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有栖川


※もう少し書きたかったので、これから回収するつもりだった矛盾点がわんさかありますが、これ以上は面白くならないと判断しました。脳内補完能力を駆使してご覧ください。

***

一二三が「ことみちゃんってサブなの?」と目を丸くするので、いまさらなにを言っているのかとこちらこそ驚いた。聞けば一二三はニュートラルらしく、サブ性のフェロモンなどは感じにくいのだと。だから気づかなかったのかと納得していたら、わたしを抱きしめて、泣きそうな顔をする。

「俺っちが、ことみちゃんと結婚してパートナーになるつもりなのに……」
「一二三、それ昔から言ってるね。でも独歩がパートナーでもいいんでしょ?」
「独歩は生活のパートナー!」

都合の良いことを言うので笑っていたら、今日は珍しく休みの独歩が起きてきた。わたしたちの会話も聞こえていたらしい。リビングに入るなり「そうやってことみのこと縛るの、やめろよ」とあくびしながら言う。

「だって、独歩もことみちゃんも好きだもん……」
「ことみにだってパートナーを選ぶ権利があるだろ」

ちなみに、独歩もサブ性なので一二三とそういった契約はできない。ドムのパートナーがいないのでときどき寂雷先生にプレイをして貰っているらしいのだが、クレームを行ってはいないようだ。治療の一環としてのプレイなのだろうとわたしは認識しているが、ふたりの間のことなのでよくわからないし干渉はしない。
独歩の言葉にムウとむくれた一二三は、でも……となにか言いかけて、黙る。今度はしょんぼりと落ち込んだ様子でわたしから離れ、キッチンに立って独歩の朝食の準備を始めた。
時折深くため息を吐いては手を止めている一二三をかわいそうに思ってしまうが、同情でパートナーになれるほど自分のレベルが低くないのを自覚しているので声を掛けられなかった。

一二三が仕事に行く頃、一緒に彼らの家を出て職場まで送っていった。ジャケットを着ているときの一二三はわたしにべたべたと触ってくることは無い。気を付けてね、と手を振る一二三に背中を向けて歩きだしたら、ぽつぽつと雨が降ってきた。
一二三のところに戻って傘を借りようかとも思ったが、心配をかけるのも忍びないので走って屋根を探す。
幸いすぐコンビニを見つけられて駆け込み、傘を買おうと思ったらもう売り切れていた。がっくりとうなだれながら、通り雨なことを期待して、雑誌のコーナーで適当なものを手に取って外を眺める。ぼうっと「今日の夕飯のあれ、美味しかったな」とかそんなことを考えていたら、誰かに肩を掴まれた。
驚いて振り返ると、無造作に髪を伸ばした男性がわたしをじっと見下ろしてなにか言おうとくちを開いたところだった。お腹の底からざわざわと変な気持ちがせり上がってきて、その場にへなへなとしゃがみ込んでしまう。彼を見上げているだけでぞわぞわして、勝手に息が上がった。
わたしが『おすわり』したことにびっくりしたようすの彼が「おいおい」と慌てて肩を撫でてくれる。呼吸も変になっていたし、体も熱くて汗が止まらない。それでもじっと青い髪の彼を見つめていると、すぐそばに別の男性が寄ってきた。

「帝統……なにをしているんです」
「いや、コイツが急に」
「あれ……。ちょっとヤバイねえ」

どうやら二人いたらしく、小柄な男の子がそう言うと袴を着た男性がそっとわたしを立たせてくれて、なぜだか自然と従うことが出来た。サブドロップしかけてますね、という声が頭の上で聞こえて、どうしてそんなことになってしまったんだろうとぐるぐる考える。小柄な男の子が青い髪の男性を尋問していて、それに対して「声を掛けただけ。触ったけど、コマンドは出していない」と無実を訴えている。ふたりは信じているのかいないのか、ため息を吐いてわたしの顔を覗いた。

