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「好きです!付き合うてください!」
なんてタイミングが悪いのだ。
掃除当番だった私は教室のゴミを捨てに来たのだが告白現場に出くわすことになってしまった。
ご、ゴミ捨て場の前で告白しないで欲しい…。
どうにかこの現場から逃げたいのだが動けば両手からぶら下がるゴミが音を立てそうだ。
「ごめん」
告白現場から声が聞こえる。
白石くん…。
その声は同じクラスの白石くんの声だった。
イケメンと名高い彼はよく告白されると噂で聞いたことあるが流石に現場に出くわすのは初めてだ。
「気持ちは嬉しいんやけど、付き合えへん」
ぐすり、と女の子が泣いたのであろう。鼻をすする音が聞こえた。
振られた子が他人事に思えなくて胸がチクリと痛む。
私も白石くんを好きな女子の1人なのだ。
理由はなんだったか思い出せない。恋なんてそんなもんだろう。
呆然としているうちに二人の会話は終わっていたのか女の子が飛び出してきた。
やはり想像した通り顔は涙で濡れていて、余裕がないのか私の存在は見えていないようだった。
彼女が去った後、どうしようか悩む。
ゴミは捨てなきゃいけない、でもゴミ捨て場の前には白石くんがいる。
「名字さん…」
私が悩んでる間に白石くんの方がこちらに来てしまった。
流石に人がいるとは思っていたのかビックリした表情。
「そういや掃除当番やったな」
私の顔から手元に視線を移して白石くんはそう呟いた。
「女の子には重いやろ。片方持つでって言ってもすぐそこやけどな」
「あっ…ありがとう」
私が返事をする前にさらりと私の手からゴミ袋を持っていく。
こういうスマートなところがモテるのだろう。
「1人にこない持たせてほかの皆はどうしたんや」
「皆、部活あるみたいやったから私がやるよって言って…」
「ええやっちゃなあ」
なんとか会話をしているが私の頭はさっきの告白で埋め尽くされていた。
ちらりと白石くんの顔を盗み見る。
もし、私がさっきの子みたいに勇気をだして告白して、この端正な顔から発せられる言葉は…想像しただけで胸がぎゅっと縮む。
そんな私をよそにゴミをゴミ捨て場に入れてくれる白石くん。
振り向いたと思ったら少し困った顔。
「やっぱさっきの聞いとった?」
「え?」
「告白。名字さん気まずそうにしとるから」
そんなに態度に出ていたのだろうか。
「聞くつもりは無かったんだけど…ごめん」
「謝ることあらへん。場所が場所やしな」
苦笑いしながら頬をかく。
「告白できるって凄いことだよね」
「せやな」
目を伏せた彼に慌てる。
告白するのにも断るのにも勇気がいるのに、考え無しなことを言ってしまった。
「ごめん…。断る方も辛いよね…」
「断わられる方が辛いと思うで。俺かて断られるかもって思うと告白する勇気あれへん」
「え、白石くんでも?」
俺をなんやと思ってんねんと笑う白石くん。
笑うだけでこんなにキラキラを発することができる彼が振られるなんて全く想像つかない。
と、言うかだ。
「白石くん好きな人いるの?」
告白する勇気がないということは告白したい相手がいるということだ。
告白現場に出くわした瞬間のように胸がきゅっと締め付けられる。
ここでいると言われてしまったらどうしよう。
だが白石くんはあーとかうーんとか言うばかり。
目に見えて挙動不審になる彼の姿は珍しく、つい笑いが零れる。
「なんやねん」
「慌ててる白石くん珍しくて」
「格好つかへんな」
「ごめんごめん」
はーっと大きめなため息をつく白石くんに慌ててる謝る。
「俺に勇気が出たら名字さんにだけ教えるさかい今日のことは2人だけの秘密にしてや」
ゴミ捨て場の前やしな、と付け加えて白石くんは笑った。
2人だけの秘密という甘美な言葉に胸の痛みは吹っ飛んでしまう。
白石くんはずるいなぁ。
きっとこうやって期待しちゃったり諦めようとしたりを繰り返して白石くんに片想いを続けていくのだろう。
彼の珍しく照れたような笑みにそれもいいかもしれないと思うのだった。
後日、校舎裏に場所を移して白石くんの告白を真正面で聞くことになるのだが、それはまた別のお話。