 貴様……今からこの俺とデュエルしろ!! 長年の決着をつけてやる!」
「おい、二人ともその辺にしておけ」
二人の激しい口論に、いくら幼い頃から聞かされているとはいえ朝からは聞きたくない遊星は少し呆れ気味に静止をかける。
昔からこの二人の喧嘩を止めるのは遊星の仕事だった。
遊星の声が耳に入った二人は、しばらく無言になり「フン!」とお互いに顔を横に向けた。
どうやら喧嘩は上手く一時中断したようだが、まだ油断は出来ないため、遊星はある作戦に出た。
「優香、実は今から俺とジャックでパーツ探しに行ってこようと思う」
「おい、遊星。勝手に何を――」
「朝はいらないからクロウを起こしてやってくれ。では行ってくる」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 遊星……」
ジャックの静止を無視し、遊星はジャックを強引に連れて行く形でD・ホイールに乗って何所かに行ってしまった。
遊星の作戦とは、これ以上優香とジャックを喧嘩させないようジャックを此処から連れ出す事だった。それと後一つは――
そんな遊星の思惑も知らず一人取り残された優香は、暫く呆然と二人の出て行く姿を見るしかなかった。
「もう折角朝御飯作ったのに。あ、そうだ、そろそろクロウを起こさないと!」
壁に掛けた時計を見遣ると既に8時を指していた。
いくらクロウが経営するブラックバードデリバリーが今日の仕事が昼からといっても、そろそろ起こした方が無難だろう。
優香は一先ず朝食の準備を止め、早々と階段を上がりクロウの部屋へと向かった。
クロウの部屋の前まで来ると、サテライト時代のクロウの部屋はズカズカとノックもせずに入りこんでいたのだが、
この家に住みだしてからのクロウの部屋に入る度、どうも胸の高鳴りを抑えることができなかった。
(つい最近まではこんなに緊張することはなかったのに……)
優香は一応ドアの前で「クロウ、朝だよ」と呼び掛けながらノックをしたが、案の定クロウは寝ているらしく返事はない。
どうやらぐっすり寝ているらしい。仕方なく優香はドアを開けて起こす事にした。
部屋に入ると、クロウがベットの上で布団も放り出てタンクトップといつもの深緑のズボン姿で大の字で寝ていた。
昔の自分ならクロウの腹目がけてダイブでもして起こしただろうが、最近はそんな気分にもなれなかった。
ベットの傍まで近づくとクロウの顔を起きないようにそっと覗き込む。
自分の存在に気付いてないのか、口を開けて爆睡していた。クロウも自分と同じく夜遅くまで働いていたのできっと疲れてるのだろう。
「……もう少しだけ寝かせてあげようかな」
あまりにもぐっすりと寝ているので、起こすのが流石に可哀相になりクロウの上から布団を掛け、優香は寝ているクロウを起こさないようベットへ座った。
―――一体いつからだったかな。
私がクロウの事を異性として意識し始めたのは。
多分あのダークシグナーの戦いからだと思う。
クロウが突然消えたという報告を遊星から聞いた時は、一目も気にせず一晩中泣いた。
こんなにもクロウの事が愛おしいと思ったのは初めてだった。
そしてクロウが生きていて、ボマーというダークシグナーを倒し(最後には消えてしまったけど)真っ先に私の元へ歩み寄って
「ただいま。……心配かけたな」
と怪我をした場所を痛そうに抑えながらも笑顔で私に言ってくれた。
その時は彼が生きていたという嬉しさで思わず皆の前で抱きしめて泣いてしまったけど、
クロウは優しく私の背中をさすってくれた。
その時のクロウの抱擁が忘れられず、今でもその感覚を思い出す度に胸がキュンと締め付けられるくらいだ。
ダークシグナーの戦いが終わってからは、遊星やジャックと共に一緒に暮らし始めたけど、
どうもクロウと接すると意識してしまい、以前のようにクロウに抱き着いたり一緒に出掛ける事が出来ず私はなんとなく距離を置いていた。
今日もクロウを起こすのは実は此処に来てからは初めてで、私は意識をせずにはいられなかった。