「オネーサン、ごめんね。ちょっとだけ時間くれる?怖いこと、なにもしないから」

素直に頷くと、笑って「イイコだね」と頭を撫でてくれた。少しだけほっとした。

されるがまま連れていかれたのはホテルの一室らしかった。きらびやかな内装からしてビジネスホテルではない……「そういうこと」をするホテルだと察しがつくが、彼らは何度も「変なことはしないから」と柔らかい声で言ってくれた。
ベッドにわたしを座らせてくれた袴の彼が歩きながらケアを申し出てくれて受け入れていたので、さっきよりは気持ちも落ち着いていたがそれでも、なぜあのとき『おすわり』してしまったのか自分でもわからず、震える手を握り締める。
小柄な男の子が「名前、教えてくれる?」と言うので、名前と、謝罪をくちにした。

「諸星ことみです。あの……ごめんなさい。なんか、こんなことになっちゃって……」

半泣きで頭を下げると、カラカラと笑いながら彼らも自己紹介をしてくれた。隣に座っていた袴の男性……幻太郎と、小柄な男の子……乱数は、共に二十四歳らしい。男の子、なんて失礼なことを思ってしまっていた。少し離れたソファに座り、わたしの方を見ないままの青い髪の男性……帝統は、二十歳だと聞いた。彼にも謝罪したが、そっけなく「おー」と言われただけだった。
おかしなことに巻き込んでしまって怒っているのかと、慌ててもう一度謝ると乱数と幻太郎が笑いながらそうじゃないと否定をする。

「ことみ、レベル高いでしょ?すごくいいにおいするもん」
「我々は三人ともドムなんです。ただ帝統がちょっと厄介で」
「おい!余計なこと言うなって」

三人ともドムだと聞いて、だから乱数や幻太郎がケアをしてくれると少し楽になるのかと納得した。帝統とわたしの相性が悪くてサブドロップしかけてしまったのだろうかと考えていたら、帝統がチラッとわたしを見た。ぞわっと背筋が凍って、思わず床にしゃがみ込む。
乱数と幻太郎は「あー」とか「なるほど」とか言いながら帝統を呼んで、帝統もわたしのようすを見てしぶしぶと言った感じでこちらに近づいて来た。星みたいに光る瞳を見上げたまま、呼吸さえ忘れてしまう。

「帝統がしてあげなよ。すぐよくなるよ」
「ん……。ことみ、聞こえる?触るぞ」
「ちょっと。もう少し、柔らかい言い方があるでしょう」

幻太郎に窘められた帝統は「いや、オマエらいるとやりづらいんだよ」と言い訳のように文句をくちにしながら、わたしに視線を合わせててのひらを差し出す。

「怖いことしねえから。触っていいか?」

目の前がチカチカする。脳みそに靄がかかったみたいな状態で小さく頷いて手を乗せると、そっとわたしを抱き上げてベッドに腰掛ける。膝に座ったままじっと彼を見上げていたら、手をぎゅっと握りながら頭を撫でてくれて、だんだんこころが凪いでいく。気持ちよかった。
くったりともたれかかって目を閉じていると「なにが好きなの?」と聞かれて、いくつも年下の男の子にこんなことを言うのは恥ずかしかったが、ぽろっと本音が出てしまう。

「キスするのが、好き」
「いいよ。しろよ」

コマンドとは言い難いような雑なものだったが、そう言われて彼の頬にくちびるを寄せたらとても安心した。首に腕をまわして近くで見た帝統の表情は、なんとなくぽやっとしている。
落ち着いたのが自分でもわかったので、体をゆっくり起こしてお礼を言った。ぼうっとしたままわたしの頭をわしわしと撫でる帝統を見ていたら、乱数が「ことみはパートナーとかいるの?」と尋ねてきた。体調も良くなり、帝統のことも怖く無くなったので彼の膝に座ったまま、乱数の問いに返答する。

