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むにっ
肉をつままれる音。
「やー、今日もふにふにさぁ」
そうやって笑う男子、平古場凛。
いつものことなのではいはいと流す。
セクハラ紛いなことをされているが、悲しいかな惚れた弱みかこの意地悪さえも嬉しかったりするのだ。
だが、このままでいいはずがあるまい。
小耳に挟んでしまったのだ、彼のタイプがオシャレな子だと。
ふくよかだと笑われている私なんて眼中にないのだ。それは悔しい。
だから私は手始めにダイエットを決行した。
丁度良いタイミングでU-17とかいうテニス部の合宿があるらしく、帰ってきた彼をびっくりさせよう!と思って意気込んでいたのだが…
「すごく痩せたね」
注目の的になっているのは私…ではなく田仁志慧。
甲斐くん辺りが撮ったのであろう、合宿中の慧くんの激ヤセ写真に皆夢中だった。
いくらリバウンドして元に戻ったとはいえ、あまりの痩せっぷりに田仁志くんの横に集まってはダイエット方法を聞いて盛り上がっている。
あんなに痩せた人が居ては私の努力なんてミジンコみたいなものだ。
「名前、慧くんの写真、見た?」
もっと頑張った方がいいのかと携帯でダイエット方法を探す私の目の前に平古場凛は現れた。
私の机に前かがみでもたれるもんだからとても顔が近い。
そういう行動が勘違いさせるんだぞ。
「見た。めちゃくちゃ痩せてた。合宿ってそんなにスパルタだったの?」
「わん、一緒に居ねーらんって、やーやつれてるさぁ」
ほっぺを摘んで引っ張られる。
「いひゃいいひゃい!」
「体調でも悪いんばぁ?」
言ってることとやってることが真逆だぞ!
体調悪いかもしれないやつの頬を摘むやつがどこにいる!ってここか。
やっと平古場くんの手から開放された頬を撫でる。
慧くんがあんなにも痩せてた手前、なんだか私の努力がしょうもないものに思えて恥ずかしくなる。
まさか当の本人にバレるなんてなあ。
バカにされそうだと思ってしまったせいか、無意識に声が小さくなる。
「ダイエットしてたから…」
「はあ?!ぬうがやぁー!」
「声が大きいよ!」
私の声量とは反対にデカい声を出す平古場くんに必死に人差し指を出して静かにとジェスチャー。
平古場くんの声量に集まった周りの視線も落ち着いた頃、目の前ははっとした顔を見せたあと真顔になった。
「もしかして、好きな人でもできたんば?」
「は?」
思ってもみない言葉に固まる私。
「女がダイエットする時は恋をした時だっておばあが言ってたさ」
婆ちゃん、その通りだよ。
「で、相手は誰やし」
私が返事をせぬまにずんずんと話を進めていく。
「ダイエットしないと振り向かないようなら男なら止めといたほうがいいがや」
ブーメランだよ。ブーメラン。
「そうと決まったらダイエット終わり!放課後食いに行くさー」
と一方的に予定を決めて平古場くんは去っていった。
彼の背中を見ながら顔がどんどん熱くなってくのが分かる。
こ、これは放課後デートってやつなのでは?!
そんな考えを中断させるようにホームルームのチャイムがなった。
先生の話に集中できない私の手元で携帯が震える。
クラスのグループチャットから私のことを探してくれたのか平古場くんから個人でメッセージが来たのだ。
食べたいもん決めとくんばぁよ!
その日1日、私は上の空で授業を受けるのだった。
放課後それはもう楽しい時間を過ごすことができた。
食べるだけ食べてはい、さよならかと思ったらそれから流れるままにショッピングも回って。
「ダイエットして良かった」
ふわふわ気分で居たもんだからつい、口からこぼれてしまった。
平古場くんは何て思うだろうか。
もういっそ気持ちがバレてしまってもいいかもしれない。
「ダイエットしてなくても誘ってたさ」
そう言って私の手を握る。
平古場くんを見ようとしたが金色の髪がキラキラと光るだけで顔は見えない。
でもいいのだ。
キラキラと光る髪の隙間から見えた耳が真っ赤で繋いだ手は少し汗ばんでいたから。
これ以上、私の心がリバウンドを起こさないように、今はこれで十分だ。