時間は8時半を示しているのだが、遊星とジャックが帰る気配もなければ、クロウも起きる気配は一向になかった。
そろそろクロウを起こさないと流石にクロウが起きた時にバツが悪いと思った優香は、クロウを起こす事にした。
「クロウ、朝だよ。起きて」
クロウの腕をゆさゆさと揺らしながら、声を掛けてみるものの、クロウはまったく起きる気配がない。
優香は溜息をつくと、今度は少し大きい声で起こす事にした。
「クーローウ!! 朝だよ! ほら、起きて起きて!」
耳元で先程より大きい声で叫んで、布団を剥ぎ取ると、クロウはうっと声を上げ目を薄っすら開いた。
ようやく起きてくれる―――優香が安堵した瞬間、突然クロウに手首を掴まれベットの上にやや乱暴に押し倒された。
あまりに唐突な出来事に理解できずにいる優香は抵抗できず、クロウの顔を見ようとしたが、その隙にクロウに唇を強く押しつけられた。
「んんっ!?」
クロウからのキスに動揺する優香だったが、体は上気していく。
夢にまで見たクロウとのキスがまさかこんな形で実現するとは思わなかった。
唇が離され、目の前にあるクロウの顔をおそるおそる見遣ると目が虚ろだった。
昔からクロウは寝起きが悪かったが、まさかこんな行為までされるとは思わなかった。
とにかくクロウをちゃんと起こさなければ、と優香が下でもがき始める。
「く、クロウ! 寝ぼけてるなら止めて!」
「……だ」
「え?」
「……好きだ……優香」
「えっ、どういう……んんんっ」
クロウの発した言葉を考える余裕も与えず、再び唇が重ねられた。
今度は先程とは違う濃厚なキスで、舌も捻り込まれお互いに息が荒くなっていく。
優香も初めは抵抗していたが、次第に抵抗する力が薄れていき、遂にはクロウの舌を受け入れてしまった。
互いの舌が絡め合い、優香にとって初めてのディープキスの感覚に優香はすっかり意識朦朧としていた。
「く、クロウっ……やめ……ふうっ、」
「優香っ……」
クロウは舌を絡めたままで片手を優香のTシャツの上から乳房を掴み、小柄の体型とは釣り合わない豊かなバストを下から上へと揉み始める。
「あんっ……い、いやっ……」
自分でも出した事のない声に優香は驚きつつも弱弱しくしか抵抗できず
その間にクロウの手はシャツの中へと侵入していく。
その手がブラ越しに胸へと到達した時、優香の理性が本格的にヤバイと感じたのか最力いっぱいクロウの腹を蹴った。
「い、いい加減にしろーーーっ!!!」
腹を蹴られたクロウは床へと落ち、「うっ」と声を漏らしながら腹を抑え、床へ蹲(うずくま)った。
優香は流石に蹴りすぎたと思い、急いでクロウの元にへとベットを降りた。
「く、クロウ! ごめん、流石にやりすぎた……」
「痛ってえ! いきなり何するんだ……この馬鹿……優香!?」
クロウは自分が寝ている最中に優香に突然蹴られ、怒りを表そうとしたが優香の格好に目を疑った。
服の乱れた優香の姿、涙が残っている瞳、震えている身体―――とにかく優香の様子が尋常ではない事がクロウに伝わった。
「ど、どうした!? 誰にやられた!?」
クロウは真っ先に聞くが、優香は何も答えない。それどころか自分と目を合わせようともせず、ただ俯いていた。
(言えない相手なのか……って事はまさか遊星かジャックか!? いや、あいつらに限ってそんな……とにかく優香をこんな目に合わせた奴など許さねえ!)
こんな目に合わせたのがまさか自分だとは思ってもいないのだろうクロウは優香の両肩を掴んで真剣な眼差しで言った。
「なあ、何があったか俺に話してくれねえのか……?」
「………クロウ、やっぱり覚えてないの……?」
「え?」
「その……今私が蹴る前にやってた事……」
優香が突然顔を赤くして恥ずかしそうに目を逸らす。
こんな優香を今まで見た事がないクロウは思わずドキンと胸が高鳴る。
蹴る前にやっていた事…?
確かに俺は寝ていた。寝ていたはずだ。
いや、でも待てよ。夢で優香をベットに引きずり込んでキスしたような……
まさか夢じゃない!?