「いないよ。いたこともない」
「えっ、いままでずっと我慢してたの?」
「あ、幼馴染がいて、お互いお世話したり・尽くしたりって、してたから……」

幻太郎が「その方とはなぜパートナーにならないんです?」と言うので、幼馴染はふたりいるがサブとニュートラルなのだと話したら、乱数も幻太郎も首を傾げていた。

「サブとニュートラル……と、プレイの真似事~?」
「ことみがそれで満足できていたのは可笑しな話では?」

わたしのレベルも鑑みると、たしかにと思わないでもなかったが、彼らと過ごすおかげで発散できていた部分が大きいのは事実だ。乱数たちは納得出来ていないようだったが、今日知り合ったばかりのひとに人生のほとんどを一緒に過ごしてきた彼らとの関係をすべて理解してもらうなんて不可能だろう。
とにかく助かったので、ありがとうと言って立ち上がり、帰る準備を始めようとしたら手を掴まれた。帝統だった。首を傾げてどうかしたのかと尋ねると、潤んだ瞳で連絡先を教えてほしいと言われた。

恩人であるし、彼のことが嫌いだとかそういうわけではないのだが、初対面の男性と連絡先を交換するのはこのご時世ではリスクも大きい。一瞬くちを噤んだわたしに、どうしたことか乱数と幻太郎まで頼みこんできた。

「悪用しないし、変な連絡もしないから……頼む」
「ことみ~、ボクからもお願いっ。ねっ?」
「監視がふたり付くことを約束するのでどうか……」

手厚い保証まで差し出され、なんでそこまで?と怪訝な顔をしていたのかもしれない。ため息を吐いた幻太郎が「隠すのは無理ですよ。アナタが説明しなさい」と帝統を振り返り、帝統はしばらく口篭もっていたが、やがてぽつぽつと話しだした。

「レベルが高すぎて、相性の良いサブに会ったことねーんだよ……。だから……パートナーの候補?として……?ちょっとずつでいいから、親しく……っつーか」
「要するに、年中ヨッキューフマンなんだよお」
「だから!そういうこと言うなよっ!」

帝統とは相性が悪いのだという認識でいたので彼からの提案に驚いた。けれど、彼の影響でサブドロップしかけたのでそれを彼がケアするのは自然な流れだと考えていたが、こんなにすぐに良くなるのは相性がいいということなのだろうか?
パートナーもいなければ、必要としたことも無かったわたしがひとりで頭をひねったところで結論は出ない。三人に「わたしと帝統は相性がいいの?」と聞くと、乱数は笑い、幻太郎は呆れ、帝統は「はあ?」と言った。

「いやいや、ことみは小生や乱数のケアでは、大して回復しなかったじゃないですか」
「まあ相性って、必ずしも相互のものじゃないからねえ」

帝統はしょんぼりしながら「そんなあ……」と呟いている。
落ち込む帝統を見ながら考えてみたが、現在の情勢ももちろん承知の上で、彼のことが嫌いだとかそういうふうにはやっぱり思えなかった。
スマホにメッセージアプリのQRコードを表示して差し出すと、ぱっと顔を上げた帝統は瞳を潤ませていた。乱数は「相性がいいからって、パートナーにならなきゃいけない法律なんてないんだよ?」とそれとなく止めるようなことをくちにしたが、首を振ってみせた。“パートナー候補的な感じ”でやってみよう、と。

「ほんとにいいの?帝統の良いとこって、性格と顔だけだよ」
「性格と顔がいいのは、大事だよ」
「生活面が最低ということですよ。おわかりですか?」

自分でも、妙に頑固になってしまっているなと頭の片隅で思ったが、ふたりの忠告にお礼を言いながら帝統と連絡先を交換する。帝統が嬉しそうに立ち上がったら、いままで意識していなかったが随分背が高く感じて、わたしの頭をわさわさと撫でているのをぽかりと見上げる。体も厚い印象があって、なんとなく彼のドムとしてのレベルを思い知る。存在が大きく感じるのだ。にかっと笑った口元から覗く、犬歯の鋭さに背筋がぞわぞわした。