ようやく夢で行った行為が現実だと気づいたクロウは顔から血の気が引いて行き、すぐさま目の前の優香に土下座をした。
突然目の前で土下座をされ、困惑する表情を隠せない優香。
「ちょ、クロウ!?」
「悪かった!!! 俺、あれが夢だと思ってて……まさか現実だなんて思ってなかった! 本当すまねえ!」
「……クロウ……私……別に怒ってないよ」
「へ?」
頭を下げているクロウに今優香がどんな表情をしているのかは伺えないが、
想像していたのとは違う優しい口調だった。
普通こんな事をされたら殴られるか泣き叫ぶかどちらかの筈なのに……優香の謎の態度がよく理解できなかった。
「……その、一つ聞いて良い?」
「……ああ」
「私を抱こうとした時に言った『好きだ』って言葉、本当?」
「……ッ!?」
行為中に無意識にそんな言葉まで発しているとはクロウは思ってもいなかったのか、顔を真っ赤にして思わず顔を上げた。
一方の優香も顔を赤くして、クロウからの返答を待つ。
「……好きでもない奴に、あんな事する訳ねえだろ。俺は優香がずっと昔から好きだ。でも最近避けられてるし、今のでもう嫌われたかもしんねけっ……ど!?」
クロウが言っている途中にも関わらず、優香はクロウへと思いきり抱きついた。
突然の事に顔をさらに赤くして身をあたふたするクロウだったが、優香はぎゅっと背中へと手を回す。
「嫌いになんかなる訳ないよ…私もクロウの事好き。あと避けてたのはクロウの事意識して接しずらかったの……!」
「優香……。でも、俺はあんな事をッ……」
「さっきのは別に嫌じゃないよ。ただ、クロウが本当に私の事好きでやってるのか分からなくて不安で……不安で……」
ボマー戦の後のように自分の胸の中で弱弱しく泣き始める優香。
もう優香のこんな泣く姿を見たくない。
クロウはあの時のようにまた優香の背中を優しく擦りながら包み込むように抱きしめた。
「さっきから好きだって言ってんだろ……心配かけて悪かった」
「……うん、もう大丈夫。私もクロウの事大好きだよ」
やっぱりクロウに抱きしめられていると安心する。
優香はクロウの温もりを感じながら、いつのまにか腕の中で眠りへとついてしまった。
それに気づいたクロウは、自分のベットまで抱きかかえて運び、そっとベットの上に下ろすと衣服を整えてやり布団を掛けてやった。
優香の寝顔を見ながらクロウは、もう一度一眠りしようかとしたが、また先程のような事が起きたりしかねないので早めに仕事に行く事にした。
支度を済ませ、すやすやと自分のベットに眠る優香に『愛してる』と軽くキスをして優しく頬笑みかけた―――
尚、この数秒後に部屋を出てバッタリ帰って来た遊星達と出会うのだが、
優香が何故クロウのベットで寝ているのか厳しく問い詰められる派目になるのをクロウはまだ知らない。
fin.
<あとがき>
初めてのクロウ夢でした。
当時の私は男の子並に、もしくはそれ以上にやんちゃだった。
その所為か他の女の子よりも遊星やジャックやクロウとか男の子の方が仲が良くて、特にクロウとはいつも一緒だった。
とにかく何をするにも二人一緒で、二人でジャックに悪戯したり風呂もよく一緒に入っていたと思う。
もちろん同じ幼馴染の遊星やジャックと過ごす時間も楽しいが、
クロウと二人で過ごす時間は二人とは別で私にとって心から安心できる幸せな時間でもあった。
その関係は今でも変わらず、普通の仲の良い幼馴染として過ごしていた。
でも、最近の私は
その幼馴染という関係に満足できなくなっていた―――
「おはよう、優香」
「あ、おはよう! 遊星!」
朝、優香が朝食の準備をしていると遊星がまだ眠そうな声で挨拶を交わし早々に席へと着いた。
「遊星、また徹夜したの?」
「ああ、エンジンの調整で少しな」
「もうちゃんと寝なきゃ駄目じゃない」
「それはお前もだろう、優香」
遊星の鋭い言葉に優香は思わずコーヒーを入れていた手を止める。
確かに最近夜はバイトで深夜遅くまで働いている。
遊星達は止めろと言っているが、一緒に住んでいて自分だけ家事をするだけとは流石に悪いので(ジャックは置いといて)
少しでもエンジンの費用の足しになるなら、と働き始めたのだ。
それと、お金が貯まったら一番働いているクロウに何かプレゼントでも、と密かに考えていた。