「ことみに信頼して貰えるように、がんばってみるわ」

その日は時間も遅いため、そのまま泊まることにした。今日知り合ったばかりの男性たち、しかも全員ドムの彼らとひとつの部屋で寝泊まりするなんて自分でも信じられないほど無防備な決断だったが、なんとなくふわふわ気持ちよくてぐっすり眠れた。



スマホの通知が鳴って目が覚めた。体を起こして部屋を見まわすと、良く知りもしない男性が三人、思い思いの場所ですやすやと寝ている。昨夜のことを回想しながらしばらくぼうっとしてしまったが、なかなか鳴りやまない通知音に我に返った。電話だ。液晶には『伊弉冉一二三』と表示されている。
通話を開始した途端、ことみちゃんどこにいんの?!と慌てた声が響いて、音量の調節をしながらどうかしたのかと聞き返す。

「ことみちゃんち来たら出ないんだもん!独歩もうちにはいなかったって言ってたし、心配で」
「あ、えっと、ホテルとったの。昨日、急に雨が降ったでしょ?帰るの面倒だったから」
「どこのホテル?迎え行くから位置情報送って」

あ~……と無意識にこぼしながら、しどろもどろに遠慮した。一二三とは付き合っているわけじゃないし、パートナーでもない、本当にただの幼馴染。ただ、彼の親愛は凄まじいものがあるので、きっと「見知らぬ男性たちとラブホテルに宿泊した」などとバレたらとても面倒くさいことになるのは目に見えている。
一二三はわたしのことを恋愛対象として好きなわけではない。彼にとって、幼馴染の独歩とわたしが、生涯を共にする運命共同体なんていっても過言ではないほど、重要な存在であるだけだ。言ってしまえば過度な束縛・過保護や過干渉なのだけれど、そこに色情は一切含まれていないと断言できる。
もにょもにょと言い訳をしたところで、察しの良い一二三を煙に巻くことなどわたしにできるはずもなく。一二三はしばらく黙ってわたしの言葉を聞いたのちにこう言った。「一緒にいるヤツに代わって」と。

うう、と小さく唸って断ろうとしたら、パッとスマホを取り上げられた。帝統が、わたしのすぐ横……わたしにも一二三の声が聞こえるような距離で、電話を構えている。

「誰オマエ?関係ねーだろ。切るぞ」
「は?ことみに手、出したら許さないから」
「もう遅いっつうの。じゃあな」

言うと本当に通話を終了してしまった。ぽいとスマホを枕の方に投げた帝統はピリピリしていて、わたしを見ると覆いかぶさるようにベッドになだれ込んだ。うわっと声を上げて背中からマットレスに沈む。
帝統の長い髪が頬に触ってくすぐったい。顔をしかめるわたしをじっと見て、帝統が言った。「やっぱ無理」
幼馴染としか伝えていない一二三の、束縛の酷さを知ってパートナー候補はやめたいという意味かと思ったら、少し悲しくなった。その気持ちを自覚した瞬間、もうわたしのなかには帝統に支配されたい欲求が生まれていたんだなと考える。
けれど帝統がそれを望まないというなら仕方ない。乱数も言っていた。相性がいいからって、必ずパートナーにならなきゃいけないわけじゃないから。
なにか言おうとくちびるを開いたら、帝統が優しい声で「顔触っていいか?」と囁いた。ぽかっとしたままぎこちなく頷くと、頬を撫でながら額にキスしてくれる。頭がぼんやりしてきて、気持ちよくて目を閉じる。

「なあ、コマンド出していい?一回だけ」
「あ……うん、いいよ」
「……キスしろ」

帝統の首に腕をまわして、昨日みたいに頬にしようと思っていた、そのはずだ。なのにそのままくちびるに食いついてしまう。我慢できなくて舌まで出してしまう始末だった。失敗したと思い込んで震えたわたしを、帝統はぎゅうっと抱き寄せてお返しのように舌を絡めとる。パートナーがいたことないっていうのは、キスをしたことが無いってことだと、帝統はわかっているのだろうか。されるがまま嬲られ、日々どうやって息をしていたのかわからなくなる。ちゅ、ちゅっと濡れた音ばっかり脳みそに響いて、恥ずかしい気持ちもあったが、それよりもあまりの快感におかしくなりそうだった。
酸欠でくたっとちからが抜けてしまうころ、帝統は「わり」と軽く謝ってわたしをベッドに転がした。自分も隣に寝転びながら、なんとか呼吸を整えようと深呼吸をしているわたしの髪を撫でつける。