「私は良いの、別に……。でも折角稼いでも誰かさんが使っちゃうんだから困ったものよ」
「その誰かさんというのは俺の事ではないだろうな」
この朝っぱらから偉そうな声は…と嫌々優香が振り返ると、そこにはジャックの姿があった。
もちろん稼いだお金の大半を使っているのはこの男で間違いはないのだが、一向に反省と改善の色が見えず遊星達三人は困っていた。
ジャックは、フンと足を組んで椅子へと座った。偉そうな態度も朝から健在のようである。
「もちろんジャックの事に決まってるじゃない。あんなに貯めてたお金使って……」
「俺はただ必要な物に使っただけだ。何か文句でもあるのか?」
そっぽを向いたジャックの言い方に優香は手に持った入れ終わったばかりのコーヒーを机に零れる勢いで置くと、遂に日頃から溜まっていた物が爆発した。
「必要な物って……あんなコーヒー1杯に毎日三千円も使う必要があるの!? この元キングのアホラス!」
「誰が元キングにアホラスだ! この馬鹿優香が! それにあんなコーヒーではない! ブルーアイズマウンテンだぞ!」
「全部本当の事じゃない! ブルーだかレッドだか知らないけど、節約しろって言ってるのよ!」
「なんだと!? 貴様……今からこの俺とデュエルしろ!! 長年の決着をつけてやる!」
「おい、二人ともその辺にしておけ」
二人の激しい口論に、いくら幼い頃から聞かされているとはいえ朝からは聞きたくない遊星は少し呆れ気味に静止をかける。
昔からこの二人の喧嘩を止めるのは遊星の仕事だった。
遊星の声が耳に入った二人は、しばらく無言になり「フン!」とお互いに顔を横に向けた。
どうやら喧嘩は上手く一時中断したようだが、まだ油断は出来ないため、遊星はある作戦に出た。
「優香、実は今から俺とジャックでパーツ探しに行ってこようと思う」
「おい、遊星。勝手に何を――」
「朝はいらないからクロウを起こしてやってくれ。では行ってくる」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 遊星……」
ジャックの静止を無視し、遊星はジャックを強引に連れて行く形でD・ホイールに乗って何所かに行ってしまった。
遊星の作戦とは、これ以上優香とジャックを喧嘩させないようジャックを此処から連れ出す事だった。それと後一つは――
そんな遊星の思惑も知らず一人取り残された優香は、暫く呆然と二人の出て行く姿を見るしかなかった。
「もう折角朝御飯作ったのに。あ、そうだ、そろそろクロウを起こさないと!」
壁に掛けた時計を見遣ると既に8時を指していた。
いくらクロウが経営するブラックバードデリバリーが今日の仕事が昼からといっても、そろそろ起こした方が無難だろう。
優香は一先ず朝食の準備を止め、早々と階段を上がりクロウの部屋へと向かった。
クロウの部屋の前まで来ると、サテライト時代のクロウの部屋はズカズカとノックもせずに入りこんでいたのだが、
この家に住みだしてからのクロウの部屋に入る度、どうも胸の高鳴りを抑えることができなかった。
(つい最近まではこんなに緊張することはなかったのに……)
優香は一応ドアの前で「クロウ、朝だよ」と呼び掛けながらノックをしたが、案の定クロウは寝ているらしく返事はない。
どうやらぐっすり寝ているらしい。仕方なく優香はドアを開けて起こす事にした。
部屋に入ると、クロウがベットの上で布団も放り出てタンクトップといつもの深緑のズボン姿で大の字で寝ていた。
昔の自分ならクロウの腹目がけてダイブでもして起こしただろうが、最近はそんな気分にもなれなかった。
ベットの傍まで近づくとクロウの顔を起きないようにそっと覗き込む。
自分の存在に気付いてないのか、口を開けて爆睡していた。クロウも自分と同じく夜遅くまで働いていたのできっと疲れてるのだろう。
「……もう少しだけ寝かせてあげようかな」
あまりにもぐっすりと寝ているので、起こすのが流石に可哀相になりクロウの上から布団を掛け、優香は寝ているクロウを起こさないようベットへ座った。
―――一体いつからだったかな。
私がクロウの事を異性として意識し始めたのは。
多分あのダークシグナーの戦いからだと思う。
クロウが突然消えたという報告を遊星から聞いた時は、一目も気にせず一晩中泣いた。
こんなにもクロウの事が愛おしいと思ったのは初めてだった。
そしてクロウが生きていて、ボマーというダークシグナーを倒し(最後には消えてしまったけど)真っ先に私の元へ歩み寄って
「ただいま。……心配かけたな」
と怪我をした場所を痛そうに抑えながらも笑顔で私に言ってくれた。
その時は彼が生きていたという嬉しさで思わず皆の前で抱きしめて泣いてしまったけど、
クロウは優しく私の背中をさすってくれた。
その時のクロウの抱擁が忘れられず、今でもその感覚を思い出す度に胸がキュンと締め付けられるくらいだ。
ダークシグナーの戦いが終わってからは、遊星やジャックと共に一緒に暮らし始めたけど、
どうもクロウと接すると意識してしまい、以前のようにクロウに抱き着いたり一緒に出掛ける事が出来ず私はなんとなく距離を置いていた。
今日もクロウを起こすのは実は此処に来てからは初めてで、私は意識をせずにはいられなかった。
時間は8時半を示しているのだが、遊星とジャックが帰る気配もなければ、クロウも起きる気配は一向になかった。
そろそろクロウを起こさないと流石にクロウが起きた時にバツが悪いと思った優香は、クロウを起こす事にした。
「クロウ、朝だよ。起きて」
クロウの腕をゆさゆさと揺らしながら、声を掛けてみるものの、クロウはまったく起きる気配がない。
優香は溜息をつくと、今度は少し大きい声で起こす事にした。
「クーローウ!! 朝だよ! ほら、起きて起きて!」
耳元で先程より大きい声で叫んで、布団を剥ぎ取ると、クロウはうっと声を上げ目を薄っすら開いた。
ようやく起きてくれる―――優香が安堵した瞬間、突然クロウに手首を掴まれベットの上にやや乱暴に押し倒された。
あまりに唐突な出来事に理解できずにいる優香は抵抗できず、クロウの顔を見ようとしたが、その隙にクロウに唇を強く押しつけられた。
「んんっ!?」
クロウからのキスに動揺する優香だったが、体は上気していく。
夢にまで見たクロウとのキスがまさかこんな形で実現するとは思わなかった。
唇が離され、目の前にあるクロウの顔をおそるおそる見遣ると目が虚ろだった。
昔からクロウは寝起きが悪かったが、まさかこんな行為までされるとは思わなかった。
とにかくクロウをちゃんと起こさなければ、と優香が下でもがき始める。
「く、クロウ! 寝ぼけてるなら止めて!」
「……だ」
「え?」
「……好きだ……優香」
「えっ、どういう……んんんっ」
クロウの発した言葉を考える余裕も与えず、再び唇が重ねられた。
今度は先程とは違う濃厚なキスで、舌も捻り込まれお互いに息が荒くなっていく。
優香も初めは抵抗していたが、次第に抵抗する力が薄れていき、遂にはクロウの舌を受け入れてしまった。
互いの舌が絡め合い、優香にとって初めてのディープキスの感覚に優香はすっかり意識朦朧としていた。
「く、クロウっ……やめ……ふうっ、」
「優香っ……」
クロウは舌を絡めたままで片手を優香のTシャツの上から乳房を掴み、小柄の体型とは釣り合わない豊かなバストを下から上へと揉み始める。
「あんっ……い、いやっ……」
自分でも出した事のない声に優香は驚きつつも弱弱しくしか抵抗できず
その間にクロウの手はシャツの中へと侵入していく。
その手がブラ越しに胸へと到達した時、優香の理性が本格的にヤバイと感じたのか最力いっぱいクロウの腹を蹴った。
「い、いい加減にしろーーーっ!!!」
腹を蹴られたクロウは床へと落ち、「うっ」と声を漏らしながら腹を抑え、床へ蹲(うずくま)った。
優香は流石に蹴りすぎたと思い、急いでクロウの元にへとベットを降りた。
「く、クロウ! ごめん、流石にやりすぎた……」
「痛ってえ! いきなり何するんだ……この馬鹿……優香!?」
クロウは自分が寝ている最中に優香に突然蹴られ、怒りを表そうとしたが優香の格好に目を疑った。
服の乱れた優香の姿、涙が残っている瞳、震えている身体―――とにかく優香の様子が尋常ではない事がクロウに伝わった。
「ど、どうした!? 誰にやられた!?」
クロウは真っ先に聞くが、優香は何も答えない。それどころか自分と目を合わせようともせず、ただ俯いていた。
(言えない相手なのか……って事はまさか遊星かジャックか!? いや、あいつらに限ってそんな……とにかく優香をこんな目に合わせた奴など許さねえ!)