「なあ……。俺、我慢できねえんだけど」
「え……?えっと……なにが?」
「オマエのこと、もう俺のだって、思っちゃってる」

優しく・柔らかくてのひらで甘やかしながら、言葉に支配欲を滲ませる帝統を見ていたら、ついわたしも……と甘えた声が出てしまう。わたしの言葉に信じられないと言ったような顔で「は?」と言うと、自分が先に『告白』したくせに慌てて現状を整理し始める。

「昨日知り合ったばっかだし、オマエのこと、サブドロップさせかけた。オマエには付き合い長いドムもいる。すぐ俺の要求に従わなくっても、選ぶ権利はオマエにあるよ」
「あの、だから……選んだんだよ?帝統のことを」
「あっ……えっと、そう……か?」

目を丸くしたまま固まっているので、ダメ?と畳みかけると、ハッとしたようにふるふると首を振っていた。そうっとわたしのことを自分の方に抱き寄せて、小さな声で話してくれたことに妙に納得しながら目を閉じていた。

「俺、レベル高いって言ったけど……かなり偏ってんだよな。支配欲もそうだけど、守りたいものが欲しい、みたいなのが強くてさ。俺にとっては乱数も幻太郎もその範疇に入ってる気がするし。あ、プレイはしねえけど」

帝統が「加護したい欲求」が強いドムなのだとしたら、わたしと相性がいいわけだと思う。レベルの一致もあるだろうけど、わたしは「信頼したい、信頼を伝えたい」といった性質が強いサブだ。帝統がわたしのことを「守りたい」と強く思ってくれているから、わたしはすぐに彼を「信頼する」という選択ができるんだと思う。
帝統のそばにいると安心する。体躯が良くて堂々としているからだろうか。
なんで、コンビニで声かけてくれたの?と聞いたら、いいにおいがしたらしい。あまり他のサブには感じたことが無く、逃すまいととっさに触ってしまったと。そのことは謝られたので、もうだいじょうぶだと言ってわたしも謝った。

ベッドでごろごろしながら話していると、乱数が起きてきて開口一番「すごいね、フェロモン」と言う。えっ、と声を上げると帝統に寄りかかるようにベッドに上がり、厳しい口調で忠告した。

「帝統はちょっと厄介だから……ボクらのことでさえ守りたがるんだもん。ことみは他のドムとは親しくしないって決めたほうがいいよ」
「あ……うん、そうだよね。わかった。気を付ける」
「帝統も。あんまり厳しく躾けちゃダメだよ」

注意された帝統は「わかってるよ……」と言いながらずっとわたしを触っている。パートナーになるって決めたら、ちゃんとルールを話し合わないといけないと聞いた。初めて躾けを受けるのでどう切り出したらいいのかわからないが、好きなプレイやセーフワードは相談しておいたほうがいいだろうと思う。とはいえ、乱数も幻太郎という他のドムのいるところではモラルに反するのでわたしからは黙っていた。
幻太郎がのろのろと起きてきたので、身支度を整えてホテルを出た。幻太郎と乱数はそれぞれ仕事らしい。わたしは今日は休みだけど、と帝統に言うと、彼はなんとなく言いづらそうにくちを開く。

「あ~……、俺、さ。クズなんだよな」
「く、くず……?」

決まった住所を持っていない。“特定の彼女”と長続きした試しがない。ギャンブルが大好きで辞めるつもりもない。
こちらを見ないで汗をかいている帝統を、くちをぽっかり開けたまま見上げていた。幼馴染の過保護・過干渉に浸りきっていたわたしは、一二三は反対するだろうなあと思うばかりだった。


(2022.8)
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