こんな目に合わせたのがまさか自分だとは思ってもいないのだろうクロウは優香の両肩を掴んで真剣な眼差しで言った。
「なあ、何があったか俺に話してくれねえのか……?」
「………クロウ、やっぱり覚えてないの……?」
「え?」
「その……今私が蹴る前にやってた事……」
優香が突然顔を赤くして恥ずかしそうに目を逸らす。
こんな優香を今まで見た事がないクロウは思わずドキンと胸が高鳴る。
蹴る前にやっていた事…?
確かに俺は寝ていた。寝ていたはずだ。
いや、でも待てよ。夢で優香をベットに引きずり込んでキスしたような……
まさか夢じゃない!?
ようやく夢で行った行為が現実だと気づいたクロウは顔から血の気が引いて行き、すぐさま目の前の優香に土下座をした。
突然目の前で土下座をされ、困惑する表情を隠せない優香。
「ちょ、クロウ!?」
「悪かった!!! 俺、あれが夢だと思ってて……まさか現実だなんて思ってなかった! 本当すまねえ!」
「……クロウ……私……別に怒ってないよ」
「へ?」
頭を下げているクロウに今優香がどんな表情をしているのかは伺えないが、
想像していたのとは違う優しい口調だった。
普通こんな事をされたら殴られるか泣き叫ぶかどちらかの筈なのに……優香の謎の態度がよく理解できなかった。
「……その、一つ聞いて良い?」
「……ああ」
「私を抱こうとした時に言った『好きだ』って言葉、本当?」
「……ッ!?」
行為中に無意識にそんな言葉まで発しているとはクロウは思ってもいなかったのか、顔を真っ赤にして思わず顔を上げた。
一方の優香も顔を赤くして、クロウからの返答を待つ。
「……好きでもない奴に、あんな事する訳ねえだろ。俺は優香がずっと昔から好きだ。でも最近避けられてるし、今のでもう嫌われたかもしんねけっ……ど!?」
クロウが言っている途中にも関わらず、優香はクロウへと思いきり抱きついた。
突然の事に顔をさらに赤くして身をあたふたするクロウだったが、優香はぎゅっと背中へと手を回す。
「嫌いになんかなる訳ないよ…私もクロウの事好き。あと避けてたのはクロウの事意識して接しずらかったの……!」
「優香……。でも、俺はあんな事をッ……」
「さっきのは別に嫌じゃないよ。ただ、クロウが本当に私の事好きでやってるのか分からなくて不安で……不安で……」
ボマー戦の後のように自分の胸の中で弱弱しく泣き始める優香。
もう優香のこんな泣く姿を見たくない。
クロウはあの時のようにまた優香の背中を優しく擦りながら包み込むように抱きしめた。
「さっきから好きだって言ってんだろ……心配かけて悪かった」
「……うん、もう大丈夫。私もクロウの事大好きだよ」
やっぱりクロウに抱きしめられていると安心する。
優香はクロウの温もりを感じながら、いつのまにか腕の中で眠りへとついてしまった。
それに気づいたクロウは、自分のベットまで抱きかかえて運び、そっとベットの上に下ろすと衣服を整えてやり布団を掛けてやった。
優香の寝顔を見ながらクロウは、もう一度一眠りしようかとしたが、また先程のような事が起きたりしかねないので早めに仕事に行く事にした。
支度を済ませ、すやすやと自分のベットに眠る優香に『愛してる』と軽くキスをして優しく頬笑みかけた―――
尚、この数秒後に部屋を出てバッタリ帰って来た遊星達と出会うのだが、
優香が何故クロウのベットで寝ているのか厳しく問い詰められる派目になるのをクロウはまだ知らない。
fin.
<あとがき>
初めてのクロウ夢でした。